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長いプロローグとなるイブの夜

その2

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 その後、班だけの新年会や小さな打ち上げ、花見などに蓮池さんは美恵を連れて来るようになり、班のみんなも好印象を持って受け入れてくれた。
 そして僕とも蓮池さんと三人で会い、食事や飲みに行ったりもした。

 関係が進んだのは今年のゴールデンウィーク、大型連休の初日だったと思う。
 休みに入る前に得意先の接待でかなり遅くまで飲んで、くたくたになって帰宅して眠り込んだ翌日、班のみんなとバーベキューに行く約束を忘れて寝坊してしまったのだ。

「班長、班長、居ないんですか」

ドアを叩く音と呼び鈴で目を覚まし、痛む頭をおさえながら開けると、そこには蓮池さんと美恵がいた。

「きゃ、なんて格好をしるんですか」

スーツを脱いだまでは覚えていたけど、どうやらそのまま寝てしまったらしく、ずり落ちかけた下着姿を二人にさらけ出しているのに気づくまでだいぶかかった。

「あ、ああ、ごめん。それでなんで二人とも……」

「忘れちゃったんですか、今日は班のみんなと……」

言われて思い出した。あわてて普段着に着替えて財布とスマホを持って一緒に出ていく。
 すでに他の三人が準備をしているバーベキュー場へ蓮池さんの運転で向かう。

「大丈夫ですか」

後部座席で美恵と二人で座り、眠気と戦いながら大丈夫とこたえる。だがしかしやはり眠気には勝てず、いつの間にか美恵に寄りかかって眠ってしまっていた。

 班のみんなと合流して遅ればせながらパーティーを開始したのだが、やはり眠かったので木陰で休ませてもらう。その間、美恵が気を配ってみんなに甲斐甲斐しく世話をしている姿をまどろみながら見ていた。

 お開きとなり、また蓮池さんに送ってもらう帰り道、隣に座っている美恵から今度掃除にいっていいですかと耳元に囁かれて、ありがたいなと応えたのは覚えている。なぜなら翌日に掃除道具一式を持って美恵がやってきたからだ。

 正直困惑したが、帰ってもらうのもなんだから当たり障りない所を掃除してもらい、御礼として食事をご馳走して帰ってもらったが、翌日もやって来た。

「また来たの」

「ごめんなさい、どうしても気になって」

そんなに汚かったかなと思いながらもまた掃除してもらい、ご馳走する。そしてまた翌日も、そのまた翌日もやってきた。

「なんかもうさ、掃除道具置いてったら」

毎日一緒に食事しながら話しているうちにそう言ってしまい、掃除道具だけでなく美恵本人も置くようになって今に至るわけだ。




「なんか最後の方端折ってない」

 恵二郎が不満そうに言うが、デザートもコーヒーも済んだあとだ。はやく帰って美恵の誤解を解きたい。

「はやく帰りたいからな、それじゃ先に行くぞ」

 席を立った僕に、恵二郎があと一つだけ教えてと訊いてくる。

「結婚するつもりなの」
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