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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編
その4
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ふと、昨夜の美恵の思い込みの強さとイブの夜にプロポーズにこだわる理由を訊きたくなった。が、思いとどまった。なぜならそれを話題にすると昨夜のことを話さなくてはならなくなるからだ。なので少しずらした話題をふってみる。
「美恵のお兄さんに会ったことあるかい」
「コーキさんですか、ありますよ」
「どんな人」
「どんなというと──優しくて頼もしいお兄さんですよ」
「今は何やってるの」
「さあ……、変わってなければトラベルコーディネーターやってると思いますけど」
「トラベルコーディネーターって」
「現地に住んで観光客を案内する仕事です、東南アジア諸国をあちこちに移りながら旅行会社に情報を送ったりもしてますよ」
「へえ」
「ご挨拶に行くなら会社休まないといけませんね」
「いや、プロジェクトの事を考えると休めないなぁ」
「じゃあ来てもらいますか」
「それも失礼な感じするしなぁ」
「でもあまり間を開けると怒られませんか、なんでもっとはやく言わないんだって」
「いやまだ余裕あるから大丈夫だよ」
「いつまでならいいんです」
「来年のイブまでは大丈夫かな、プロポーズはその時に──」
そこまで言って慌てて口を閉じた。が、もう遅かった。蓮池さんがにやにやしている。
「やっぱり昨夜なんかあったんですね。プロポーズしたのに来年またするなんてどういう事ですか」
墓穴を掘ったのか、それとも誘導尋問に引っ掛かったのか、つい口走ってしまった。そんな僕に蓮池さんは獲物を追い詰めたやんちゃ猫のようにプレッシャーをかけてくる。どうしよう、昨夜の顛末は話したくない。
その時、自分のスマホがブーンと震えた。着信だ。すぐに取って誰からか確認すると、北今くんからだった。すぐにでる。
「あ、班長、お疲れさまです。今どちらにいますか」
「社内だよ。なにか会ったのかい」
「じつは昼から一件いっしょに行ってほしい取引先があるんですが」
そこは昔僕が担当していたところで、北今くんに引き継いでからはずっと顔を出していない問屋さんだった。
「もうひと押しなんですが年内に結果出せるか自信がなくて……」
──さてどうしよう、正直契約数目標まではあと少し足りない、玉野くんと冨田さんが取ってくれれば達成するけど、だからといって取らなくていいよととは言えない。
通話部分を押さえて蓮池さんにそのことを伝えると、一緒に行ってあげてくださいと即答してくれた。
「わかった、昼から一緒に行こう。今から駐車場に行くからそこで合流しよう」
「ありがとうございます」
通話を切りると、お弁当の残りをかき込むように食べる。空になった弁当箱をしまおうとすると、洗っておくから出してくださいと蓮池さんが手を出す。
「いいのかい」
「早く行ってあげてください。いいですか、昔からの取引先だからといって油断していると、新しいところに取られるんですよ、そうなったら取り返しがつかないんですからね、わかってます?」
真剣な顔で迫られてたじろいだが、その通りだと思いあとを任せて駐車場に向かった。
「美恵のお兄さんに会ったことあるかい」
「コーキさんですか、ありますよ」
「どんな人」
「どんなというと──優しくて頼もしいお兄さんですよ」
「今は何やってるの」
「さあ……、変わってなければトラベルコーディネーターやってると思いますけど」
「トラベルコーディネーターって」
「現地に住んで観光客を案内する仕事です、東南アジア諸国をあちこちに移りながら旅行会社に情報を送ったりもしてますよ」
「へえ」
「ご挨拶に行くなら会社休まないといけませんね」
「いや、プロジェクトの事を考えると休めないなぁ」
「じゃあ来てもらいますか」
「それも失礼な感じするしなぁ」
「でもあまり間を開けると怒られませんか、なんでもっとはやく言わないんだって」
「いやまだ余裕あるから大丈夫だよ」
「いつまでならいいんです」
「来年のイブまでは大丈夫かな、プロポーズはその時に──」
そこまで言って慌てて口を閉じた。が、もう遅かった。蓮池さんがにやにやしている。
「やっぱり昨夜なんかあったんですね。プロポーズしたのに来年またするなんてどういう事ですか」
墓穴を掘ったのか、それとも誘導尋問に引っ掛かったのか、つい口走ってしまった。そんな僕に蓮池さんは獲物を追い詰めたやんちゃ猫のようにプレッシャーをかけてくる。どうしよう、昨夜の顛末は話したくない。
その時、自分のスマホがブーンと震えた。着信だ。すぐに取って誰からか確認すると、北今くんからだった。すぐにでる。
「あ、班長、お疲れさまです。今どちらにいますか」
「社内だよ。なにか会ったのかい」
「じつは昼から一件いっしょに行ってほしい取引先があるんですが」
そこは昔僕が担当していたところで、北今くんに引き継いでからはずっと顔を出していない問屋さんだった。
「もうひと押しなんですが年内に結果出せるか自信がなくて……」
──さてどうしよう、正直契約数目標まではあと少し足りない、玉野くんと冨田さんが取ってくれれば達成するけど、だからといって取らなくていいよととは言えない。
通話部分を押さえて蓮池さんにそのことを伝えると、一緒に行ってあげてくださいと即答してくれた。
「わかった、昼から一緒に行こう。今から駐車場に行くからそこで合流しよう」
「ありがとうございます」
通話を切りると、お弁当の残りをかき込むように食べる。空になった弁当箱をしまおうとすると、洗っておくから出してくださいと蓮池さんが手を出す。
「いいのかい」
「早く行ってあげてください。いいですか、昔からの取引先だからといって油断していると、新しいところに取られるんですよ、そうなったら取り返しがつかないんですからね、わかってます?」
真剣な顔で迫られてたじろいだが、その通りだと思いあとを任せて駐車場に向かった。
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