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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その6

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 ──しばらく後、フロントから連絡があり、時間だというので帰ることにした。正直このまま居ても盛り上がらないだろうから。

 場の雰囲気を壊したのと、もう納会では無かったから僕が全額払うことにした。
 ビル全体がカラオケ施設の店舗で、フロントは二階にある。五階のルームからエレベーターで降りることにして、来るのを待っているが、この間の沈黙と重苦しい空気がつらい。

 僕が怒ったのが原因だ。だからもう怒ってないよと言えば解決する……ことはないだろう。向こうが赦してくれたと納得して受け取らないとわだかまりが残ったままだ。つまり、

「もう怒ってないから気にしないで」








外した……、盛大に外した……、かえって空気が重くなってしまった……。

 エレベーターが来たのでみんな無言で乗り込む。ぐあああ、穴があったら入りたい!! なのに今度は肩が触れるほどの密閉空間になってしまった。重い、気まずい、つらいの三拍子だ。

 二階にたどり着くと、四人とも降りる。そして蓮池さんがまた提案する。

「わたしと班長で精算してくるから、二人は先に降りてて」

エレベーター脇にある階段を指差し、美恵と恵二郎を先に行かせる。そのさい、美恵と蓮池さんがなんとなくアイコンタクトしたように見えた。

 二人が降りていくのを見送ったあとフロントに向かいまずは精算をする。

「すまないね、こんな納会になってしまって」

「いいですよ、メグミちゃんはたまたまだし、美恵は私が呼んだんですから」

「そうなんだ、恵二郎が相席にならなければ……」

 ここまで話してやっと気がついた。僕はずっとメグミを恵二郎と言い続けていたことを。そしてその表情を見逃す蓮池さんではなかった。

「メグミちゃんが班長の弟さんの恵二郎さんなんですね」

「あ、あの、蓮池さん……」

「大丈夫ですよ、誰にも言いませんから」

「どこから気づいてたの」

「居酒屋で。お二人が一緒に入ってきた時なんとなく似てるなって」

初っ端でバレてたのか。

「でも確証はなかったですけど、幼い頃の事を知ってましたから妹さんかなと思って。身内が水商売をしているのを隠しているのかなと思ってました」

「男とは思わなかったんだ」

「さすがにそれは思わなかったです。今でも信じられませんよ、あんなキレイな人が男だなんて」

「美恵は知ってたんだけどなぁ」

「……ああ、そのことを気にしてたんですか。男の人に平気でムネを見せたってことに」

言われて顔がゆがむ。そうか、さっきからもやもやしてた面白くない気持ちは、そのせいだったのかと図星を指されて落ち込んでしまった。 
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