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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

弟と決別

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 マンションに戻って扉を閉めると正面から美恵がハグをする。僕も抱き返すがいつもよりぎこちなかった。美恵にもわかってしまっただろうか。

「お風呂どうする」

「酔ってるし、やめておこうか」

「じゃあシャワーだけ。先に入って」

ジャケットと綿パンを脱いで手渡してから、脱衣場に入り引き戸を閉める。
 すりガラスの戸だから向こうからシルエットは見えてしまう。
 さり気なく壁掛け鏡で顔を確認すると、すこぅしだけ紅のアトが残っていた。やっぱり接触していたのか。

 シャワーを浴び念入りに顔を洗うと、パジャマを着て浴室を出る。

「お先に」

「はい」

「先に寝る」

「……うん」

美恵が脱衣場に入るのを見てからベッドにもぐり込んだ。

 ウチのベッドはセミダブルだ。
 同棲することを決めたとき、新居とともに家具も一緒に選びに行った。その時美恵から提案があった。

「ベッドはセミダブルで、必ず一緒に寝ること」

どうしてと訊いたら「保険」と言われたけど意味は分からなかった。まあ一緒に寝れるんならそれでいいと思い、深く訊かずに終わったのだが。

「圭一郎さん、もう寝た」

明かりを消すスイッチの音をさせながら、美恵が近づいてくる気配を背中で感じる。返事をする気がない、このまま寝たふりしたい。

 布団をあげて中に入ってくる。セミダブルだからどうしても身体が触れる。背中に手のひらの感触。

「今日は本当にごめんなさい。恋から胸を見せたことに怒ってるって聞いたわ、弟に男にって。でも本当にあたしにはメグミちゃんでオンナのコとしか思ってないの。もうやらないから許してね」

……どう返事していいか分からなかった。
 美恵にしろ蓮池さんにしろ恵二郎をどうして女として見れるのだろう。
 たしかにキレイだと思う。女顔だし少しハスキーだが声も女らしいし、のど仏もそんなに目立たない。
 仕草もまあらしいといえばらしいけど、やっぱり僕にとっては男の弟の恵二郎なのだ。

 何も言えなかったし、もし何か言ったら悪い方向に進むとしか思えなかったから、返事をせずにそのまま寝ることにした。




 翌朝、おはようの挨拶をして、ご飯に大根の味噌汁、それにベーコンエッグと漬物の朝食を一緒に食べる。

「今日はどうするの」

 いつもなら出社の時間だけど、休みに入ってしまったので出かけない。つまりこの空気のまま一緒に居なくてはならないのか。どうしよう。

そのときスマホに着信があった。こんな朝早く誰だろうと相手を見ると北今くんからだった。


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