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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その3

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 ──考えてみればおかしい気もする。

 僕とメグミのモヤッとした関係は遡れば大学生の頃、つまり5年くらい続いたものであるが、それを美恵は入店してものの三十分ほどで改善、いや、解決してしまったのである。

 事前にある程度情報を知っていたとはいえ、メグミの悩みである僕への好意(もちろん兄弟愛だ)の言いたいをピンポイントで浮かび上がらせて、元来内気だったメグミの背中を押して本音を僕に伝えさせた。

 そして──そして僕は、まるでそうするのが当たり前のように、その思いを受け入れてたのだ。
 なぜ素直に受け入れられたのか未だに分からない。
 ただそれに対しての後悔はなく、むしろそれの何がおかしいのだろうとまで思ってしまっているのだ。

 まるで魔法をかけられたような気持ちだった……。

「どうしたの圭一郎さん、怖い顔しているわよ」

 心配そうに見上げる美恵の顔を見て、あわてて笑顔になる。

「なんでもないよ。ちょっと考え事をしていただけ」

「……気に入らなかった? 出しゃばっちゃったかな」

「そんなことないよ、美恵のおかげでわだかまりが無くなったんだ。むしろ感謝している」

「ホント?」

「ああ」

嘘偽りは無い。確かに感謝しているのだ。
ただ、その手段というか手際が鮮やかすぎて若干の疑問はある。

「美恵はさ、コスプレってずっとやってたの?」

「う、う~ん、まあね」

「いつもあんなふうにキャラになりきってるのかい」

「──どうだろう、わかんない」

わかんないって。

「美容師目指していた頃にね、たまたまモデルやってるお客さんと仲良くなって、その縁でモデルもどきの仕事をしたことがあるの。で、ショーの打ち上げのときにレイヤーさんがいて、頼まれてコスプレして、そこから衣装作るのに興味持ったの」

「なんかわらしべ長者みたいだね」

「長者になってないから、綱渡りかドミノ倒しのほうかな」

「じゃ、ピタゴラスイッチだ」

「あ、そっちの方が合ってる」

互いに笑い合う。
 駅についたので階段を降りて切符を買い、改札を通ってホームへと向かう。
 風がなくなったので離れてもよかったけど、変わらずくっついたままだ。

「衣装作りは師匠がいるんだよね。その人もコスプレ用の衣装を作ってるんだっけ」

「話してなかったっけ。師匠は本格的な男性用スーツ専門のテーラーだよ」

「……なんかまたピタゴラスイッチがありそうだね」

「んふぅ、ありますよー」

「聞かせてくれるかい」

「コスプレやってたときにね、撮影会で不満そうなカメラマンがいたんで、それとなく訊いたら魂がこもってないって言われたの」



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