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第一話 ある老人の死
割田内外 その6
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マキはあわてて化粧室に入ると、すぐさまクロに連絡する。
「もしもし、班長お疲れ様です。ミドウさんを見つけました」
──何処にいる──
「駅前の居酒屋、型破り店長です。どうしましょう」
──マキくん、ヤツを足どめしてくれ。すぐに行く──
「了解」
通話を切り、用足しもそこそこにマキはミドウの席に向かう。
(今日、二回も取り逃がしたんだ失敗を取り戻さなくては)
「こんばんはミドウさん。どなたかと待ち合わせですか」
話しかけられて顔をあげるミドウは、少し驚いた顔をしていた。
「マキちゃんじゃない、ここまで追っかけてきたの」
「たまたまですよ。おねえさん、カウンターの料理、こっちに持ってきてください」
そう店員に言うと、マキはミドウの対面に座る。そしてひと通り観察するが、なんで? という思いが脳内を駆けめぐってしまうハメになる。
まずは席だ。あらためてマキは辺りを見回した。
先ほどトイレにいった通路を挟んで座敷席コーナーは二つある。向こう側に六人掛けが三席、こちら側にも六人掛けが三席ある。ミドウはこちら側の真ん中の席にいる。
「差し出がましいようですが、お店の迷惑になっていませんか」
ミドウの席の隣は会社員らしきグループが盛り上がっており、向かい側は女子会らしきグループが画像を撮り合っている、たぶんSNSにあげるのだろう。
そして反対側の席は、家族連れのグループが誕生日祝いをやっていた。
その中で、六人席を一人でいる。正直、ミドウだけが浮いているのだ。
「ここが好きなんだ。いいんだよ、お店の方もちゃんと心得ているから」
そう言うとミドウは並んでいるジョッキの一つを飲み始めた。そのミドウの前には肉じゃがが一皿鎮座している。
これも、なんで? のひとつだった。
テーブルの上には中ジョッキのビールが五つあり、それに囲まれるようにミドウの手前にあるのが肉じゃがが一皿である。
ビールひとつにツマミが複数なのは解るが、ツマミが一つに大ジョッキが複数というのは不思議な光景である。
「ミドウさん、もうひとつお訊きしていいですか」
「なに」
「この料理の組み合わせはどういう事でしょうか? 肉じゃが一皿に中ジョッキ五つというのはよく分かりません」
「ここの席は厨房から遠いだろ、だから先に呑むぶんだけ頼むんだ。肉じゃがは好きだからいつも食べている。マキちゃんはポテトサラダが好きなのかい」
「ええ、思い出の料理ですので」
「へえ、どんな思い出なの」
「ウチは両親が丸の内で居酒屋をやってるんです」
「丸の内って名古屋のかい」
「そうです。高校生の頃、バイトでお店に出てたんですけど、ポテトサラダは私が作ってたんですよ」
「へえ、美味しそうだね。評判良かったんだ」
「そうです。ビールに合うって、丸の内の企業戦士が喜んでました」
「なにかコツとか隠し味がありそうだね」
「ふ、ふーん。じつはですね工夫が三つあるんです」
「え、なになに教えてよー」
「ナイショです。私だけのレシピですから」
「えー、ケチー」
ミドウの反応に気分が良くなったマキは楽しそうにビールを飲む。
※ ※ ※ ※ ※
──そして三十分後──
「……ですからぁ、アタシだって頑張っているんですよぉ」
「うんうん、マキちゃんは頑張っているよねぇ」
話し始めて数十分経ったのにも気づかずに、姿勢を崩してミドウに自分の愚痴を話していた。今日は一杯のつもりだったマキのジョッキは二杯目が空になったところだった。
「マキちゃんは今日も頑張って仕事していたもんねぇ、あいつらとやっていくのも大変だよねぇ」
「ホントですよ。玉ノ井さんは何かというとすぐ辞めろと言うし、ミッツ先輩は頼りないし、カドマさんはあのふけ顔なんとかなりませんか、班長と間違えて挨拶しちゃたし、その班長はヤクザみたいな外見で怖いし、ホント大変なんでふ」
「まあまあ、それでもやってるマキちゃんはえらいよ。さすがだね」
「えへへー」
気分良くほろ酔いになったマキの背後から声をかけられる。
「お前は本当に人たらしだな」
「よお、早かったなクロ」
クロの声を聞いてマキは我に返る。いつの間にかペラペラと喋っていたことに気がついた。
しまった、やられた、と後悔する。
「いやいやマキちゃんは頑張ったよ、ちゃんとオレを足止めしてたし」
バレてる。子供扱いされた。マキはそれを悟るとミドウを睨む。だが実際に転がされたから何も言えなかった。
「あまり新人を弄るな。貴重な人材だぞ」
クロはそう言いながらマキの横に座る。その圧でほろ酔い気分が吹っ飛んだマキは崩していた姿勢を正す。
「で、もう片づいたのか」
「なにが」
「とぼけるな、昨日の今日と会おうとしなかったのは何か企んでいたからだろう。事件とは関係無いとふんだからたまたまということにしといたが、本当は何をやってたんだ」
ミドウは、肉じゃがのイモを箸で小さくちぎると、それを口に放り込む。
しばらくもぐもぐした後、マキをちらと見てニヤリと笑う。
「じゃあ、かけようか。マキちゃんで」
「もしもし、班長お疲れ様です。ミドウさんを見つけました」
──何処にいる──
「駅前の居酒屋、型破り店長です。どうしましょう」
──マキくん、ヤツを足どめしてくれ。すぐに行く──
「了解」
通話を切り、用足しもそこそこにマキはミドウの席に向かう。
(今日、二回も取り逃がしたんだ失敗を取り戻さなくては)
「こんばんはミドウさん。どなたかと待ち合わせですか」
話しかけられて顔をあげるミドウは、少し驚いた顔をしていた。
「マキちゃんじゃない、ここまで追っかけてきたの」
「たまたまですよ。おねえさん、カウンターの料理、こっちに持ってきてください」
そう店員に言うと、マキはミドウの対面に座る。そしてひと通り観察するが、なんで? という思いが脳内を駆けめぐってしまうハメになる。
まずは席だ。あらためてマキは辺りを見回した。
先ほどトイレにいった通路を挟んで座敷席コーナーは二つある。向こう側に六人掛けが三席、こちら側にも六人掛けが三席ある。ミドウはこちら側の真ん中の席にいる。
「差し出がましいようですが、お店の迷惑になっていませんか」
ミドウの席の隣は会社員らしきグループが盛り上がっており、向かい側は女子会らしきグループが画像を撮り合っている、たぶんSNSにあげるのだろう。
そして反対側の席は、家族連れのグループが誕生日祝いをやっていた。
その中で、六人席を一人でいる。正直、ミドウだけが浮いているのだ。
「ここが好きなんだ。いいんだよ、お店の方もちゃんと心得ているから」
そう言うとミドウは並んでいるジョッキの一つを飲み始めた。そのミドウの前には肉じゃがが一皿鎮座している。
これも、なんで? のひとつだった。
テーブルの上には中ジョッキのビールが五つあり、それに囲まれるようにミドウの手前にあるのが肉じゃがが一皿である。
ビールひとつにツマミが複数なのは解るが、ツマミが一つに大ジョッキが複数というのは不思議な光景である。
「ミドウさん、もうひとつお訊きしていいですか」
「なに」
「この料理の組み合わせはどういう事でしょうか? 肉じゃが一皿に中ジョッキ五つというのはよく分かりません」
「ここの席は厨房から遠いだろ、だから先に呑むぶんだけ頼むんだ。肉じゃがは好きだからいつも食べている。マキちゃんはポテトサラダが好きなのかい」
「ええ、思い出の料理ですので」
「へえ、どんな思い出なの」
「ウチは両親が丸の内で居酒屋をやってるんです」
「丸の内って名古屋のかい」
「そうです。高校生の頃、バイトでお店に出てたんですけど、ポテトサラダは私が作ってたんですよ」
「へえ、美味しそうだね。評判良かったんだ」
「そうです。ビールに合うって、丸の内の企業戦士が喜んでました」
「なにかコツとか隠し味がありそうだね」
「ふ、ふーん。じつはですね工夫が三つあるんです」
「え、なになに教えてよー」
「ナイショです。私だけのレシピですから」
「えー、ケチー」
ミドウの反応に気分が良くなったマキは楽しそうにビールを飲む。
※ ※ ※ ※ ※
──そして三十分後──
「……ですからぁ、アタシだって頑張っているんですよぉ」
「うんうん、マキちゃんは頑張っているよねぇ」
話し始めて数十分経ったのにも気づかずに、姿勢を崩してミドウに自分の愚痴を話していた。今日は一杯のつもりだったマキのジョッキは二杯目が空になったところだった。
「マキちゃんは今日も頑張って仕事していたもんねぇ、あいつらとやっていくのも大変だよねぇ」
「ホントですよ。玉ノ井さんは何かというとすぐ辞めろと言うし、ミッツ先輩は頼りないし、カドマさんはあのふけ顔なんとかなりませんか、班長と間違えて挨拶しちゃたし、その班長はヤクザみたいな外見で怖いし、ホント大変なんでふ」
「まあまあ、それでもやってるマキちゃんはえらいよ。さすがだね」
「えへへー」
気分良くほろ酔いになったマキの背後から声をかけられる。
「お前は本当に人たらしだな」
「よお、早かったなクロ」
クロの声を聞いてマキは我に返る。いつの間にかペラペラと喋っていたことに気がついた。
しまった、やられた、と後悔する。
「いやいやマキちゃんは頑張ったよ、ちゃんとオレを足止めしてたし」
バレてる。子供扱いされた。マキはそれを悟るとミドウを睨む。だが実際に転がされたから何も言えなかった。
「あまり新人を弄るな。貴重な人材だぞ」
クロはそう言いながらマキの横に座る。その圧でほろ酔い気分が吹っ飛んだマキは崩していた姿勢を正す。
「で、もう片づいたのか」
「なにが」
「とぼけるな、昨日の今日と会おうとしなかったのは何か企んでいたからだろう。事件とは関係無いとふんだからたまたまということにしといたが、本当は何をやってたんだ」
ミドウは、肉じゃがのイモを箸で小さくちぎると、それを口に放り込む。
しばらくもぐもぐした後、マキをちらと見てニヤリと笑う。
「じゃあ、かけようか。マキちゃんで」
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