コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり

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第一話 ある老人の死

その5

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 ──その日の夜、名古屋の三の丸にある愛知県警本部にマキはいた。
 事の流れをミツに説明しがてら陣中見舞いをしにきたのだ。

「ふ~ん、魁山先生が絡んできたのか」 

「ミッツ先輩もそうですか」

「なにが」

「魁山チルドレンとかいうの」

「違う違う」

「じゃあなんで魁山先生なんて言うんです」

「どこで誰が聞いてるか分かんないからね。マキくんが魁山チルドレンかもしれないし」

「私は違います」

「僕もだよ。だから自衛のためにそう言ってるし、実際それだけの経歴の持ち主だからね」

 マキがコンビニで買ってきたサンドイッチと紅茶をパクつきながら、ふたりは廊下で立ち話をする。

「それにしても、ミドウさんは何であそこまでやったのかなぁ。いくら過去に似たようなことがあったからって」

「似たような事って」

「ミドウさんが辞めるきっかけになった事件です」

「ああ……。誰かに聞いたの」

「班長から。ミッツ先輩は知ってたんですか」

「そりゃね。みんな知ってるよ」

「カドマさんは知らないって言ってましたよ」

「辞めた人のことだし、まあ言いふらすことでもないしね」

 どうやらクロと同じような理由で話さなかったんだなとマキは納得した。

「あの事件と似たような状況だから、罪滅ぼしのつもりで入れ込んでたんですかね」

「ああ。そうかもね」

 食べ終えたあと分別したゴミを捨ててから、マキを地下鉄駅まで送るとサイバー犯罪対策の課長に断りふたりとも本部をあとにする。

※ ※ ※ ※ ※

「そろそろ年末ですね」

 冷たい夜風がふたりの身体を縮こませる。夜道には誰も通らない、会話していないと間が持たないのか他愛ないことばかり互いに言う。

「本部にはいつまでいるんですか」

「伊和見と金尾の親ネズミを特定できたから、あとは現場の人次第。いちおう年内までという約束かな」

「じゃあそれまでに書類が溜まりそうですね。みんな早く帰ってこないかなって言ってますよ」

「いや、自力でやってほしいんだが」

「ふふふ」

 そのあとしばらく無言で歩く。

 市役所駅は西方向だからこの時期は追い風となる。わりと早く駅の入口が見えてきた。

「じゃあこの辺で。送ってくれてありがとうございました」

「気をつけて帰ってね。……それと……」

 急に何かを言いそうになったミツにマキはドキリとする。

「……ミドウさんのことなんだけど」

「ああ……、はいはい、ミドウさんがどうしましたか」

 ちょっとがっかりして訊き返す。

「全部知ってから後出しジャンケンみたいでなんだけど、[弘美さんを魁山先生に面倒をみてもらう]が本当の目的だったんじゃないかな」

「え? どういうことです」

 マキは横並びから前にまわりミツの顔をのぞき込む。

「割田内外の無理心中計画を加担するふりをして弘美さんを助ける。ここまではミドウさんらしいけど、班長が言う通り成年後見人になるまではやり過ぎだと思う。けど、すぐに行動したということは前から計画してたんじゃないかと思う」

「ああ……そうですね」

「じゃあ何でそこまで計画してたのかとなる。弘美さんのその後を助けるため? それもミドウさんらしいけど個人では大変過ぎる。今後も同じような場合に同じことするのか? できるのか? できないと思う。破綻するのが目にみえる」

「ええ」

「それができるのは──組織だ。大勢で分担することができる組織に任せるのがいちばんだと考える。あたりを見回す、森友財団がある、そこに任せようとしたんじゃないかな」

「それなら素直にお願いすればいいんしゃないですか」

「宮裏先生が言ってた、後から真似する者がいたら困るの対策じゃないかな。それとここまで頑張ったという証拠と割田内外が地元芸術家というのを利用するためだとしたら」

「……森友魁山先生の心を動かすための行動だというんですか」

「あくまでも仮定だけどね」

「んー、そうかなぁー。ミッツ先輩はミドウさんが好きだからそうみえるんじゃなですか」

「かもね」

 否定しないんかい、とニコニコしているミツを睨む。

「そうだな……、マキくん、こういうの聞いたことないかい。

 道路の反対側に倒れている人がいる。
クルマは通ってない。
まっすぐ行けば助けられそうだ。
けどそこにはもの凄く厳しい警察官がいて、ちゃんと横断歩道を使わないと逮捕されてしまう。
横断歩道を使うと大まわりで助けられそうにない。

あなたならどうする?」

「ええ? そんな急に言われても……」

「[トロッコ問題]に似てるよね。僕の勝手な感想なんだけど、ミドウさんなら”警察官の気をそらしてその隙に道路を渡って助けにいくタイプ”だと思ってる」

「ああ……それっぽいですね」

「ちなみに班長は“走りながら警察官にも助力を求めて横断歩道をつかう”タイプ」

「あーそれそれ」

「やり方は違うんだけど、どちらも”助けに行く人“、そして見捨てる、諦める、をしない人たちなんだ。だから好きだし憧れている」

「へぇー」

 バカにしたわけでなく、出会った頃は何を考えているかわからない暗いヲタクという印象だったが、そんな想いを持っていると知って見直した方で感嘆した。

 寒空の下、立ち話をしてたので身体が冷えてしまい、ふたりしてくしゃみをして照れ笑いをする。

「陣中見舞いありがとうね。それじゃおやすみ」

 そう言うとミツは本部に戻っていき、すこし見送ってからマキも地下鉄に向かった──。
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