タイムパラドックス

kinmokusei

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不思議な絵

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グゥー。

え。

なんでこんないいムードの時にお腹が鳴るかなぁ。

あたしは違う意味で顔が赤くなる。

「時間が止まってても腹は空くよな。」

秋時は笑って言った。

「家近いんだ。ラーメンでいいなら食ってけよ!」

「う、うん」

秋時の家は歩いて5分くらいのところにあった。

部屋に通されあたしはちょこんと座る。

「ガス使えるみたいだ。作ってくるから待ってて。」

秋時はそう言って台所に向かった。

モノトーンで統一された部屋には時間旅行とか、時間に関する本がたくさんある。

(時間オタク?)

あたしはダメだと分かりながらも一冊の本を手にとる。

タイムパラドックス。

その本をパラパラとめくる。

難しくてわからない。

しかし、その本に一枚の紙が挟まっていた。

それは絵だった。

けど。

あたしはその絵を見て驚いた。

書かれているのはあたしの絵。

しかも成長した今のあたしだ。


(どうして?)


この姿で会ったのはさっきが初めてのはず。

なのになんで?

「奈津ー?」

(まずい!!)

あたしは絵を本に戻してちょこんと座る。

「出来たぜ?」


「う、うん」

あたしの頭の中はラーメンどころではなくて。

なんで?

どうして?

疑問ばかりが頭に浮かぶ。

「塩ラーメン。俺好きなんだ。奈津は?」

「、、、。」

「奈津?どうした?」

「へ?」

まじかにある秋時の顔。

「何かあったか?」

「い、いえ。何もないよ。」

「なら食べようぜ?」

「うん」

あたしの絵、、、。

なんで?


聞きたかったが、聞けなかった。







「日しずまないな。」

秋時がそうボソッと言う。

けど、あたしはあの絵が気になって仕方ない。

秋時にあたしの絵を描ける時間なんてなかった。

じゃああれは誰?

あたしに似たほかの人?

でも。

あれは間違いなくあたしだった。

部屋にある本といい、秋時はかなりの時間マニア。

今ここで起きてることが秋時の時間マニアと関係あるの?

でも、この世の時間を止めるなんて普通出来っこないよね?

「って、、、え?」

考え込んでいるあたしの顔を心配そうに覗き込む秋時と目が合った。

「やっぱり変だぞ?どうした?」

ゔ、ゔ。

どうしようか?

「ちょっと今日はいろいろあったから疲れちゃって、、、。」

(やっぱり聞けないよ、、、。)

「そうか。だよなぁ。ミラクルだよなぁ。」

嘘をついているようには思えない。

秘密があるようにも見えない。

(あの絵のことは忘れよう。)

「秋時、あたしそろそろ帰るね。時間が動いていないって言っても動いていればもう18時くらいになると思うから。」

「泊まっていけばいいのに。どうせこの世界には俺たちしかいないんだから。」

「うーん。でもやっぱりあたしは、、、。」

あたしが困った顔をすると。

「なにもしやしねーよ。もしかして警戒してる?」

真面目に言う秋時にあたしは、、、。

「ん?何かって?」

見た目は高校生だが、中身は小学生。

言っている意味がよくわからなかった。

「いや、だから、、、襲ったりしないってこと。」

「???」

あたしはやっぱりよくわからなくて。

「あーもう。キスくらいと思ったのは事実だけど。」

え?

その瞬間顔から火が吹いた。







性教育は学校で受けたことがある。

いたずらっ子のように笑う秋時。

あたしは、、、アレも始まっている。

「あ、あ、あたし帰る!!」

しかし。

「帰さない。」

ふわっと抱きしめられた。

「ちょ、、、離して、、、!!」

「2度と会えなくなるのやだから。」

「え、、、?」

秋時の顔からはいたづらっこの表情は消えていた。

「ここは時間の狭間なんだ。危ないからここにいろよ。何にもしねーから。」

秋時の真面目な顔を見てあたしはコクリとうなづく。

「まずは風呂だな。」

へ?

「あー違う違う。そーゆんじゃなくて。」

あたしの表情に秋時は笑っている。

「手足汚れてるから。」

よく見るとガソリンスタンドの爆発で吹き飛ばされたせいか、お互い汚れている。

でもお風呂って、、、。

秋時は笑っているし。

からかわれているようにしか思えない。

それに着替えが、、、。

「確か妹の服があったはず、、、」

「妹?秋時妹いるの?」

「うん。年子だから奈津とそんなに変わらないよ。下着とかも。」

はぁ?

「いい!自分でやる。」

またも大笑いの秋時である。



(全く。秋時にはデリカシーってものがないのかしら!!)


お風呂に入りながらしばらく秋時の性格について考える。

妹さんがいるからあんななんだきっと。

妹さんの怒る様子が目に浮かぶようだ。

あたしは秋時の性格を考えていて、あの絵のことはすっかり忘れていた。


「奈津ー?もういいかー?」


「まだよ!!バカ!!」


全くカッコいいのに残念な男である。






お風呂には入り終わって沈まない太陽を見ながら秋時が言った。

「この絵、、、本の間に挟まってたんだけど奈津が描いたのか?」

えっ?

「秋時が描いたんじゃないの?」

言ってしまってハッとした。

「お前、俺の部屋の中物色したな?」

出た!

いたずらっ子の表情の秋時。

「物色なんてそんな、、、ただ本を見ただけで、、、。」

「そういうのを物色って言うんだよ。」

秋時は笑っているが、、、。

「ごめん、、、。」

あたしは素直に謝った。

すると秋時は、

「やっぱり美鈴(みすず)とは違うな。」

美鈴?

「妹だよ。なんか奈津といると妹と一緒のような気がしてたけどやっぱ違う。美鈴はもっと怒るから。」

あたしの表情を見て言い訳するように言ったが。


(美鈴さんが怒る気持ち少し分かる)


あたしはそう思った。

「それよりこの絵だ。俺でもなく奈津でもないとしたら誰が描いたんだ?この世界には俺たちしかいないはずだろ?」

「あー!!」

あたしはパニックになってて忘れていたことを思い出した。

「なんだよ、急に大声出して。」

驚いた秋時にあたしは話す。

「秋時と会う前にあたしおばあちゃんに会ってるのよ!でも短時間だったからこの絵が描けるとは思えないんだけど、、、。どこかおどおどしてて。」

「えっ!?俺たち以外にも人がいるのか?」

「うん。ただあたしが着替えてる間にいなくなっ、、、あ。」

あたしはまたもハッとする。

「着替え?」

あたしの言葉を秋時は聞きのがさなかった。






「あ、あの、、、。爆発で服がぼろぼろになっちゃって困ってたらおばあちゃんが現れて、、、」

「ふーん。」

沈まない太陽を見ながら秋時は目を細める。

「少し寝るかー。」

え。

「時間的にもう夜だ。明日そのばあさんを探しに行こう。って時間は動かないから今日っていうことになるが、、、。なんかややこしいな。」

秋時は笑った。

(疑ってないみたいだ。)

あたしはホッとした。

「じゃあ一緒に布団に、、、」

「なんでそうなるのよ?」

秋時は笑って。

「冗談だよ。妹の部屋使っていいから。」

そう言った。



謎の絵。

そして謎のおばあちゃん。

時の動かない世界。

いろいろありすぎて眠れるかな?



(あれ?)

あたしって図太いのかな?

眠れたみたい。

って!!

「何やってるのよ?!」

秋時が至近距離であたしを見ていた。

「いやーよく寝てるなと思って。」

「あのねー!!」

「早く支度しろよ?ばあさん探しに行くぞ。」

あたしの怒る様子なんて秋時はおかまいなし。

窓から見える太陽はやっぱり昨日と同じ。

なんか時差ボケになりそう。

それでも頑張って起きてクローゼットを開ける。


(美鈴さんって可愛い洋服いっぱい持ってるなー。)


美鈴さんの洋服はあたしにぴったりだった。

「おっ?やっと起きてきたか。朝食作っておいた。って言っても今何時だか分からないけどな。」

「秋時って料理上手なんだね?意外。」

「うちは両親共働きだから俺が作るんだよ。美鈴は作れないから。」


(意外に苦労人なのかな?)

ふとそんな考えが頭をよぎった。






「まずはガソリンスタンド周辺をしらみつぶしに探すしかないな。」

外に出ると太陽は昨日と同じ場所で、、、。

(朝が来ないなんて不思議だ。)

そんなことを思う。

「やっぱりばあさんと言えば縁側のある家だよなぁ。」

秋時はいたって呑気で。

「今どき縁側のある家なんかある?しかもおばあちゃんだから縁側なんて。」

「ばあさんと言えば縁側で日向ぼっこかお茶だろ?」


(そんな風には見えなかったけどな)


あたしは思うけど口にはしなかった。

秋時がなんだか楽しそうにしていたから。


(いったい何が楽しいんだか)


「そう言えばここ何回も通ったけど縁側のある家なんかなかったな。新築の住宅街だった。」

秋時があのガソリンスタンド周辺を散策して最後に出た答えがこれ。

あたしはため息をつく。

人っ子一人いない道路。

車も通らないし。

時間が動かない上に人がいない。

なんだか怖い。

朝のはずなのにもう夕方であたしの足取りは重くなる。

見かけは大人でも中身は小学生なのだ。

お父さんやお母さんにも会いたい。


「奈津?」


あたしは気づいた時には涙ぐんでいた。


「不安か?」


優しく聞く秋時にただ泣きながらうなづいた。


「俺がいるから。大丈夫だ!奈津は1人じゃないから!」


ふわっと抱きしめられあたしは号泣してしまって。


「奈津?悲観的になってしまったら終わりだ。今この瞬間を楽しむことを考えよう!」


「う、、、うん」


あたしは精一杯の返事をした。




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