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花を踏んでは、
しおりを挟む「僕、蒲団の中で安らかに死ぬのだけは、真っ平ごめんです。……できるなら……先生を守って、死にたい……」
あれは、念願の武士になれた日だったな。
まぁ、粗暴浪人の集まりがやっと新撰組として認められて、会津中将の“お預かり”という仮の身分と、京市中の警護という任務が付いただけだが。
しかし、一応裕福だったが身分もへったくれもねぇ農家の末子に生まれた俺が、ガキの頃から歯ぁ食い縛って切望したものを手にした時だ。
元から武士の子だが、家族同然に付き合ってきた……手のかかる弟のみてぇな存在の、総司に訊いてみた。
「なぁ、総司……お前、どんな風に死にたい?」
「……え? ……な、なぁに言ってんですかぁ土方さん! もぉー、やめてくださいよ、縁起でもないぃ」
「馬ッ鹿……。武士として、どんだけ立派に生きたかってのは、死に様で決まるんだ。武士が生きるっつうことは、
誇りある死に場所を探すことだぜ。そう思わねぇか」
癖で睨みつけると総司はふと笑って少し考える風を作ったが、その答は当に決まってたように見えたな。
先生の為に、生きたい。
あいつは、かっちゃん……俺達、新撰組の局長・近藤勇を、ずっと“先生”と呼んでいたんだ。
“近藤先生”とか、名前を付けないのには理由があるんだぜ。
本人は意識してねぇだろうが、この呼び方は、近藤勇以外の人間を決して“先生”と呼ばねぇ事を表しているんだ。
俺は今でも、あいつの事をよく思い出す。
俺達が京に上る前、まだ俺がただのバラガキだった頃の事まで、未だに覚えているんだ。
天保十三年。
夏、嵐の夜。
奥州白河藩江戸下屋敷沖田家に、念願の長男が誕生した。
急いで帰り部屋を開けると、白い床には、沖田家当主沖田勝次郎の妻・朔が横たわっていた。
その隣には、小さな、小さな赤ん坊がすやすやと寝息を立てている。
「ありがとう……」
「あなた……この子に、名前を付けてあげてください」
赤ん坊をそっと抱き上げると、止め処ない愛しさが込み上げた。
ぎゅっと握っている手は、とても小さく、ほかほかと暖かかった。
自然と、両眼から涙が伝い落ちた。
「……宗次郎……」
その言葉を聞くと朔は幸せそうに瞳を閉じ、そのまま、目覚めることは無かった。
いつまでも少女の様な、儚げで若い、美しい妻だった。
生まれつき身体が弱く、出産は危険だと、特に今回の子を産む時は命に関わるとさえ医者に言われていた。
何度も、子を流すように奨められ、父である勝次郎も、諦めかけていた。
「朔……すまない……。すまないが……子どもを流してくれ……!」
すると、朔は自分の腹に優しく触れながら、今まで見たことがないような強い目で、涙を流して答えた。
「あなた……この子は……この子は、もう、わたしの中で生きているのです。この子の人生は始まっているのです。それを……わたしの為に命を奪うなんて絶対にしたくはありません……! お願いします……あなた……この子を産ませてください……!」
妊娠中も数回、危ない時があった。
その時にも、苦しい息の中で、朔は子どもの無事だけを考えていた。
「わたしは……どうなってもいい……! この子だけは、助けてください!」
呼吸さえ苦しい中、何度も何度も、医者に訴え続けた。
子どもを宗次郎と名付けた時の笑顔……朔は、あの瞬間幸せだったのだ。
勝次郎が死んだ。
下級藩士の家族の生活は決して豊かだとは言えないが、いつでも優しく、酒に
溺れるようなことは絶対に無く、家庭を一番に考え、大きな愛で包んでくれる人だった。
そんな男が、赤子生まれてから八年後に死んでしまった。
沖田家長女ミツも、妹・キンも、しばらく泣いて暮らした。
父が家にいる時にはいつも連いて歩いていた、甘えん坊だった筈の弟の宗次郎だけは不思議と、一度も涙を零さなかった。
ミツにも決断の時がきた。
長男である弟はまだ八歳で、家督を継ぐには幼過ぎる。
その為、以前から婚約していた男を婿に取り、家を継ぐことになった。
井上林太郎という、穏やかで優しげな男と夫婦になった。
妹は他家に嫁ぎ、弟の宗次郎は姉夫婦と一緒に暮らした。
少し人見知りをするが、素直ないい子だった。
ミツは罪悪の感情に苛まれ続けながら、弟と別れたときの“悲しくても涙を決して流さない顔”は、生涯目に焼き付いて離れない。
近藤勇先生―……僕・沖田宗次郎の生涯の将。
初めて会ったのは、僕が九歳の頃。
よく晴れた日の、風が気持ちよかった。
――……
――ダァン!
「っやあぁ!」
「めぇーん! (面)」
市谷の甲良屋敷という所。
この道を通ると、いつもこんな大きな音が聞こえてくる。
“天然理心流道場 試衛館”とかかげられているので、剣術を教えているのかなと思う。
僕は今日初めて、門の外からのぞきこんだ。
「おおっ? 見学か?」
……うわっ!
急に声をかけられて、ぱっと後ろを振り返った。
「ひィ……ッ」
角ばった顔、こぶしが入りそうなくらいの大きな口、手には防具と竹刀を持つ、大きな男の人。
僕はすぐに、うちに帰りたくなった。
すごく優しく笑ってくれたのに。
「どうだ? 少し見ていかないか?」
男の人はしゃがみこんで、僕の顔をのぞいた。
声が出せない。
僕は一生懸命、首を横に振った。
そこに、見なれた人が通りかかった。
「宗次郎か! どうした? 遊びに来たのか?」
「源三郎おじさん!」
助かったぁ。
僕はおじさんの足元にまとわりついて、顔を隠した。
井上源三郎さん。
姉さんがお婿さんにもらった林太郎さんの親族だから、親戚のおじさん。
なんと、ご先祖さまから八王子千人同心だったらしい。
「なんだ、坊や、源さんの知り合いか」
「ええ! 可愛くてね、うちの子みたいなものです。……若先生は出稽古の帰りですかな?」
若先生……?
この人が……剣術を教える先生……。
「よし! 宗次郎、見学していくか!」
ええっ!
おじさんの、人のよさ気なほほえみが、ちょっと……ううん、かなり、うらめしかった。
――……
……すっすごい!
なにこれ……!
かっこいぃい……っ!
初めて見た。
“ビュッ”と鳴るほど素早い竹刀が振り落とされるのと同時に、強く床板に打ちつける足の力強さ。
稽古とは思えないほどの本気のぶつかり合い。
「どうした? ぽかんと口開けて」
にこにこと、僕を見つめる、やっぱり優しそうな人。
「僕も……やりたいッ!」
さっきまで思いもしなかったことが自然に口から出た。
父さまが死んでしまってから、自分の希望を正直に言えたのは初めてだった。
すると、“若先生”はひどく、びっくりした顔になった。
「はっはっはっ! この歳でうちの荒稽古を見て、“やりたい”とは! 大したもんだなぁ……!」
そう言って、四角い顔をくしゃっとして笑い、僕の頭に手を置いた。
今、振り返るとわかる。
父さまからしか受けたことの無い、包むような愛情を、先生は教えてくれた。
「若先生~、そう言うと思ったから稽古を見せたんでしょうに」
――……
「ねえ、宗次郎。あなた……試衛館道場のお世話にならない?」
「……え?」
突然だった。
突然、姉上から告げられた。
この時の捻くれていた僕には、その言葉はこう響いた。
出て行きなさい、と。
「……ッ宗次郎!?」
子どもの頃の僕は、何も言えないまま、走った。
今ならば、姉上の気持ちも分かるのに。
姉さまのお腹の中には、赤ちゃんがいる。
だから僕がジャマになったんだ。
この時は単純に、姉上を憎む言葉しか思い付かなかった。
――……
独り、土手に座っていると、渇いた風に擽られる。
道は夕闇。
僕は膝を丸めて、顔を埋(うず)めていた。
……どうして!?
父さまがいなくなっても、僕、一度も泣かなかった。
わがままなことだって、僕、一度も言わなかった。
なにがいけなかったの?
林太郎おじさんとあまり話せなかったから?
友だちがいないから?
だから……僕は捨てられるの?
――ドサァッ!
突然の音に身を縮めた僕は、その主を恐る恐る見た。
姉上が探しに来てくれたのかと、期待しながら。
「……んだよ。俺の顔になんか付いてっか?」
……ええ。
血と痣が付いてますよ、“土方さん”……あと、目と鼻と口ー!
「……ッえ? あ……あのっ」
あたふたする僕に、まだ、“僕の知らない土方さん”は如何にもイライラと舌打ちをした。
「だいたいガキがこんな時間彷徨(うろつ)くんじゃねぇや」
……こっ……怖~!
僕はすくっと立ち、行く所も見つけられないのに、ここからどこかへ、ただ行きたかった。
「おい、待て! 一人じゃ危ねえだろ」
土方さんは、僕の腕を引き寄せた。
「……やあ……ッ!」
「っ妙な声出すんじゃねえ! 送ってやるから大人しくしやがれ!」
「いぃい、いいですッ! 僕、帰れます!」
必死でその手を払おうと腕をブンブンと振り回すけれど、ほとんど効果は無
かった。
それなのに急に、僕の抵抗に動じた気配は一切無い筈の土方さんは、僕の事を、上から下、下から上に見つめた。
「あ……? お前……男か!」
は……?
なっ……ホント、なにッ?
なに? この人!
第一印象は最悪だった。
ヒドイですよ~! しかも、人の事言える顔ですか! と、今の僕なら反論したいところだけれど、土方さんの手が驚きで少し弛んだ隙に腕を振り払い……そして肩を突き飛ばした……つもりが、土方さんにとってはちょっと小突かれた程度の精一杯の怒りを表してから、一目散に走った。
もう、あの家に帰る気持ちは無かったのに、夢中で走っていたら無意識に家の近くまで来てしまっていた。
それでも、中に入るのを躊躇する事は無かった。
夕飯の支度もしていない様子の姉上が、小さな庭先で待っていて、遠くの僕を見つけるなり、優しく、優しく抱き締めたから。
決めたのは、あれからしばらくした朝だった。
「姉さま……僕、試衛館に行きます」
幼い僕は、毎晩ろくに眠れなかった。
ひとりで蒲団の中で泣いて、だから朝はいつも目が腫れていた。
その間の姉上は、急かす様な素振りを全く見せはしない。
僕の目を見ては辛そうにしていた気がする。
本当に温かい人だと思う。
それは林太郎おじさんも一緒だ。
そう、悪気が無いのはわかっている。
だから余計に、おじさんの言葉が“真実”だと確信したんだ。
母上は、僕を産んだせいで亡くなったのだと。
林太郎おじさんは、僕を説得したかったみたいだ。
「私“達”は君が憎くて言っているのではないのだ」
から始まる。
それを聞いた僕が不思議そうに見上げると、疑っていると思ったらしく慌てて続けたんだ。
「お義母さんが命を懸けて産んだ君を、大事に思わないわけが無いよ」
「……いの、ち……?」
「ああ。躰が弱いのに君を産んで、亡くなったのだろう?」
……目の前が真っ暗になって、自分のカタチまで、わからなかった。
五つの時だった。
当たり前だと思っていた、片親の家庭。
周りの家族を見て、“母親”という人がいるのを知った。
「と、父さま、どうして、ぼくには母さまがいないの?」
父上は、この日の為に用意しておいたらしい答えを言った。
「母さまは、宗次郎が小さい時に病気で死んでしまったのだよ」
僕はあっさりと信じ、受け入れた。
顔もわからない人を、恋しがる気持ちなんて無かった。
「ふぅん。父さま、か、かなしかった?」
「宗次郎がいたから平気だったなぁ」
九歳の僕も、その笑顔と一緒に父上の言葉を思い出していた。
ごめんなさい……父さま。
姉上は、涙を見せずに見送ってくれた。
きっと姉上は、本当に悲しい僕を気遣っていたのだろう。
今ではもちろん、姉上に感謝している。
先に生まれてくれてありがとう。
僕を育ててくれてありがとう。
試衛館に行かせてくれてありがとう、とも、本当に思っている。
そして先生に、僕の生き甲斐と言える人に出逢わせてくれて、ありがとう。
「寂しい思いをさせて悪かったなぁ。どうしても、宗次郎をうちの道場に欲しいと、ミツさんに無理にお願いしてしまったのだよ」
僕を迎えてくれた先生は、
「島崎勝太、一生の頼みです!」
と手を合わせて再現して見せ、
「……ってな」
と、くしゃっと笑った。
僕、姉さまに、いらないんじゃないんだ!
捨てられたんじゃないんだ!
この、先生の“芝居”にどれだけ心が救われたか、今でも計り知れない。
こうして試衛館での生活が始まった。
内弟子として試衛館に入った僕だけれど、実際は稽古など許されず下働きばかりの毎日だった。
「掃除もろくに出来ないのかい?」
試衛館は、外見からは信じられないくらいに中は几帳面に小綺麗だ。
お屋敷から道場へと続く渡り廊下を水拭きしていると、頭上から先生のお母さんの金切り声が落ちる。
痩けた頬に少し吊り気味の目の、武家の女性の威厳漂う先生のお母さん、ふでさん。
先生は養子だから、血は繋がっていない。
「ッ……ごめ……なさ……」
父上にも姉上にもこんな風に怒鳴られたことはなかった僕が目に滲ませた涙を、忌々しそうに睨みながら続けた。
「庭でも掃いとくれ。それくらいなら出来るだろ?」
「……は、はいっ」
辿々しいながらも、急いで庭に出た。
「……っとに、とんだ穀潰しだよ」
なんて言われようと、僕は反発しなかった。
嫌われたら、ここからも出ていかなければならないと、怯えながら毎日を過ごしていた。
背丈の倍もありそうな竹箒を、サカサカと動かす。
……帰りたい。
でも、どこへ……?
下ばかりを見ていたから、涙は頬を伝わずパタパタと音を立てて土に落ち、吸い込まれていった。
「宗次郎?」
「っあ! ……」
咄嗟に顔を上げてしまった目線の先には先生が居た。
先生は、瞳が潤んでいたのを見逃さない。
「どうした?」
「……違ッ! ……あの……っ目にゴミが……っ」
先生は何も言わずに慌てて目を擦る僕の手を退(ど)かし、軽く頭を撫でてくれた。
「宗次郎、こっちにおいで」
出稽古から帰って来たばかりで疲れている筈なのに、そのままの格好で道場へと手を引いてくれた。
ふでさんは絶対に道場へは入らない人だったからだと、今更に気付く。
「さあ、持ってごらん」
渡された竹刀を恐々と持つ。
竹刀そのものよりもさらに、これが剣術の稽古をする道具だということがとても重く、フルフルと、まだ剣先とも言えない“竹の棒”の先端が揺れた。
「お、いいぞ。宗次郎は左ぎっちょか?」
竹刀は左手を手前に持つ……僕がした持ち方が正しいのだけれど、右利きの人なら初めて持つ時に右手を手前にしてしまいがちだ。
「ぅわ……っ」
褒められて少し得意になった僕が竹刀を振りかぶろうとすると、グラリと竹刀が落ちた。
あまり力が無い為に支えきれなかったんだ。
「細っこい腕だなあ」
ニコニコとしながら落ちた竹刀を拾ってくれた。
多分、やっと僕に稽古を付けられるのを嬉しく思ってくれていたのかな。
そうして時々先生は、誰もいない道場で少しずつ、稽古を付けてくれた。
僕は言い付けられる仕事の合間に、門人達の稽古を眺めるようになっていた。
そんな日々のある日、ひどく“奇妙”な人を見つけた。
え……っ?
赤い面ひも?
濃紺一色の集団の中に、目立ち過ぎる一筋の紅(くれない)。
それ以上に奇妙なのはその剣技だ。
天然理心流でも何でも無い。
形振り構わない、まるで喧嘩みたいだ……なんて言ったらまたヘソ曲げちゃうかな。
めちゃめちゃだぁ……。
唖然としている間に稽古は小休憩に入り、その人は先生と仲良さそうに話し始めた。
ああっ……!
あの人、先生のことあんなにベシベシたたいて!
門人が道場の跡取りに無礼だ……というより、仲の良さそうなのがただ、羨ましかった。
お互いを
「かっちゃん」
「トシサン」
と呼び合うのが、いかにも楽しそうに聞こえた。
余程恨めし気だったのか、先生は僕に気付いて手招きをした。
「トシサン、ほら、この子が宗次郎だ」
可愛いだろう、と先生は僕を……今は外しているけれど……“赤面紐”の前に、ズイッと押し出した。
先生は、そこが好きなところだけど何をするにも豪快な人だ。
僕はよろけながらもペコンとお辞儀をした。
「は、はじめましてっ! 沖田宗次郎といいます!」
「あ? ……“初めて”じゃねぇよ」
確かに聞いたことのある特徴的な、憎々しい濁音の入る
「あ?」
だったので、僕はその人を見上げた。
「あぁああ!」
僕が家から飛び出した日に土手で会ったあの人、土方さんだった。
「無事に帰られたんだな。……歳三だ。」
土方さんはこの時期、石田散薬という自家製の薬を行商しながら道場を回り、様々な流派と手合わせしていたらしい。
たまに試衛館にやって来てはかつて喧嘩ばかりしていたのに意気投合し、すっかり親友になった先生と稽古をしたり、いつかは剣で身を立てたい……と、何となく話したりしていた。
別の日、行商から帰ってきた土方さんはいつも通りに着物をからげて手拭いを付けた、商人風の姿で道場に来た。
「宗次郎、お前武士の子の癖に掃除ばっかしてんだな」
僕は自分から武士の子だなんて言ってないけれど、つい苗字を名乗ったのでわかったのだろう。
当時の土方さんは今よりもっと強く、純粋に“武士”に憧れていた。
「は、はいっ! ありがとうございます!」
よく意味もわからずまたペコンとお辞儀をすると、
「……は? 褒めてねぇよ」
と、僕の前髪をクシャッとした。
それは先生がよくしてくれる“いい子だな”の意味とは違う“クシャッ”だった。
“バラガキ”土方さんは今よりもっと意地悪だった。
「掃除ばっかだからお前今日から“ソージ”な」
「……ええ? ヤですよぉ!」
本気でイヤだったけれど先生以外誰にも心を許せなかった僕は、そう言いながらも笑うしかなかった。
以前の僕は、土方さんをどうしても好きになれなかった。
それでもできるだけ、いつも笑っていた。
好きになろうとした。
誰からも好かれたかった僕は、自分が好きではない相手は絶対に自分を好きにはなってくれないと知っていたから。
また道場に来ている土方さんを見つけた時、僕は勇気を出して綽名で呼んでみようと考えた。
その方が親近感があると思った……という子どもなりの計略だった。
僕は箒を持ったまま、片方の空いている手で土方さんの着物の裾を摘んだ。
「と。……歳さん……っ」
そうしたら、まるで阿修羅の形相で睨み付けられた。
……あれ? ……僕、顔が笑ってなかったかな?
反省する暇も無く、頭の上にガシッと手を置かれた。
「……ソ~ジ~!」
「いぃい痛い! いっ痛いよ!」
しかもその手をグリグリ回されながら、僕は何がなんだかわからないままジタバタした。
「トシサン! やめろ!」
「せっせんせぇ~!」
僕は駆け付けてくれた先生の足下に飛びついて、後ろに隠れた。
「あっ! てめぇキタねぇぞ!」
「トシサン!」
ビリビリと、大気が震えるような大喝が響いた。
流石の土方さんも、ごにょごにょと説明を始める。
「だってよぉ、そいつ、いきなり俺のこと呼び捨てにすんだぜ」
「呼びすてなんかしてないもん! 歳“さん”ってゆったもん!」
先生の後ろから顔だけ出してキャンキャン喚くと、先生は途端に大笑いをし始め、し過ぎでヒィヒィしながら言った。
「宗次郎、“トシサン”はこいつの幼名だよ」
「“歳三”と書いてそう読んだのだと。なんだか顔に似合わず、かわい気な名だから俺はそう呼んでいたんだ」
と、説明してくれた。
そして、
「でも紛らわしいよなぁ」
と言い、その日から先生は土方さんをただ“歳”と呼ぶようになった。
僕はしばらくの間、土方さんを
「あのぉ」
とかしか呼び掛けなくなり、土方さんは相変わらず
「ソージ」
と呼んだ。
客間で、先生は苦い面持ちの細身の男の人をもてなしていた。
「いつもありがとうございます……」
「いえ……。しかし、あなたの腕でしたら私なぞ呼ばなくても、楽に追い返せるでしょうに」
「はは……苦手なんですよ。竹刀は」
天然理心流は実戦には凄まじい強さを発揮するらしいのに、道場試合は弱かった。
今日もまた、道場破りの相手を他流派の有名道場にお願いしたみたいだ。
卑怯と思われるかもしれないけれど、小さな道場ではよくやっていたことだった。
十二歳になっていた僕は、試合に出てみたいなぁと憧れていた。
あの頃の僕はもう、先生の出稽古に付いて行かせてもらっていた。
ふでさんは相変わらず僕に冷たかったけれど、剣の稽古をすることについては何も言わなかった。
後から聞いたことだけれど、先生のお父さん・周斎先生が許すよう説得してくれたらしい。
そのことが余計に、ふでさんを追い詰めてしまったこと……それはまた数年後のお話ですけど。
とにかくこの日も、僕は先生と二人で故郷(ふるさと)の白河藩まで来ていた。
「……ッ参りました!」
……あっ!
ど、どうしよう!
またやっちゃった!
先生の方を見ると、苦虫を噛み潰したみたいな顔ってこういうのだろうな、と実感するような表情になっていた。
僕はこう見えてもすごく負けず嫌いなところがあった。
その癖短気だから、一応稽古を付ける側なのに少し打たれるとつい本気で返してしまう。
教えるのが下手なのは今も直らないけれど、子どもの頃は一層ひどかった。
こんな調子だから、僕の出向く稽古には二度来る人が居ないくらいだった。
噂を聞きつけて自分の腕に自信満々で挑んで来る人や、いくら強いと言ってもどうせ子どもだろうと見くびって来る人ばかりだった。
内心困り果てていただろうに道場の評判にも悪いだろうに、それでも先生はいつも僕を連れていってくれた。
“家”よりも、僕を選んでくれた唯一の人だった。
河原に沿った道。
黄土色の帰り道を並んで歩いた。
もう夕方の虫の声が仲間を呼んで鳴いている。
「宗次郎、疲れたか?」
正直な性分の先生は、稽古中ありありと顔に出る程に僕の指導ぶりに頭を悩ませていたのに、僕には全然お説教をしなかった。
謝っても
「なに。日本男児はそのくらいでちょうど良い」
と笑い、
「だいたい、奴らの気組みが足らん」
と弟子達の方に矛先を向ける。
昔も今も、僕なんかには勿体のない先生だ。
「もし。君が沖田くんか?」
大丈夫ですと答えようとした隙に、後ろから声を掛けられた。
「評判を聞いているよ。大人でも負かしてしまうのだって?」
気さくな感じで話しかけてくる、上背の高い二本差し。
良い印象はまるで無かった。
どうしてこの人、先生を見ないんだろう。
当の先生は構わず、自分が褒められたように相好を崩している。
「どうだね? 私の所で“本格的な”稽古を受ける気はないかな?」
その差し出された手の平を僕は見つめた。
初めてここまで抱(いだ)
いた、ヒドい嫌悪感を噛みしめながら。
明らかに先生を見くびり罪悪の意識をまるで匂わせない、張り付いた笑顔を
無視し、先生がなんと言ってくれるかを息を殺して待ちわびた。
期待を込めた沈黙は、僅かでも、酷く長く感じた。
「はは。いやいや、宗次郎は本当に覚えの良い子でして」
先生は侮辱をあくまで笑顔で無視し、高慢な男の横を通り過ぎようとした。
大きな手はしっかり、僕の手を握ってくれていた。
「……まっ待ちたまえ! 沖田宗次郎、君は天才なのだ! この私、白川藩剣術指南役の私なら、君を江戸一の剣士に育ててあげられるぞ!」
ここで初めて、男は先生に目を向けた。
土色の大きな防具入れに竹刀を担ぎ稽古着を着けた、泥付き牛蒡のような日に焼けた顔。
お坊ちゃま育ちだろうこの人にはきっと“健康的”以上に如何にも“田舎の道場の倅”と映っているだろう。
「気付いていないのか? 無名の道場に居ては、この子の才能は潰されてしまう!」
気付いていないのかなぁ? ……僕が怒っていることに。
「あのぉ、僕に稽古を付けてもらえませんか?」
今、ここで。
ここだけで。
一斉に、二人が僕の言葉に目を見張った。
同じ動作でも多分、心は正反対だろう。
「そうか……! では早速道場へ……」
その満足気な科白を介さず竹刀袋の紐を解く僕にまたも二人は一緒に、きょとんとなった。
無言で、正眼に構えた。
こちらの気持ちは真剣なのに男の人は
「ふふっ」
と気味悪く含み笑いながら竹刀を取り出し、余裕を見せつけるかのように悠々と構えながら、自信たっぷりに目を細めた。
「私の腕を試そうというのかね? ……いいだろう……おもしろい子だ」
やっと二人の表情が分かれた。
「おやおや。随分と剣先を左に寄せるんだなぁ。……いけない癖だ」
「宗次郎……!」
片や利き手の右手に力が入り過ぎている為の癖だと、所詮まだまだ子ども……教え甲斐のあることよ、とせせら笑う。
対して先生は世にはあまり知られていない天然理心流独特の構え“平晴眼”を遣うくらい本気過ぎる僕を危ぶみ、険しく角張った頬骨を浮き上がらせていた。
怪我でもするのではと心配してくれてか、先生は剣先交わる間を割った。
「どういうおつもりかな? 私が子ども相手に腕を振るうとでも?」
男の人は竹刀を地面に付く、杖代わりみたいにした姿勢を取った。
僕は例え真剣でなくとも、剣に見立てて作られた大事な竹刀を乱雑に扱うのは大嫌いだ。
如何にもこの男の人がしそうなことだ。
「先生、僕、負けません」
僕はピタリと平晴眼の先は相手の喉元に、目は据えたまま呟いた。
「本当に面白い子だよ、君は。……さあ、胸を借りるつもりで、思い切り来なさい」
男の人は竹刀をぶらりと片手で下げ両腕を開いた。
相手が構えていなくても関係ない、と思った最初の日だった。
「くっ」
息を漏らしながら、僕の諸手突きは鍔元で弾かれた。
「いきなり突きだなんて……得意なのかな?」
こんな感じの、また嫌みがましい声が聞こえてきそうだけれど違った。
瞳孔がガッと見開かれ、歯がギッチリと食いしばられていた。
そう、戦慄の表情だった。
陽もとっぷりと暮れていたので、ガラの良く無さそうな野袴姿がお芝居を見物
するように丸く離れて三人を囲んでいた。
「やれやれィ」
「坊主がんばれよ!」
などと、野次を飛ばしていた。
その雑音もピタリと、水を打ったように静まっていた。
それらの変化に気付くくらい頭は冷静だったけれど、腕は自然に動くくらいに熱を秘めていた。
受けられてしまった……!
もっと早い動きでなければ。
次の瞬間……と、周りには見えたかも知れない。
僕は突きを二段繰り出し、男の人は倒れた。
今度はしっかり構えていた。
でも二撃ともまともに食らい、気絶してしまった。
途端、周りに居た人々誰もが歓声を上げた。
唯一人、先生だけを除いて。
一晩明けると、噂が矢さながら速く広く流れた後だった。
「ソージ! お前、白河藩の剣術師範をこてんぱんにしたんだってな」
道場に帰るなり土方さんに声を掛けられた。
その顔は、よくやった! という同門の仲間の相では無く、信じられないという面持ちだった。
当たり前だと思う。
自分で言うのは烏滸がましいけれど僕はこの時、本格的な稽古は始めたばかりのほんの十二歳の子供だったから。
目の前で見ていた先生なんて、化け物にでも遇ったような気持ちだったと思う。
それでも先生は、僕を畏れたり、ましてや家族同然の勿体の無いくらいの扱いを変えたりする事はしない。
しばらくこの事に触れなかった先生は、出稽古の帰り、遅くなってしまったので宿に泊まった朝の帰り道に思い出したようにくしゃっと笑った。
「宗次郎は強いなぁ」
一言そう、褒めてくれた。
何人もの人に言われた、百年に一度の麒麟児だとか将来は大剣豪になるであろうとか……どんな耳をくすぐるような賛辞も、この嬉しさには叶わなかった。
僕が“天才”だった時があるとすれば、あの立ち合いだけだと思う。
先生に褒められた僕は、子どもの頭で悟ったんだ。
剣術ができることだけが、僕の存在する価値だと。
この唯一の取り柄を失わなければ、僕はあの暖かな居場所から追い出されることはないのではと。
何かともてはやされた僕だけれど、他の人と違うところなんて一つだけ。
僕には、剣しかない。
それだけだ。
土方さんの見開いた目に、僕はニヤリと視線を返した。
「ウソだと思うなら試合ってみますかぁ?」
「ああ?」
クソガキ! という形相をありありと浮かべる土方さんを前に僕は決意した。
僕は、誰にも嫌われたくない。
いつも明るく朗らかで。
みんなを和ませて。
誰に会ってもすぐに仲良くなれる。
周りにいる人を笑わせて。
絶対に弱さなんか見せないんだ。
そう誓った僕の折り紙付きの人見知りは、少しずつ直っていった。
十八歳の春……僕は、天然理心流免許皆伝を授かった。
「おめでとう、宗次郎。よくやったな」
この時もやっぱり一番嬉しかったのは先生の言葉だった。
既に僕は試衛館の塾頭となって、各地の出稽古に大忙しの頃だった。
「ありがとうございます! ……でも、歳三さんが帰って来たらまた睨まれるんだろうなぁ」
土方さんはあの後、さらに遠くまで薬の行商をしながら道場破りをするという剰りに破天荒な修行に出て、試衛館には数年姿を見せていなかった。
「ははは。だがトシが帰って来る前に今日、新人が入るんだ。仲良くしてやってくれ」
「よっぽどうれしいや! ……へえぇ……楽しみだなぁ……。どんな人です?」
僕が見返すと先生は、今思えばちょっと悪ガキみたいな顔で
「そうだなぁ」
とその特徴を上げた。
「まず、目が丸いな。でも口は小さくて、小顔で小柄だ」
「子どもですかぁ」
僕の稽古は大人にも十分キツいらしいのに……と、少し心配になった。
「いやいや。お前と同じくらいだよ。まぁ、あっちの方がもう少ししっかりしているなぁ」
「ええ? ヒドい!」
以前の僕はこんな些細な冗談にも内心、本気で傷付いていた頃があったなぁ。
先生は元々“以前の僕”には、こうは言わなかったけれど。
口で嘆きながらも笑った時、後ろで鈴の鳴るみたいな声がした。
「若先生!」
「お、来たかぁ」
先生が破顔した先を振り返ると、まだ旅の荷物を下ろしたばかりという感じの若い女の人が、こっちにパタパタと駆け寄ってきていた。
僕の視界を賑わすのは薄桃色の旅装束と、くるくると変わる表情。
彼女は一頻り先生に歓迎された後、置いてけ堀で黙っていた僕に向き直った。
「初めまして! めぐり、と申します!」
「……っあ! 沖田宗次郎です」
あわあわと挨拶した僕への、心からの笑みだと伝わってくる細くなった瞳が途端丸くなった。
「えっ? ……“あの”塾頭の?」
僕の
「はい」
の返事を
「い」
まで待たず、彼女は
「わあぁ……っ!」
と高く感激の声を上げた。
「敵う人がいないって聞いてますよ! すごいわ! こんなにお若い方だったなんて! ……どんな稽古を積んでいるのかしら……大変な努力家なんでしょうね! わたしの弟達にも見習わせたいわぁ! だってあの子達ったら……」
「ははは! めぐり、その辺で止めてあげないか? 宗次郎がびっくりしているよ」
「あっ! ごめんなさい……わたしったら……」
慌ててオロオロと謝る彼女を見ていると、なんだかひどく懐かしい気持ちになった。
後から、彼女はお手伝いとして住み込むということを聞いた。
それよりももっと、先生の言葉に驚いた。
「あの子、若い時のおミツさんに似ているよなぁ」
姉さんに……。
そうか、だからまるで子どもの時から知っているみたいに安心して、どこか懐かしいんだ、と納得した。
そしてもう一つ、僕の剣を知っていながらそれを“天才”だとか煽てず“努力の成果”だと直ぐに解釈する人も珍しかった。
思うことのたくさんある出会いだったけれど、それでもこのめぐりさんが僕の生き方を変えるなんて、この時は予想もしていなかった。
僕が道場で素振りをしていると、庭を掃くめぐりさんに声を掛けられた。
「宗次郎さん! おはようございます!」
「早起きさんですねぇ」
「それは宗次郎さんです! 毎朝お一人で稽古をしているんですか?」
「そうです」
と言う前から、もう彼女の瞳は輝いていた。
「すごいわぁ……わたしも男の子に生まれていたなら、絶対剣術を習うのに!」
姉さんも同じようなことをボヤいていたっけ……。
「なら、振ってみますか?」
竹刀を差し出すと、意外にも彼女は後退(あとずさ)った。
「いけません! 女が触れては穢れます!」
姉さんは暇さえあればブンブン振り回していたなぁ。
それを思い出すと可笑しかったけど、なんだか古風な一面を垣間見てしまった。
ここには沢山の道場破りが来ていた。
「参りました……!」
「いや永倉さん! 顔を上げて下さいよ」
今日も神道無念流免許皆伝、というこの上ないくらいの腕前の人が先生に負かされたみたいだ。
「是非、私も貴方の道場に加えていただきたい」
こうして何人も食客が住み着いていった。
先生の実戦に滅法強い腕と、その人柄に惚れてしまうんだ。
その度に先生のお母さん、ふでさんの眉間の皺は濃くなり、道場の家計は逼迫していった。
「俺ぁあんたに惚れたよ! 近藤さん、俺も試衛館に入れてくれ!」
また別の日には原田左之助さんという大喰らいの槍遣いも、道場に転がり込んだ。
どんどんと仕事の増える中で、めぐりさんは目まぐるしいくらいによく働いていた。
「めぐりさん、少しはお休みしないと……身体が保ちませんよ?」
せっせと洗濯物を干す彼女の後ろ姿に声を掛けた。
「大丈夫で……」
「危ない……ッ!」
めぐりさんはあの後倒れてしまい、しばらく目が覚めなかった。
それでも起き上がろうとするのを止めると彼女はパッと俯いた。
「……宗次郎さんが……運んでくれたんですか?」
「はい。でも床の用意はふでさんが……って、ぅわあっ!」
途端、彼女の顔全体が真っ赤になっていく。
「ええっ! ねッ熱ですか? ……は、無いみたいですね」
「ぅおわッ! 宗次郎! おまっ何やってんだ」
めぐりさんの額に手を当てていると、びっくり顔の左之助さんが廊下で立ち止まった。
「ふぇ? ……あ、めぐりさん熱があるみたいなんです……」
すると左之さんはなんだかポカンとした顔になり、めぐりさんに向かって苦笑いをした。
「……めぐりも大変だなぁ」
『え?』
二人、声が揃ってしまった。
僕は全然意味が分からないのに、数秒するとめぐりさんは
「……左之さんッ!」
と慌てていた。
僕は近い将来、この日々を後悔する。
僕は幼すぎてまだわからなかったんだ。
この世には“知らない”という名の罪があることを。
稽古も終わりそうな夕暮れ、門弟に稽古を付けていた左之助さんが喚き声を上げた。
「いってぇ!」
「すみませんっ」
ほとんど垂直にお辞儀をする若い門弟の脇から腰を付いた怪我人を覗くと、
足指を必死にふぅふぅしている。
打ち込みの時、爪先を蹴られてしまったようだ。
「大丈夫ですかっ? ……ッうわぁ~……」
「……ヤな声出すなよなぁ、宗次郎……」
だって、親指の爪がめくれてしまっているんですよ?
「薬屋呼んきてやる。待ってな」
新八さんが竹刀を腰にねじ込み、ドスドスと外へ走り出ていった。
ちょうど僕の稽古相手達が全員ヘバってしまったので、僕は開きっぱなしの道場の扉から庭へ出た。
「遅いですねぇ、新八さん」
「あっ、宗次郎さん! 大変! 永倉さんがガラの悪い薬売りと喧嘩しているの!」
めぐりさんに呼ばれまさかと思いながらもその後に付いていくと、本当に門の所で言い争いをしていた……けれど見る見るうちに二人は竹刀を構えだしている。
「ちょ……、ちょっと待ってください!」
僕は走りながら慌てて止めるけれど、二人とも頭に血が上っているみたいで僕の声に全然反応しないで睨み合っている。
……しょうがないですねぇ。
『ぅおぁ…!』
ガッチリと打ち込む寸前、僕は二人の間に入り込み、薬屋の方の木刀を素手で掴んだ。
さすがの腕の新八さんの竹刀は、僕の肩の寸前で止まっている。
「~っぶねぇなぁ!」
「だって、新八さんなら寸止めしてくれるって信じてますもん」
僕は木刀をしっかり握ったまま、新八さんを振り返って笑った。
「おい、クソガキ……」
「はいはーい……って、あああっ!」
“クソガキ”で返事してしまった僕は、相手の容貌の懐かしさに思わず笑いが込み上げた。
お腹を抱えて大笑いする僕を二人とも唖然と見ていたみたいだ。
「……とっ歳三さんじゃないですかぁっ!」
漸く落ち着いた僕が息を切らせてその名を呼ぶと少し老け……や、大人びた土方さんは
「ぁあ?」
と胡散臭そうに片眉を吊り上げた。
「……お前……っ! “ソージ”か!」
「だぁから“宗次郎”ですって!」
僕は相変わらずなこの人を以前と同じように怒った。
「歳~! よく帰ってきたなぁ!」
出稽古から帰った先生は、目に涙を浮かべるくらいの勢いで迎える。
「ちょっと見ねぇ間に居候が増えたなぁ」
苦笑いをする土方さんの背後に僕は立った。
「とーしぞーうさんっ!」
「ぅおっ!?」
左手に竹刀を、ちなみに右手には土方さんの結い上げた長い髪を握っている。
反射的に下を見る土方さんだけれど、僕の背はとっくに追い越している。
「……背ばっかひょろひょろ伸びやがって……泣かしてやるよ坊や」
不敵な笑みに、僕は歯を見せて返事した。
「あははははっ! 出たぁっ! “赤面紐”! 懐かし~い」
「うるせぇっ! とっとと支度しろっ」
土方さんの白い顔には
「格好いいだろうが」
と書いてある。
「いやぁ、正直微妙ですよ?」
「あ? 何がだよっ」
そう言っている間に、僕は稽古用の防具を付け終えた。
子どもの頃から少しの時間も惜しんで稽古ばかりをしていた僕は、誰よりも支度が早かった。
「歳三さぁん、僕、本気出しますね?」
「ったりめぇだ!」
「始めっ」
試合を聞きつけた門人と、
「宗次郎、コテンパンにしてやれぇ!」
と歓声する新八さんが見守る中、僕が先生のそれが移ったような甲高い声を響かせても土方さんは全く応えない。
こういう人は珍しい。
大抵、試合開始と同時に威圧の声を発するのに。
しかも自信満々だと表す上段の構えだ。
……いいんですかぁ? そんな余裕で。
僕は天然理心流・平晴眼。
さっきの言葉通り本気だ。
歳三さん……僕、あなたがいなくて寂しかったです。
あなたが何をしていたかは知りませんが、もうあの頃の宗次郎じゃありませんから。
「面あり!」
まず一本目は、土方さんが小手に来たところを擦り上げて面を取った。
土方さんは悔しそうで、その瞬間本気の目になった気がする。
そう言えば僕は、土方さんと試合するのは初めてだった。
僕が一人前の稽古をする前に、どこかに行ってしまったから。
このまま、勝ってしまえる気がしていた。
構えた竹刀を落とした後の面は、その竹刀で受け止められた。
反応が早くなってる!
すぐ後には、胴を狙ってくる。
相打ちにしちゃえ!
僕の面と土方さんの胴はぴったりと合い、互いに走り抜けた。
どっと歓声が上がる。
合わせたみたいに息がピッタリだった。
いくら当たり方が良くて、気・剣・体が一致していても、相打ちでは一本取られない。
振り返って残心を取ると、土方さんの険しい顔。
すごい楽しい。
僕はまた、一足一刀まで歩み寄った。
次の瞬間、土方さんは小手を狙い踏み込んできた。
僕はそれを腕を立ててかわす。
突然、目眩に襲われた。
「面あり!」
あ……あれ……?
足下がふらつく。
技が決まった後は、すぐに開始線に戻らなければ。
土方さんはスタスタと背を見せて先を行く。
少しも喜びもしないで次に気持ちを逸らせている。
「宗次郎さん!」
「……ソージッ!」
気が付くと僕の視界は道場の床板に覆われていた。
遠くで、めぐりさんと土方さんの声がした。
「ソージッ! ……嘘だろ……俺そんな無駄に力入れてねぇよなぁ?」
「違うんです! 宗次郎さん、すごく熱い……!」
僕がそのまま気を失うと、蒲団の中に納められていた。
「……ぅわ! 歳三さん!」
「うわじゃねぇよ……お前すげぇ熱があったんだぜ? 気付かなかったのかよ……」
目覚めると僕の額には氷嚢(ひょうのう)が乗っていて、枕元にはまだ見慣れない少し大人の土方さんが居た。
「熱……? ……うわぁあ!」
「今度は何だ……」
ゲンナリする土方さんに、僕は多分飛びきり情けない顔で言った。
「ブツブツができてますぅ~」
「ゲッ! キモッ!」
それに気付いた瞬間、土方さんは身を仰け反らせた。
見た目は大人みたいに変わっていても、到底大人とは言えない対応だと思う。
僕の腕の辺りに、鮮紅色に隆起した発疹が出来ていた。
「薬屋だ! 俺呼んでくる!」
あなたも一応薬屋でしょう? という僕の茶々を聞く前に、土方さんは廊下に走り出ていた。
逃げたんじゃないかと疑わしい程の素早さで。
白髪混じりの医者が開いた僕の胸には、知らない間にプツプツと発疹が増えていた。
「高熱に発疹……こりゃ間違いなく麻疹ですな」
「……はしか……ええぇ~!」
僕は熱に浮かされた頭でふわふわとしながらも、はっきり思った。
麻疹の症状と言ったら決まっている。
続く高熱に四肢の末梢にまで及ぶ発疹。
全身に覆い被さる倦怠感。
その上、人に伝染る。
誰だってうんざりするのに、ここぞとばかりに土方さんが帰ってきている。
どんなにイジメられるかは想像に手易いくらいだ。
それ所か完全に隔離かもなぁ……と思うと病気自体に苦しむよりもっと辛い。
普段、食客部屋でみんなと寝ている僕が独り隔離されて眠ってから、夕方になった。
「宗次郎さーん! お食事お持ちしましたー!」
その元気な声に目を覚ました僕が返事する間もなく、めぐりさんは襖を開けた。
「わっ! ダメですよっ! 伝染(うつ)っちゃいますよ!」
僕は熱で頭がぼんやりしているのに慌てさせられて、咳に噎(む)せた。
「平気ですっ! わたし、はしかは小さいときに済ませましたから! ……わぁ、すごい汗ですねぇ……先に拭いちゃいましょうか?」
「自分でしますからっ」
僕は余計に咳をした。
「はい“あーん”としてください!」
「って、自分で食べられますからっ!」
僕は、めぐりさんから茶碗を受け取った。
僕はついめぐりさんと姉さんを重ねてしまうときがあるけれど、弟扱いするのはやめてほしいなぁ。
と、考えながらお粥を口に含むと舌を火傷したけれど、やせ我慢をして飲み込んだ。
「……どぉですか?」
「え?」
何がですか?
と言いそうになったのをまたも飲み込んで、味のことかと思いついた。
「おいしいです!」
正直さっきは熱くて味がわからなかったけれど。
でもめぐりさんの嬉しそうな顔に気づくと、そう言ってよかったと思ったんだ。
僕はその夜、ひどい熱に魘(うな)された。
そして浅い夢の中で、ただひたすらに僕の名前を呼んで謝る女の人に会った。
「宗次郎……ごめんね……」
顔がはっきり見えない。
姉上かと、思った。
「僕……怒っていないよ?」
「宗次郎……ごめんね……」
やっとわかったのは、見たこともない、知らない女の人の顔だった。
儚げな少し幼い顔立ちのお淑やかそうな女の人。
誰だろう……。
わからないまま、暑さに目を覚ました。
「宗次郎さん……っ宗次郎さん!」
「……めぐりさん……どうしました?」
僕がまだ冷めない微熱に意識をぼんやりさせていると、めぐりさんが額の汗を拭ってくれた。
「苦しそうに……譫言を……。ひどい汗です」
意外だった。
あんなに優しい夢を見たのに。
僕はまた眼を閉じて、めぐりさんにされるがまま汗を除いてもらい、冷たく濡れた手拭いを置いてもらった。
……姉さんみたい。
「……えっ?」
めぐりさんの、優しくゆっくり動いていた手が止まった。
「あ……っ!」
僕……口に出していた?
「ごっごめんなさい!」
恥ずかしい……!
僕は勢い余って蒲団から身を起こした。
「宗次郎さん……お姉さまがいるんですね……」
「っえ? ……はい……」
僕は笑われるのではないかと構えていたので、拍子抜けしてしまった。
「わたしと似ているんですか?」
「ちょっとだけ……。でもめぐりさんの方が女の子らしいですねぇ」
すると今度はキッと刺すような視線を返された。
「わたし……宗次郎さんみたいな弟、絶対ヤです!」
「ええっ? ヒドい!」
僕がふざけると、めぐりさんは笑ってくれた。
今ならやっとわかる。
ずっと、ヒドいのは僕の方だった。
僕がもっと大人だったなら、めぐりさんを追い詰めることも無かった。
麻疹が完治した僕の肌の色は、発疹の跡が残ったのか浅黒く変わっている。
「なんかお前、色黒くなってねぇ?」
「男らしいでしょ!」
僕の腕を掴んでシゲシゲと見る土方さんにフザケて胸を張ると、土方さんは眉間に皺を寄せてあからさまにムッとした。
「白くたって男らしいだろうがっ」
自分の女の人みたいに生白い腕を引っ込めた。
「宗次郎さーん! お買物付き合ってくださーい!」
「はいはーい」
めぐりさんに呼ばれて行こうとすると、また腕を掴まれた。
「おい、あの女には気を付けろよ」
荷物で両手が塞がった僕が息切れしていると、先を歩いていためぐりさんは、眼が痛くなるような笑顔で振り返った。
「まだ買うんですかぁ?」
「はいっ! だって宗次郎さんがいるからっ」
と言った後さっと顔色が青くなり、赤くなっていた。
「そんなぁ……荷物持ちがいるからってヒドいですよぉ」
僕は一度だらんと荷物付きの腕を下げてから、めぐりさんの隣に並んだ。
こんなに明るくて元気で生き生きした女の子に、土方さんが
「気を付けろ」
と言う意味がさっぱりわからなかった。
「おい! お前、試衛館塾頭の沖田宗次郎だろう!」
手に手に木刀を下げ殺気立っている柄の悪そうな三人組に怒鳴られ、めぐりさんは可愛らしいくらいにビクビクしている。
僕はめぐりさんが居るし、相手にしないでやり過ごそうとした。
「へっ? 僕がですかぁ? まっさか~! そんな強そうに見えますぅ?」
でも僕の演技が裏目に出た。
「すげぇヘラヘラした野郎だって聞いたぜ!」
「間違い無ぇ!」
その反応に僕はめぐりさんに
「あらら」
と視線を送ると、不思議なくらいに肩を震わせていた。
「めぐりさん、大丈夫ですから」
小さく声を掛けるとめぐりさんは目を軽く瞑り、小首を頷かせた。
「ええと、確かに沖田ですけど……僕、何かしました?」
僕はよいしょっと両手に持っていた荷物をカラカラに渇いた地面に置いた。
今更だけれど、僕は全くの丸腰だ。
いえ僕が不用心なのでは無くて、父が僅かながら士分の身だったからって武士でもないのに常に帯刀はしていないですし、常に喧嘩腰な誰かさん……土方さんみたいに木刀を持ち歩く趣味はありませんよ。
「忘れてやがる!」
「この前の道場対抗試合で、うちの道場主を負かしたろう!?」
「貴様のせいでうちはあれから門弟が減っちまって、残ったのは俺達だけだ!」
三人の内会ってから全く口を開かない男の人以外の、二人が捲(まく)し立てた。
あの人がこの中で一番強いのかな。
そう思い僕はその人に向かって笑い掛けた。
もちろん好意ではなく、挑発だ。
これでも僕だって今より若い分、少しは血気“若干”盛んだったんだ。
「そんなの。そちらの稽古が足りないせいですよねぇ?」
予定通り二人の男の人に罵られて、それをずっと黙っていた男の人が軽く止めて口を開いた。
「……腹いせに来たわけでは、無い」
やっと、話した。
鋭い眉と眠たそうな眼の間が狭いその人は、常に睨んでいるような顔をしている。
二人の男の人も便乗してさらに強気に喚いた。
「貴様を倒し、道場の名を上げる!」
やっぱり二人は一気に木刀を振りかざして飛び出してきたけれど、無口な一人は後ろで睨んでいるのか微妙な視線を送ってきていた。
「ぅおりゃあぁぁああ!」
一人目、脳天目掛けた一撃は後ろに下がってもう一人、なで斬りはしゃがんで避けた。
「くそっ! チョコマカと!」
いや、木刀をまともに当てられたら普通に骨が折れちゃうでしょう?
――ドカァッ!
……えっと、これは僕が打たれた音じゃありませんよ。
その姿勢から僕が鳩尾(みぞおち)に……回し蹴りって言うのかな? をして、男の人が吹っ飛んだ音です。
「卑怯な!」
丸腰相手に二人掛かりで、得物は木刀の人に言われたくないんですけど。
「ちょおっと、お借りしまぁす」
ここで僕は、泡を噴いて気絶している男の人の木刀を拝借した。
僕が木刀を構えたらあの無口な男の人も加わってくるかと期待したけれど、そんな気配は全く無い。
代わりに、もう一人の男の人は剣先を震わせて怯えていた。
「あれぇ? 僕から行ってもいいんですかぁ?」
僕は返事を待たず瞬間で間合いを詰め、木刀を降り上げた。
「……やっと、出てきてくれましたね」
相変わらず沈黙の男の人の後ろで瞳孔の開き切った男の人は、ヘナヘナとへたり込んだ。
誰かさんに勝るとも劣らないくらいの無愛想な男の人が、木刀で僕の一撃を止めた。
と言っても、僕は当てる気など無かった。
悪いけれどあの実力差なら、打ち所によっては命を奪ってしまうから。
この人を引っ張り出す為の、演技だった。
「そなたも……人が悪い」
……それは格下の相手に本気を出したように見えたからでしょうか?
それとも、僕の作戦を見抜いて?
どちらにしても木刀を合わせただけで伝わってくるこの人の強さと、これから
試合えると思うとワクワクしていた。
彼は名乗りもせず、スッと木刀を帯刀の位置に戻した。
僕はポカンと構えたままだった。
その間、といっても一瞬だけど彼は腰を落とし、木刀の鍔に手を掛ける。
……あっ!
居合い抜きだ!
「わあ!」
そう気付いた瞬間には、初太刀が目の前を斬り裂くのをやっとで止めていた。
これが真剣だったら、きっと斬られていた。
居合い抜きは鞘走りの疾さを利用するから、鞘の無い木刀でしても効果は半
減だ。
敢えて使ってきたのは僕を驚かす為。
その効果は抜群だった。
木刀で居合い抜きなんかして、手の平痛くないんですかぁ?
聞きたかったけれど、彼は凄みのある表情で舌打ちをして二太刀目に出る。
と、思ったけれど、それで終わらずに次々と打ち込んできた。
一息に五・六撃受け止めて、やっと間合いを取った。
「……もうオジサマってば……せっかち!」
僕がフザケても案の定彼はニヤリともせず憮然として言った。
「……私は十七歳だ」
「ええ?」
僕より二つ下ぁ?
五つは年上に見える……。
信じられないという表情の僕の前で、彼の眉は益々険しくなった。
「ガキ」
「ちょっ、それ僕のことですかぁ?」
お互い軽口になりながら、どちらからともなくまた打ち込んだ。
「……めぐりさんっ?」
再戦が始まるかと思ったけど、鍔迫り合いの肩越しからめぐりさんが顔を覆ってうずくまっているのが見えた。
「“仏頂面さん”、ちょっと待ってて下さいっ」
「……ぶっ……!」
と絶句する彼を鍔で押し退けて、めぐりさんに駆け寄った。
「めぐりさんっ! どうしました!?」
僕がうずくまる彼女を覗き込むと、肩を震わせながら声を殺しつつ笑い出してしまった。
「め……めぐりさん?」
「……ごめんなさいっ! だって……二人とも子どもみたいなんだものっ」
と、まだ笑いながらやっとで言った。
「ホントですよねぇ!」
僕も一緒になって笑っていると仏頂面さんは一人、そっぽを向いてしまった。
その背中を音が鳴るくらい叩いてから、心底うるさそうに顰めた顔の彼に僕は言った。
「仏頂面さんっ良かったら試衛館に来ませんかっ?」
「……斎藤一だ」
後から聞いた話だけれど、試衛館に預けたまま放って置いて久し振りに会ったのだというめぐりさんのお父さんが揚々と持ってきたのは縁談話だった。
「わたしが……結婚……?」
「そんなに驚くことでもないだろう? お前も年頃なのだから」
「絶ッ対、イヤッ!」
めぐりさんは怒髪天をつく勢いで声をひっくり返したらしい。
お父さんはきょとんとした顔でそれを眺めた。
「“コレ”でも居るのか?」
と、親指を立てている。
めぐりさんは余計に頬を膨らませ、部屋を飛び出した。
試衛館の年季の入った門からすごい速さで駆け出してきためぐりさんを、僕は思わず呼び止めた。
でも振り返った彼女を見て、もっとびっくりした。
大きな目から、大粒の涙が溢れている。
「どうしたんですか?」
母は僕を産む時に亡くなった。
姉さんは僕の前では絶対泣かなかった。
だから僕は女の人の涙を見るのは初めてで、どうしたらいいのかわからない。
滑稽にオロオロしながらこぼれる涙を小さな手で拭い、息を詰まらせる彼女の前に立っているだけだった。
「宗次郎さん……っごめんなさい……」
「待ってくださいっ」
泣いていることを謝ったのかまた一人で行ってしまおうとするめぐりさんを、僕は呼び止めた。
僕なんかが解決できないことなど、知っているのに。
そしてそれ以上に、僕は彼女の気持ちを知らな過ぎたんだ。
「一人で泣かないで……聞くだけなら、僕にもできます」
そう、この言葉通りのことしか僕はできなかった。
でも僕は話せば少しは楽になってくれるのでは、と安易に思っていたんだ。
僕の歩く後ろを付いてくるめぐりさんは、少し俯きながら涙がやっと引いた目を腫らしていた。
「なんだか……秋っぽくなりましたねぇ……」
なんて、僕は返事の聞こえないぼんやりした話をしていた。
河原の畦道を、季節とか天気の話。
ふと振り向くとめぐりさんは立ち止まっていた。
「めぐりさん?」
めぐりさんは、また涙をはらはら落としていた。
僕は正面まで早足した。
「宗次郎さん……わたし、試衛館を出ることになりました」
「え……っ? どうしてですか?」
「結婚……するんです」
めぐりさんが……結婚!
「わぁ! おめでとうございます!」
僕は自分のことみたいに嬉しかった。
でも同時に、試衛館から離れることを寂しがってくれて泣いていたのかなと思うとそれも少し嬉しく思ってしまった。
めぐりさんは無言のまま、下を向いたので涙が地面にポタポタ落ちた。
「そんな、一生のお別れではないんですから! また遊びに来ればいいですよ!」
慰めではなく本当に、いつでも来てほしかった。
当時の僕は、いくら食い違っても気が付かなかった。
彼女はその姿勢のまま、両手で泣き顔を隠した。
僕は家族の方も試衛館のみんなも心配するから帰ろうと、先を歩いた。
後ろで立ち止まっていためぐりさんは、聞き取れないくらいの呟きを僕に向けた。
「……わたしを……宗次郎さん、わたしを、お嫁さんにしてください」
僕は絶句した。
めぐりさん……?
躰が言うことを聞かなくて、振り返れない。
「わたし……あなたが好きです」
僕も好きです。
でも僕の“好き”は、めぐりさんのくれた想いとは意味が違う。
男女間の熱情では無く、身内のような穏和な感じだった。
背中を見せたまま僕は言った。
敢えて冷たくして諦めてもらおうとかそんな考えからではなく、泣き顔を見たくないとかの偽善でもない。
自分が辛い、というただの幼稚な考え……子どもだった。
「……僕は、まだ修行中の身ですから……女の人の人生を預かるなんて、できません」
僕が試衛館への帰路を歩き始めれば、めぐりさんはついて来てくれると思った。
思ったのに……。
鈍い、音がした。
それは、人が倒れた音。
「……っあ……」
冬の寒さの中でもないのに躰が震え、歯がガチガチと鳴った。
僕の眼に飛び込んできたのはめぐりさんの首筋から流れ出る、止まることを知らない夥(おびただ)しい量の血。
手の先には、血の滴る短刀。
めぐりさんは、その刀で自分の首を掻き斬ったんだ。
「……っめぐりさん!」
触れた腕は氷みたいに冷たいのに涙は渇かず、頬を斜めに横切っていた。
「ぃヤだ! めぐりさん!」
それから後のことは、覚えていない。
めぐりさんが自らを殺そうとしたこと、ピクリとも動かない冷たい躰、目の前で流れる真っ赤な血が最後の景色。
後はもう視界が、真っ赤から真っ暗になった。
「沖田っ! 馬鹿……しっかりしろ!」
よかった……人が来てくれた……。
その声は、まだ聞きなれていなかったはじめさんの声だった。
すぐに医者を呼んでくれたのだと思う。
僕はと言うと、どうやって帰ったのかさえも覚えていなかった。
「宗次郎……めぐりが今日、うちを出るよ」
「……はい」
先生が床(とこ)から出られずにいた僕の部屋まで来て、教えてくれた。
めぐりさんは、はじめさんが呼んでくれた医者の手早い処置のおかげで助かり、お嫁にいくことになった。
見送りに行きなさいという意味だろうか。
でもどんな顔をして会えと言うのだろう。
めぐりさんが自分を傷付けたのは、僕のせいなのに。
めぐりさんの首筋には消えない傷跡が、僕の心には女の人への……そして刀への恐怖が残った。
僕が部屋から出られないまま、めぐりさんはお嫁にいってしまった。
そして剣術を修練することさえ厭に……怖くなった僕は試衛館から、先生から離れなければならないと思った。
木刀さえ持てない塾頭は、ここには邪魔なだけなのだから。
障子がパァン! と大きな音で鳴って跳ね返るくらいに開け、仁王立ちをしている。
「おいソージ! いつまで寝てやがんだ!」
僕は掛け蒲団を頭のてっぺんまでひっ被った。
「ぅわムカつく~!」
悪態吐きながら、土方さんは傍で胡座をかいた。
「めぐりが。お前に“ごめんなさい”だってよ」
落ち着いた声音で言う土方さん。
それを聞いて僕は飛び起きた。
「何それ……っ! めぐりさんは悪くないのにっ! 謝るのは僕の方だっ!」
「……じゃあそうすりゃよかっただろ。逃げんな。」
僕は、口をきけなかった。
その通りだと、感じたから。
「……泣くなよウゼェ……」
……まだ泣いてないじゃないですかッ!
「もう僕には構わないでくださいっ! 僕はここを出るんですからっ!」
「は? なんだよそれ」
言葉だけは落ち着いた感じの聞き返しなんだけれど実際には怒ったような声音で、僕は尋問されている気持ちがした。
「だからっ……僕は試衛館を出ます! ここにはもう居られないんです!」
僕は蒲団を被ったまま言った。
「“だから”何でだよ」
ああ、見えなくてよかった。
絶対土方さん、すごく怖い顔をしている。
それが見えないから、僕は声だけは強気に言った。
「もうイヤになったんです! 剣術の稽古をするのは!」
「へぇえ」
思い出してもムカッときちゃうわざとらしい相槌を打った後、土方さんは舌打ちまでした。
「だから“ぼうや”だってんだよオメェは」
「だって! ……僕、知らなかった……! 剣が人を傷つける道具だなんて!」
こんな時でさえ、僕は計算高い。
知らないなんて嘘だ。
気付かないふりをしていただけなのに。
それ以上に僕が九歳で手にした刀という道具は、人に認められる、必要とされる唯一の道具だった。
「……小綺麗なこと、言うようだが」
眉間に皺寄せて、土方さんは前置きした。
「剣は……人を守る道具でもあるだろう」
けれどその言葉は実感に満ちていた。
土方さんのお姉さん・のぶさんの嫁ぎ先、佐藤彦五郎さんのお家に、以前賊が侵入してお婆さんが殺された。
それから彦五郎さんは、家族を守る為に天然理心流に入門。
余談だけれど、先生と土方さんが出会ったのも先生が出稽古に行った時に土方さんが遊びに来ていたからだ。
確かに、守る剣術もある。
でも僕は、そんな風にはなれない人間だと思う。
毎日必死に朝から晩まで稽古をして初めて真剣を手にした時の、あの吸い寄せられるような感覚。
魅入られたんだ……刀に。
僕の剣は、ただの人殺しの剣だ。
それ以上でも以下でも無い、生涯そうとしか成り得ない気がする。
だからもう、剣は握らない。
人が傷付くところは、見たくない。
「僕には……無理です」
「……勝手にしろ」
なんであなたがそんなに怒るんですかと訊きたくなるくらいにドスドスと音を立てながら、土方さんは行ってしまった。
先生は、一度も来てくれなかった。
初めて……斬傷で血を流す人を見た。
僕はこれが、剣術によって作り出されるだろう光景だと悟る。
僕は稽古を一切止めた。
先生は、何も言わなかった。
先生のお義母さん・ふでさんだ。
僕の記憶には眉間にきつく皺を寄せた表情が焼き付いているから、この時心配そうに見つめてくれたのにハッとした。
「……宗次郎さん? どこ行くんだい?」
「あッ……僕……」
小さい頃は毎日叱られていたのに、先生に連れられて剣の稽古を始めてからはほとんど話すことも無かった。
避けられていたのかもしれない。
僕は試衛館を出ようとしていた。
誰にも言わず。
誰かに会ったら絶対に出て行けなくなるから、後から挨拶に来るつもりだった。
「……なんだい、その荷物は」
荷物と言っても一着の着替えと、心とは裏腹、竹刀だけ持っていた。
「……今日までっ……大変お世話になりました!」
僕はお辞儀して走ろうとした。
ふでさんが引き止めてくれるとは思わなかった。
嫌われているという先入観が付きまとって、いつも緊張しながら会話をしていた。
「宗次郎さん待って!」
僕は足を止めた。
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振り返るとふでさんの、養子の先生に対してでも見たことがないような深い労りの表情にドキリとした。
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僕は出て行かなきゃならないのに、にこりと確かに微笑んだふでさんを後ろに先生に腕を引っ張られながら、危ない足取りで稽古場に走った。
「せっ……先生! どうしたんですかっ?」
僕は少し昔を思い出してしまいそうに子どもみたいに先生に手を引かれながら、勝手に滲む涙をごまかす為、声を上げた。
やっぱり先生が大好きだ。
この人のためなら、なんでもしたい。
食客みんなが集まった中、新八さんが一番に声を上げた。
「ついに俺達が世に出る時が来たんだ!」
「将軍が上洛!? 本当か近藤さん!」
黒船が来てから十年後の文久三年。
徳川十四代将軍が、天子様の攘夷祈願の賀茂行幸に随行するらしい。
僕はあまりこういうことに詳しくないのだけれど、確か幕府は開国路線だった。
でも天子様は大の異人嫌いだというから逆らえなかったのだろうな。
つまりそれだけ、幕府の力は衰退し始めていたんだ。
「京は“天誅”と称した幕府要人の暗殺が横行しているとか。我々は、将軍の護衛というわけです」
先生にこの話を知らせた山南さんが涼やかに捕捉した。
対して先生は興奮気味に皆を見渡す。
「俺達が! 大樹公のお役に立てる時が遂に来たんだ!」
他の大道場と同じように稽古の後には黒船来航以後の日本の行く末について激論を交わしていた皆の意気は、俄然高まった。
ただ土方さんだけは少し苦しそうに下を向き、両腕を組んでいた。
「歳三さん? ……嬉しくないんですか? 歳三さんは」
皆がいなくなった稽古場で、まだ腕を組んだまま考え込んでいた土方さんの袖を引いた。
「ん? ああ……俺ぁ、勝ちゃんと行く。……お前は?」
心ここにあらずと言った感じで、ボーッと聞き返された。
「僕は……行きません……よ」
「へー……」
あ、全然聞いてないな。
「……俺、琴とは別れる」
僕の決意の言葉は無視して、急に目を覚ましたように土方さんは言った。
それなのにムッとした、のではなくホッとした気持ちだった。
「……“琴”?」
「許嫁だ」
「いっ! えええ!」
許嫁さん?
「お前……この俺に女の一人もいねぇとでも思ってたのかよ」
あんぐりと口を開ける僕に土方さんは“この俺サマに”とでも言わんばかりに、ふっと鼻を鳴らした。
「……つっても、琴は家同士の決めた相手だからな。あっちも俺のことはすぐ忘れっだろ」
そんな……あなたに優しくされた女の人が、あなたに惹かれないはずがないですよ。
僕は会ったこともない琴さんが可哀想に思えた。
「別れなくても……いいじゃないですか。帰ってくるんですし……」
すると土方さんは、別に怒ってもないのに僕を睨み付けた。
「俺ぁ帰らねぇ」
その眼光を、やめてくださいよ、いちいち怖いんだからとか、かわす余裕など到底ない。
「……帰ら、ない?」
……先生も?
また、思い知らされた。
どんなに離れようとしても、僕の生きる総ては、先生に認められて必要とされること。
こんな僕は他人には哀れをかすらず滑稽に映るのだろうけど、しょうがない。
「こんな田舎で燻ってる場合じゃ無ぇんだよ。戦国以来の群雄割拠……この機を逃さねぇ。京に出て、武士になる」
そう、輝いた横顔で言った。
「宗次郎……マジで行かねぇのか」
初めて、かもしれない。
土方さんに“宗次郎”と呼んでもらったのは。
でも聞いてなかったふりをするなんて、ズルい。
僕は無言で頷いた。
「宗次郎~! 行かないのか?」
駄々を捏ねる子どもみたいな表情で、先生が稽古場に入ってきた。
「宗次郎が来るなら心強いのになぁ」
危険な旅かもしれないし帰られない旅かもしれないのに、ほんの少年だった僕を誘うなんてと非難されそうだけれど、それは違う。
僕が置いていかれたくないことを、先生は知っていた。
この時、
「お前は残れ」
と言われていたら、僕は大人になれなかったかもしれない。
姉さんのところに挨拶に行くと、姉さんは小さな子ども……僕の甥っ子を抱いて、僕までまるで子どもみたいな扱いをされた。
「宗次郎……勇さんをお父様と思って、おっしゃることをよく聞くのよ」
「はい! 行ってきます!」
姉さんはいつ会っても昔のままで、カラッと明るくてしっかり者で周りを暖かく照らしてくれるような人だ。
いつか話してくれた。
「“宗次郎”の“宗”は“宗家”の“宗”よ。」
そして僕の名は、父上が付けてくれたのだと。
姉さんは僕が生まれる前に林太郎おじさんと婚約をしていて、父上が亡くなった時に僕が幼過ぎたと言うより、既におじさんが沖田家を継ぐと決まっていた。
僕の名には、父上のすまないという想いと、長男だけれど“次郎”と付けるという遠慮が交錯している。
姉さんとは、あの日以来ずっと会っていないから……恥ずかしいけれど、寂しいと思わないはずはない。
でもいいんだ。
今の僕が会ったら、心配をかけるだけだから。
僕は元服をした。
前髪を落として総髪にし、土方さんと同じように一つに束ねた。
僕は大人にならなければ……弱い、子どもの宗次郎は棄てなければと、もがいていた。
でも忘れたと思っていた“宗次郎”は今、二十五を超えても枷のように胸の中に引き摺ったままだ。
「京で一旗揚げるぞ! ソージ、俺ぁ武士になる!」
江戸を発つ朝、試衛館の皆の先頭をズンズンと進む先生の後ろに従い、上機嫌で振り返る土方さんが言った。
僕達が集められたのは表向きは大樹公の護衛だけれど、裏の狙いは江戸に掃く程いる浪人を追い出すこと。
土方さんは十分わかっていながらそれを利用するつもりだし、他の皆も僕も、先生の行くところなら従いて行く。
僕は少し走って、土方さんの隣に並んだ。
「はいっ!」
「……そういや、お前もちったぁ大人になったよなぁ……前はチマチマ“宗次郎ですぅ”とかってイジケてたのによ」
土方さんは有り得ないくらいの意地悪な顔で、しかも“僕の真似部分”は誰も聞いていないのをいいことに最悪の猫撫で声だ。
僕は負けじと胸を張った。
「ええ! だって、名前を変えましたから!」
「“掃除”か?」
「“総司”ですっ! “総てを司る”で、総司! い~い名前でしょお?」
「つか名前負け?」
「……歳三さんもちょっとは大人になったらどうですかっ」
「体に気を付けて、よく働くぞ! 総司!」
「はいっ! 先生は僕がお守りしますからねっ!」
すると先生は大声で笑い、僕の捨て台詞に大憤慨の土方さんは
「降参しやがれクソガキが!」
とか言いながら後ろから思いっ切り、僕の首を片肘に挟んで締め上げた。
僕達の運命を大きく変えた上洛、未だ知らぬ未来。
今はただ明るい希望と活気、笑い声に満ちていた。
今はただ、ひたすらに、光に向かって。
花を踏んでは、同じく惜しむ少年の春
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