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Chapter #2
攻防
しおりを挟む舞恋にアドバイスされた通り、その日の夜はオリバーと真面目に話をしてみることにした。
「Oliver, can we talk now?」
いま話せる? と私は彼に詰め寄った。
いつものごとく四人で夕食を終えた後、昨日と同じようにリビングのソファへ移った彼に、私は背後から仁王立ちで圧をかける。
「Sorry. I’m watching TV~~.」
いまテレビ見てるから無理、と彼は鼻歌を歌うようにはぐらかす。
おそらくは私が何を言おうとしているのか察しているのだろう。
私も負けじと話を続けようとしたが、彼が見ているテレビの内容に、思わず目を奪われる。
(あれ? このドラマってもしかして……)
オリバーが何気なく見ているテレビドラマ。
それは日本の動画配信サービスでも取り扱っているもので、私も一時期ハマっていた作品だった。
しかも今テレビに映っているのは、まだ日本では配信の始まっていない最新作。
私が食い入るように画面を見つめていると、オリバーもそれに気づいたらしく、彼はそっと身体をソファの端に寄せて、私の座れる場所を確保してくれる。
ここに座って好きなだけ見ればいいよ、とでも言いたげな彼のドヤ顔に、私は抗うことが出来なかった。
「……それで結局、オリバーと話をする時間がなくなっちゃったの? ダメじゃん」
翌日の放課後、購買前のベンチで舞恋からごもっともな指摘を受けて、私は項垂れた。
「そうなんだよおぉ~~……私のばかばか。でもあの海外ドラマの最新作、ほんとに日本ではまだやってなくてさ。どうしても見たくて……」
結局ドラマは最後まで見てしまったものの、日本語の字幕はなかったので内容はほとんど理解できなかった。
ただアクションシーンは大迫力だったので、それだけでも見た価値はあると思う。
「どうすんの、みさきち。金曜はもう明後日だよ?」
「わかってる……。今夜こそ何とか説得しないと」
自信の持てない私を見て、舞恋は小さく吹き出すようにして笑った。
「その調子じゃあどうやっても難しそうだし、もう今回は諦めて一緒に連れてってあげたら? 今週の金曜って、シティの方でお祭りがあるんでしょ?」
「えっ、お祭り……?」
思わぬ新情報を耳にして、私は項垂れていた顔を上げる。
「うん、お祭り。ブリスベンフェスティバル。知らなかった? 私もその日は同じホームステイ先にいるコロンビア人の子と二人で行く予定なんだけど。よかったら合流する? ま、カヒンが了承してくれればだけどね」
お祭りがあるなんて知らなかった。
しかも舞恋が言うには、そのお祭りは一日限りのものではなく、なんと三週間にも渡って開催される大規模なものらしい。
まさかオーストラリアに来てすぐにお祭りを見に行けるなんて思ってもみなかった私は、期待に胸を膨らませる。
この際、どうせならみんなで一緒に行った方が楽しめるかもしれない。
けれど、そこで一つ疑問に思うことがあった。
「ゴルフは誘わないの?」
つい昨日、舞恋の彼氏となったタイ人のゴルフ。
せっかくのお祭りなのに彼は一緒じゃないのかと私が尋ねると、
「いいのいいの! あんな奴、もうどーでもいい!」
と、心底イヤなものを思い出すように舞恋が言った。
「……何かあったの?」
昨日はあんなに幸せそうだったのに、さっそくケンカでもしたのかと思っていると、
「あいつさ、私の他にもガールフレンドがいっぱいいるんだって。少なくとも五人以上。これどう思う?」
「えっ……五人?」
何それ浮気ってこと? と聞き返すと、もうそんな次元じゃない、と舞恋は呆れた声で答える。
「なんか浮気っていう概念もない感じ。普通にガールフレンドを作りまくってんの。一夫多妻制とかそういうの? 何だか知らないけど、ハーレムでも築こうとしてんじゃないかな」
時代遅れにも程があるっつーの! と、手にしたペットボトルのジュースを一気に飲み干す。
アルコールは入っていないはずだが、まるでヤケ酒でもするように彼女はどんどん饒舌になっていく。
「そりゃあ私もさ、最初はちょっと意外だなーぐらいには思ってたよ? あんなイケメンのくせにこんな普通の日本人と簡単に付き合っちゃうなんてさ。でもまあ海外に来てテンション上がってるし勢いでそういうこともあるのかなーって思ってフタを開けてみりゃこれだよ。勢いありすぎでしょ。五人だよ、五人。下手すりゃもっといるから。アクセル踏みすぎでしょ!!」
「お、落ち着いて、舞恋」
さすがにヒートアップしすぎて周りからの視線が痛い。
「ま、そういうことだから。金曜はゴルフからも誘われてたけど蹴ってやったよ。どうせ行っても二人きりじゃないんだろうし」
「そうだったんだ……。それは確かに一緒に行きたくないね」
デートだと思って行ってみたらまさかの浮気相手がたくさんいるなんて、想像しただけでも嫌だ。
「みさきちも気をつけなよー? まあ、カヒンはたぶん大丈夫だと思うけどねー」
その自信は一体どこから来るのか。
彼女の話を聞いて、ただでさえ不安を抱える私はますます悩まされるのだった。
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