日本語しか話せないけどオーストラリアへ留学します!

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Chapter #3

I’m scared.③

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「Misaki?」

 私の異変に気づいたのか、カヒンは不思議そうにこちらを見つめる。

「……You made me your girlfriend because……I’m Japanese?」

 あなたが私を恋人にしたのは、私が日本人だから?

 震える声でそう尋ねると、彼は少しだけ驚いたように目を丸くして、

「What do you mean?」

 どういう意味? と聞き返す。

 まるでこちらの意図を理解していない。
 それが余計に、私の心に火をつけた。

「You love anyone who is Japanese girl!」

 日本人の女の子なら誰でも良かったのねと、私は感情のままに語気を強めて言った。

 すると列の前後に並んでいた人たちも何事かと私の方を見る。

 たくさんの視線が自分に集まるのを、私は肌で感じた。
 その一つ一つが不快で仕方なかった。
 周りの誰もが私を馬鹿にして、まるで見世物にされているように思えてくる。

 あのときと同じだった。

 小学生の頃、英語の授業でクラスの笑いものにされたあのときと。

「Misaki, what’s wrong? Calm down.」

 どうしたの、落ち着いて、とカヒンが慌てて私の両肩を掴む。

 これが落ち着いていられるだろうか。

 香港人は日本人の女の子が好き。
 それは彼らにとってステータスになるから。

 やはりオリバーの言っていたことは本当だったのだ。

 私はそんなことも知らずに、今までひとりで舞い上がっていたなんて。

 恥ずかしい。

 今すぐここから逃げ出したい。

 たまらず鼻の奥がつんとして、勝手に涙が溢れそうになる。

「You love Japanese, not me……」

 あなたは日本人が好き。
 私じゃなくて。

 思えば最初に空港で出会ったときも、彼はカタコトの日本語で「こんにちは」と声をかけてきた。
 あれもきっと、彼がもともと日本に興味があったからだ。
 そうでもなければ、たとえカタコトとはいえ外国の挨拶の言葉をピンポイントで知っている可能性は少ない。

 あのとき彼が私に声をかけたのも、きっと私が日本人だったからだろう。

「Misaki, I love you. It’s not a lie.」

 愛してる、嘘じゃないよと、彼は必死に訴える。

 どこまでが本心なのか、私にはもうわからなかった。

 そうこうしている内にも列は進んで、やがて私たちの乗る番がやってきた。
 スタッフの人たちに誘導され、二人掛けのコースターに乗り込む。

 もう、ジェットコースターを楽しむなんて心境じゃない。

 けれどゆっくりと動き出したそれは急な斜面をじりじりと登って、こちらの恐怖心をこれでもかと煽ってくる。

「……I’m scared……」

 私はほとんど無意識のうちに、怖い、と口にしていた。
 そうして前方にあるレバーを掴む両手に、ギュッと力を込める。

 すると、それまで静かだったカヒンが隣から手を伸ばして、私の手を包み込むようにそっと触れた。

「Misaki.」

 私を呼ぶ、彼の優しげな声。

 見ると、彼はその整った顔に明らかな哀愁の色を浮かべて、

「I’m scared to lose you.」

 俺は君を失うのが怖い、と言った。

 本当に? とこちらが聞き返す前に、コースターは頂上へと辿り着き、徐々にスピードを上げて落下し始める。
 内臓が浮き上がるような感覚の中で、私の心臓だけは確かな早鐘を打っていた。
 ジェットコースターが怖かったからか、はたまたカヒンの言葉に動揺したからか。

 私を失うのが怖い。

 本当だろうか?

 でも、オリバーの言葉を肯定したのはカヒン自身なのに。

(Kahin, do you love me……?)

 カヒン、あなたは本当に、私のことが好きなの?
 
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