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Chapter #4
最後の日
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「Misaki, congratulations!」
おめでとう! と満面の笑みをたたえた先生から、私は成績表を受け取った。
グリフィス大学での最後の登校日。
この日は学習コースの区切りになる日で、このとき手渡される成績表の結果によって次のクラス分けが決まる。
けれど私は、ここで終わり。
明日には飛行機で日本に帰らなければならないので、成績表を貰うだけ貰って、私はこの大学を去ることになる。
一つの節目となるこの日は、成績表を貰う以外には勉強らしいことは何一つしない。
皆でお菓子を持ち寄って談笑するのが通例となっているようだった。
「Hey, Misaki. Let’s take a picture!」
一緒に写真を撮ろう、とスージーが誘ってくる。
先生にスマホのカメラを任せると、自然と周りのクラスメイトたちも集まってきた。
「3……2……1……」
「Yeaaaah!!」
様々な国からやって来た学生たちと肩を並べている写真。
その中に私も自然と溶け込んで笑っているのが何だか不思議だった。
オーストラリアに来た当初は考えられなかったような光景だ。
みんなと別れるのは寂しいけれど、SNS上ではこれからも繋がっている。
そう思うとそこまで悲観的になることもない。
最後の別れ際もほとんどのクラスメイトが笑顔で私を見送ってくれたが、一人だけ涙を見せたのは意外にもフィリピン出身の男子学生だった。
先日、小テストの時にまさかの答えを聞いてきたあの男性だ。
普段からサウジアラビア出身のクラスメイトと悪ふざけばかりしている印象だったが、案外かわいい一面もあるらしい。
そしてサウジアラビア出身の彼はいつもの調子でイタズラばかり仕掛けた挙句、最後には私のために両手をブラブラとさせるだけの謎の踊りを披露してくれた。
本当に陽気すぎる。
「あ、もしもしみさきちー? そっちは授業……というかパーティ終わった? 今から一緒にシティの方へ出ない?」
大学の敷地を出たところで、舞恋から電話がかかってきた。
最後にパーっとやろうよ! という彼女の元気な声を聞いて、私もせっかくだし行きたいなと思いかけたものの、今はあまりそういう気分でもないことを思い出す。
「ごめん。今日は遠慮しとくよ。最後の日だし、うちのわんこ達の散歩にも行きたいしさ」
「えー、そうなの? せっかく一緒に飲みたいなーって思ったのに」
「飲むって、もしかしてお酒?」
「そーそー、お酒! オーストラリアでは十八歳から飲めるんだよ。日本に帰ったらまだ私らって飲めないでしょ? だから今のうちにさ、ちょっとだけ酔っぱらってみたくない?」
お酒を飲んで酔っぱらったら、いま私の中で渦巻いているこのモヤモヤとした感情も少しは晴れるだろうか。
楽な方へ身を任せたい、という気持ちもありつつ、しかしここはやはり遠慮しようと心に決める。
「誘ってくれてありがとう。でも今日はやっぱりやめとく。明日また空港でね」
「みさきち? 何かあったの?」
こちらの異変を鋭く見抜いたらしい舞恋に、私はどきりとした。
つい動揺して返事もできず、慌てて通話を切る。
(危なかった……)
カヒンとのことは、まだ舞恋には話していない。
いっそ話してしまえばスッキリするのかもしれないが、逆効果になる可能性もある。
どちらにせよ、今はまだそっとしておいてほしいというのが私の素直な気持ちだった。
あれから、カヒンとは一度も顔を合わせていない。
彼からの連絡は何度かあり、その度に会って話そうと誘われたのだけれど、私は応じなかった。
今さらどんな顔をして会えばいいのかわからない。
彼が私をどう思っているのかもわからないし、それを詳しく聞くのも怖い。
それに何より、こうして彼から逃げ回っている自分自身が情けなくて仕方ない。
おめでとう! と満面の笑みをたたえた先生から、私は成績表を受け取った。
グリフィス大学での最後の登校日。
この日は学習コースの区切りになる日で、このとき手渡される成績表の結果によって次のクラス分けが決まる。
けれど私は、ここで終わり。
明日には飛行機で日本に帰らなければならないので、成績表を貰うだけ貰って、私はこの大学を去ることになる。
一つの節目となるこの日は、成績表を貰う以外には勉強らしいことは何一つしない。
皆でお菓子を持ち寄って談笑するのが通例となっているようだった。
「Hey, Misaki. Let’s take a picture!」
一緒に写真を撮ろう、とスージーが誘ってくる。
先生にスマホのカメラを任せると、自然と周りのクラスメイトたちも集まってきた。
「3……2……1……」
「Yeaaaah!!」
様々な国からやって来た学生たちと肩を並べている写真。
その中に私も自然と溶け込んで笑っているのが何だか不思議だった。
オーストラリアに来た当初は考えられなかったような光景だ。
みんなと別れるのは寂しいけれど、SNS上ではこれからも繋がっている。
そう思うとそこまで悲観的になることもない。
最後の別れ際もほとんどのクラスメイトが笑顔で私を見送ってくれたが、一人だけ涙を見せたのは意外にもフィリピン出身の男子学生だった。
先日、小テストの時にまさかの答えを聞いてきたあの男性だ。
普段からサウジアラビア出身のクラスメイトと悪ふざけばかりしている印象だったが、案外かわいい一面もあるらしい。
そしてサウジアラビア出身の彼はいつもの調子でイタズラばかり仕掛けた挙句、最後には私のために両手をブラブラとさせるだけの謎の踊りを披露してくれた。
本当に陽気すぎる。
「あ、もしもしみさきちー? そっちは授業……というかパーティ終わった? 今から一緒にシティの方へ出ない?」
大学の敷地を出たところで、舞恋から電話がかかってきた。
最後にパーっとやろうよ! という彼女の元気な声を聞いて、私もせっかくだし行きたいなと思いかけたものの、今はあまりそういう気分でもないことを思い出す。
「ごめん。今日は遠慮しとくよ。最後の日だし、うちのわんこ達の散歩にも行きたいしさ」
「えー、そうなの? せっかく一緒に飲みたいなーって思ったのに」
「飲むって、もしかしてお酒?」
「そーそー、お酒! オーストラリアでは十八歳から飲めるんだよ。日本に帰ったらまだ私らって飲めないでしょ? だから今のうちにさ、ちょっとだけ酔っぱらってみたくない?」
お酒を飲んで酔っぱらったら、いま私の中で渦巻いているこのモヤモヤとした感情も少しは晴れるだろうか。
楽な方へ身を任せたい、という気持ちもありつつ、しかしここはやはり遠慮しようと心に決める。
「誘ってくれてありがとう。でも今日はやっぱりやめとく。明日また空港でね」
「みさきち? 何かあったの?」
こちらの異変を鋭く見抜いたらしい舞恋に、私はどきりとした。
つい動揺して返事もできず、慌てて通話を切る。
(危なかった……)
カヒンとのことは、まだ舞恋には話していない。
いっそ話してしまえばスッキリするのかもしれないが、逆効果になる可能性もある。
どちらにせよ、今はまだそっとしておいてほしいというのが私の素直な気持ちだった。
あれから、カヒンとは一度も顔を合わせていない。
彼からの連絡は何度かあり、その度に会って話そうと誘われたのだけれど、私は応じなかった。
今さらどんな顔をして会えばいいのかわからない。
彼が私をどう思っているのかもわからないし、それを詳しく聞くのも怖い。
それに何より、こうして彼から逃げ回っている自分自身が情けなくて仕方ない。
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