放浪探偵の呪詛返し

紫音みけ🐾書籍発売中

文字の大きさ
49 / 124
第四章 島根県出雲市

第二話 出雲そば

しおりを挟む
 
          ◯


 兼嗣の到着は夕方になるとのことで、暇を持て余した天満は当初の予定通り出雲大社周辺を散策する。

 駅舎を出て目の前の大通りに立つと、南を向けば 宇迦橋うがばしの大鳥居。北を向けば、緩やかな坂を登った先に出雲大社の正門が見える。

「とりあえずは腹ごしらえかねぇ」

 大通りの左右には蕎麦処や甘味処などが並び、店の前に立つのぼりには『出雲そば』の文字が目立つ。
 
「出雲といえば出雲そば。これを食わずして何とやらってね」

 天満は迷うことなく近くの蕎麦処の暖簾を潜る。昼時とあってテーブルはそこそこ埋まっていた。なんとか窓際の席を確保し、三色割子わりごそばを注文する。

 ほどなくして運ばれてきたのは、三つの椀に分けられた冷たい蕎麦だった。それぞれ薬味とともに温泉卵、とろろ、揚げ玉と、別々のトッピングが載っている。

 さていただこう、と手を合わせたとき、出鼻を挫くようにスマホが振動した。
 見ると、先ほど兼嗣の言っていたデータとやらが届いたようだった。

「はいはい。永久家の責務は忘れてませんよっと」

 渋々データを開くと、そこには一人の老人のプロフィールが記されていた。
 添付された写真はカラーではあるが色褪せており、かなり古いものであることが窺える。その下に書かれた氏名は、『永久時治ときじ』とあった。

「永久……ってことは、本家と近い血筋か?」

 永久時治。どこかで聞いたことがある気もするな、と頭を巡らせながら、ずるずると蕎麦をすする。風味豊かな香りが鼻を抜けていく。

 ——まだ詳しいことはわからん。けど、一つだけ心当たりはある。

 先ほど兼嗣が口にした言葉が脳裏で蘇る。

 ——巻き込まれた被害者の数がこれだけ多いってことは、今回の呪いはおそらく事故で起こったことやなくて、故意的に行われたものや。誰かが、俺たちに呪いをかけてるんや。

 彼の言う通り、今回のことが本当に事故ではなく誰かの意思によって行われたものだとすれば、一体誰が、なぜ呪いをかけたのか。

 ——こんなことができる人間は、俺の知る限り一人しかおらん。

 誰がなぜ、という謎のうち、誰がという部分はわかっているらしい。おそらくは今データで送られてきたこの老人がそうなのだろう。

「永久時治、時治……。誰だったかなぁ」

 温泉卵をつるりと口に含んで咀嚼そしゃくしながら、スマホの画面をスクロールしていく。すると、そこに書かれていた老人の経歴とともに、天満自身との繋がりがやっと判明した。

(ああ、そうか)

 どこかで聞いた名前だとは思っていたが、ついにその正体に気づく。

「永久時治。……ひいじいちゃんの弟か」

 天満にとっての曽祖叔父そうそしゅくふ
 それが、今回の『問題児』の正体だった。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾書籍発売中
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

白雪姫症候群~スノーホワイト・シンドローム~

紫音みけ🐾書籍発売中
恋愛
 幼馴染に失恋した傷心の男子高校生・旭(あさひ)の前に、謎の美少女が現れる。内気なその少女は恥ずかしがりながらも、いきなり「キスをしてほしい」などと言って旭に迫る。彼女は『白雪姫症候群(スノーホワイト・シンドローム)』という都市伝説的な病に侵されており、数時間ごとに異性とキスをしなければ高熱を出して倒れてしまうのだった。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...