37 / 49
第三章
祈願参り
◯
ゴールデンウィークを間近に控えた、四月の終わり。
放課後になると、霧島は誰よりも早く教室を出た。一度自宅へ帰ることはせず、荷物も背負ったまま、その足であの神社へと向かう。
この数ヶ月のあいだ、霧島は毎日欠かさずあの神社への参拝を続けていた。
理由はもちろん、神様に祈りを捧げるためだ。
(神様、どうか……狭野先生を殺さないで)
狭野を危険な目に遭わせたくない。
どうにかして、彼をあの神社から遠ざけたかった。
その一心で、以前、神楽の鬼の役を辞退してほしいと本人にも頼んだのだが、大事な行事だからと聞き入れてはもらえなかった。
そうなると、あとはこうして神様に直接お願いするしかない。
およそ神頼みでどうこう出来る問題ではないとも思ったが、霧島にはそれしか方法が思いつかなかった。
昔の人はよく、大事な願い事を叶えるために、毎日欠かさず神社へお詣りをしたらしい。
特に、それを根気よく百日間続けることで、神様はその人の願いを必ず叶えてくれる——と、図書館の本に書いてあった。
霧島もちょうど今日で百日目に到達するが、だからといって今日で終わりにするわけではない。
明日も、明後日も、続けられるところまで続けるつもりだった。
それで願いが叶うのなら、霧島は百日でも千日でも、何度だってここへ来ようと心に決めていた。
やがて雑木林の前に着くと、鳥居の下で一礼してから境内へと足を踏み入れる。
参道の真ん中——神様の通り道らしい——を通らないように気をつけながら奥へと進み、手水舎で手を清め、さらに奥にある拝殿へと辿り着く。
友達に両替してもらった五円玉を賽銭箱へ投げ入れると、あとは一心に祈るのみだった。
狭野を護ってほしい。
彼に無事でいてほしい。
どうか、彼を殺さないで……。
そう強く願ってから、霧島はゆっくりと目を開けた。
これで百日目。
再び開けた視界には、相変わらず古びた賽銭箱が目の前にあるだけで、何も変化はなかった。正面の拝殿は中が見えるように開け放されているが、肝心の神様はどこにもいない。
こちらの祈りが通じているのかどうかもわからないまま、霧島は踵を返した。
ほんのりと夕焼けの色を滲ませた空の下、もと来た道をひとり帰っていく。
辺りには珍しくひと気がない。
どころか、霧島がこの神社に来てからというもの、境内で人とすれ違うことは一度もなかった。
ざわざわと木々が揺れる音を耳にしながら、やがて入口の鳥居が見える所まで戻ってきたとき、どこからか、かすかに人の声がした。
それは一人二人の話し声というよりも、もっと大勢がひしめき合っているような、催し物か何かを想像させる。
(何だろう……?)
声は鳥居の向こう側から聞こえてくる。
ちょうど、あの河川敷のある方だ。
こんな時期に、イベントでもやっているのだろうか。
不思議に思って、霧島は少しだけ足を早めた。
そうして、ちょうど鳥居の足元へと辿り着いたそのとき。
眼前に広がった光景に、思わず息を呑んだ。
あなたにおすすめの小説
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
日本語しか話せないけどオーストラリアへ留学します!
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
ライト文芸
「留学とか一度はしてみたいよねー」なんて冗談で言ったのが運の尽き。あれよあれよと言う間に本当に留学することになってしまった女子大生・美咲(みさき)は、英語が大の苦手。不本意のままオーストラリアへ行くことになってしまった彼女は、言葉の通じないイケメン外国人に絡まれて……?
恋も言語も勉強あるのみ!異文化交流ラブコメディ。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
「四半世紀の恋に、今夜決着を」
星井 悠里
ライト文芸
赤ちゃんからの幼馴染との初恋が、ずっと、心の端っこにある。
高校三年のある時から離れて、もうすぐ25歳なのに。
そんな時、同窓会の知らせが届いた。
吹っ切らなきゃ。
同窓会は三か月後。
私史上、いちばん綺麗になって、けじめをつけよう。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。