罪人王子は異界の狩人に囚われる

南野うり

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獲物にされた猟師ちゃん

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 岩熊とアウインと共に早苗が宿に戻ってから、今日で7日経つ。
 岩熊の肉は半分は他所に卸し、残り半分は宿屋で使う為にアルが直接買い取った。やはり金額は低いが、角兎ほど極端な差では無い。まさか小さな角兎が高額だとは思わないだろう、と言う事なのだろう。
 背中の鉱石については、現在加工して幾つかの見本品を製作中らしい。

 そして早苗はと言うと、アルに話を切り出せないままだった。
 岩熊の肉の味にハマり、三食熊肉でわいわいルンルンしている内に夜になってしまう。
 そして風呂でホッと一息ついた時にやっと思い出すと言う始末だ。早苗自身、馬鹿過ぎると毎回思う。

「今日の夕飯はすき焼き、しゃぶしゃぶに続いて特別に中庭でバーベキューだ~! お客さーん! 食べてってよー!」
「ちょっと、煩い呼び込みは止めてよね。うちは宿屋だよ? 屋台じゃないんだから」

 早苗の元気過ぎる呼び込みに、アルは綺麗な眉に皺を寄せて苦言を呈する。

「良いじゃん! お客さんも喜んでるよ?」
「まぁ、確かにそうだけど……」

 実際、客の反応はかなり良い。

「まぁ、良い香りね! 美味しそうだわぁ」
「こう言う趣向もたまにはいいな」
「美味しいね、特にこのソースは初めての味だよ」

 祭の屋台のような呼び込みが心をくすぐるし、肉の焼ける香ばしい匂いは食欲をそそる。

「おお、賑わってんな。俺ももらって良いか?」

 やって来たのはアウインだ。

「もちろん! こうやって、これにつけて食べてください」

 彼は素直に言われた通りにして食べた。

「!? うんまっ、このソース何だ?」
「へへ~っ、これは私わたくし、早苗さん特製の焼き肉のタレです!!」
「ええ?! またサナエが作ったのか! すっげぇな!」

 アウインは止まらないようで、バクバク食べている。
 この辺りには早苗の知る大豆から作られた醤油は無かったが、それに似たひしおならいくつか存在した。
 麦で作られた穀醤こくびしおや、肉を使った肉醤ししびしおに、香味野菜や果物のペーストに酒や蜂蜜、油などを混ぜて自作したのである。我ながら美味しく出来た、と早苗は思う。
 同じように、すき焼きやしゃぶしゃぶのタレも自作してみたが好評だった。

「アル様! このソース、とても美味しいですわ! 国の名物になるのではなくて?」
「ありがとうございます。検討しておきますよ」

 隣に居るアルと宿の客との会話が耳に入って来た。

「そ、そんな大それた……!」
「ん? いや、実際売れると思うよ。この辺りには特産品も名産品も無いしね」
「そうなの? あ、そう言えば今更だけど、この国はなんて名前なの?」

 今までこの世界での日々に慣れるのに精一杯だった早苗。やっと国名への興味が湧いたらしい。

「…………無いよ」
「え?」
「名前はまだ無い」

 頭に『我輩は……』と付きそうな台詞だな、と早苗は思う。だが意味が分からない。名前の無い国などあるのだろうか。

「……ここはね、大量の怪獣モンスターが住む広大な森と、歩いて越えるのは困難な高い山々が長く連なる山脈との間に位置して居るんだよ。普通の方法では行き来が出来ない場所だがら、何処の国にも属していない。だから名前が無いんだ」

 アルの言葉は衝撃だった。この辺りには、難民や犯罪者、訳有りで腕の立つ狩人ハンターなどが、普通では無い方法を使ってやって来た者達が集まり街を作ったのだ。

「……でも、街はあんなにたくさんの人が居て、栄えてるのに……」
「……街自体は古いけど、ここまで栄え始めたのは、まだこの七、八年の事だよ。それまでは一部の金持ちだけが大きな顔して、弱者は虐げられてた」
「………………」

 早苗の胸がギュウッと締め付けられる。ではアルも、訳有りと言う事なのだろうか。待て、その前に、何故あの女性は『この国の』という言い方をしたのか……?そう思った時、ユーリカがやって来てアルの耳元で何事か囁く。

「……サナエ、例の見本が出来たみたいだよ。君も見る?」
「あ、うん。見てみたいっ」

 意外と重たい話に戸惑っていた早苗は、話が変わってホッとした。綺麗な物を見て気持ちを明るくしよう。そう考え、彼女は一も二もなく頷く。
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