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獲物は反撃を開始する
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『教会』と言うのは主に、謝礼金を支払い治癒魔法で怪我を治す場所らしい。病院は病気を治療する場所で住み分けているようだ。
取り敢えず個室に通された早苗達は、神父の言葉に驚愕していた。
「せ、1800ギラ?!」
だがその金額は、かなり金持ちになっている筈の現在の早苗の全財産よりも300ギラ近く高かった。
「えぇ、数人がかりでの治癒になります。こちらの消耗を考えますと……」
アルは硬いベッドの上に寝かされている。シャツのボタンは外され、肩に一ヶ所、腹部二ヶ所、焼け焦げたような歪な円形の傷が見えた。背中から刺さった光の矢が貫通したのだろう。
もう虫の息だ。迷っている時間など無い。早苗はアウインを振り返る。
「あのっ、いくら持ってますか?! 300近く足りないんです!!」
「あぁ大丈夫だ、出すから」
「ありがとうございます! この通り払います! 助けてください!!」
そうして治癒魔法がかけられてもアルの反応は無い。
「マスター……アル、アル!!」
口元に頬を近付け胸の動きを見るが胸は動かず、頬に息がかかる事は無かった。呼吸していない。
早くしなければ。記憶を頼りに彼の顎を上げさせる。自動車の教習所で習ったあれだ。
気道を確保しても呼吸しない。焦りながらも鼻を摘まみ、口を開かせてから大きく息を吸い込み口全体を包むように覆った。強く息を吹き込むとアルの胸が膨らむ。
ニ度繰り返し、胸の中心を掌で強く三十回圧迫する。上手く出来ているか分からないが、止める訳にはいかない。
「アル、アル……お願い……アル……!」
早苗は何度も繰り返す。必死だった。
「……ハッ……は……」
やっとの事で、アルが自発呼吸を始めた。何時間も経った気もするし、ほんの数分だったかもしれない。だが早苗には途方も無い時間が過ぎた気がした。生きた心地がしなかった。
「……あ……アル……」
緊張の解けた彼女の目から涙が溢れる。
「じいちゃん、私……私……ごめん……っ」
もう駄目だと思った。いつの間に、こんなに心に住み着いてしまったのか。
彼が好きだ。彼の居ない世界でなど、生きて行けないと思うほどに。
「ごめん……じいちゃんっ……ごめっ……」
アルの胸にすがり付き、泣きながら何度も祖父に謝った。帰る方法があるとしても、もう帰れない気がする。彼の側に居たかった。例え彼が、早苗を愛する事が無かったとしても。
「ごめんね……ごめん……」
「……泣いてるの……?」
掠れた声が聞こえて来た。少し癖の付いた短い髪を撫でられる。
「あ、あ、アル……!!」
「……俺、生きてるね……流石に、死んだかと思ったけど……」
「わ、私っ、ずっとアルの側に居る!! アルが嫌がっても離れない!! ストーカーになってやるからあぁぁぁっ!!!!」
早苗は泣きながら叫んだ。
「は、はあ? 何の話……?」
「うわあああーん!!!!」
わんわん泣いた。全く話の見えないアルは、早苗の謎発言に戸惑っている。
「あ、居た居た、良かった~」
力の抜ける声で緊張感無く登場したのはアウインの師、ミリウスだ。
「近くの教会と言えばここかな~とは思ったけど、合ってて良かったよ」
蒼白い顔で横たわるアルを見てニコニコ笑っている。
「大量では無かったけどそれなりに出血してるし、取り敢えずよく水分摂らせてあげて」
ミリウスは持って来た水差しを早苗に渡した。
「お仕事なら僕が代わりに行ってあげるから、回復するまで暫くゆっくりしててね?」
「っそんな、俺は大丈……うっ……」
「アル!?」
慌てて身体を起こしたアルだが、すぐにフラリと倒れてしまう。その姿は病弱な深窓の美少年のようだ。
「あぁ……情けない……」
アルは落ち込んだ様子で溜め息を吐く。
「情けなくなんか無いよ? ……私を、ま、守って、くれっ……ううぅっ」
またアルの胸に突っ伏して泣き出してしまった。そんな早苗の背中を、彼はポンポンと叩いた。
取り敢えず個室に通された早苗達は、神父の言葉に驚愕していた。
「せ、1800ギラ?!」
だがその金額は、かなり金持ちになっている筈の現在の早苗の全財産よりも300ギラ近く高かった。
「えぇ、数人がかりでの治癒になります。こちらの消耗を考えますと……」
アルは硬いベッドの上に寝かされている。シャツのボタンは外され、肩に一ヶ所、腹部二ヶ所、焼け焦げたような歪な円形の傷が見えた。背中から刺さった光の矢が貫通したのだろう。
もう虫の息だ。迷っている時間など無い。早苗はアウインを振り返る。
「あのっ、いくら持ってますか?! 300近く足りないんです!!」
「あぁ大丈夫だ、出すから」
「ありがとうございます! この通り払います! 助けてください!!」
そうして治癒魔法がかけられてもアルの反応は無い。
「マスター……アル、アル!!」
口元に頬を近付け胸の動きを見るが胸は動かず、頬に息がかかる事は無かった。呼吸していない。
早くしなければ。記憶を頼りに彼の顎を上げさせる。自動車の教習所で習ったあれだ。
気道を確保しても呼吸しない。焦りながらも鼻を摘まみ、口を開かせてから大きく息を吸い込み口全体を包むように覆った。強く息を吹き込むとアルの胸が膨らむ。
ニ度繰り返し、胸の中心を掌で強く三十回圧迫する。上手く出来ているか分からないが、止める訳にはいかない。
「アル、アル……お願い……アル……!」
早苗は何度も繰り返す。必死だった。
「……ハッ……は……」
やっとの事で、アルが自発呼吸を始めた。何時間も経った気もするし、ほんの数分だったかもしれない。だが早苗には途方も無い時間が過ぎた気がした。生きた心地がしなかった。
「……あ……アル……」
緊張の解けた彼女の目から涙が溢れる。
「じいちゃん、私……私……ごめん……っ」
もう駄目だと思った。いつの間に、こんなに心に住み着いてしまったのか。
彼が好きだ。彼の居ない世界でなど、生きて行けないと思うほどに。
「ごめん……じいちゃんっ……ごめっ……」
アルの胸にすがり付き、泣きながら何度も祖父に謝った。帰る方法があるとしても、もう帰れない気がする。彼の側に居たかった。例え彼が、早苗を愛する事が無かったとしても。
「ごめんね……ごめん……」
「……泣いてるの……?」
掠れた声が聞こえて来た。少し癖の付いた短い髪を撫でられる。
「あ、あ、アル……!!」
「……俺、生きてるね……流石に、死んだかと思ったけど……」
「わ、私っ、ずっとアルの側に居る!! アルが嫌がっても離れない!! ストーカーになってやるからあぁぁぁっ!!!!」
早苗は泣きながら叫んだ。
「は、はあ? 何の話……?」
「うわあああーん!!!!」
わんわん泣いた。全く話の見えないアルは、早苗の謎発言に戸惑っている。
「あ、居た居た、良かった~」
力の抜ける声で緊張感無く登場したのはアウインの師、ミリウスだ。
「近くの教会と言えばここかな~とは思ったけど、合ってて良かったよ」
蒼白い顔で横たわるアルを見てニコニコ笑っている。
「大量では無かったけどそれなりに出血してるし、取り敢えずよく水分摂らせてあげて」
ミリウスは持って来た水差しを早苗に渡した。
「お仕事なら僕が代わりに行ってあげるから、回復するまで暫くゆっくりしててね?」
「っそんな、俺は大丈……うっ……」
「アル!?」
慌てて身体を起こしたアルだが、すぐにフラリと倒れてしまう。その姿は病弱な深窓の美少年のようだ。
「あぁ……情けない……」
アルは落ち込んだ様子で溜め息を吐く。
「情けなくなんか無いよ? ……私を、ま、守って、くれっ……ううぅっ」
またアルの胸に突っ伏して泣き出してしまった。そんな早苗の背中を、彼はポンポンと叩いた。
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