突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが

清見こうじ

文字の大きさ
14 / 43

閑話休題~ワタシの知らない先生の事情 その2~

しおりを挟む
 く、悔しい!

 俺としたことが、あんな小娘に手玉に取られるなんて!
 気は強そうだけど、あんな腹芸ができるなんて思っていなかった。気が強い分、感情をうまくコントロールすれば扱いやすそうだって思っていたのに。
 どこで見誤ったんだ?!

 おまけに気を付けていたはずが、歩き方だけで茶道経験があるって見破られるなんて。まあ、本当に茶道はかじっただけで、ただ茶事の招待を受けても大丈夫な程度にしつけられた、って言うのが本当のところなんだが。
 とはいえ、あの女の観察眼は侮れない。

 まあ、いい。とりあえず、中沢のことについては結果オーライだ。
 俺だって、これ以上のことは、慎重に行こうと考えていた。強がりじゃないぞ?

 だって、中沢は、あんなに隙だらけに男を誘惑するくせに、中身はお子さまなんだから。
 無防備過ぎて、逆に良心が痛む。
 これ以上は、大事に、時間をかけて、とは、思っていた。

 ただ、それが、人に禁止されると……何だかムカつく。
 あれじゃ、俺が遠藤に言われてガマンしているみたいじゃないか?
 
 俺が、俺の意志で、中沢を大切に扱おうと決めたって、後から言っても、信じてもらえないじゃないか?!

 ……ヤバいなあ。
 二日前までは、何となく興味が湧いただけで。
 また会えたら、面白そうだな、ってくらいだったのに。
 
 昨日の再会で、つい魔が差して、手を出してしまった。それでも、まだキープしておこうかな、った気持ちだったはず。かなり心は揺れ動いていたけど。

 そうしたら、保健室だ。
 気になって仕方なくて、入学式の教職員紹介が終わったあと、こっそり抜け出して。
 そうしたら、無防備に眠っている中沢がいて……そりゃいるだろ? 具合が悪くて休んでいるんだから。
 朝も調子が悪そうだったから、声をかけた時に気付いていたんだから、もっと早く対処してやるべきだったよな、担任として。

 だけど。

 それとは別に、ムクムクと、悪戯心が湧いてきて。

 誰もいない保健室。
 無防備に眠っている女の子。
 
 首筋を覆うブラウスの襟。そこに巻き付くリボンタイをほどきたい。その下の第一ボタンをはずしたい。そんな欲求に駆られて。

 ぐっとガマンして、ついっと顎に指を這わせて。

「……ん……」

 その拍子に、中沢が小さなうめき声を上げた。
 俺はビクッとして、思わず手を引っ込めて。

 でも、中沢は目を覚ますことなく、再び穏やかな寝息を立てはじめ。
 うめいた時にわずかに体を動かしたせいで、掛け物がずれた。
 胸元を覆っていた掛け物が……下にずれて。

 ……うわっ、ヤバい。

 コイツ、色々お子さまなクセに、どうして?

 昨日も触った感触で分かっていたけど、コイツ、胸がデカイ。

 巨乳、というほどではない。でも、それなりに、ある。
 昨日や今朝はブレザーを着ていたから、そんなに目立っていなかったけれど、今はブレザーを脱いでブラウスだけだ。うっすら透ける、下着の白いレース飾りが清楚で逆にそそる。
 仰向けであのボリュームって……脱いだら?

 昨日、脱いだらスゴそう、なんて中沢に言っておいて、ブーメランだ。純粋にダメージがデカイ。
 これ以上想像したら、マジでヤバい。

 慌てて俺は、掛け物を直す。

「……ん、せ……せい……」
 むにゃむにゃと呟いて、でもまだ起きる気配はない。

 コイツ、ホントにヤバいよな?

 共学とは言え、元女子高で女子の比率が高いのと、コイツの天然さが手伝って、今まで無事だったのかも知れないけど。
 普通の高校だったら、すぐロックオンされるぞ?
 ていうか、去年の薄着シーズンは、これ程育ってなくて(どこ、とは言わない)、まだ目をつけられていなかったとしたら?
 
 ヤローなんて、ガキでも考えることは、変わらない。
 むしろ、刺激が強すぎる!

 それに。
 昨日はファニーフェイスだなんて思ったけど。確かに、感情が丸わかりで、愛嬌が前面に出過ぎているせいで、そっちが目につくけど。
 こうして眠っていると、意外に顔立ちも整っているんだよな。所作もキレイだし、今朝のお嬢様然とした様子と重ねると、育ちのよさが浮き彫りになる。
 もう少し大人になって、感情をコントロールできるようになったら。
 遠藤のような正統派美人とは言えないけど、十分に魅力的な女性になる。

 男が放っておかないような、そんな女性に。

「……せん、せい……?」

 俺は、無意識のうちに、中沢に口付けた。
 
 首筋に、頬に、唇に、鼻筋に、額に。

 俺の物だと、印をつけたくて。
 だけど、痕がつかないように、触れるのが、やっとで。

 その後、何だか無性に愛おしくなって、その口付けの名残を手で追った。

 額に手を当てていたら、中沢は目を覚ました。

 起き上がった中沢の、先ほど目をそらした胸元にまた目が行ってしまい……くそ、やっぱり、予想通りだ。

 俺のせいで眠れなかったのかと問うと、真っ赤な顔で否定して。そんな風に目を潤ませて、それが嘘だってバラバレなんだよ。

 一度こらえたはずの衝動が、再び涌いてきて、俺は、中沢をかき口説いた。バランスを崩し再び仰向けになった中沢を抱きすくめる。
 
 昨日はブレザー越しだったけど、今日は、ダイレクトに胸の感触が伝わる。

 眼鏡が邪魔だ! 
 俺は慌てて眼鏡を外し、胸ポケットに放り込むと、その手で中沢の顎を捉えた。
 強引に了承させて、今度は深く、口付けをする。

 ああ、キスって、こんなに気持ちがいいもんだったのか?
 
 昔、年上の女に無理やり唇を奪われた時は、ただただ気持ち悪かった(なので、残念ながら、俺のファーストキスは中沢じゃない)のに。

 絡み付く舌が、絶妙な密着感と粘膜をくすぐる感触が、心地いい。
 
 昔のことは、ただの事故だ。
 俺のファーストキスは、最高に気持ちのいいキスの相手は、中沢だ。

「……や……あ……あぁ……」
 
 唇が離れた拍子に、中沢の喘ぎ声が聞こえる。

 半泣きなのに、目がとろんとして……最高に色っぽい!

 これ以上、ホントにヤバい!

 もう、入学式も終わる。

 最後の自制心で、何とか中沢から身を遠ざけて、涙を拭いてやり。
 本当に、このままだと、ここで一線を越えることになりかねない。
 せめて、ここ以外で。学校から離れたところなら。

 もう少し、じっくり、中沢に向き合えるんじゃないだろうか?

 結構本気で伝えたけど、中沢は全面拒否。
 また俺の気持ちは苛立った、けど。

 気持ちを落ち着かせるために、少しからかって気を紛らわせて、その反応が可愛すぎて、からかいすぎたら、俺のことをチャラいみたいに言うから、本気になって弁明していたら。

 中沢が俺の夢を見て眠れなかったって言うじゃないか!

 こんなことで浮き足立つなんて!
 俺は、そもそも自分からは告白したことがないのに、告白されたことは両手両足の指を使っても足りないくらい、いつも惚れられる立場だった。

 だから、中沢が、俺に惚れても、それは想定内で。

 なのに!

 なんで、こんなに嬉しいんだ?
 
 そう思ったら、ストン、と気持ちが落ち着いた。

 っていうか、俺の夢を見て眠れなかったなんて、ホントに、なんて可愛らしいんだ?!

 ……いや、かなり欲目が入ってるって、落ち着いたら、思ったよ?

 でも、この時は、本当に嬉しすぎて。
 
 思わず、万葉集の和歌を引用しちゃったりして。

 ……分かってるよ! 俺が告られまくっているのは、この外見のせいだって!
 こんな、古文オタクな男、イマドキ流行らないって!

 だけど。

 中沢は、聴いてくれた。
 俺の古文蘊蓄を、面白いって、もっと聴きたいって、言ってくれた。
 ただ聴くだけじゃなくて、ちゃんと混ぜっ返したりして、そのやり取りも楽しかった。

 
 俺の見る目は、間違っていなかった。

 やっぱり、中沢は、俺の運命の女なんだよ。

 
 だから、やってやるよ。

 茶道部の客寄せパンダだろうが、なんだろうが。

 理事長に逆らわない範囲で、うまく立ち回って、茶道部の存続を勝ち取って、中沢の婚約者の座を勝ち取ってやる!



 ……そう言えば。

 
 
 何か、大事なことを忘れている気がするんだけど。

 あれ?
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...