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第22話 いざ教会へ
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なごやかに(?)昼餐を終え、一度部屋に戻って身支度を整える。といっても再チェクするだけ。
エントランスホールに向かうと、すでに馬車の準備は整っており、そのままガワディに誘導されて乗り込んだ。
「カーマさま、レーミ=ナロンさま、お気を付けていってらっしゃいませ」
クリックが見送りに同席し、声をかけてくれる。
と言っても、この馬車を仕立てたのはガワディの依頼を受けたクリックの手配らしいので、その確認もあったのだろうけど。
クリックには『レミと呼んでほしい』と愛称呼びを許可したのに(ついでにガワディにも)、公の場ではフルネーム呼びの姿勢を崩さないクリックに、ちょっと寂しさを感じた。
(クリックさんなら、レミって呼び捨てにしてくれたっていいけど……でも、「レミさま」って執事みたいに呼ばれるのは、それはそれでイイ……あぁっ! どうしてこの世界には録音機器ないの?!)
『……』
ローか呆れたような気配を伝えて来たので、レミは心の中で咳払いをして、気持ちを沈めようと努める。
(私もカーマさんみたいに、元々短い名前なら、そのまま呼んでもらえるのにね)
『まあ、国や地方で、名付けの仕方は変わるからね。あと、家の格でも。カーマは北大陸の生まれだから。北は、わりと女性の名付け、短いことが多いって聞くよね』
(そう言えば、聞いたかも。逆に東大陸は、同性の親のファーストネームをミドルネームに付けるのが一般的って。あと、姓がやたら長いとか……と言うことは、私の親の名前は「ナロン」ってことだよね。ややこしい……)
『まあ、喪神人になった時点で、みんな姓もブルフェンになるんだし』
(フルネームが短くなって、よかったわ)
親と引き離されカロナー島に引き取られたことに、レミは大して感慨も悲嘆も感じていない。
記憶に残っていないとは言え、生みの親を慕わしく思う気持ちが普通はあるのかもしれないが、なまじっかシロイシ・リズの記憶があることで、そんな生い立ちを他人事のように感じてしまう。
おまけに、そんな心中を知るのは妖霊のローだけなので、レミ以上に血縁の情には無頓着だ。
(まあ、そもそもフルネームで呼ばれることもないけどね)
ローが言ったように、退魔師を始めカロナールの人々の姓は『ブルフェン』に統一されている。
この世界では、王家や貴族なども含め、居住地ごとで姓が同一のことが多い。なので、本人の名乗り以外では姓で呼び掛ける習慣がない。
もっと言うと、教会で戸籍を登録する洗礼式か王族の謁見でもなければ、名前だけで姓を呼ばれることはほぼない。
ただ重大な罪を犯すと重刑罰のひとつとして姓を奪われるので、その告知では最初に姓を呼ばれる。そんな場面でフルネームを呼ばれるようは羽目にはなりたくないが。
もっとも貴族クラスになると、名前呼びだけでは不躾と言うことで、『○○伯爵』とか称号を付けて呼ぶこともあるが、姓とはまた違う。
(が、領地持ちの貴族とか地域の長とかは領地や居住地が姓と同一だったりすることもあって、少しややこしい)
ちなみに昨日助けたシュガロ・ハインリヒの『ハインリヒ』は屋号で、姓ではない。
閑話休題。
「……なんだか、昨日の馬車より豪華ですね」
見送るクリックに名残惜しい気持ちを押し込めながら、軽くため息をついて、レミは座席に座り直す。
それから改めて車内を眺めて、ふと気が付いた。
「ええ。手配できる中で、一番高級なもの、って言っておいたから」
箱形の馬車は、御者台とは分離されているので、実質レミと二人きり、という安心感からか、カーマは少しくだけた口調になる。
(請求はハインリヒ商会って言ってたよね。ガワディも悪どいなあ。片棒を担がされたクリックさんが可哀想だわ)
『いや、クリックも、レミたちに無礼だって結構怒っていたから、多分積極的に協力しているんじゃ?』
(そっか。クリックさん、優しいなあ)
『……何で、クリックだけ評価変わるのさ?』
(いいの! 嬉しいから)
そんなレミの依怙贔屓には気付かず、カーマはうっとり、座面を撫でながらつぶやく。
「と言っても、あくまでも教会訪問にふさわしいものでね。さすがはクリック、華美に走らず、格や品位にあった中で、でも最高級にしてくれたみたいね」
確かに外観は昨日宿に向かうために用意してもらったものと、それほど違いはない雰囲気の、重厚ながらも地味な佇まいの馬車だった。
けれど、内装は。
それほど詳しくないレミでもわかる程度には、まず素材が違う。
車内の表装は、こちらの世界でよくあるパターン染めの布ではなく、遠目には無地に見える同系色の刺繍が施された絹張りで。
座席は暗色の天鵞絨張りで、その手触りはなめらかで吸い付くようだ。
足元には毛足の長い絨毯が敷き詰められている。
もちろん昨日の馬車も全て絹張りで、そこそこ高級だったが(足元は床張りだった)。
何より、座面の弾力が違う。
まだこの世界にはコイルスプリングをマットレスに使う技術がないため、椅子もベッドも詰め物をしてあるだけのはずだ。
スプリング自体は開発されていて、高級な馬車のサスペンションにも使われているが、仕組みが良く分からないのでレミは口をつぐんでいる。
一般市民が使うレベルの馬車は、高級なものでも綿は表層だけで、中心から底面近くは藁やおがくずを敷き積めてかさ増しする場合が多いと聞く。
だから、当たりは柔らかくても、動くとギシギシとした土台の固さが伝わってきた。
今日の馬車の座面は、揺れても軋む感触がほとんどない。
乗り合い馬車は、そもそも詰め物も、表張りすらない板張りが普通だ。
座面は徐々に潰れてしまうので、定期的に表張りをはがして、詰め物の交換が必要だ。高級な馬車は維持費がかかる。
手入れがよいのか、そもそも使用している綿の量が違うのかは分からないが、乗り心地は抜群だった。
貴族階級だと馬車の外装や馬車馬にもそれなりの装飾が施されるし、それこそ外装をきらびやかに飾るのは貴族階級以上でないと許されない。
(外装はシックで内装凝りまくりなんて。しかも、内装だって近くで見たり触らないと分からないようなこだわりようだし)
『こういうの嫌い?』
(好きとか嫌いとかなら、まあ好きだけど。でも、素材の値段考えたら、落ち着かないわ)
ローに訊かれて、つい心の中で本音が出る。
すでに身に付けている衣装や装飾品だけで、途方もない値段がついているのに!
長距離だと馬車の中で飲食する習慣があるので、今回は至近距離で良かったよー!
こんなフカフカの絨毯張り、土足で乗るというだけで、足元汚れてなかったよね? と確認したくなってしまったのに。
幸い心中ドキマギしていたのは短時間で済み、あっという間に目的地に到着した。
エントランスホールに向かうと、すでに馬車の準備は整っており、そのままガワディに誘導されて乗り込んだ。
「カーマさま、レーミ=ナロンさま、お気を付けていってらっしゃいませ」
クリックが見送りに同席し、声をかけてくれる。
と言っても、この馬車を仕立てたのはガワディの依頼を受けたクリックの手配らしいので、その確認もあったのだろうけど。
クリックには『レミと呼んでほしい』と愛称呼びを許可したのに(ついでにガワディにも)、公の場ではフルネーム呼びの姿勢を崩さないクリックに、ちょっと寂しさを感じた。
(クリックさんなら、レミって呼び捨てにしてくれたっていいけど……でも、「レミさま」って執事みたいに呼ばれるのは、それはそれでイイ……あぁっ! どうしてこの世界には録音機器ないの?!)
『……』
ローか呆れたような気配を伝えて来たので、レミは心の中で咳払いをして、気持ちを沈めようと努める。
(私もカーマさんみたいに、元々短い名前なら、そのまま呼んでもらえるのにね)
『まあ、国や地方で、名付けの仕方は変わるからね。あと、家の格でも。カーマは北大陸の生まれだから。北は、わりと女性の名付け、短いことが多いって聞くよね』
(そう言えば、聞いたかも。逆に東大陸は、同性の親のファーストネームをミドルネームに付けるのが一般的って。あと、姓がやたら長いとか……と言うことは、私の親の名前は「ナロン」ってことだよね。ややこしい……)
『まあ、喪神人になった時点で、みんな姓もブルフェンになるんだし』
(フルネームが短くなって、よかったわ)
親と引き離されカロナー島に引き取られたことに、レミは大して感慨も悲嘆も感じていない。
記憶に残っていないとは言え、生みの親を慕わしく思う気持ちが普通はあるのかもしれないが、なまじっかシロイシ・リズの記憶があることで、そんな生い立ちを他人事のように感じてしまう。
おまけに、そんな心中を知るのは妖霊のローだけなので、レミ以上に血縁の情には無頓着だ。
(まあ、そもそもフルネームで呼ばれることもないけどね)
ローが言ったように、退魔師を始めカロナールの人々の姓は『ブルフェン』に統一されている。
この世界では、王家や貴族なども含め、居住地ごとで姓が同一のことが多い。なので、本人の名乗り以外では姓で呼び掛ける習慣がない。
もっと言うと、教会で戸籍を登録する洗礼式か王族の謁見でもなければ、名前だけで姓を呼ばれることはほぼない。
ただ重大な罪を犯すと重刑罰のひとつとして姓を奪われるので、その告知では最初に姓を呼ばれる。そんな場面でフルネームを呼ばれるようは羽目にはなりたくないが。
もっとも貴族クラスになると、名前呼びだけでは不躾と言うことで、『○○伯爵』とか称号を付けて呼ぶこともあるが、姓とはまた違う。
(が、領地持ちの貴族とか地域の長とかは領地や居住地が姓と同一だったりすることもあって、少しややこしい)
ちなみに昨日助けたシュガロ・ハインリヒの『ハインリヒ』は屋号で、姓ではない。
閑話休題。
「……なんだか、昨日の馬車より豪華ですね」
見送るクリックに名残惜しい気持ちを押し込めながら、軽くため息をついて、レミは座席に座り直す。
それから改めて車内を眺めて、ふと気が付いた。
「ええ。手配できる中で、一番高級なもの、って言っておいたから」
箱形の馬車は、御者台とは分離されているので、実質レミと二人きり、という安心感からか、カーマは少しくだけた口調になる。
(請求はハインリヒ商会って言ってたよね。ガワディも悪どいなあ。片棒を担がされたクリックさんが可哀想だわ)
『いや、クリックも、レミたちに無礼だって結構怒っていたから、多分積極的に協力しているんじゃ?』
(そっか。クリックさん、優しいなあ)
『……何で、クリックだけ評価変わるのさ?』
(いいの! 嬉しいから)
そんなレミの依怙贔屓には気付かず、カーマはうっとり、座面を撫でながらつぶやく。
「と言っても、あくまでも教会訪問にふさわしいものでね。さすがはクリック、華美に走らず、格や品位にあった中で、でも最高級にしてくれたみたいね」
確かに外観は昨日宿に向かうために用意してもらったものと、それほど違いはない雰囲気の、重厚ながらも地味な佇まいの馬車だった。
けれど、内装は。
それほど詳しくないレミでもわかる程度には、まず素材が違う。
車内の表装は、こちらの世界でよくあるパターン染めの布ではなく、遠目には無地に見える同系色の刺繍が施された絹張りで。
座席は暗色の天鵞絨張りで、その手触りはなめらかで吸い付くようだ。
足元には毛足の長い絨毯が敷き詰められている。
もちろん昨日の馬車も全て絹張りで、そこそこ高級だったが(足元は床張りだった)。
何より、座面の弾力が違う。
まだこの世界にはコイルスプリングをマットレスに使う技術がないため、椅子もベッドも詰め物をしてあるだけのはずだ。
スプリング自体は開発されていて、高級な馬車のサスペンションにも使われているが、仕組みが良く分からないのでレミは口をつぐんでいる。
一般市民が使うレベルの馬車は、高級なものでも綿は表層だけで、中心から底面近くは藁やおがくずを敷き積めてかさ増しする場合が多いと聞く。
だから、当たりは柔らかくても、動くとギシギシとした土台の固さが伝わってきた。
今日の馬車の座面は、揺れても軋む感触がほとんどない。
乗り合い馬車は、そもそも詰め物も、表張りすらない板張りが普通だ。
座面は徐々に潰れてしまうので、定期的に表張りをはがして、詰め物の交換が必要だ。高級な馬車は維持費がかかる。
手入れがよいのか、そもそも使用している綿の量が違うのかは分からないが、乗り心地は抜群だった。
貴族階級だと馬車の外装や馬車馬にもそれなりの装飾が施されるし、それこそ外装をきらびやかに飾るのは貴族階級以上でないと許されない。
(外装はシックで内装凝りまくりなんて。しかも、内装だって近くで見たり触らないと分からないようなこだわりようだし)
『こういうの嫌い?』
(好きとか嫌いとかなら、まあ好きだけど。でも、素材の値段考えたら、落ち着かないわ)
ローに訊かれて、つい心の中で本音が出る。
すでに身に付けている衣装や装飾品だけで、途方もない値段がついているのに!
長距離だと馬車の中で飲食する習慣があるので、今回は至近距離で良かったよー!
こんなフカフカの絨毯張り、土足で乗るというだけで、足元汚れてなかったよね? と確認したくなってしまったのに。
幸い心中ドキマギしていたのは短時間で済み、あっという間に目的地に到着した。
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