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第5話 母娘
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不安と焦りを感じならがら、僕は通話ボタンをタップする。
「もしもし…」
恐る恐る電話に出ると、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
『もしもし冬真くん。久しぶりね。声だと分かりにくいかもしれないけれど、奏の母の小夜よ』
「はい。お久しぶりです小夜さん」
電話に出たのは、奏の母親である小夜さんだった。
彼女とは5回ほど会ったことがあるが、奏よりも快活な性格で、初めて会った時はそのテンションに圧倒されたが、会う度「冬真くんは本当にいい子ねぇ」と言って僕の事を実の息子のように可愛がってくれる人だ。
小夜さんの愛娘への溺愛っぷりは目に見えるほどで、奏はいつもそんな小夜さんの態度に「もう、やめてよママ…。冬真の前で恥ずかしいじゃん…」と羞恥で頬を染めながらも満更ではない表情にほっこりしたのを覚えている。
僕でさえこうなのだ。
やはり愛娘を失ったショックは余程大きいらしく、電話越しでも小夜さんが憔悴していることがよくわかった。
『突然なんだけど…、奏が亡くなった事は知っているかしら』
「………はい。朝、ニュースを見て知りました。今でも信じられないです…」
『えぇ。私も今でも信じられないわ…。こんな…突然………。なんであの子が…………』
今にも泣きそうな声だった。いや、もしかしたら小夜さんは涙を流しているかもしれない。そんな小夜さんの言葉を聞いて、胸が締め付けられる感じがする。
気づくと、僕の頬に涙が零れていた。
「身内…でもない僕が、こんな事を言うのも変かもしれないんですが…、本当に、何で奏が死ななくてはならないんでしょうね……。何人もの人を殺した悪人は…今も生きているのに、どうして奏のような何の罪も犯していない善人が…、死ななきゃいけないんでしょうか…。おかしいですよ…こんなの…!」
思わず僕は泣きながらこう叫んでいた。
奏の家族でもない、しかも奏が死ぬ理由を作ってしまった僕なんかが、怒るのはお門違いだということはわかっていた。でも、どうしてもこの怒りを、悲しみを、絶望を、吐き出さずにはいられなかった。
もしかしたら、僕は無意識に罪の意識から逃れようとしているだけなのかもしれないが。
だけど本当に、僕は奏が大好きだった。子供のお遊びなんかじゃなく、ずっと…一緒に居たかった。
「……ありがとう、冬真くん。奏の為に怒ってくれて。それだけ奏の事を大事にしてくれていたのね…。本当に、奏は冬真くんと出会えてよかったと思うわ…」
電話越しに、柔らかい声でそう言った小夜さんの声が聞こえた。
その小夜さんの言葉を聞いた瞬間、少しは自重していた涙が、止まらずどんどん溢れてくる。
奏を失った悲しみと、小夜さんに改めて認めてもらえた喜びと、あの時自分がしたことへの後悔と、色んな感情が混ざり合って、僕の理性を壊していく。
子供のように感情任せに泣き出した僕を、小夜さんは落ち着くまで待ってくれていたのだった。
「もしもし…」
恐る恐る電話に出ると、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
『もしもし冬真くん。久しぶりね。声だと分かりにくいかもしれないけれど、奏の母の小夜よ』
「はい。お久しぶりです小夜さん」
電話に出たのは、奏の母親である小夜さんだった。
彼女とは5回ほど会ったことがあるが、奏よりも快活な性格で、初めて会った時はそのテンションに圧倒されたが、会う度「冬真くんは本当にいい子ねぇ」と言って僕の事を実の息子のように可愛がってくれる人だ。
小夜さんの愛娘への溺愛っぷりは目に見えるほどで、奏はいつもそんな小夜さんの態度に「もう、やめてよママ…。冬真の前で恥ずかしいじゃん…」と羞恥で頬を染めながらも満更ではない表情にほっこりしたのを覚えている。
僕でさえこうなのだ。
やはり愛娘を失ったショックは余程大きいらしく、電話越しでも小夜さんが憔悴していることがよくわかった。
『突然なんだけど…、奏が亡くなった事は知っているかしら』
「………はい。朝、ニュースを見て知りました。今でも信じられないです…」
『えぇ。私も今でも信じられないわ…。こんな…突然………。なんであの子が…………』
今にも泣きそうな声だった。いや、もしかしたら小夜さんは涙を流しているかもしれない。そんな小夜さんの言葉を聞いて、胸が締め付けられる感じがする。
気づくと、僕の頬に涙が零れていた。
「身内…でもない僕が、こんな事を言うのも変かもしれないんですが…、本当に、何で奏が死ななくてはならないんでしょうね……。何人もの人を殺した悪人は…今も生きているのに、どうして奏のような何の罪も犯していない善人が…、死ななきゃいけないんでしょうか…。おかしいですよ…こんなの…!」
思わず僕は泣きながらこう叫んでいた。
奏の家族でもない、しかも奏が死ぬ理由を作ってしまった僕なんかが、怒るのはお門違いだということはわかっていた。でも、どうしてもこの怒りを、悲しみを、絶望を、吐き出さずにはいられなかった。
もしかしたら、僕は無意識に罪の意識から逃れようとしているだけなのかもしれないが。
だけど本当に、僕は奏が大好きだった。子供のお遊びなんかじゃなく、ずっと…一緒に居たかった。
「……ありがとう、冬真くん。奏の為に怒ってくれて。それだけ奏の事を大事にしてくれていたのね…。本当に、奏は冬真くんと出会えてよかったと思うわ…」
電話越しに、柔らかい声でそう言った小夜さんの声が聞こえた。
その小夜さんの言葉を聞いた瞬間、少しは自重していた涙が、止まらずどんどん溢れてくる。
奏を失った悲しみと、小夜さんに改めて認めてもらえた喜びと、あの時自分がしたことへの後悔と、色んな感情が混ざり合って、僕の理性を壊していく。
子供のように感情任せに泣き出した僕を、小夜さんは落ち着くまで待ってくれていたのだった。
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