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2「寝たかもしれない」
第9話「世界でたった一人、俺のことを理解してくれる人が欲しいんだ」
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「――あんた、井上に惚れているのか?」
「えっ」
白石はぎくりとして、隣の大男を見た。
冷たい汗が背中を伝っていく。
俺は、何を言ってしまった? この九年間、誰からも隠しきってきた感情を見知らぬ男にしゃべってしまったのか。
ああいや。
知らない男じゃない。
おれはこの男の、唇だけを知っている――。
白石は酔いの混じった目で男を見た。
小山のように大きくてがっしりしていて、しかし俊敏で逃げ足の速い男。
この身体を抱きたい、と白石は唐突に思った。
抱かれるのではなく、抱きたい、と思った。
白石はどちらかと言うと男を受け入れるより、受け入れさせたいほうだ。セックスの方向性というよりは、精神的にどうしようもなく“男”なのだった。
支配されたくなく、相手を支配したいタイプだ。
しかし温和な外見から、勝手に“ネコ”と思われることが多い。
好きな男がバリタチで、どうしてもセックスが出来なかったこともある。
身体でつながれない関係は白石を満足させない。だから今でも、一人きりなのだった。
たぶん、この先もひとりきりだ。
白石糾(しらいしただす)とは、そういう男なのだ。あきらめるしか、ない。
そう思いながら、口だけが勝手にしゃべった。
「井上の話じゃない。なあ――ひとりの相手にさ、自分の全部を差し出してみたいと思わないか。
自分を払いのけられるこわさよりも、たったひとりの人に向かって、愛しているって叫ぶことが大事だって。
そう言いきれる恋をしたくないか」
「あんた、酔ってるだろ」
白石の四倍は飲んでいるはずなのに、大男は冷静にそう言った。ついでに、
「誰かに自分を全部を差し出すって? そんなこと、できるわけがねえよ」
「わかってる」
白石の視界がぐらりとする――ああ、今日は少し飲みすぎている、と思う。
「わかってる、そんなの奇跡だ。どうせおれは一生ひとり。
清く正しい愛なんていらない。
ただ、ときどき身体をつなげられる相手がいれば、それでいいんだ」
しかし身体のどこかから、白石が聞いたこともない声が、強く強く哭(おら)びあげた。
『嘘だ。
おれは井上みたいに、自分は“この人のものだ!”と、誇らしげに叫べる人が欲しいんだ。
世界でたった一人、俺のことを理解してくれる人。
俺の弱さもずるさも、何もかもをだまって呑み込んでくれる人が。
欲しいんだ。
欲しいんだ。
……ほしいんだ。
★★★
翌朝、すさまじい頭痛とともに、白石は目をさました。
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