夫には言えない、俺と息子の危険な情事

あぐたまんづめ

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12話「過去から未来へ」

 ――――俺は代々優秀なαを輩出する家系に生まれた、唯一のΩだった。
 とうぜんα性である両親や兄からは「忌み子」や「欠陥品」と散々罵られ、嫌われ、避けられていた。
 好きでΩに生まれたわけじゃない。もしαに生まれていたら、兄のように愛されていたはずなのに。どうして俺だけがこんな目にあうんだと、何度自分の性を恨み、呪っただろうか。

 だけど、心のどこかで期待していた。
 たとえΩでも血の繋がった家族。とくにお腹を痛めて生んでくれた母なら、いつか俺のことを認めてくれるはずだと。
 認めてもらおうと、必死に勉強した。友達もたくさん作った。生徒会長も務めた。人の2倍、3倍も努力した。
 それでも、結局母が褒めてくれることはなく、その笑顔を俺に向ける日はこなかった。



 ――――――死のう。そう決意したのが、初めて発情期が訪れた日。
 そして初めてレイプされた日。相手は実の兄だった。
 わけも分からないまま、強い力で体を抑えつけられ、ギンギンになったペニスを後孔に突っ込まれた。
 兄の獣のように盛った顔に恐怖を感じて「もうやめて」と泣き叫んだが、口にパンツを押し込まれ、言葉を失われた。
 だんだん別の恐怖が生まれた。
 嫌なはずなのに、兄のモノを受け入れて興奮し、勃起していることに気づいてしまった。
 自分の体なのに、そうじゃないみたいで、たまらなく怖かった。

 それから発情期のたび兄にレイプされるようになり、15歳だった俺は恐怖に耐えきれず、母に相談した。
 母は一言――――「Ωだからしょうがないんじゃない?」と言った。
 今でも忘れられない。心底自分に興味の無さそうな、冷ややかな眼差し。

 その瞬間、俺は理解した。
 血が繋がっていても、愛されるとは限らないのだと。



 ――――――死のう。愛されない自分に、存在価値はないのだから。
 学校の屋上に来た。フェンスを乗り越え、下校する学生たちを5階の高さから見下ろす。
 死んで生まれ変わったら、次こそは幸せになろう。両親にめいっぱい愛されて、大人になって。自分を愛してくれる人と出会って、子供を産んで。幸せな家族を作ろう。

 ささやかな期待をこめて、空中に足を進めようとした時だった。


「――――俺の妹もさ、飛び降り自殺したんだよね」


 慌てて振り返ると、フェンス越しに寂しそうに笑う少年がいた。
 こいつを知っている。隣のクラスの転校生だ。顔も良くて人当りもいい、女子問わず男子からも人気な奴。俺とは真逆の人間。
 思わぬ邪魔者の介入に、睨みつけてやった。


「その首輪……Ωだよね?」
「だったら、何だよ」
「妹もΩだったんだ」
「俺には関係ない」
「どうせ死ぬならさ、その命、俺にくれない?」
「は?」
「どうしても叶えたい夢があってさ。てか妹の夢なんだけど、幸せな家族を作りたいんだ。その夢のために、俺と夫婦になってくれない?」
「……急にそんなこと言われて、承諾すると思ってんのか? Ωだからってなめんのも大概にしろっ!」


 もうたくさんだ。早く楽になりたい。
 誰かに告げ口される前にとっとと飛び降りようとしたが――――いつの間にかフェンスを乗り越えて、俺の横に並んでいた。


「……止めたって無駄だから。もう死ぬって決めたから。悪いが他のΩを当たってくれ」
「うん、君の気持ちは分かったよ。じゃあ、一緒に死のう。一人じゃ寂しいでしょ?」


 そう言って、ギュッと握りしめられた手。温かくて大きい掌の感触。自分に向けられた優しい眼差し。
 それは15年間生きてきて、喉から手が出るほど求めていたもの。家族にさえ与えられなかったものを、この男は容易く差し出した。

 俺は死ぬのをやめた。
 こいつが見せてくれたささやかな希望に、かけることにしたんだ。
 これが鷲との出会いだった。




♢♦♢♢♦♢




 俺はベッドで横になる鵠に、過去について語った。
 3時間ほど眠りについたからか、息子の容態も回復した。血まみれだった顔も水で拭けば、鼻血と口の中を少し切った程度だった。頬の痣は痛々しいが、氷で冷やせば一週間で治りそうだ。


「――――それから、高校卒業と同時に鷲と同棲を始めた。家族からはいない存在として扱われていたから、家を出るのに何の問題もなかったよ。鷲は警察官に、俺は在宅ライターとして。本当はもっと稼ぎがいい仕事につきたかったんだけど、鵠がさっき言っていたとおり、あいつは外で俺が発情期になるのを恐れていたんだ」
「父さんのα嫌いは、妹が自殺したことと関係があるんだね?」
「鷲の妹は発情期の時に数人のαにレイプされて、妊娠した。ショックをうけた彼女は飛び降り自殺したんだ」
「そんな……理不尽すぎる」
「おろせばいいのに。何も死ぬほどじゃないって、周りからは散々言われたらしい。正直、俺もそう思った。だけど彼女は実の兄である鷲が好きだった」
「でも父さんはβだから、番にはなれないし、妊娠は――――」
「そう、Ωとβの妊娠はゼロに等しい。家庭を持つことを夢見ていた彼女は、愛する人の子供を産めないことが分かり、絶望した。なのに望まぬ相手の子を妊娠したんだ。まだ13歳だった彼女には残酷すぎる現実だろうな」


 鷲はαを憎む。だけどそれ以上に妹を受け入れられなかった自分の性を憎んでいる。
 あいつの抱える闇は俺以上に深い。


「やっぱり父さんを探しに行く。さっき父さんに言ったこと謝って、また三人で暮らしたい」


 鵠は起き上がろうとしたので、俺は慌てて止めた。


「俺もお前と同じ気持ちだ。だけど今は安静第一だ」
「……じゃあ、母さんが父さんを連れ戻して」


 息子の頼みにためらった。怪我をしているこの子を置いていくのが引けた。
 そんな俺の不安を汲み取ったのか、鵠は俺の手をギュッと握りしめた。


「αもβもΩも、関係ない。血が繋がってなくてもかまわない。僕は父さんと母さんが大好きで、大切な家族だよ」
「俺も……お前が息子でよかったって、心から思ってるよ」


 目頭が熱くなる。涙が出そうになるのをこらえて、息子の手を握り返した。
 俺と鵠は大丈夫。あとはあの頑固者を説得するだけだ。


 俺は鵠を家に残し、鷲を連れ戻すため、外に出た。
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