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第四章 栞奈獄死 -かんなごくし-
19 落ちているところに戻っても、どうしようもないし
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次に映し出されたのは狭い牢獄。
「彼女がどうなったのか。その最期を見届けて貰わねばならない」
「耕作様……御辛いと思います。私がついております。朱雀がここにいますから!」
ギュッと手を握り、胸の辺りに運ぶ朱雀。目に浮かぶ涙は、どういう意味……?
栞奈一人だけの独房。汚れたベッドと隅に置かれた便器。それだけしかない。鉄格子の外に現れたのは、制服を着た男。看守だろうか? 鍵を使って鉄格子を開ける。そして部屋に入ると……いきなり栞奈を蹴り倒した。部屋の壁に激突し、苦しげな表情を浮かべる栞奈。
「なんで!」
「目を逸らさず、見届けるんだ! これがあの後、現実に起こったことだよ」
看守は壁際で蹲る栞奈の髪の毛を掴むと、無理やり引き起こす。そうしてもう一度、栞奈の胸の辺りを蹴る。また壁際まで飛ばされ、苦悶の表情を浮かべながら咳き込む栞奈。
「……こんなのって……」
「彼女が入ったのは特別な刑務所なんだ。連続殺人犯や麻薬密売など、死刑囚か無期懲役になるような極悪犯罪者しかいない」
倒れ込んだ栞奈に、看守が覆いかぶさって、無理やり服を剥ぎ取る。荒々しく体をまさぐり、泣き喚く栞奈に強烈な平手を叩き込む。唇を切ったか、口の端から血が滴り、ガタガタと震える栞奈。もはや抵抗する意思もなく、看守のなすがままにされ、死んだような表情を浮かべた。
「やめさせろよ! こんなの許されないだろ!」
「残念だけどね、彼女は死刑判決を受けた重犯罪者だ。罪状は、連続殺人、及び麻薬の密輸と販売、公務執行妨害……」
「麻薬密輸!?」
「彼女の部屋から麻薬が見つかった、ということになってね」
「嘘だ!」
「でっち上げられた罪状だよ。そして彼女は獄中で、このように看守の慰み者にされた。同じ刑務所内にいる男性死刑囚にも。輪姦され、あらゆる暴行を受け、看守はこれを黙認した。というより、看守が率先して扇動していたようだ。彼女は毎晩のように凌辱され、乱暴され……」
「……もうやめて……」
「投獄されてから半年。彼女は獄中で死亡する。直接の死因は暴行によるものだけど、食事もほとんど与えられず、衰弱していたようだ。日本政府に対して、公式には死刑が執行されたとの通達があった。彼女の遺体は燃やされ、骨だけになって帰国。もちろん、これは遺体を調べて暴行の跡が見付からないように、だよ」
そんな……こんなのってないよ! 僕は……彼女は日本に戻って、彼氏と幸せになったものだとばかり……
「耕作様。御気を確かに!」
「……ああ……」
それだけ、絞り出すのが精いっぱいだった。
「耕作様。彼女を、助けたくはないか?」
「……え?」
「私たちの術法の中には、魂を呼び寄せる招魂、という術の他に、魂を特定の時間、特定の場所へと送り出す送魂、という術法もあるんだよ。この術法を以て、耕作様の魂をあの日あの時までお送りすることが出来る」
な……ん……だって……!?
「そこで、耕作様には、ある任務を行って頂きたい。それと同時に、あの日の自分自身が、彼女を救うためにも行動すれば良いんだ」
「……どうすればいい……? どうすれば栞奈を助けられる?」
「正直に言うとね、送魂の術で戻せるのは、魂が抜けたあの瞬間だけだ」
「あの瞬間?」
「そうだ。橋から落下する、その一瞬、耕作様の魂を保護した。だから戻せるのは、基本的にはその時へ、だ」
「落下する……その時?」
「そう」
「ダメじゃん。落ちているところに戻っても、どうしようもないし」
「うん。だからね、他の術法を組み合わせる。時間を操る術法だ」
「時間を……」
「これに近い術法を耕作様も覚える必要がある」
「覚え……られるの?」
「その条件は満たしている。というのが、八咫鏡が耕作様を選んだ理由だよ」
「僕が選ばれた理由……」
「出来るということさ」
「そうなんだ。それなら、やる。やるよ!」
「そう仰って頂けると信じておりました。八咫鏡の、天照大神の思し召しで御座いますわ」
ああ、やってやる! やってやるさ! 栞奈をあんな目に遭わせるわけにはいかない!
「ただし……」
青龍さんが、少し言いにくそうに切り出した。
「時を操るのは大変な力を必要とするんだ。戻せるのはほんの僅かな時間のみ」
「どのくらい?」
「数分か十数分か。良くて三十分……」
つまり、あの日あの場所にしか戻れないってわけか。
「だから耕作様自身の命運は……あっ、だから耕作様にも、時間を操る術法が必要なんだよ」
「さっき聞いたけど」
「耕作様には、あの日あの場所で行われた、世界を滅亡に向かわせる、ある企みを阻止して貰う」
何かを誤魔化されたような気がする。
「具体的な話は、いずれまた。今話しても仕方のないことだからね、送魂の術を執り行う前に、改めて説明しよう。今は、その時必要になる術法を身に付けることに専念するんだ。あとは時間との勝負。どれだけ術法を使えるかによって、作戦も変わってくるからね」
なるほどね。全ては僕の頑張り次第、というわけだ。
「彼女がどうなったのか。その最期を見届けて貰わねばならない」
「耕作様……御辛いと思います。私がついております。朱雀がここにいますから!」
ギュッと手を握り、胸の辺りに運ぶ朱雀。目に浮かぶ涙は、どういう意味……?
栞奈一人だけの独房。汚れたベッドと隅に置かれた便器。それだけしかない。鉄格子の外に現れたのは、制服を着た男。看守だろうか? 鍵を使って鉄格子を開ける。そして部屋に入ると……いきなり栞奈を蹴り倒した。部屋の壁に激突し、苦しげな表情を浮かべる栞奈。
「なんで!」
「目を逸らさず、見届けるんだ! これがあの後、現実に起こったことだよ」
看守は壁際で蹲る栞奈の髪の毛を掴むと、無理やり引き起こす。そうしてもう一度、栞奈の胸の辺りを蹴る。また壁際まで飛ばされ、苦悶の表情を浮かべながら咳き込む栞奈。
「……こんなのって……」
「彼女が入ったのは特別な刑務所なんだ。連続殺人犯や麻薬密売など、死刑囚か無期懲役になるような極悪犯罪者しかいない」
倒れ込んだ栞奈に、看守が覆いかぶさって、無理やり服を剥ぎ取る。荒々しく体をまさぐり、泣き喚く栞奈に強烈な平手を叩き込む。唇を切ったか、口の端から血が滴り、ガタガタと震える栞奈。もはや抵抗する意思もなく、看守のなすがままにされ、死んだような表情を浮かべた。
「やめさせろよ! こんなの許されないだろ!」
「残念だけどね、彼女は死刑判決を受けた重犯罪者だ。罪状は、連続殺人、及び麻薬の密輸と販売、公務執行妨害……」
「麻薬密輸!?」
「彼女の部屋から麻薬が見つかった、ということになってね」
「嘘だ!」
「でっち上げられた罪状だよ。そして彼女は獄中で、このように看守の慰み者にされた。同じ刑務所内にいる男性死刑囚にも。輪姦され、あらゆる暴行を受け、看守はこれを黙認した。というより、看守が率先して扇動していたようだ。彼女は毎晩のように凌辱され、乱暴され……」
「……もうやめて……」
「投獄されてから半年。彼女は獄中で死亡する。直接の死因は暴行によるものだけど、食事もほとんど与えられず、衰弱していたようだ。日本政府に対して、公式には死刑が執行されたとの通達があった。彼女の遺体は燃やされ、骨だけになって帰国。もちろん、これは遺体を調べて暴行の跡が見付からないように、だよ」
そんな……こんなのってないよ! 僕は……彼女は日本に戻って、彼氏と幸せになったものだとばかり……
「耕作様。御気を確かに!」
「……ああ……」
それだけ、絞り出すのが精いっぱいだった。
「耕作様。彼女を、助けたくはないか?」
「……え?」
「私たちの術法の中には、魂を呼び寄せる招魂、という術の他に、魂を特定の時間、特定の場所へと送り出す送魂、という術法もあるんだよ。この術法を以て、耕作様の魂をあの日あの時までお送りすることが出来る」
な……ん……だって……!?
「そこで、耕作様には、ある任務を行って頂きたい。それと同時に、あの日の自分自身が、彼女を救うためにも行動すれば良いんだ」
「……どうすればいい……? どうすれば栞奈を助けられる?」
「正直に言うとね、送魂の術で戻せるのは、魂が抜けたあの瞬間だけだ」
「あの瞬間?」
「そうだ。橋から落下する、その一瞬、耕作様の魂を保護した。だから戻せるのは、基本的にはその時へ、だ」
「落下する……その時?」
「そう」
「ダメじゃん。落ちているところに戻っても、どうしようもないし」
「うん。だからね、他の術法を組み合わせる。時間を操る術法だ」
「時間を……」
「これに近い術法を耕作様も覚える必要がある」
「覚え……られるの?」
「その条件は満たしている。というのが、八咫鏡が耕作様を選んだ理由だよ」
「僕が選ばれた理由……」
「出来るということさ」
「そうなんだ。それなら、やる。やるよ!」
「そう仰って頂けると信じておりました。八咫鏡の、天照大神の思し召しで御座いますわ」
ああ、やってやる! やってやるさ! 栞奈をあんな目に遭わせるわけにはいかない!
「ただし……」
青龍さんが、少し言いにくそうに切り出した。
「時を操るのは大変な力を必要とするんだ。戻せるのはほんの僅かな時間のみ」
「どのくらい?」
「数分か十数分か。良くて三十分……」
つまり、あの日あの場所にしか戻れないってわけか。
「だから耕作様自身の命運は……あっ、だから耕作様にも、時間を操る術法が必要なんだよ」
「さっき聞いたけど」
「耕作様には、あの日あの場所で行われた、世界を滅亡に向かわせる、ある企みを阻止して貰う」
何かを誤魔化されたような気がする。
「具体的な話は、いずれまた。今話しても仕方のないことだからね、送魂の術を執り行う前に、改めて説明しよう。今は、その時必要になる術法を身に付けることに専念するんだ。あとは時間との勝負。どれだけ術法を使えるかによって、作戦も変わってくるからね」
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