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第五章 日々鍛錬 -ひびたんれん-
22 挫きそうになる足首、挫けそうになる心
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せっかく滝行でさっぱりしたのに、僕は帰り道でまたブタだく汗だくになってしまった。滝に向った時より酷い。行きはずっと下り坂だったから、まだ楽だった。楽だった、というのは比較の問題で、ブタのような僕の体には堪える。平地で体重を支えるより、足首や膝、腰への負担が大きい。痩せ型の青龍さんや、筋肉質の白虎隊の2人には、この苦労は分かるまい。ブタのような僕だからこその苦労である。一歩間違えたら転げ落ちそうになる恐怖が。全体重が膝にかかる重みが。挫きそうになる足首、挫けそうになる心が。みんなには分かるまい。
一方で、帰りは登りだ。重い体を一歩一歩持ち上げ、全体重を片足に乗せて引き上げる。今度は反対の足で地を踏みしめ、逆足で全体重を引き上げる。一歩、二歩、三歩……十歩進めば筋肉が悲鳴を上げ、二十歩進めば心臓が抗議の鼓動を打ち鳴らす。それでも栞奈のためだ。頑張るしかない。のだが……
「ちょ、ちょっと待って……ハァ、ハァ……」
「まだ1分も歩いていないよ」
「もう少し、ハァ、ハァ……ゆっくり、フゴ……」
「仕方ない。少し休憩しようか」
「おいおい嘘だろ? まだ滝が見えるぜ」
「帰るまでに日が暮れちまうぜ」
白虎隊の2人から口々に非難されたものである。僕が悪いんじゃない、僕の体をここまでぶくぶく太らせた、朱雀が悪いんだ!
「少しだけ……ハァ、ハァ……休めば……」
数分歩いては5分休み、また数分歩いて10分休む。そんな事を繰り返し、最後は白虎隊の2人に肩を借りながら、1時間以上かけて城内へ戻った。すっかり日も昇り、気温も上がっている。ものすごく暑い。地べたに座り込んで、肩で息をしながら休憩していると、心配そうな表情の朱雀が着替えを手に駆け寄って来た。
「御戻りが遅いので、心配しました。あら、こんなに汗をかかれて。さあ御着替えを。御手伝い致しますわ」
「一人で、ハァ、ハァ、着替えられるから、フガ」
「早く着替えなければ、御風邪を召してしまいますわ。遠慮なさらず」
「いいから! 触らないで!」
大声を出すと、少し驚いた表情を浮かべる。朱雀、ごめん、僕は栞奈のためだけに生きていたんだ。それを思い出した今、朱雀に着替えを手伝って貰い、裸を見られるのは抵抗があるんだ。でも、すっかり息が上がった僕は、それを口には出来なかった。息が上がっていなくても言い出しにくい事だけど。今は、息が上がっている状態を言い訳にさせて貰おう。
「後で、自分で着替えるから、ハァ、ハァ、少し放っておいて」
「ですが……御食事の用意も整っております。召し上がって頂かないと」
「ちょっと、ハァハァ、今は入らないかも……」
「無理にでも、召し上がって頂かなければなりません」
「それは、ハァハァ、体型を維持しろって言ってた、ハァハァ、その都合で?」
「はい。仰る通りで御座います」
「心魂は定着したんじゃ、ハァハァ、ないの? もう大丈夫でしょ? ンガッ」
「いいえ。体型が変わってしまいますと、魂の定着は弱まります。元々、他人の体なのです。そうなれば最悪の場合、魂が剥がれ二度と先d……その依代に入れなくなってしまいますわ」
そ、そうなのか……
「それに、耕作様の元の御体に送魂する際も、肉体に合わなければ上手く戻れなくなってしまう可能性があるようなのです。元の御体と同じ体型を、必ず維持して下さいませ」
「分かった。じゃあ行こっか」
少し休んで汗も引いてきた。部屋に戻って、着替えてから食事だ。食欲は沸かないけど、しっかり食べないと。
「午後からは座禅と、祝詞を覚える予定だったんだ。だけど滝行に時間がかかってしまった。だから食事をしながら、祝詞を耳で覚えて貰おうと思う」
青龍さん。食事中に勉強ですかい?
「いいですとも! やりますよ!」
自分でも驚くほど、僕は大きな声で答えた。これなら僕も立派な小学生になれる! キリッ!
……正直、これは空元気だ。本当は食事するのも無理っぽいし、動くのも億劫だし、立とうとしても膝が笑ってしまって満足に立ち上がる事も出来ない。それでも、せめて気持ちだけは負けまいと、そんな思いが大声になって出たようだ。と自己分析。
用意された食事は、いつもより少し豪華だった。肉厚のステーキがどーん! と3枚。何の肉か分からないけど、ブタっぽい? ……共食いか!
以前リクエストした白米、ではなかったけど、茶色っぽい……玄米か麦飯かな? これも器に一杯。その他、野菜や汁物など、料亭で出たら何人分か分からないほどの量であった。見るだけで吐き気を催す。選りに選って、こんな日に出さなくてもいいのに! ……とは言えない。「美味しそう」などと口に出しながら、ゆっくり咀嚼した。うん、味は良いよ、味は。豚肉かと思ったけど、なんか違う? 少し油っぽくて固い。噛めば噛むほど肉汁が溢れて……
オエェェェエ!
ごめんなさい! 吐きたかったわけじゃない。分かってくれ。不可抗力だ。体が受け付けなかっただけなんだ……
一方で、帰りは登りだ。重い体を一歩一歩持ち上げ、全体重を片足に乗せて引き上げる。今度は反対の足で地を踏みしめ、逆足で全体重を引き上げる。一歩、二歩、三歩……十歩進めば筋肉が悲鳴を上げ、二十歩進めば心臓が抗議の鼓動を打ち鳴らす。それでも栞奈のためだ。頑張るしかない。のだが……
「ちょ、ちょっと待って……ハァ、ハァ……」
「まだ1分も歩いていないよ」
「もう少し、ハァ、ハァ……ゆっくり、フゴ……」
「仕方ない。少し休憩しようか」
「おいおい嘘だろ? まだ滝が見えるぜ」
「帰るまでに日が暮れちまうぜ」
白虎隊の2人から口々に非難されたものである。僕が悪いんじゃない、僕の体をここまでぶくぶく太らせた、朱雀が悪いんだ!
「少しだけ……ハァ、ハァ……休めば……」
数分歩いては5分休み、また数分歩いて10分休む。そんな事を繰り返し、最後は白虎隊の2人に肩を借りながら、1時間以上かけて城内へ戻った。すっかり日も昇り、気温も上がっている。ものすごく暑い。地べたに座り込んで、肩で息をしながら休憩していると、心配そうな表情の朱雀が着替えを手に駆け寄って来た。
「御戻りが遅いので、心配しました。あら、こんなに汗をかかれて。さあ御着替えを。御手伝い致しますわ」
「一人で、ハァ、ハァ、着替えられるから、フガ」
「早く着替えなければ、御風邪を召してしまいますわ。遠慮なさらず」
「いいから! 触らないで!」
大声を出すと、少し驚いた表情を浮かべる。朱雀、ごめん、僕は栞奈のためだけに生きていたんだ。それを思い出した今、朱雀に着替えを手伝って貰い、裸を見られるのは抵抗があるんだ。でも、すっかり息が上がった僕は、それを口には出来なかった。息が上がっていなくても言い出しにくい事だけど。今は、息が上がっている状態を言い訳にさせて貰おう。
「後で、自分で着替えるから、ハァ、ハァ、少し放っておいて」
「ですが……御食事の用意も整っております。召し上がって頂かないと」
「ちょっと、ハァハァ、今は入らないかも……」
「無理にでも、召し上がって頂かなければなりません」
「それは、ハァハァ、体型を維持しろって言ってた、ハァハァ、その都合で?」
「はい。仰る通りで御座います」
「心魂は定着したんじゃ、ハァハァ、ないの? もう大丈夫でしょ? ンガッ」
「いいえ。体型が変わってしまいますと、魂の定着は弱まります。元々、他人の体なのです。そうなれば最悪の場合、魂が剥がれ二度と先d……その依代に入れなくなってしまいますわ」
そ、そうなのか……
「それに、耕作様の元の御体に送魂する際も、肉体に合わなければ上手く戻れなくなってしまう可能性があるようなのです。元の御体と同じ体型を、必ず維持して下さいませ」
「分かった。じゃあ行こっか」
少し休んで汗も引いてきた。部屋に戻って、着替えてから食事だ。食欲は沸かないけど、しっかり食べないと。
「午後からは座禅と、祝詞を覚える予定だったんだ。だけど滝行に時間がかかってしまった。だから食事をしながら、祝詞を耳で覚えて貰おうと思う」
青龍さん。食事中に勉強ですかい?
「いいですとも! やりますよ!」
自分でも驚くほど、僕は大きな声で答えた。これなら僕も立派な小学生になれる! キリッ!
……正直、これは空元気だ。本当は食事するのも無理っぽいし、動くのも億劫だし、立とうとしても膝が笑ってしまって満足に立ち上がる事も出来ない。それでも、せめて気持ちだけは負けまいと、そんな思いが大声になって出たようだ。と自己分析。
用意された食事は、いつもより少し豪華だった。肉厚のステーキがどーん! と3枚。何の肉か分からないけど、ブタっぽい? ……共食いか!
以前リクエストした白米、ではなかったけど、茶色っぽい……玄米か麦飯かな? これも器に一杯。その他、野菜や汁物など、料亭で出たら何人分か分からないほどの量であった。見るだけで吐き気を催す。選りに選って、こんな日に出さなくてもいいのに! ……とは言えない。「美味しそう」などと口に出しながら、ゆっくり咀嚼した。うん、味は良いよ、味は。豚肉かと思ったけど、なんか違う? 少し油っぽくて固い。噛めば噛むほど肉汁が溢れて……
オエェェェエ!
ごめんなさい! 吐きたかったわけじゃない。分かってくれ。不可抗力だ。体が受け付けなかっただけなんだ……
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