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『炎鮮』のステラ

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鎖にぶっ刺したゴブリンオーガを満足気に見ながら、俺は冒険者ギルドに帰った。
グレンはどう思うだろうな。腰抜かしたら面白いんだが。
と、帰ったのだが。

「よう、クロカ。早速やりやがったみてぇだな?」

グレンが待っていた。やっぱり、と言った顔で。予想してたのかよクソ野郎。あー、つまんね。

「やりやがった、とはなんだクソグレン。俺はただ町のためを思って討伐したと言うのに」

「見事な棒読みありがとさん。あのなぁ、そんな格好で街歩いたら通報来るんだよ。頭沸いてんのかお前は?」

「あ? 表出ろ、いやここ表か。とっととぶち殺してやるからこっち来いよ」

「あ? てめぇ如きに殺される程弱くねぇぞ俺は?」

「あ?」

「あ?」

おっさんと少年がガン付けあっている光景。取り扱いに困るわ。
徐々に魔力の余波も放ち始めた。アハハハハハハハハハ、俺少しキレ始めてるんだが。
つーか最初からマジの殺気だな。

「あっれーおっさんがガキ相手に本気になっていいんでスカー?」

「あっはっはっ心配するな、お前に本気出すほど落ちぶれてねぇぜ俺は?」

「「アハハハハハハハハハ……殺す!」」

俺とグレンは同時に飛び出し、俺は蹴りを、グレンは拳骨をかまそうとした。だがその時。

「何やってんだお前らは!」

「「ぐはっ!?」」

頭を殴られた。グレンじゃ……ねぇな。声も違うし、というか女だろ。
痛む頭をさすりながら起き上がると、凄まじい赤髪の高身長美女がいた。しかもエルフ耳……エルフか。

「なんだ、ババアかよ」

「ん? 今なんつった?」

「ババアがはっ!」

問答無用で二発目。拳が見えなかった、だと?
マジか。どんだけ強いんだこのババアは。

「今、なんか思わなかったか?」

「全然」

感鋭っ。今度から赤毛Bと呼ぼう。

「赤毛B。あんた誰だ? 少なくともC級程度じゃねぇな?」

「あたしにゃステラっつう名前があんのさ。ちゃんと呼びな」

「んじゃステラで。俺はクロカ、あんた誰だ?」

名前を名乗られれば俺も名乗る。普通かもしれないが、結構難しい事なのだ。最近の子供は無礼なのが多いし。反論は受け付ける。

「あたしはこの街で活動してる冒険者でね、『炎鮮』のステラって聞いた事ないかい?」

「いいや、生憎とこっちは数時間前に冒険者になったばかりでね。まったく知らん」

「ほー、それであの蹴りとは。ま、情報は集めといた方がいいよ。生命線になる事もあるからね」

「うーい」

それは知ってる。でもまあ言っといて損はねぇだろ。

「で、あんたがヤッたのかい?」

「ああ、その雑魚か。その通りだが」

ステラが目を向けたのは、あのゴブリンオーガ。
毒は完全に消去してあるし、バレる事はないはずだ。というかこれでバレたらお手上げだわ。外聞的には《鎖操術》を推していく。いつか《夜刀神》もバレるだろうが、遅らせる事に意味がある。

「ふーん、背中から短槍で一突きか。心臓を完全に破壊してるね。それなのに器用に魔石は破壊していない……」

ジャラ、と音を立てて短槍鎖を出す。ステラはそれを見て、ほうと呟いた。

「驚いた。まさかそんなキワモノなスキルを持ってた奴がいたとは。確か、《鎖操術》だったかい?」

「正解」

やっぱキワモノか。まあこんなスキル好んで使う奴も発現させる奴も少ねぇだろうけど。
鍛錬に時間がかかりすぎる。やるからには正確に操れるようになんないと、周りも巻き込んでしまう。それは《夜刀神》にも言える事だが、ぶっちゃけ纏毒してぶん殴ればいいだけだ。
注入可能な鎖の方が有利なのは間違いないがな。

「はぁ、こりゃ期待の新人、と言った所かね」

「おう、期待しとけや」

「……傲岸不遜だね」

苦言を呈されてはいないようだ。この性格で固定されているから今更変えるとか無理だけどな。
ところでグレンの遺体に毒注入して良いですか?
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