電話ボックス

エコ

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電話ボックス

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電話ボックスに辿り着いたのは、午後七時を過ぎた頃だった。

薄暗い道で、公園の入り口に設置されたそれは不気味に光って浮いていた。
それでも小学生の私が塾と家の往復でたまにこの道を通っていたのは、物語に入り込んだような高揚感が恐怖よりほんの少し勝っていたから。

 あの日も初めはそうだった。塾に行くのが面倒で、気が乗らなくて、遠回りをしたのだ。蝉の声だけが響く公園で、電話ボックスが浮き始めるのをじっと待った。そうしているうちに、ふと電話ボックスの硝子戸、足元の辺りに黒い虫がいるのを見つけた。けれどそれは近づくと虫ではなくて、ペンで書かれた文字だった。

『さあ始めよう、まずは鉄の城、そのてっぺん』

はたと考える。それから学校で、この公園には宝があると聞いたことを思い出した。公園で鉄の城と言えば、ジャングルジム。その頂点には立派な旗があって、城に見えた。

『よく見つけたね、お次は三角が三つ、真ん中だ』

その文字を見つけた頃には、塾なんて忘れていた。次から次へ見つかる指示をひたすら追いかけて、追いかけて、追いかけて…

午後八時ごろ、辿り着いたのは電話ボックスだった。

『さようなら』

緑の電話機の側面にある文字はそれだけで、しかしそれがゴールなのだと何となく分かった。




そんなことを思い出したのは、久しぶりにこの道を通ったからだ。あれから怒られた私はこの道を通らなくなって、十年以上経っていた。
電話ボックスは、もう無かった。
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