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第四章 ~恐怖~

4-8.呪いの功名

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 「やっと、やっと、やあぁっと獲物にありつける。何も殺せぬ悪じゃあ意味がねぇ」

 夕日も沈み、夜になった頃。町外れの場所で、女性の悲鳴が木霊した。

 「見つけたぞ! フーディ!」

 わかりやすく名前を呼ぶことで、意識を向けさせる修。

 「あぁん?」既に変身していたフーディが、ゆっくりと体を向ける。そして血走った目で修を見ると、声を荒らげた。

 「今度はてめぇらかよぉ!! いい加減にしやがれって! 言っただろうがぁ!」

 「荒れてるけど、どうする?」

 修の横に立つコルオ。その胸には壺が抱えられていた。

 「やることは変わらない。行こう」

 修が棒を構え、フーディに殴りかかる。

 「なんだその壺は? まさかそれがタマシー吸い取る道具じゃねぇだろうなぁ?」

 「そのまさかだよ! エリスアーク!」

 フーディーの足元から火柱が飛び出し、仮面と腹部、両方の顔を焼く。

 炎の中級魔法『エリスアーク』指定した場所に火柱を生み出す。

 作戦はこうだ。修とサフィアが追い詰め、頃合いを見てコルオが壺を使う。

 「そうかぁ……そのまさかかぁ……」

 焼かれながらもつぶやくフーディ。熱さがどうでもよくなるくらいの情報を聞いたフーディの体は、笑みを浮かべていた。

 そんな仮面目掛け、修が伸ばした棒を振り下ろす。フーディは痛みに仰け反りながらも、こう言った。

 「お前ら、頭悪くねぇか?」

 火柱が消え、砲門を向けるフーディ。狙いはコルオ。

 「ドゥ・コリズン」

 そのまま氷弾を放つ。コルオは跳んで躱したが、フーディは更にこう続けた。

 「砲門は二つあんだよぉ!」

  近づく修など気にせず、コリズンを発射するフーディ。

 空中で身動きの取れないところを狙われたコルオに、氷塊がぶつかった。

 「ぐぅっ!」

 直後に聞こえたのは、壺の割れる音と、コルオが地面に転がる音。

 「壺が……」

 サフィアのつぶやきをかき消すように、大笑いするフーディ。

 修達の視界にひろがったのは、無惨に散った破片と、地面にうずくまるコルオ。

 「てめぇらはただの間抜けだ間抜け! 第二のハウラどころか、何番目か分からねぇバカだ! タマシーを取り返す壺持って走るやつが居て、そいつを狙わねぇわけがねぇだろうがよ!」

 コルオは顔を赤らめ、体を震わせていた。大切に抱えていた白い壺・・・は、もうここにはない。

 「弱っちぃガキに弱っちぃ女が二人! てめぇらごときがこいつらを助けられるわけがねぇんだよ!」

 閉じていた口を大きく開きながら、三人を罵倒する。フーディが見せつけた魂達は、それぞれが荒ぶっていた。

 「――やっと開けたか。その口を」

 リオン・サーガを開く修。中から取り出したのは、輝く青の壺・・・。使い方は穴を向け……命じる。

 「吸い取れ、エルブの命瓶」

 次の瞬間、強風のような音が壺から鳴り、無数の魂を吸い込み始めた。音も大きく、手から伝わる振動も激しい。そのはずなのに、草や木、小石の一つさえも動かず、魂だけが吸い取られていった。

 「お前がその口を開くのを待っていた。よく笑う奴で助かった」

 修の頭に浮かんだのは、溢れかけた命を啜るフーディ。それを見て、口を開けている時こそが好機だと考えたのだ。

 わずかに反応が遅れたフーディだったが、魂を取られまいと抵抗する。しかし、エルブの命瓶には勝てず、全ての魂は完全に抜き取られた。

 「てめぇ……わざと偽物の壺を持たせてやがったな」

 空っぽになった口内を見せながら「小賢しいことをしやがる」と吐くフーディ。

 不完全とは言え、神の道具。為す術もなくを魂を取り返されたフーディは、悪態をつくことしかできなかった。

 「おかげで上手く行った」

 手を伸ばす修と、それを握って立ち上がるコルオ。

 「結構恥ずかしかったよ。偽物をバカみたいにわざとらしく、大事そうに抱えなくちゃいけないし。あと、こいつの動きもなんか鈍かったし。却って動きが狂っちゃった」

 コルオが赤面して震えていたのは、失敗からの悔しさではなく偽物を大事に運ぶ・・・・・・・という真似が恥ずかしかったためだ。

 修はここに来る前、一度大図書館に寄った。その理由は、壺をもう一つ借りるため。

 「随分慎重じゃねぇか。臆病風にでも吹かれたか?」フーディが嘲る。実際、その通りだった。

 恐怖や不安は、いらぬ心配を生む。壺が何回も使えるとは限らない。フーディの口が閉じていては、効果を発揮しないかもしれない。

 確実に成功させるため、ありとあらゆることを想定した。つまり、恐怖に呑まれかけていたからこそ、修は失敗を過剰に恐れ、万全を期したのだ。

 自分の呪いのせいで・・・・・・・・、修達の作戦が盤石になったことに気づかず、フーディは更に声を上げる。

 「だがよぉ、体はどうなる!? それを返す器が氷漬けじゃ、意味ねぇだろうが!!」

 今度は負け惜しみだ。魔法とは言え、氷は氷。時間が経つか、使った本人を倒せばゆっくりと溶けていく。

 そんな発言を聞き、フーディが動揺していることに気付く修達。

 「それは私が教えてあげる。体にね」

 もっとも、氷が溶けるのを待つ必要はない。ここに、優秀な魔法使いが居る。

 「あぁ!?」怒鳴るフーディの顔を、修の棒が叩く。

 「どうした? 俺を倒さなきゃ壺は取り返せないぞ?」

 わざとらしく挑発する修。更に注意を引くよう、わざわざ眼の前で壺をしまって見せた。

 「命を分けただけで、体も無事。結局、誰も殺せないで終わりそうだね」

 コルオが下の目の部分にナイフを突き刺す。苦痛の声を漏らしたフーディは、暴れるように砲門を振り回した。

 「生意気言ってんじゃねぇぞガキどもがぁ!!」

 「こっちの台詞だ腐れ外道がぁ!!」

 不意な大声はフーディへの怒りと、呪いの影響。修は未だ残っている僅かな恐怖をかき消すために、必要以上に声を荒らげてしまったのだ。

 「おぉっ!?」弱そうだと判断した奴からの、予想外の怒号に驚くフーディ。

 今度の囮は、修とコルオ。サフィアは呼吸を整える。
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