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第八章 ~強欲~
8-8.騙されるモカ
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「う……撃てた」
少しだけ呆ける修に、ゴーダンが「伸ばせ!」と声をかける。修は言われるがまま棒に触れ、伸ばした。細かい角度の調整は、棒を握っていた彼女が済ませていた。
棒の力を借り、再びモカの体の上に立つゴーダン。修は狙いに気がつくと、棒を縮めた。自分の方ではなく、ゴーダンの方へ向かうように。
「お前……っ!」「遅い」
棒を回転させたゴーダンが、モカの上半身を攻撃する。次に棒を左手に持ち替えたゴーダンは、右手に剣を持ち、無数の攻撃を重ねていった。モカは逃げるすべもなく、棒で叩かれ、剣で斬られた。
無理やり尾を振り回してゴーダンを追い払ったが、モカの巨体も地面に倒れてしまった。
「魔法は弱いって聞いてたけど……相変わらず人を見る目がないなぁ、あの子」
コルオから真逆の評価を聞いていたクリマは、修の光弾を……「仮面の力で底上げされた上級魔法」を打ち破ったものを見て、鼻から息を吐いた。
「よくやったね。二人とも」
作戦の成功を労いながら、修に手を差し伸べるゴーダン。修が岩を砕き、サフィアがモカを仰け反らせ、ゴーダンが仕留める。とっさの思いつきではあったが、その効果は絶大だった。
「あんな真似されたら、成功させるしかない」
ゴーダンは自分達の命を懸けることで、少しでも光弾の成功率を上げようとした。私の知っている修なら、決して見捨てず、成功させる。そう信じた。サフィアも同じだ。
自分への信用と命を使った強引な作戦は、修に発破をかけるには充分だった。
「ともかくこれで……」
「終わった気になってんじゃねぇよぉ!!」
モカが体を起こし、攻撃用の尾を伸ばす。散開する三人。防御用の尾を伸ばしたモカは、ゴーダンを捉え、締め上げた。
「好き勝手やりやがってよぉ……俺にそういう趣味はねぇんだよ」
「くっ……うぅ……」短く小さい声を漏らしながら、上空へと持ち上げられるゴーダン。
「良い声だぁ」下卑た笑みを浮かべながら、モカは力を強めていく。
「ゴーダン!」咄嗟に光弾を放つ修。しかし、さっきほどの威力はなく、モカは動じていない。
「安心しろ。なるべく綺麗に殺してやるからよ。そうじゃなきゃ意味ねぇものなぁ?」
「本性が出てきたか。下衆めが」
吐き捨てるようなクリマの言葉。しかし、モカにはしっかり聞こえていた。
「うるせぇ! 黙ってろ!」
あらぬ方向を見ながら怒鳴るモカ。当然、修達には何のことか分からない。その何かが見えたのは、上空で拘束されているゴーダンだけ。
「くぁああ……」
サフィアが魔法、修が光弾を放つが、二人まとめて鋭い尾に薙ぎ払われる。
「しゅ……う……」
ポロッと棒を落とすゴーダン。修はそれを受け取ると、思いっきり後方に伸ばし、本体めがけ垂直に振り下ろした。
棒で散々殴られたこと、純粋な防衛本能。二つの要因が重なったモカは、ゴーダンをすぐに手放し、本体をその尾で守った。
落ちていく中、ゴーダンは情報を整理していた。歓声を上げるモカッチャへの怒号。遠くに見えたクリマへの悪態や、背中に乗ったときの「音で分かる」という発言。
そこから導き出せる結論。それは――
地面にぶつかりそうになるところを、なんとか受け止める修。
「大丈夫!?」とサフィアも駆け寄る。
ゴーダンは修を軽く手で押すと、剣を向けた。
「君にはガッカリしたよ修。私はもう、君とは一緒に行けない」
「ゴーダン?」言っていることが理解できず、名前を呼ぶことしかできない修。その直後に聞こえてきたのは、モカの笑い声。
「いてぇ……傷がいてぇよぉ。笑いすぎて傷に響くぜおい。なんだなんだまさかの仲間割れかよぉっはっははは。惨めだなぁおい!」
周りの音が聞こえなくなるぐらい、腹を叩いて大笑いをするモカ。
「君を斬る。それを土産にあの方に下るよ」
黒い剣を構えるゴーダン。鋭い青の目を見て、修も棒を構える。
「本気……なんだな」
「このグマルカ様に付くとはいい判断だ。ははっ、味方同士でやり合え! 見ててやるからよ!」
うっかり本名を言ってしまうくらいに、上機嫌に笑うモカ。目の前で起こっていることが、よほど面白かったのだろう。
裏切りを嫌うサフィアは、二人の様子を黙って見ていた。動揺していたのではなく、しっかりと状況を理解した上で見守っていた。
互いが全力の一撃を振るう。剣と棒が激しくぶつかり――大きな金属音が鳴り響いた。
「迂闊な。目の前の座興も見抜けず、自分の弱点さえも忘れたか」
「きぃえあああああああああああああ!!」
笑い声以上に大きな悲鳴を上げるモカ。直前に命を懸けてまで仲間を焚き付けた人間が、ちょっと痛めつけた程度で裏切るはずがない。
モカッチャと親衛隊に囲まれ、頼れる仲間の居ないモカは、それが「できの悪い演劇」だと気付けなかった。
クリマが二人のやり取りが演技だと気づいたのは、コルオという深い絆でつながっている相方が居たため。
それに、もし本気で仲間割れをするのなら、相方にあそこまで吠えた少女。サフィアが黙っているはずがない。
地面に寝そべり、体をくねらせるモカ。修がエルフィを放ちながら近づくが、暴れ回る尻尾に弾かれ、吹き飛ばされてしまう。
「強欲の戦闘形態は、防御用の堅固な尾、攻撃用の鋭い尾、魔法を放つ宝玉をはめ込んだ尾の三つ。それと、虫の足音さえも聞き逃さない異常な聴覚を持つ」
飲み物を飲み、ふぅと息を吐くクリマ。
「ゴーダンは戦っていく内にそれに気付いた。そして大笑いしている隙に修へ作戦を伝え、互いの武器を全力でぶつけ合った。発生した金属音は、鋭い聴覚を持つグマルカの耳へと突き刺さった」
クリマは同時にあることに気付いたが、口にすることはなかった。
「よくもこんな、ふざけた真似をぉ!」
「ガッカリって言われてどうだった?」
「傷ついた」信用しているとは言え、面と向かってそう言われるのは、心がざわついた。
「なら、あいつを叩いて晴らそうか」
修が両手で棒を握ったのを見て、改めてモカに向かっていく二人。
騒音攻撃が効いたのか、尾の動きは鈍い。時折放ってくる魔法はサフィアが対応し、モカを追い込んでいく。
「元気な奴らだ」
衰える様子のない三人を見て毒づくモカ。もう、モカの口調を演じる余裕もなかった。
「コルオはすぐに気付いたらしいが……分厚い毛並みのせいか」
「シーゲナ!」
放たれた岩は二回り以上も小さく、簡単に砕かれた。モカ本人も疲れを自覚し始めた。しかし、気づいた頃にはもう遅い。
「体が……重い」
動きが鈍くなったのを見て、修が光弾を放つ。案の定尻尾で防がれたが、それはあくまで目くらまし。
本当の目的は「モカの体に置いたリオンサーガを回収すること」
「今だサフィア!」モカから飛び降りた修が叫ぶ。
「焼滅の赤鳥よ集え 我が命により降り注ぎ、此の地を灰燼へと導け」
体が赤く光り、魔法陣が目の前に移動する。
「調子に乗るなと言ったけどなぁ! ドゥ・シーゲナ!」
モカも尻尾から魔法を放とうとしたが、岩塊どころか、小石すらも出なかった。
「何!?」と驚くモカに、再び最上級魔法が襲う。
「ニリフタレイトス!!」
目の前に現れた魔法陣から、無数の小さい火の鳥が飛び出す。燃え盛る鳥は触れた瞬間爆発し、消し飛ばす。いわば、無数の小さいクアブスタの群れ。
『ニリフタレイトス』 聖の性印を持つ者のみが習得できる、もう一つの最上級魔法。
大きな体が仇となり、ありとあらゆる箇所が爆破されていく。
尾を振り回そうにも、数が多く、全てを捌ききれない。
修は魔法に気を取られている隙を突き、魔法の尾についていた宝玉を破壊した。
「なんでだ……魔法が出ねぇ」
もう聞かれてもいいかと思い、その答えを知っていたクリマが口を開く。
「修は騒音騒ぎの後、攻撃をしながら、体毛の中に本を隠した。あの本は、修以外が触れると魔力を吸収するという。触ったら本をすぐに手放すくらい気持ち悪い感覚が走るらしいが、お前は体毛の厚さ故、それに気づけなかった」
最初の時、背中に飛び乗ったゴーダン達に気付いたのは、あくまで音が聞こえたため。背中を歩かれている感覚はなかった。
ゴーダンが剣を振り、防御用の尻尾を切り落とす。
「如何に硬かろうが、魔力も切れた上に、あれだけの魔法や斬撃、打撃を受けたんだ」
同じ要領で攻撃用の尻尾を切り裂いたゴーダンが、こう続けた。
「脆くもなる」
ゴーダンを止めようと魔法用の尾を伸ばしたが、それもあっけなく切り落とされた。すべての攻撃手段がなくなり、体を震わせながらも、モカは吠える。
「お前達! こいつを取り押さえろ! 前足で押し潰す!」
しかし、動く者はもう居なかった。そもそもモカ自身にも、押し潰す体力は残っていない。
「虚像が魔力で見せていた、浅く儚い夢はもう覚めた。しっかり呪わないからそうなる」
強欲の呪いが解けたのを見て、クリマがビスケットを口に入れる。
「終わりだ。グマルカ・ディグリー」
クリマは手についた汚れを払うと、その場を後にした。
起き上がれず、小さい上半身は宙吊りのような形になっていた。そんなモカへ、ゆっくり近づいていくゴーダンとサフィア。
「待て……話し合おう。話せば分かる……」
返事の代わりに飛んできたのは、火球と剣の一撃だった。
少しだけ呆ける修に、ゴーダンが「伸ばせ!」と声をかける。修は言われるがまま棒に触れ、伸ばした。細かい角度の調整は、棒を握っていた彼女が済ませていた。
棒の力を借り、再びモカの体の上に立つゴーダン。修は狙いに気がつくと、棒を縮めた。自分の方ではなく、ゴーダンの方へ向かうように。
「お前……っ!」「遅い」
棒を回転させたゴーダンが、モカの上半身を攻撃する。次に棒を左手に持ち替えたゴーダンは、右手に剣を持ち、無数の攻撃を重ねていった。モカは逃げるすべもなく、棒で叩かれ、剣で斬られた。
無理やり尾を振り回してゴーダンを追い払ったが、モカの巨体も地面に倒れてしまった。
「魔法は弱いって聞いてたけど……相変わらず人を見る目がないなぁ、あの子」
コルオから真逆の評価を聞いていたクリマは、修の光弾を……「仮面の力で底上げされた上級魔法」を打ち破ったものを見て、鼻から息を吐いた。
「よくやったね。二人とも」
作戦の成功を労いながら、修に手を差し伸べるゴーダン。修が岩を砕き、サフィアがモカを仰け反らせ、ゴーダンが仕留める。とっさの思いつきではあったが、その効果は絶大だった。
「あんな真似されたら、成功させるしかない」
ゴーダンは自分達の命を懸けることで、少しでも光弾の成功率を上げようとした。私の知っている修なら、決して見捨てず、成功させる。そう信じた。サフィアも同じだ。
自分への信用と命を使った強引な作戦は、修に発破をかけるには充分だった。
「ともかくこれで……」
「終わった気になってんじゃねぇよぉ!!」
モカが体を起こし、攻撃用の尾を伸ばす。散開する三人。防御用の尾を伸ばしたモカは、ゴーダンを捉え、締め上げた。
「好き勝手やりやがってよぉ……俺にそういう趣味はねぇんだよ」
「くっ……うぅ……」短く小さい声を漏らしながら、上空へと持ち上げられるゴーダン。
「良い声だぁ」下卑た笑みを浮かべながら、モカは力を強めていく。
「ゴーダン!」咄嗟に光弾を放つ修。しかし、さっきほどの威力はなく、モカは動じていない。
「安心しろ。なるべく綺麗に殺してやるからよ。そうじゃなきゃ意味ねぇものなぁ?」
「本性が出てきたか。下衆めが」
吐き捨てるようなクリマの言葉。しかし、モカにはしっかり聞こえていた。
「うるせぇ! 黙ってろ!」
あらぬ方向を見ながら怒鳴るモカ。当然、修達には何のことか分からない。その何かが見えたのは、上空で拘束されているゴーダンだけ。
「くぁああ……」
サフィアが魔法、修が光弾を放つが、二人まとめて鋭い尾に薙ぎ払われる。
「しゅ……う……」
ポロッと棒を落とすゴーダン。修はそれを受け取ると、思いっきり後方に伸ばし、本体めがけ垂直に振り下ろした。
棒で散々殴られたこと、純粋な防衛本能。二つの要因が重なったモカは、ゴーダンをすぐに手放し、本体をその尾で守った。
落ちていく中、ゴーダンは情報を整理していた。歓声を上げるモカッチャへの怒号。遠くに見えたクリマへの悪態や、背中に乗ったときの「音で分かる」という発言。
そこから導き出せる結論。それは――
地面にぶつかりそうになるところを、なんとか受け止める修。
「大丈夫!?」とサフィアも駆け寄る。
ゴーダンは修を軽く手で押すと、剣を向けた。
「君にはガッカリしたよ修。私はもう、君とは一緒に行けない」
「ゴーダン?」言っていることが理解できず、名前を呼ぶことしかできない修。その直後に聞こえてきたのは、モカの笑い声。
「いてぇ……傷がいてぇよぉ。笑いすぎて傷に響くぜおい。なんだなんだまさかの仲間割れかよぉっはっははは。惨めだなぁおい!」
周りの音が聞こえなくなるぐらい、腹を叩いて大笑いをするモカ。
「君を斬る。それを土産にあの方に下るよ」
黒い剣を構えるゴーダン。鋭い青の目を見て、修も棒を構える。
「本気……なんだな」
「このグマルカ様に付くとはいい判断だ。ははっ、味方同士でやり合え! 見ててやるからよ!」
うっかり本名を言ってしまうくらいに、上機嫌に笑うモカ。目の前で起こっていることが、よほど面白かったのだろう。
裏切りを嫌うサフィアは、二人の様子を黙って見ていた。動揺していたのではなく、しっかりと状況を理解した上で見守っていた。
互いが全力の一撃を振るう。剣と棒が激しくぶつかり――大きな金属音が鳴り響いた。
「迂闊な。目の前の座興も見抜けず、自分の弱点さえも忘れたか」
「きぃえあああああああああああああ!!」
笑い声以上に大きな悲鳴を上げるモカ。直前に命を懸けてまで仲間を焚き付けた人間が、ちょっと痛めつけた程度で裏切るはずがない。
モカッチャと親衛隊に囲まれ、頼れる仲間の居ないモカは、それが「できの悪い演劇」だと気付けなかった。
クリマが二人のやり取りが演技だと気づいたのは、コルオという深い絆でつながっている相方が居たため。
それに、もし本気で仲間割れをするのなら、相方にあそこまで吠えた少女。サフィアが黙っているはずがない。
地面に寝そべり、体をくねらせるモカ。修がエルフィを放ちながら近づくが、暴れ回る尻尾に弾かれ、吹き飛ばされてしまう。
「強欲の戦闘形態は、防御用の堅固な尾、攻撃用の鋭い尾、魔法を放つ宝玉をはめ込んだ尾の三つ。それと、虫の足音さえも聞き逃さない異常な聴覚を持つ」
飲み物を飲み、ふぅと息を吐くクリマ。
「ゴーダンは戦っていく内にそれに気付いた。そして大笑いしている隙に修へ作戦を伝え、互いの武器を全力でぶつけ合った。発生した金属音は、鋭い聴覚を持つグマルカの耳へと突き刺さった」
クリマは同時にあることに気付いたが、口にすることはなかった。
「よくもこんな、ふざけた真似をぉ!」
「ガッカリって言われてどうだった?」
「傷ついた」信用しているとは言え、面と向かってそう言われるのは、心がざわついた。
「なら、あいつを叩いて晴らそうか」
修が両手で棒を握ったのを見て、改めてモカに向かっていく二人。
騒音攻撃が効いたのか、尾の動きは鈍い。時折放ってくる魔法はサフィアが対応し、モカを追い込んでいく。
「元気な奴らだ」
衰える様子のない三人を見て毒づくモカ。もう、モカの口調を演じる余裕もなかった。
「コルオはすぐに気付いたらしいが……分厚い毛並みのせいか」
「シーゲナ!」
放たれた岩は二回り以上も小さく、簡単に砕かれた。モカ本人も疲れを自覚し始めた。しかし、気づいた頃にはもう遅い。
「体が……重い」
動きが鈍くなったのを見て、修が光弾を放つ。案の定尻尾で防がれたが、それはあくまで目くらまし。
本当の目的は「モカの体に置いたリオンサーガを回収すること」
「今だサフィア!」モカから飛び降りた修が叫ぶ。
「焼滅の赤鳥よ集え 我が命により降り注ぎ、此の地を灰燼へと導け」
体が赤く光り、魔法陣が目の前に移動する。
「調子に乗るなと言ったけどなぁ! ドゥ・シーゲナ!」
モカも尻尾から魔法を放とうとしたが、岩塊どころか、小石すらも出なかった。
「何!?」と驚くモカに、再び最上級魔法が襲う。
「ニリフタレイトス!!」
目の前に現れた魔法陣から、無数の小さい火の鳥が飛び出す。燃え盛る鳥は触れた瞬間爆発し、消し飛ばす。いわば、無数の小さいクアブスタの群れ。
『ニリフタレイトス』 聖の性印を持つ者のみが習得できる、もう一つの最上級魔法。
大きな体が仇となり、ありとあらゆる箇所が爆破されていく。
尾を振り回そうにも、数が多く、全てを捌ききれない。
修は魔法に気を取られている隙を突き、魔法の尾についていた宝玉を破壊した。
「なんでだ……魔法が出ねぇ」
もう聞かれてもいいかと思い、その答えを知っていたクリマが口を開く。
「修は騒音騒ぎの後、攻撃をしながら、体毛の中に本を隠した。あの本は、修以外が触れると魔力を吸収するという。触ったら本をすぐに手放すくらい気持ち悪い感覚が走るらしいが、お前は体毛の厚さ故、それに気づけなかった」
最初の時、背中に飛び乗ったゴーダン達に気付いたのは、あくまで音が聞こえたため。背中を歩かれている感覚はなかった。
ゴーダンが剣を振り、防御用の尻尾を切り落とす。
「如何に硬かろうが、魔力も切れた上に、あれだけの魔法や斬撃、打撃を受けたんだ」
同じ要領で攻撃用の尻尾を切り裂いたゴーダンが、こう続けた。
「脆くもなる」
ゴーダンを止めようと魔法用の尾を伸ばしたが、それもあっけなく切り落とされた。すべての攻撃手段がなくなり、体を震わせながらも、モカは吠える。
「お前達! こいつを取り押さえろ! 前足で押し潰す!」
しかし、動く者はもう居なかった。そもそもモカ自身にも、押し潰す体力は残っていない。
「虚像が魔力で見せていた、浅く儚い夢はもう覚めた。しっかり呪わないからそうなる」
強欲の呪いが解けたのを見て、クリマがビスケットを口に入れる。
「終わりだ。グマルカ・ディグリー」
クリマは手についた汚れを払うと、その場を後にした。
起き上がれず、小さい上半身は宙吊りのような形になっていた。そんなモカへ、ゆっくり近づいていくゴーダンとサフィア。
「待て……話し合おう。話せば分かる……」
返事の代わりに飛んできたのは、火球と剣の一撃だった。
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