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第十章 ~破滅~
10-5.破滅の能力
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「この仮面が司る精神は『破滅』」
右目と右頬のみを覆う青い仮面を取り出す。破滅の名を冠する仮面は、人が持つ『安心』平穏無事であろうとする心を糧とする。
ザウリムが仮面を被ると、仮面から半透明の紫色の外套が伸び、右肩と右腕を覆った。変化があったのはそれだけ。原型は充分に残っており、ほぼ生身と変わらない。憎悪と同じくらい、あっさりとした変身だった。
ザウリムは剣を抜きながら「かかってこい」と二人を見た。
「修」ザウリムに目を向けたまま、ロイクは言う。
「果たしたい約束や願いがあるのなら、躊躇うな。俺達の間に割って入るくらいの図々しさを見せてみろ」
修はわかってるとだけ返し、ロイクと一緒に駆けていった。
先に斬りかかったのはロイクだった。垂直に振り下ろされた長剣を、ザウリムも剣で受け止める。
「能力は至って単純」
剣が塞がっているのを見て、修が棒を振り下ろす。
「二本の腕を自在に操り、敵を倒す」
棒は当たることなく、紫色の手によって受け止められた。半透明の外套に見えたそれは、二本の腕へと変形していた。
ロイクが剣をもう一度振り上げるが、腹部に拳が突き刺さり、更に仰け反った頬を殴り飛ばされた。
修も抵抗するが、棒を握る手は強く、動かせない。
棒に意識を向けていた修を、ザウリムは斬りつけ、紫の拳で殴り飛ばした。
「憎悪と同じで、使う者に相応の強さが求められるのが欠点だが、俺には関係ない」
右肩から伸びる二本の腕が、クイクイと手招きをする。
「ただの四本腕か」ロイクが口に溜まっていた血を吐き捨てる。
「一対一にこだわるなよ。手が余る」
同じ様に駆け出す二人。またもロイクが剣を振り下ろす。修の方は背後に周り、棒を突き出した。
「即席にしてはなかなかだが……」ロイクの剣を受け止めながら、ザウリムは言う。
二本の腕はそれぞれ修とロイクの首を掴み、空中へ持ち上げた。
「合格には程遠い」
ザウリムは剣を構え、回転して二人を斬りつけた。そのまま二撃目を繰り出そうとしたが、ロイクは腹を蹴り、修は棒を逆に伸ばすことでザウリムから離れた。
「離れれば安全だと思っているのなら……見くびり過ぎだ」
腕が伸び、修の胸ぐらを掴む。そしてそのまま修を引き寄せ、腹部に剣を突き刺した。
修が苦痛の声を漏らす。しっかり刺したはずのザウリムは剣を見た後、それを握っていた自分の腕に目をやった。
「おかしい」とつぶやき、修を放り投げるザウリム。
「コルオがお前を殺しそこねたのは、情にほだされたからだと思っていたが……」
斬りかかってきたロイクを殴りつけ、両腕を掴んで拘束するザウリム。
「どうやら、違うらしい」
修はなんとか起き上がり、棒を振るう。しかし攻撃はまともに当てられず、ザウリムにまた腹を刺されてしまう。
「……このっ!」
咄嗟に光弾をぶつけ、ザウリムをわずかに仰け反らせる。わずかな痛みなど気にせず、ザウリムはやはりおかしいとつぶやく。
「心臓を突こうとするとわずかに剣が逸れる。大きな力で、無理やり捻じ曲げられているようだ」
続いて修の眉間を刺そうとするが、やはり軌道が逸れ、空を切った。
「それもお前の本の力か?」能力に気がつくザウリム。
「ティオラス。致命傷を重傷に変える力……いや、加護だ」
自分の力ではなく、常に発動し続ける故に、加護という言葉を選んだ修。即死を避けられると言えば聞こえはいいが、不死身になるわけではない。
「加護……まさかな」
その言葉が、かつて憧れた「神の使い」を連想させた。ザウリムは剣を薙ぎ、修の胸を斬りつける。
「大事な箇所を守る大層な能力だが、一撃で殺せないならそれでもいい。無数の傷をつけ、穴を空け、手足を斬り落とせば、流石に死ぬだろう」
ティオラスの弱点を見抜くザウリム。仮に死ななくとも、手足がなければ戦えない。
「このまま血溜まりを作って死んでいくか?」
斬りつけながら、ザウリムは問いかける。なんとか剣を受け止めた修が口を開く。
「断わ――」
返事を遮ったのは、脇腹に入った拳の一撃。ロイクの拘束に使っていた腕を、一本こちらに回したのだ。
仰け反った修を掴み、もう一度剣を刺そうとする。
「片方に集中しすぎだ」
背後から聞こえてきたロイクの声、ザウリムは振り向くことなく、紫の腕で対処しようとする。
「ぐっ……」
しかし背中を斬られ、鋭い痛みに顔を歪める。紫の腕一本だけでは、ロイクを止められなかったのだ。
「手が余るだのどうだのと言っていたな」もう一度斬りつけ、ロイクはこう綴った。
「片手間で俺を捌けると思うなよ」
ザウリムは振り向いてロイクの足首を掴み、遠くに投げ飛ばした。
「よそ見をするな!」
ザウリムの首が忙しく動く。修の方に顔を向けた瞬間、光弾が顔面に飛んできた。数歩ほど後退し、視界が遮られる。修はそのまま棒を薙ぎ、ザウリムに渾身の一撃を加えた。
初めて地面に倒れるザウリム。攻撃を重ねようとする修を紫の腕で殴り飛ばし、距離を取らせる。
腕一本は侮りすぎたと反省しながら、立ち上がるザウリム。この痛みは見くびった報いだと反省し、右腕を向けた。
「切り裂け……ディア・フーザ」
十字の風刃が放たれる。ロイクはウェンガルを振るい、修はリオン・サーガで受けることで、風の上級魔法を吸収した。
「失念していたわけじゃないだろう」
まっすぐ駆けていき、そのまま大剣で斬りかかるロイク。ザウリムは紫の手で白刃取りをし、言葉を返した。
「これで倒せればと思っただけだ」
ザウリムが剣を振るう。ロイクは持っていた剣を手放し、長剣を持ち直して受け止めた。
「二振りでようやく対等か」
二本の腕と剣が塞がっていることに気付いた修は、棒を伸ばした。その一撃はザウリムの眉間に激突し、体を仰け反らせた。
右目と右頬のみを覆う青い仮面を取り出す。破滅の名を冠する仮面は、人が持つ『安心』平穏無事であろうとする心を糧とする。
ザウリムが仮面を被ると、仮面から半透明の紫色の外套が伸び、右肩と右腕を覆った。変化があったのはそれだけ。原型は充分に残っており、ほぼ生身と変わらない。憎悪と同じくらい、あっさりとした変身だった。
ザウリムは剣を抜きながら「かかってこい」と二人を見た。
「修」ザウリムに目を向けたまま、ロイクは言う。
「果たしたい約束や願いがあるのなら、躊躇うな。俺達の間に割って入るくらいの図々しさを見せてみろ」
修はわかってるとだけ返し、ロイクと一緒に駆けていった。
先に斬りかかったのはロイクだった。垂直に振り下ろされた長剣を、ザウリムも剣で受け止める。
「能力は至って単純」
剣が塞がっているのを見て、修が棒を振り下ろす。
「二本の腕を自在に操り、敵を倒す」
棒は当たることなく、紫色の手によって受け止められた。半透明の外套に見えたそれは、二本の腕へと変形していた。
ロイクが剣をもう一度振り上げるが、腹部に拳が突き刺さり、更に仰け反った頬を殴り飛ばされた。
修も抵抗するが、棒を握る手は強く、動かせない。
棒に意識を向けていた修を、ザウリムは斬りつけ、紫の拳で殴り飛ばした。
「憎悪と同じで、使う者に相応の強さが求められるのが欠点だが、俺には関係ない」
右肩から伸びる二本の腕が、クイクイと手招きをする。
「ただの四本腕か」ロイクが口に溜まっていた血を吐き捨てる。
「一対一にこだわるなよ。手が余る」
同じ様に駆け出す二人。またもロイクが剣を振り下ろす。修の方は背後に周り、棒を突き出した。
「即席にしてはなかなかだが……」ロイクの剣を受け止めながら、ザウリムは言う。
二本の腕はそれぞれ修とロイクの首を掴み、空中へ持ち上げた。
「合格には程遠い」
ザウリムは剣を構え、回転して二人を斬りつけた。そのまま二撃目を繰り出そうとしたが、ロイクは腹を蹴り、修は棒を逆に伸ばすことでザウリムから離れた。
「離れれば安全だと思っているのなら……見くびり過ぎだ」
腕が伸び、修の胸ぐらを掴む。そしてそのまま修を引き寄せ、腹部に剣を突き刺した。
修が苦痛の声を漏らす。しっかり刺したはずのザウリムは剣を見た後、それを握っていた自分の腕に目をやった。
「おかしい」とつぶやき、修を放り投げるザウリム。
「コルオがお前を殺しそこねたのは、情にほだされたからだと思っていたが……」
斬りかかってきたロイクを殴りつけ、両腕を掴んで拘束するザウリム。
「どうやら、違うらしい」
修はなんとか起き上がり、棒を振るう。しかし攻撃はまともに当てられず、ザウリムにまた腹を刺されてしまう。
「……このっ!」
咄嗟に光弾をぶつけ、ザウリムをわずかに仰け反らせる。わずかな痛みなど気にせず、ザウリムはやはりおかしいとつぶやく。
「心臓を突こうとするとわずかに剣が逸れる。大きな力で、無理やり捻じ曲げられているようだ」
続いて修の眉間を刺そうとするが、やはり軌道が逸れ、空を切った。
「それもお前の本の力か?」能力に気がつくザウリム。
「ティオラス。致命傷を重傷に変える力……いや、加護だ」
自分の力ではなく、常に発動し続ける故に、加護という言葉を選んだ修。即死を避けられると言えば聞こえはいいが、不死身になるわけではない。
「加護……まさかな」
その言葉が、かつて憧れた「神の使い」を連想させた。ザウリムは剣を薙ぎ、修の胸を斬りつける。
「大事な箇所を守る大層な能力だが、一撃で殺せないならそれでもいい。無数の傷をつけ、穴を空け、手足を斬り落とせば、流石に死ぬだろう」
ティオラスの弱点を見抜くザウリム。仮に死ななくとも、手足がなければ戦えない。
「このまま血溜まりを作って死んでいくか?」
斬りつけながら、ザウリムは問いかける。なんとか剣を受け止めた修が口を開く。
「断わ――」
返事を遮ったのは、脇腹に入った拳の一撃。ロイクの拘束に使っていた腕を、一本こちらに回したのだ。
仰け反った修を掴み、もう一度剣を刺そうとする。
「片方に集中しすぎだ」
背後から聞こえてきたロイクの声、ザウリムは振り向くことなく、紫の腕で対処しようとする。
「ぐっ……」
しかし背中を斬られ、鋭い痛みに顔を歪める。紫の腕一本だけでは、ロイクを止められなかったのだ。
「手が余るだのどうだのと言っていたな」もう一度斬りつけ、ロイクはこう綴った。
「片手間で俺を捌けると思うなよ」
ザウリムは振り向いてロイクの足首を掴み、遠くに投げ飛ばした。
「よそ見をするな!」
ザウリムの首が忙しく動く。修の方に顔を向けた瞬間、光弾が顔面に飛んできた。数歩ほど後退し、視界が遮られる。修はそのまま棒を薙ぎ、ザウリムに渾身の一撃を加えた。
初めて地面に倒れるザウリム。攻撃を重ねようとする修を紫の腕で殴り飛ばし、距離を取らせる。
腕一本は侮りすぎたと反省しながら、立ち上がるザウリム。この痛みは見くびった報いだと反省し、右腕を向けた。
「切り裂け……ディア・フーザ」
十字の風刃が放たれる。ロイクはウェンガルを振るい、修はリオン・サーガで受けることで、風の上級魔法を吸収した。
「失念していたわけじゃないだろう」
まっすぐ駆けていき、そのまま大剣で斬りかかるロイク。ザウリムは紫の手で白刃取りをし、言葉を返した。
「これで倒せればと思っただけだ」
ザウリムが剣を振るう。ロイクは持っていた剣を手放し、長剣を持ち直して受け止めた。
「二振りでようやく対等か」
二本の腕と剣が塞がっていることに気付いた修は、棒を伸ばした。その一撃はザウリムの眉間に激突し、体を仰け反らせた。
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