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第7話  役職に異常有り

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僕たちはあれからイスタの街の周辺でレベル上げをしていた。
なぜか街の施設がフル活用できるようになったので、効率はぐんと向上した。
コソコソ宿屋に忍び込む必要もないし、武器や道具屋で追い返されることも無くなった。
変な顔はされるけどね……。

魔物の素材によるお金稼ぎも順調で、1日あたり20?30ディナ程度だけど貯金もできていた。
お金が貯まったら僕の防具とオリヴィエの魔術具なんかを揃えたい。
まだ初期装備みたいなもんだからねぇ。

地道な魔物狩りの結果、僕とオリヴィエはそれぞれレベルが5になっていた。
そのおかげで複数の魔物が出てきても対処できるようになっていた。
グリーンスライムはもちろん、とげとげネズミ、ブルーラビットだって単体なら倒せる。
このエリアにいる限り、油断をしなければ敗けることはなさそうだ。


草原で魔物を探していると、さっそくブルーラビットに遭遇した。
運が良いことに1体だけだった。


「オリヴィエさん、クイックを!」
「わかりました!」


魔法で援護してもらった僕は、一気に魔物との間合いを詰めた。
驚いたブルーラビットはその場で飛び跳ねて、後ろ脚で僕を蹴りつけた。
その攻撃を盾で防いで、魔物の着地と同時にショートソードを突き立てた。
その一撃がキレイに首筋に突き刺さって、それが致命傷となったようだ。
危なげなく戦闘終了。
今回はびっくりするくらい簡単に倒せた。


「レインさん、お疲れ様です。腕を上げましたか?」
「いや、たまたまだと思う。普段なら3回くらいは当てないと倒せないもの」
「その『たまたま』が徐々に増えてますよね。あ、レベル上がりました」
「本当? よかったじゃない。」


オリヴィエはこれでレベル6だ。
さっそくステータスを確認してもらった。
彼女が言うにはこうらしい。

レベル 6
生命力 12  
魔力  30
攻撃力 2  
防御力 7 
素早さ 9

役職 プリースト

魔法 ヒール  
   クイック 
   プロテクション 


「魔法を覚えたようですね、プロテクションは確か……」
「いや、そんなことはどうでもいいんだ!」
「え、どうかしました?」
「役職が変わってる! シスターじゃなくなってる!」


オリヴィエが言うには、レベルやステータス次第で役職が変わるらしい。
有体に言えば出世したってやつだろう。
これに僕の心は大きく高鳴った。
なにせこの忌々しい役職から解放されるかもしれないのだ。
一刻も早く僕もレベルを上げたい。

え、プロテクション?
魔力2消費で防御力が上がるってさ、はいこの話おしまい。


それからの僕は、鬼気迫った形相だったとか。
魔物に対して「オレの未来の為に死んでくれ」とか呟いたりもしたらしい。
ごめんね、それなんかヤバい人だね。
でももう落ち着いたよ、ついさっきレベルが上がったから。
僕は不安と期待を抱きながら、じっくりとステータス画面を確認した。


レベル 5
生命力 16 
魔力  8  
攻撃力 10 
防御力 8  
素早さ 10 





役職  一線を越えてしまった変態

スニーク    2消費
インヴィシブル 3消費


なんだよぉお!
僕の期待を返せよぉおお!
一線を越えたって、より悪化してんじゃん!


「レインさん、役職が変わった恩恵か、見た目が変わりましたね」
「え、本当?! それは嬉しい。どう変わったの?」
「えっと、以前はヘソから下がギリ陰部って感じでした。それより下はハーフパンツを履いてましたね」
「そのギリ陰部ってのが良くわかんないけど、うん」


ほんとどういう状態に見えてるんだろう?
自分じゃ鏡を見ても全然わからないんだよね。


「今はですね、下はロングパンツを履いているように見えます」
「うん……で、肝心のズボンより上の部分は?」
「ギリ陰部ですね」
「やっぱりかよ、ちくしょぉおおお!」


布面積が増えた分、腰回りの露出がより目立つじゃん!
なんでより洗練された格好になるかなぁ?


「魔法も覚えたんですね、インヴィシブルですか」
「え、うん。そうだね」
「これは無警戒の相手に対してだけですが、姿を消せるものですね。便利ですよ」
「待って、この流れ前にもあった」
「そうですね、半裸の人物がスニークで足音を消して、インヴィシブルで姿を消して……」
「もう完全に危険人物だよね」


僕は一体どこへ向かっているんだろう。
身を立てられるくらいに強くなりたいだけなのに、なぜか変態加減ばかり伸びていく。
会話の途中でオリヴィエは背中を向けて、両手で体を抱きしめるようなポーズを取った。
急にどうしたんだろう?


「あぁ、レインさん。魔法で姿を消して私に何をする気ですか?!」
「え、何?」
「ダメです、こんな所でなんて。初めてはちゃんとした場所じゃないと!」
「待って、突然どうしたの。僕は魔法を唱えてなんかないよ」
「魔法の具体的な悪用法を言葉にしてみたんですが、試す気になりませんか?」
「ならないよ」
「残念です」


急に何を言い出すかと思えば。
オリヴィエは聖職者なんだよね?
その変わり身の早さは役者の方が適正あると思うよ。


「というか、オリヴィエさんは聖職者なのに禁欲さに欠けてない?」
「それはまぁ、私も多感な年頃なので。教会という重石も今はありませんから」
「もう少しお淑やかになろうよ」
「レインさんはギャップ好きなんですね? わかりました、参考にします」
「どうしよう、今すごく困ってる」


オリヴィエの謎の暴走が落ち着く気配を見せない。
今度女神様から直々に注意してもらおうかな。
神様の言葉ならちゃんと聞いてくれるだろうから。
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