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第9話  志向の指向性

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この前加入したグスタフ。
見た目もアレだし豪快な性格だしで、もっといい加減な人だと思ってたけど、戦闘ではすごく力になってくれた。
というか、本職って感じの人だった。


「オレが前衛を務める。基本的にはオレが先陣を切るから、リーダーはオレの攻撃を避けたヤツの対処や撃ち漏らしの相手を頼む」
「うん、わかった。グスタフさんの攻撃を避けた敵の相手だね」
「リーダーはショートソードを遣うようだが、それは前衛や偵察向きだ。中央にいるヤツは槍あたりがいい。いきなりは難しいだろうから、短槍あたりから始めるといい」
「武器屋のおじさんもそんな事言ってたなぁ。今度お店で探してみるよ」


いやほんと、すごく為になる話をしてくれる。
僕たちみたいな素人とは違うんだなぁ。
戦い方についても同じようにアドバイスをしてくれる。


「リーダー、中央はもっと視野を広くもって、臨機応変に動かないとダメだ。特に敵の動きを目で追っているウチは後手に回り続けてしまう」
「そうなんだ、でも目で追わないってどういうこと?」
「まずオレの動きを見てくれ。敵はオレの攻撃から避けようとするだろう? 太刀筋にもよるが大体は右、左、後ろのいずれかだ。あとは相手の筋肉や目線の動きで次の動きを予測する。着地点の目星まで着けば、オレとリーダーのコンビネーションで危険なく倒せるって寸法さ」
「へぇぇー。みんなそうやって戦ってるんだ? 勉強になるなぁ」


人は見かけによらないんだなぁ。
この言葉は見た目だけで窮地に陥った僕が言うのも変だけど。
でもその言葉通りの人だと思う。
グスタフは戦士職だから魔法が使えないんだけど、オリヴィエにもアドバイスをしてくれる。


「オリヴィエ、補助魔法ってのは考えなしにかけるものじゃない。例えばスピード系の魔法は接敵の寸前がベストだ」
「敵前で急に動きが早くなってしまうと、かけられた人が混乱しませんか?」
「そこは慣れというか、訓練かな。スピード系補助の恩恵は、単純な速度上昇じゃない。鈍足な動きに慣れた相手の目を、誤認させる点に大きなメリットがある。のんびり歩いてきた奴が、目の前に来た瞬間走り出したら対応できないだろ?」
「確かにおっしゃる通りですね。タイミングが肝なんですね?」
「理解が早くて助かるな。近々戦闘訓練をやってみようか」


オリヴィエも感心してるみたいだ。
魔法そのものに対してじゃなくて、あくまで魔法を受ける人の意見だ。
戦闘経験が多いからか、話にすごく説得力がある。

それから数日の間、引き続きイスタの街周辺でレベル上げを続けた。
それと同時にお金も貯まり、今は手元に300ディナもある。
武器屋に行くのが楽しみで仕方ない。
そんなある日、お昼時に食事を摂っていた時のこと。
グスタフがおもむろに話を切り出した。


「そういや、アンタらは旅の目的とかあんのかい?」
「目的は……特にないね。自活できるくらいに強くなる事が目的と言えば目的かな」
「私の目的はレインさんとゴールインすることです。子供は3人くらい欲しいです」
「え、故郷の街を救う話はどうなったの?」
「それも忘れてはいません。いませんが、物のついでというやつです」
「ついでなのはゴールインの方? それとも故郷の方?」


グスタフが弾けたように笑った。
この人は曇りのない笑い方をするから、見ていて気持ちよかったりはするけども、今はそれを求めてない。


「特に目的が無いってんなら、王都に行って武術大会に出るってのはどうだ?」
「大会? 僕らが出ても大丈夫なの?」
「今の練度じゃ厳しいが、訓練次第では良い線いくかもよ? 大会もルーキーとベテランで分かれてるから、駆け出しのヤツが出場しても平気さ」
「へぇ、それなら出てみてもいいかな」
「オレらには無理だろうが、大会で各部門の優勝者は国王陛下に拝謁できるんだ。賞金もタンマリだぞ?」


そんなものが催されてたなんて知らなかったよ。
何せ転生前は、生まれ育った村からほとんど出たことなかったし。
僕らじゃ勝ち上がるなんて無理だろうけど、その大会には興味が湧いた。

その後僕たちは王都へ進路を取ることにした。
まだ見ぬ大都市に期待を秘めながら。
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