249 / 266
第三部
3ー32 クライスさんはお怒りの様子
しおりを挟む
まおだら the 3rd
第32話 クライスさんはお怒りの様子
「まったくもって不十分。内政が何たるかを知らぬ者ばかりです」
執務室で、クライスが珍しく声を荒げた。
その弾みで机にそびえ立つ、2柱の生クリームの塔がプルプルと揺れる。
糖分に塗れる日々は相変わらずらしい。
オレはお前に節度を教えてやりたいよ。
「砂糖の備蓄が極めて少ない。この国の者たちは私が一日にどれだけ消費しているか知らないのでしょうか」
「知らねぇし、知る気もねぇ」
「まぁ、個人的に備蓄を山のように抱え込んでおりますので、全く問題ないのですが」
「じゃあ今の話は何だったんだよ。焼くぞ」
素朴な疑問だが、コイツをこんがり焼いたらどうなるんだ。
カルメ焼きみたいになんのか?
すっげぇ甘い臭いしそう。
「さて、微笑ましい冗談はさておき」
「全く笑えなかったぞ」
「さしあたって流通問題に対処すべきですな。取引相手がヤポーネだけでは少なすぎます」
「やっぱり厳しいよなぁ。グランやプリニシアとは断絶、ゴルディナは敵寄り。コロナは?」
「グランの支配下です。交易を望むなら一戦を交える必要があります」
それは現実的じゃない提案だ。
オレが直接出向けば陥とせるだろうが、その隙を突かれてレジスタリアが攻撃されかねない。
そうなると迎撃に難がある。
リタやアシュリーでは黒鉄兵とは戦えないし、エリシア一人に任せるには敵が多すぎる。
更にコロナが支配下になったとしたら、広大な領土をオレ一人で守る必要がでてしまう。
そんな危ない橋を渡るわけにはいかない。
「今は厳しいな。戦力が足りない」
「いまは勢力圏を広げるよりも、地固めすべきかと。統治が安定すれば国力も自然と上がるものです」
「でも、流通問題はどうするんだよ? 食い物が足りないのか?」
「食料に関しては、次の収穫まで持ちますので問題ありません。さらには農地拡大を奨励し、翌年以降の収穫量も増やします」
「じゃあ何がネックなんだよ」
「鉄です。軍備にしろ産業にしろ、鉄は必須です。それが国中で不足しております。まずはこの問題を解決しないことには、富国策など望めません」
鉄は原料も製品も不足しきっていた。
何せグランによって国中から巻き上げられ続けたのだから、解消にも時間がかかるだろう。
収容所にあった鉄板も全て回収したが、それでも焼け石に水だった。
更にはその中からヤポーネへの交易品も捻出するのだから、不足分を穴埋めするには少なすぎた。
「そうすると、やっぱりコロナに侵攻か……。うーん」
「領主様。獣亜連合と結ばれてはいかがですか?」
「じゅーあ連合? 知らねぇな」
「大陸北西部の豪雪地帯に、獣人と亜人だけで構成された国があります。現在はグランと交戦中のため、余分な鉄は少ないかも知れませんが」
「当たってみる価値はある、と。つうかそんな国ができてたんだな」
「まだ誕生して50年程ですが、中々に頑強です。兵は強く戦略的。自然環境を巧みに利用し、グランの猛攻を退け続けています。その勇猛な兵の中でも、グレートウルフを従えている青年の活躍が目覚ましいとか」
「なるほどね。味方を増やすと後々楽だし、試してみるか」
「北方に向かわれるのでしたら、土産をお願いします。氷結の湖畔という場所に珍しい果物が……」
「じゃあオレは行ってくる。留守は任せたぞ」
クライスの言葉が終わる前に部屋から飛び出した。
オレは遊びで行くんじゃねえってのに、当然のように名品を要求しやがる。
今度こっそりと、クソ苦い薬でもクリームに混ぜてやろうか。
とりとめもない企みがまとまる前に帰宅。
家に入ると、中にはアシュリーとエリシアが居た。
リタや子供たちの姿はない。
「他のみんなは?」
「ちょっと森の方に花を摘みに行ってますよ。飾るものを探して来るそうです」
「そっか。オレはこれから北の国へ出掛ける。3日くらいで帰ってくるから、リタにも伝えておいてくれ」
「りょーかいでっす。一人で?」
「いや、エリシアも連れていく。良いよな?」
「ライル、私に任せてヒロイン。誰が何と言おうとヒロインは私。頑張るヒロインし、いつも傍にヒロイン」
「何言ってんだお前。普通に喋れよ」
「ついてく」
「おう」
取り憑かれた様に連呼したけど、何があったんだよ。
またアシュリーに変な事でも吹き込まれたのか?
そう思って容疑者を見る。
そいつは口笛を吹く。
誤魔化せてないぞ。
「じゃあ行ってくるぞ。留守よろしくな」
「アシュリーさん。行ってくる。それから一発キメてくる」
「はいはーい、ご武運をー」
アシュリーとエリシアが意味深な目配せをする。
絶対何かあるだろ、怖ぇよ。
うっすらとだが、嫌な予感が止まらない。
それはエリシアを抱えて飛んでいる間も晴れなかった。
この寒気は、北に向かって移動しているからだと思いたい。
第32話 クライスさんはお怒りの様子
「まったくもって不十分。内政が何たるかを知らぬ者ばかりです」
執務室で、クライスが珍しく声を荒げた。
その弾みで机にそびえ立つ、2柱の生クリームの塔がプルプルと揺れる。
糖分に塗れる日々は相変わらずらしい。
オレはお前に節度を教えてやりたいよ。
「砂糖の備蓄が極めて少ない。この国の者たちは私が一日にどれだけ消費しているか知らないのでしょうか」
「知らねぇし、知る気もねぇ」
「まぁ、個人的に備蓄を山のように抱え込んでおりますので、全く問題ないのですが」
「じゃあ今の話は何だったんだよ。焼くぞ」
素朴な疑問だが、コイツをこんがり焼いたらどうなるんだ。
カルメ焼きみたいになんのか?
すっげぇ甘い臭いしそう。
「さて、微笑ましい冗談はさておき」
「全く笑えなかったぞ」
「さしあたって流通問題に対処すべきですな。取引相手がヤポーネだけでは少なすぎます」
「やっぱり厳しいよなぁ。グランやプリニシアとは断絶、ゴルディナは敵寄り。コロナは?」
「グランの支配下です。交易を望むなら一戦を交える必要があります」
それは現実的じゃない提案だ。
オレが直接出向けば陥とせるだろうが、その隙を突かれてレジスタリアが攻撃されかねない。
そうなると迎撃に難がある。
リタやアシュリーでは黒鉄兵とは戦えないし、エリシア一人に任せるには敵が多すぎる。
更にコロナが支配下になったとしたら、広大な領土をオレ一人で守る必要がでてしまう。
そんな危ない橋を渡るわけにはいかない。
「今は厳しいな。戦力が足りない」
「いまは勢力圏を広げるよりも、地固めすべきかと。統治が安定すれば国力も自然と上がるものです」
「でも、流通問題はどうするんだよ? 食い物が足りないのか?」
「食料に関しては、次の収穫まで持ちますので問題ありません。さらには農地拡大を奨励し、翌年以降の収穫量も増やします」
「じゃあ何がネックなんだよ」
「鉄です。軍備にしろ産業にしろ、鉄は必須です。それが国中で不足しております。まずはこの問題を解決しないことには、富国策など望めません」
鉄は原料も製品も不足しきっていた。
何せグランによって国中から巻き上げられ続けたのだから、解消にも時間がかかるだろう。
収容所にあった鉄板も全て回収したが、それでも焼け石に水だった。
更にはその中からヤポーネへの交易品も捻出するのだから、不足分を穴埋めするには少なすぎた。
「そうすると、やっぱりコロナに侵攻か……。うーん」
「領主様。獣亜連合と結ばれてはいかがですか?」
「じゅーあ連合? 知らねぇな」
「大陸北西部の豪雪地帯に、獣人と亜人だけで構成された国があります。現在はグランと交戦中のため、余分な鉄は少ないかも知れませんが」
「当たってみる価値はある、と。つうかそんな国ができてたんだな」
「まだ誕生して50年程ですが、中々に頑強です。兵は強く戦略的。自然環境を巧みに利用し、グランの猛攻を退け続けています。その勇猛な兵の中でも、グレートウルフを従えている青年の活躍が目覚ましいとか」
「なるほどね。味方を増やすと後々楽だし、試してみるか」
「北方に向かわれるのでしたら、土産をお願いします。氷結の湖畔という場所に珍しい果物が……」
「じゃあオレは行ってくる。留守は任せたぞ」
クライスの言葉が終わる前に部屋から飛び出した。
オレは遊びで行くんじゃねえってのに、当然のように名品を要求しやがる。
今度こっそりと、クソ苦い薬でもクリームに混ぜてやろうか。
とりとめもない企みがまとまる前に帰宅。
家に入ると、中にはアシュリーとエリシアが居た。
リタや子供たちの姿はない。
「他のみんなは?」
「ちょっと森の方に花を摘みに行ってますよ。飾るものを探して来るそうです」
「そっか。オレはこれから北の国へ出掛ける。3日くらいで帰ってくるから、リタにも伝えておいてくれ」
「りょーかいでっす。一人で?」
「いや、エリシアも連れていく。良いよな?」
「ライル、私に任せてヒロイン。誰が何と言おうとヒロインは私。頑張るヒロインし、いつも傍にヒロイン」
「何言ってんだお前。普通に喋れよ」
「ついてく」
「おう」
取り憑かれた様に連呼したけど、何があったんだよ。
またアシュリーに変な事でも吹き込まれたのか?
そう思って容疑者を見る。
そいつは口笛を吹く。
誤魔化せてないぞ。
「じゃあ行ってくるぞ。留守よろしくな」
「アシュリーさん。行ってくる。それから一発キメてくる」
「はいはーい、ご武運をー」
アシュリーとエリシアが意味深な目配せをする。
絶対何かあるだろ、怖ぇよ。
うっすらとだが、嫌な予感が止まらない。
それはエリシアを抱えて飛んでいる間も晴れなかった。
この寒気は、北に向かって移動しているからだと思いたい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる