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第5章 覇者時代

第96話  海の支配者

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レジスタリアの会議室はそうそうたる顔ぶれが揃っていた。

オレたち豊穣の森のメンバーやレジスタリアの奴らはもちろん、プリニシアの宰相、ロランの代表、ヤポーネからは月明が来てくれた。
そしてグランニア帝国の皇太子こと、アルノー将軍も交えて一堂に会していた。
もちろん有事の事態ということで、オレたちはここへ終結した。
『グランニア軍、8000の大軍にて進撃中』の報せが先日もたらされた。


戦況が芳しくないのか、明るい表情をしているものはおらず、ほぼ全員が渋面だった。
敵軍8000に対して、こちらはせいぜい1800程度。
前回と同様に厳しい戦いになる事が予想される。
プリニシアの宰相はしきりに額を掻き、アーデンも組んだ腕の上でせわしなく指先を動かしている。
クライスはというと……お前はその『お菓子の大聖堂』を片してこい、気が散るだろうが。



グランニア軍は前回のように速攻をかける動きではなく、粛々と街道沿いを進軍をしていた。
相手は魔法兵も十二分に連れているので、いつぞやのように幻術で撃退することは難しいとの事。
それにしても連中は『アルノーの弔い合戦』をうたっているが、どういう事なんだろう。
捕虜として預かっている事は正式に伝えていたのだが。
それらを聞いたアルノー本人は、少し寂しそうにするだけで何も言わなかった。


「魔王殿、今回は海軍も動いているはずだ。魔攻船が出撃したとの報告がある」
「なんだ、その魔攻船ってのは」
「魔力を大きな筒に込めて発射することの出来る大型船だ。こちらにまともな船が無い以上、海は制圧されてしまうだろう」
「海を取られるとなんかマズイのか?」
「今回の場合だと、レジスタリアが艦砲射撃を食らうだろう」
「カンポー射撃?」


おい、オレは元平民の素人なんだよ。
将軍でも武官でもないの。
あんま小難しい単語で話すなっての。


「魔王の旦那、艦砲射撃ってのは船からの攻撃でさぁ。レジスタリアの街が一方的に魔法で攻撃されるって話ですぜ」
「それは……。アシュリー、その攻撃を凌げるか?」
「前回みたいにロランならまだしも、レジスタリアだと森から離れちゃうんで……」
「さすがに無理、か」


レジスタリアはそもそも、豊穣の森を攻略するための拠点だった。
だから海への備えはしなかったらしい。
その課題を放置した結果がこの事態だ、我ながら大失態だな。

街に砲撃などさせるわけにはいかない。
せっかく復興が成功しかけているのに、再度の破壊など決して許される事ではない。
もしそうなれば、住民たちは生きる希望を捨ててしまうかもしれなかった。


「じゃあ海のほうは、オレが単騎で艦隊に突撃して……」
「ダメだぞ」
「ダメね」
「それだけはさせません」


なんだお前ら三人とも、息ピッタリじゃねぇか。
確かに前回ピンチになったけどさ。
今回はきっと大丈夫へーきへーき。


「海上の大艦隊相手に魔法攻撃なんて、無謀すぎますな。旦那には陸戦の方が戦力になりますって」
「そうかもしれんが、じゃあ誰が海軍の相手をするんだ?」
「フフフ、そういう事であれば妾に当てがあるぞ」


不敵な笑みを浮かべつつ発言したのは月明だ。
開いた扇の上から覗かせた瞳は、子供のような無邪気さを帯びている。
この申し出に少し気色ばんだのはアーデンだ。
軍歴が長いだけに、敵の強さが想像できるのだろう。


「要は船をこちらに近づけさせなければ良いのであろう? 造作もないことよ」
「いや、そりゃそうなんですがね。大型艦20隻、中小併せて100隻の大船団相手に戦える勢力なんて……」 
「雄壮なる人の子よ。この世の理に縛られすぎておるの。そんな事ではいつまで経っても嫁を見つけられぬぞ?」
「え、いや確かに募集中だけど。 今それは関係ないんじゃねえっすか!」


カラカラと愉しそうに笑う月明。
あんまりアーデンをからかわないでやって欲しい、これでも根は真面目なんだから。


「海の支配者は人ではない、神じゃ。ヤポーネがごとき小島がなぜ独立していられるか、此度はそれを教えたもうぞ」
「そんだけ自信があるなら、任せよう。状況次第ではオレが対処する。それでいいな?」
「妾は構わぬが、無用な心配じゃぞ魔王殿?」


そう言ってまたコロコロ笑う。
随分と上機嫌じゃないか、力の証明をできる事がそんなに嬉しいんだろうか。


海への対処が決まり、今度は陸だ。
前回のように各拠点に篭もる案は却下された。
都市や街が無事でも、少なくない家々や田畑が焼かれてしまう為のようだ。
自領に引き込むのではなく、どこかで撃退する必要があった。


グランニアとは連戦になるが、誰も文句を言おうとしない。
そして言葉にはしていないが、理解しているようだった。

この戦いが最後の大戦となる事を。
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