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第二部
2ー99 地の底で燻る
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まおダラ the 2nd
第99話 地の底で燻る
ーーピチョリ、ピチョリ。
水の滴り落ちる音が、辺りに響き渡る。
ここは地下の空洞。
陽の光が一切届く事の無い、地の底である。
ーーピチョリ、ピチョリ。
時報のように定期的に報せが届く。
その空気の振動は壁伝いに駆け回るが、逃げ道を見つけられず、やがて途中で力尽きる。
そのような静けさも、とある男の声によって様変わりした。
「いやぁ、参った! まさか追っ手が来ていようとはな!」
とても大柄で、身体のあちこちに戦傷を持つ男だ。
彼は手元のツルハシで肩を叩きつつ、豪快に笑った。
「正直、ギリギリでしたね。ツルハシの回収なんか後回しで良かったじゃないですか」
「何を言うか。掘削こそ私の任務。さすがの私も素手で水晶は掘れぬよ!」
「リスクと対価を考えてくださいって言ってるんです。僕が崩落させてなかったら、今頃は全員とも捕縛されてましたよ」
「うむ、それに関しては感謝している。復職となった暁には、お主を副官にしてやろう!」
ツルハシの男が大きく笑う。
狭い空間ではそれがよく響く。
話し相手の小男は相づちすら打たず、微かなため息をもらすのみだ。
頭痛でも感じたように、こめかみを押さえつつ。
そんな気安いやり取りも、とある女性の登場をもって終わりを告げた。
現れたのは二十歳をいくらか過ぎた、幼さを残した女性である。
「ハインス、グロウ、待たせたわね。準備が整ったわ」
「承知しました。それでは、急ぎ我が領地まで参りましょう」
「グロウよ。地上に出るのは良いが、そこは安全なのだろうな?」
「もちろんです。私の父がもしもの時の為に用意した、地図にも記されていない村ですから」
「うむ、うむ。あのお方の策であれば問題ないだろう。それにしても惜しい方を亡くしたものだ。あのお方の知略さえあれば今ごろは……」
「お喋りは後にして。行くわよ」
「御意」
ハインスと呼ばれた男を先頭にし、続いて女、最後にはグロウという小男が並んで進んだ。
ランプの明かりが暗い洞窟を照らす。
一寸先は闇のようだが、彼らの足取りは正確だった。
「それにしても流石の慧眼(けいがん)だ。コガン様はどれほどの手を打たれていたか、ワシには想像もできん」
「父は臆病だったのですよ。それ故に数えきれない程の策を用意し、その1つが活きただけです。この秘密の抜け穴も、失敗を恐れての事ですからね」
「だが、おかげで今も逃げおおせている。獣の国の連中は今ごろ、有りもしない死体を探しているだろう」
「あなたたち、声を落としなさい。どこに追跡の耳目(じもく)があるかわからないのよ?」
「も、申し訳ございませぬ」
女は慎重であったが、それは杞憂だった。
誰にも遭遇することはなく、歩みは進められたからだ。
代わり映えの無い暗路を、誰にも邪魔されずに粛々と歩む。
そしてようやく、ランプの灯りを遥かに上回る光が視界に映った。
地上への出口である。
「追っ手は、居ないな」
「ここは魔人と人族の領域の境界です。滅多に人の姿は見かけませんよ」
鬱蒼(うっそう)と繁る森の地面にポッカリと穴がひとつ空いている。
それが先程の出口であった。
グロウの言葉を証明するように、付近に人工物は見当たらない。
ハインスが安全を確認すると、全員が穴から抜け出した。
「問題ないようね。先を急ぎましょう」
「さぁ、我らの新たな門出だ! グロウよ、一刻も早く魔道具の開発を頼むぞ!」
「もちろんですよ。ハインスさんも水晶の採掘、頼みましたからね。実験にどれほど必要か見当もつきませんから」
「応ともよ、山のように掘り出してやるわ!」
こうして、森の奥へと3人は消えていった。
内政官グロウ、将軍ハインス。
そして、王女フェリシア。
後の大陸に多大な影響を及ぼす彼女たちであるが、この時はまだ逃亡者でしか無かった。
この逃走劇がどれほどの結果を生み出すのか。
それは気が遠くなる程に時が流れた後に、ようやく知ることになるのである。
第99話 地の底で燻る
ーーピチョリ、ピチョリ。
水の滴り落ちる音が、辺りに響き渡る。
ここは地下の空洞。
陽の光が一切届く事の無い、地の底である。
ーーピチョリ、ピチョリ。
時報のように定期的に報せが届く。
その空気の振動は壁伝いに駆け回るが、逃げ道を見つけられず、やがて途中で力尽きる。
そのような静けさも、とある男の声によって様変わりした。
「いやぁ、参った! まさか追っ手が来ていようとはな!」
とても大柄で、身体のあちこちに戦傷を持つ男だ。
彼は手元のツルハシで肩を叩きつつ、豪快に笑った。
「正直、ギリギリでしたね。ツルハシの回収なんか後回しで良かったじゃないですか」
「何を言うか。掘削こそ私の任務。さすがの私も素手で水晶は掘れぬよ!」
「リスクと対価を考えてくださいって言ってるんです。僕が崩落させてなかったら、今頃は全員とも捕縛されてましたよ」
「うむ、それに関しては感謝している。復職となった暁には、お主を副官にしてやろう!」
ツルハシの男が大きく笑う。
狭い空間ではそれがよく響く。
話し相手の小男は相づちすら打たず、微かなため息をもらすのみだ。
頭痛でも感じたように、こめかみを押さえつつ。
そんな気安いやり取りも、とある女性の登場をもって終わりを告げた。
現れたのは二十歳をいくらか過ぎた、幼さを残した女性である。
「ハインス、グロウ、待たせたわね。準備が整ったわ」
「承知しました。それでは、急ぎ我が領地まで参りましょう」
「グロウよ。地上に出るのは良いが、そこは安全なのだろうな?」
「もちろんです。私の父がもしもの時の為に用意した、地図にも記されていない村ですから」
「うむ、うむ。あのお方の策であれば問題ないだろう。それにしても惜しい方を亡くしたものだ。あのお方の知略さえあれば今ごろは……」
「お喋りは後にして。行くわよ」
「御意」
ハインスと呼ばれた男を先頭にし、続いて女、最後にはグロウという小男が並んで進んだ。
ランプの明かりが暗い洞窟を照らす。
一寸先は闇のようだが、彼らの足取りは正確だった。
「それにしても流石の慧眼(けいがん)だ。コガン様はどれほどの手を打たれていたか、ワシには想像もできん」
「父は臆病だったのですよ。それ故に数えきれない程の策を用意し、その1つが活きただけです。この秘密の抜け穴も、失敗を恐れての事ですからね」
「だが、おかげで今も逃げおおせている。獣の国の連中は今ごろ、有りもしない死体を探しているだろう」
「あなたたち、声を落としなさい。どこに追跡の耳目(じもく)があるかわからないのよ?」
「も、申し訳ございませぬ」
女は慎重であったが、それは杞憂だった。
誰にも遭遇することはなく、歩みは進められたからだ。
代わり映えの無い暗路を、誰にも邪魔されずに粛々と歩む。
そしてようやく、ランプの灯りを遥かに上回る光が視界に映った。
地上への出口である。
「追っ手は、居ないな」
「ここは魔人と人族の領域の境界です。滅多に人の姿は見かけませんよ」
鬱蒼(うっそう)と繁る森の地面にポッカリと穴がひとつ空いている。
それが先程の出口であった。
グロウの言葉を証明するように、付近に人工物は見当たらない。
ハインスが安全を確認すると、全員が穴から抜け出した。
「問題ないようね。先を急ぎましょう」
「さぁ、我らの新たな門出だ! グロウよ、一刻も早く魔道具の開発を頼むぞ!」
「もちろんですよ。ハインスさんも水晶の採掘、頼みましたからね。実験にどれほど必要か見当もつきませんから」
「応ともよ、山のように掘り出してやるわ!」
こうして、森の奥へと3人は消えていった。
内政官グロウ、将軍ハインス。
そして、王女フェリシア。
後の大陸に多大な影響を及ぼす彼女たちであるが、この時はまだ逃亡者でしか無かった。
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