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第三部
3ー1 ライル・レジスタリア
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まおダラ the 3rd
第一話 ライル・レジスタリア
勉学は大事と、人は言う。
学んだことは人生の財産になるんだとか。
疎(おろそ)かにすると将来に後悔するぞ、なんて脅す大人も居たりする。
だが、そんなありがたぁい助言の数々は全部無視だ。
今まさに実行中だったりする。
数十人が押し込められた学舎(まなびや)にて、今日も不快な時間が始まっている。
座学の授業と呼ばれる時間枠だが、それは驚くほどに中身がない。
だからオレはこうして最後列の机で、突っ伏して眠ろうとしている。
クソつまらん雑音を聞いているよりも遥かに有意義な過ごし方だ。
「結果としてレジスタリアには、魔王を初めとする武力集団が誕生しました。今からおよそ200年前の事件です」
教壇には若い女教師。
わざわざ上位国のプリニシアから招かれた『優秀』な先生だ。
そいつが分厚い本を片手に、いかにグラン王国が素晴らしいかを語る時間となっている。
今日ばかりは趣向を変えて、魔王について語るつもりらしい。
だがきっとロクな内容じゃないハズだ。
「さてここで、魔王ことアルフレッドは王を自称します。事実上の王位簒奪(おういさんだつ)という大犯罪ですね。当時の人族社会は一致団結して対抗しますが、凶悪な力を前にあえなく敗れてしまいます。その結果汚らわしい獣人、亜人が優遇される時代がやってきます。世に言う『暗黒時代』の幕開けです」
『暗黒』の部分だけ妙に強調された。
感情論で物事を教える教師ってどうよ。
何かの琴線に触れたのか、それ以降は語気も徐々に荒くなっていく。
熱心というより、狂信的な声色だと思った。
「この魔王は20年にもわたり大陸を支配します。着々と人族弾圧は進められ、亜人どもの勢力は拡大する一方です。このゴミカス野郎は喜ばしくも早世しますが、悲劇は終わりません。ゴミカスの娘が王位を継いだからです」
こんな思想の片寄った授業を真面目に受けている奴の気がしれないが、意外と少なくはない。
中には食い入るように話を聞き、ウンウンと頷く生徒さえいる。
教師に媚売って気に入られて、仕事の紹介を期待しているのかもしれない。
そう思うと、心にさざ波が立つ。
「先生はコイツが一番嫌いです! だってクソ弱いんですよ? それなのに王位や支配基盤を調子こいて継いじゃってさ? しかもろくな政治手腕も無い癖に。クズクズクズのゴミカス女! 豊穣の森という美しい森が荒れ果てたのも、全部このメスガキのせいなんです! シルヴィアっていう名ですけど、口にするのも汚らわしい。この時代に生きていたなら、すぐにでも手足を切り落として火炙(ひあぶ)りに……」
ーードゴォン!
オレの足元の床にヒビが入った。
つうか、オレが入れた。
周りはもちろんオレの方を見るが、咎(とが)めるような雰囲気は無い。
何せ超高速の足さばきだったから、犯人なんか判らんだろう。
「ええッ?! と、突然床が割れるなんて!」
「先生、ここはレジスタリアだ。あんまり魔王の事を貶(けな)すと災いが起きるぞ」
「……そんな訳無いでしょう。これは経年劣化というものですよ。極自然な自壊です」
「ふぅん。あっそ」
「というよりライル君。発言には気を付けなさい。魔王崇拝者は収容所送りですからね?」
「へいへい。そうでしたねー」
女教師が凄んで警告するが、オレの心には一切響かなかった。
何せここは三等国のレジスタリア。
国民全てが奴隷と大差ない暮らしを強いられている。
仮に収容所送りになったとしても、住む家が変わるだけだ。
「ええと、授業を続けますね。魔王軍には負け続きでしたが、人族はたゆまぬ研究を続けて様々な発明を……」
「ライル、ちょっと良い?」
隣に座る女が小声で話しかけてきた。
その時、相手の肩まで伸びた赤髪がサラッと揺れる。
半分閉じられたような瞳と、寝起きのようにとぼけた声。
こいつは幼馴染みのエリシアだ。
人によってはコレが好みらしく、愛らしいだの美人だのと褒めるヤツも居るらしい。
筋肉質で細身の体つきもフェチ魂をくすぐるんだとか。
腐れ縁のオレからすると、ただの眠たそうな友人なんだが。
「今の、ライルでしょ」
「さぁて。何のことですかねぇ」
「あなた、魔王伝好きだもんね。だから怒った」
「知らねぇもんは知らねえよ」
指摘の通りオレは偉人伝やらが好きだが、わざわざ抗議するほどじゃない。
ましてや魔王の肩を持てば即連行のうえ収容。
そこでは2度と陽の目を見れない暮らしが待っている。
それ自体怖くはねぇが、自ら身を落とす必要はないとも思う。
ーーそれなのに、何でだ?
思考がループ状態に入る。
自分でも理解できんが、あの時は無性に腹が立った。
まるで耳元で延々悪口を聞かされているような、説明できない不快感に襲われたからだが。
「訳わかんねぇ。何の怒りだよ」
「ライル。何か言った?」
「独り言だ。授業聞いてろ」
「あなただって聞いてない。説得力ナシ」
「オレは良いんだよ、学ぶ気ねぇから」
「そこの2人! ちゃんと聞きなさい!」
エリシアに絡まれ、対処してるとヒステリック教師に叱られる。
オレは善良なる睡客(すいきゃく)だってのに。
結局この日は眠れなかったぞクソが。
座学の後は実技。
今日は剣術の指導の日だ。
この時間になると教師や場所が変わる。
あからさまに学とやる気の無さそうなヤツが、実技の指導員だ。
覇気どころか魂の所在さえ危ぶまれる男。
そいつの『2人組作れー』との言葉を合図に、オレは木陰(こかげ)へと移動した。
もちろん寝るためだが、ここでも邪魔が入る。
「ライル。私と組んで」
「やだね。オレは寝る」
「お願い。他の連中じゃ相手にならない」
「そりゃお前がバケモンだからだろ。手加減ってもんを覚えろ」
「ひどい傷ついた」
「真顔で言うのやめろ」
「じゃあいくね」
「うおっ、あぶねっ!」
オレに向かって木刀が振り下ろされるが、身をよじって回避。
そもそも会話が繋がっていないという、ベーシックなツッコミすら入れる余裕が無い。
エリシアはスイッチが入ったらしく、目を見開いたままで連撃する。
普段は寝ぼけたような面の癖に。
仕方なく剣の相手になるが、正直言って腕前はコイツの方が圧倒的に上だ。
2、3合の打ち合いの後に一撃を食らう。
延々それの繰り返し。
「やっぱりライルは、良い。私と打ち合えるだなんて」
「打ち合いだと? この一方的すぎる残虐シーンの事か?」
「私は本気で打ってる。でも怪我ひとつしない。なんで?」
「んな事、オレが知りてぇよ!」
エリシアの言う通り、怪我どころか痛みすらない。
オレは生まれつき妙に頑丈だし怪力だった。
なので大抵のヤツと戦って負ける事はない。
こうして苦戦するのは本来珍しいが、技術の差ってのは大きいものらしい。
「死ねオラァッ!」
「甘い」
渾身の一撃が宙を切り、同時に脇腹に反撃を受ける。
身体は平気だが心が痛む。
「クソッ、何で当たらねぇ!」
「ライル。殺気が出すぎてる。それじゃあ太刀筋が読まれちゃう」
「講釈たれんじゃねぇ!」
ーースパァン!
小気味良い音、そして舞い散る木クズ。
互いの木刀がぶつかった瞬間、とうとうそれは砕けてしまった。
折れるどころか粉々になるとか、我が事ながら有り得んと思う。
「おい、どうした! 何のさわぎ……」
指導員の男が目を見開いた。
何せ頑丈な木刀がこの有り様だからな。
周りも異変に気付いてザワザワと騒ぎ出す。
面倒だから目立ちたくねぇってのに、この状況はかなり悪い。
「まさかお前ら、木刀を破壊したのか? どうやって!?」
「つうかコイツ、何度打たれても平気だったぞ」
「ありえねぇ……何もんだよ?」
ここへ来て数ヵ月の間、力を出さないように誤魔化してたが迂闊(うかつ)だった。
出まかせで良いから、何とかして取り繕わないとマズイ。
「これは木刀じゃない。フガシだぞ」
「……フガシって、ヤポーネの甘味の事か?」
「そうだ。何故かオレたちはこれを持たされた。だから打たれても平気だし、弾けもする」
「本当かよ。ちょっと食わせてみろ」
「やめとけ。口にしたら破裂して死ぬぞ」
「これはフガシじゃなかったのかよ!?」
それからも疑いの目は消えなかったが、制限時間に助けられた。
鐘が鳴り響き、今日の指導の終わりが告げられた。
詰問を諦めノロノロ立ち去っていく連中を見て、安堵の息が漏れる。
「ふぅ、何とかなったな」
「なってない。ビックリするくらい」
「良いんだよ。明日になりゃ忘れてるさ」
「ライル。気になってたけど、どうして力を隠すの?」
「……うん?」
「ここへ来てずっと隠してる。全力出せば注目と敬意が集まるのに」
「それはだな……」
理由は単純。
剣技だの体術だので好成績を残したら、兵士として徴兵されてしまうからだ。
配属先がレジスタリアなら良いが、強さ次第じゃプリニシアやグランに飛ばされる。
世間的には大出世でも、オレにとっちゃ流刑も同じ。
少なくとも、グランの奴らは大嫌いだ。
連中のために命がけで戦うだなんて、死んでも嫌だった。
これを一言で表すと……。
「めんどいから」
「そう。仕方ないね」
「ずいぶん素直だな。食い下がるかと思ったぞ」
「ライルがそれ言い出したら、もうお終い。何言ってもムダ」
「勝手に分析すんな」
「ともかく帰ろう。お腹すいた」
気がつくと、周りには誰もいなかった。
今日の授業も残っていないから、全員が帰ったんだろう。
ーーはぁ、めんどくせぇ。早く卒業してぇな。
この環境はともかく不愉快だ。
学校も、教師も、この窮屈な日々もそう。
本当にうんざりする。
修了まで残り3ヶ月。
それが何とも苦痛だが、今は時が過ぎるのを待つしかなかった。
第一話 ライル・レジスタリア
勉学は大事と、人は言う。
学んだことは人生の財産になるんだとか。
疎(おろそ)かにすると将来に後悔するぞ、なんて脅す大人も居たりする。
だが、そんなありがたぁい助言の数々は全部無視だ。
今まさに実行中だったりする。
数十人が押し込められた学舎(まなびや)にて、今日も不快な時間が始まっている。
座学の授業と呼ばれる時間枠だが、それは驚くほどに中身がない。
だからオレはこうして最後列の机で、突っ伏して眠ろうとしている。
クソつまらん雑音を聞いているよりも遥かに有意義な過ごし方だ。
「結果としてレジスタリアには、魔王を初めとする武力集団が誕生しました。今からおよそ200年前の事件です」
教壇には若い女教師。
わざわざ上位国のプリニシアから招かれた『優秀』な先生だ。
そいつが分厚い本を片手に、いかにグラン王国が素晴らしいかを語る時間となっている。
今日ばかりは趣向を変えて、魔王について語るつもりらしい。
だがきっとロクな内容じゃないハズだ。
「さてここで、魔王ことアルフレッドは王を自称します。事実上の王位簒奪(おういさんだつ)という大犯罪ですね。当時の人族社会は一致団結して対抗しますが、凶悪な力を前にあえなく敗れてしまいます。その結果汚らわしい獣人、亜人が優遇される時代がやってきます。世に言う『暗黒時代』の幕開けです」
『暗黒』の部分だけ妙に強調された。
感情論で物事を教える教師ってどうよ。
何かの琴線に触れたのか、それ以降は語気も徐々に荒くなっていく。
熱心というより、狂信的な声色だと思った。
「この魔王は20年にもわたり大陸を支配します。着々と人族弾圧は進められ、亜人どもの勢力は拡大する一方です。このゴミカス野郎は喜ばしくも早世しますが、悲劇は終わりません。ゴミカスの娘が王位を継いだからです」
こんな思想の片寄った授業を真面目に受けている奴の気がしれないが、意外と少なくはない。
中には食い入るように話を聞き、ウンウンと頷く生徒さえいる。
教師に媚売って気に入られて、仕事の紹介を期待しているのかもしれない。
そう思うと、心にさざ波が立つ。
「先生はコイツが一番嫌いです! だってクソ弱いんですよ? それなのに王位や支配基盤を調子こいて継いじゃってさ? しかもろくな政治手腕も無い癖に。クズクズクズのゴミカス女! 豊穣の森という美しい森が荒れ果てたのも、全部このメスガキのせいなんです! シルヴィアっていう名ですけど、口にするのも汚らわしい。この時代に生きていたなら、すぐにでも手足を切り落として火炙(ひあぶ)りに……」
ーードゴォン!
オレの足元の床にヒビが入った。
つうか、オレが入れた。
周りはもちろんオレの方を見るが、咎(とが)めるような雰囲気は無い。
何せ超高速の足さばきだったから、犯人なんか判らんだろう。
「ええッ?! と、突然床が割れるなんて!」
「先生、ここはレジスタリアだ。あんまり魔王の事を貶(けな)すと災いが起きるぞ」
「……そんな訳無いでしょう。これは経年劣化というものですよ。極自然な自壊です」
「ふぅん。あっそ」
「というよりライル君。発言には気を付けなさい。魔王崇拝者は収容所送りですからね?」
「へいへい。そうでしたねー」
女教師が凄んで警告するが、オレの心には一切響かなかった。
何せここは三等国のレジスタリア。
国民全てが奴隷と大差ない暮らしを強いられている。
仮に収容所送りになったとしても、住む家が変わるだけだ。
「ええと、授業を続けますね。魔王軍には負け続きでしたが、人族はたゆまぬ研究を続けて様々な発明を……」
「ライル、ちょっと良い?」
隣に座る女が小声で話しかけてきた。
その時、相手の肩まで伸びた赤髪がサラッと揺れる。
半分閉じられたような瞳と、寝起きのようにとぼけた声。
こいつは幼馴染みのエリシアだ。
人によってはコレが好みらしく、愛らしいだの美人だのと褒めるヤツも居るらしい。
筋肉質で細身の体つきもフェチ魂をくすぐるんだとか。
腐れ縁のオレからすると、ただの眠たそうな友人なんだが。
「今の、ライルでしょ」
「さぁて。何のことですかねぇ」
「あなた、魔王伝好きだもんね。だから怒った」
「知らねぇもんは知らねえよ」
指摘の通りオレは偉人伝やらが好きだが、わざわざ抗議するほどじゃない。
ましてや魔王の肩を持てば即連行のうえ収容。
そこでは2度と陽の目を見れない暮らしが待っている。
それ自体怖くはねぇが、自ら身を落とす必要はないとも思う。
ーーそれなのに、何でだ?
思考がループ状態に入る。
自分でも理解できんが、あの時は無性に腹が立った。
まるで耳元で延々悪口を聞かされているような、説明できない不快感に襲われたからだが。
「訳わかんねぇ。何の怒りだよ」
「ライル。何か言った?」
「独り言だ。授業聞いてろ」
「あなただって聞いてない。説得力ナシ」
「オレは良いんだよ、学ぶ気ねぇから」
「そこの2人! ちゃんと聞きなさい!」
エリシアに絡まれ、対処してるとヒステリック教師に叱られる。
オレは善良なる睡客(すいきゃく)だってのに。
結局この日は眠れなかったぞクソが。
座学の後は実技。
今日は剣術の指導の日だ。
この時間になると教師や場所が変わる。
あからさまに学とやる気の無さそうなヤツが、実技の指導員だ。
覇気どころか魂の所在さえ危ぶまれる男。
そいつの『2人組作れー』との言葉を合図に、オレは木陰(こかげ)へと移動した。
もちろん寝るためだが、ここでも邪魔が入る。
「ライル。私と組んで」
「やだね。オレは寝る」
「お願い。他の連中じゃ相手にならない」
「そりゃお前がバケモンだからだろ。手加減ってもんを覚えろ」
「ひどい傷ついた」
「真顔で言うのやめろ」
「じゃあいくね」
「うおっ、あぶねっ!」
オレに向かって木刀が振り下ろされるが、身をよじって回避。
そもそも会話が繋がっていないという、ベーシックなツッコミすら入れる余裕が無い。
エリシアはスイッチが入ったらしく、目を見開いたままで連撃する。
普段は寝ぼけたような面の癖に。
仕方なく剣の相手になるが、正直言って腕前はコイツの方が圧倒的に上だ。
2、3合の打ち合いの後に一撃を食らう。
延々それの繰り返し。
「やっぱりライルは、良い。私と打ち合えるだなんて」
「打ち合いだと? この一方的すぎる残虐シーンの事か?」
「私は本気で打ってる。でも怪我ひとつしない。なんで?」
「んな事、オレが知りてぇよ!」
エリシアの言う通り、怪我どころか痛みすらない。
オレは生まれつき妙に頑丈だし怪力だった。
なので大抵のヤツと戦って負ける事はない。
こうして苦戦するのは本来珍しいが、技術の差ってのは大きいものらしい。
「死ねオラァッ!」
「甘い」
渾身の一撃が宙を切り、同時に脇腹に反撃を受ける。
身体は平気だが心が痛む。
「クソッ、何で当たらねぇ!」
「ライル。殺気が出すぎてる。それじゃあ太刀筋が読まれちゃう」
「講釈たれんじゃねぇ!」
ーースパァン!
小気味良い音、そして舞い散る木クズ。
互いの木刀がぶつかった瞬間、とうとうそれは砕けてしまった。
折れるどころか粉々になるとか、我が事ながら有り得んと思う。
「おい、どうした! 何のさわぎ……」
指導員の男が目を見開いた。
何せ頑丈な木刀がこの有り様だからな。
周りも異変に気付いてザワザワと騒ぎ出す。
面倒だから目立ちたくねぇってのに、この状況はかなり悪い。
「まさかお前ら、木刀を破壊したのか? どうやって!?」
「つうかコイツ、何度打たれても平気だったぞ」
「ありえねぇ……何もんだよ?」
ここへ来て数ヵ月の間、力を出さないように誤魔化してたが迂闊(うかつ)だった。
出まかせで良いから、何とかして取り繕わないとマズイ。
「これは木刀じゃない。フガシだぞ」
「……フガシって、ヤポーネの甘味の事か?」
「そうだ。何故かオレたちはこれを持たされた。だから打たれても平気だし、弾けもする」
「本当かよ。ちょっと食わせてみろ」
「やめとけ。口にしたら破裂して死ぬぞ」
「これはフガシじゃなかったのかよ!?」
それからも疑いの目は消えなかったが、制限時間に助けられた。
鐘が鳴り響き、今日の指導の終わりが告げられた。
詰問を諦めノロノロ立ち去っていく連中を見て、安堵の息が漏れる。
「ふぅ、何とかなったな」
「なってない。ビックリするくらい」
「良いんだよ。明日になりゃ忘れてるさ」
「ライル。気になってたけど、どうして力を隠すの?」
「……うん?」
「ここへ来てずっと隠してる。全力出せば注目と敬意が集まるのに」
「それはだな……」
理由は単純。
剣技だの体術だので好成績を残したら、兵士として徴兵されてしまうからだ。
配属先がレジスタリアなら良いが、強さ次第じゃプリニシアやグランに飛ばされる。
世間的には大出世でも、オレにとっちゃ流刑も同じ。
少なくとも、グランの奴らは大嫌いだ。
連中のために命がけで戦うだなんて、死んでも嫌だった。
これを一言で表すと……。
「めんどいから」
「そう。仕方ないね」
「ずいぶん素直だな。食い下がるかと思ったぞ」
「ライルがそれ言い出したら、もうお終い。何言ってもムダ」
「勝手に分析すんな」
「ともかく帰ろう。お腹すいた」
気がつくと、周りには誰もいなかった。
今日の授業も残っていないから、全員が帰ったんだろう。
ーーはぁ、めんどくせぇ。早く卒業してぇな。
この環境はともかく不愉快だ。
学校も、教師も、この窮屈な日々もそう。
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修了まで残り3ヶ月。
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