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第四話

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タケルが異世界に転生して何が巻き起こるか。
何をしでかすか。

その答えは、皆無である。
少なくとも彼自信が自発的に動くことはない。
やる事と言えば、せいぜいが同居人たちとの触れあいくらいだ。

例えばニコラと。
台所で真剣に作業をする彼女を後ろから抱き締めてみたりする。


「あら、どうかしたの?」
「何してんのかなって」
「大したことしてないわ。ちょっと思い付きを試してるだけ」
「へぇ。どれどれ?」
「ヤダッ。恥ずかしいから見ないで」


頬を上気させながらニコラが手元を隠す。
指の隙間から垣間見えたのは、見慣れない草やツタ、動物のものらしき内臓、異様にカラフルなキノコなどなど。
それらがすり鉢の側に並べられていた。

ニコラはちょっと照れたように笑い、タケルの耳元で囁いた。


「今日の晩御飯は頑張っちゃうから。期待してて、ね?」


彼女が一体何に対して精を出すかは、もはや言うまい。
そろそろ3日だ、との言葉で十分であろう。


それからはステラに構う。
彼女の美しい髪を撫でようとする、が。


「てめぇぇ! 気安くさわんじゃねぇぇ!」


絶叫と共にナイフが振り上げられ、一直線にタケルの胸元へ突き立てられた。
鮮血が飛び散り辺りを赤く染めた。

だが、流石は神に愛されしチート能力者。
傷ができたそばから治り、瞬時に回復してしまう。
多少の出血はあるもののダメージは皆無。
そのせいで、ステラには毎日のように滅多刺しにされてしまう。
いくら切り刻んでも壊れるどころか修復される体は、彼女のお気に入りなのだ。


「たまんねぇ、お前の血はあったけぇよぉおお」
「今日も元気そうだね」
「アァァアアッ! ほんとに死なねぇ、何度ブッ刺しても死なねぇ!!」
「楽しんで貰えて何よりだよ」


気の済むまで刺し続けると、彼女は外へ出掛けていった。
もちろん奇声を発しながら。


そしてダイア。
今日は珍しく、外で日光浴をしていた。
普段は面倒がって寝室から出ないこともザラなのだが。


「やぁダイア。気持ち良さそうだね」
「ブモーモッモッ」
「へぇ、そうなんだ。うんうん」
「ブモモモ。ブーモ。ブモッ」
「本当かい? そりゃ驚いた!」
「ブブブゥブ、ブモモ!」
「ハァ……。何言ってるか全然わかんねぇや」


微笑ましい4人での暮らし。
大筋では変化する事なく、同じような日々ばかりが過ぎていく。
異様なまでに安定した世界であった。

だがそれもある日、大きな変化を迎えた。
それは地響きとともに始まる。

ドォオンと地が揺れ、しばらく経ってから再びドォオンと繰り返された。
何か巨大な飛来物でも落下したような音だった。
だがそれは『物』ではなく『者』なのだ。
証左するように争う声が聞こえてくる。


「追い詰めたぞ魔王! 今度こそ正義の刃で葬ってやる!」
「しつこいヤツラめ! ワシを本気にさせた事を後悔させてやる!」
「行くぞッ!」
「臓物を撒き散らして死ねぇ!」


運命の悪戯とは無慈悲である。
よりによって何かの命運を分ける戦いが、タケルの家の近くで幕開けたのだから。
これから起こる出来事とは何か。
それは恐らく、大多数の人が想像した結果に収束する事だろう。

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