出向先は恋の温泉地

ラムライ

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第23話:モデルの仕事-1(六月)

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「由佳ちゃん、足の具合はどう?」

あれから数日、女子寮での生活にも慣れてきた頃、僕は談話室で足首に包帯を巻いた由佳ちゃんの隣に座り、声をかけた。

「だいぶ良くなりました。まだ少し腫れてるんですけど、日常生活には支障ないです」

由佳ちゃんは、少し遠慮がちに微笑んだ。

「よかった。もうすぐ仕事に戻れるといいわね」 

その時、佐々木課長が寮にやってきた。

「こんばんは。足の具合はどうかしら?」

意外な登場に僕らは驚きながらも笑顔に挨拶し、由佳ちゃんは課長にも同じことを返答した。

「そう。実はね、小林さんでもできそうな仕事を考えてきたの。」
「私にもできそうな仕事ですか?」

由佳ちゃんが問い返すと、課長はニヤリと笑った。

「ええ。ホテルの広報誌に使う写真撮影をお願いしようと思って」

「写真撮影…ですか?」

由佳ちゃんが、少し不安そうな表情を浮かべた。

「ええ。カメラマンを使ってもいいけど、小林さんは、趣味でカメラよく使ってるし、前から一度お願いしてみようと思ってたの。」

「そして…」と続き、僕の方へ見つめてきた。

「モデルは鈴木くんにお願いしようと思って」

課長の言葉に、僕は目を丸くした。

「え?私がモデルですか?」
「そうよ。鈴木くんの女装姿は、もうすっかり皆に馴染んでるし、何より可愛いじゃない?」

課長は、いたずらっぽくウインクをした。

「私は構わないですが、由佳ちゃんの足はまだ…」

僕が心配そうに由佳ちゃんを見ると、彼女は少し申し訳なさそうに言った。

「大丈夫です、課長。あまり歩かないでならできます。私も、少しでもお役に立ちたいですし」

課長は頷き、「ありがとう、小林さん。でも、無理しないでね」

と、私たちを促した。

数日後、ホテルへ集合すると既に課長がいて、雑誌編集者数人と挨拶を交わしていた。友人同士のような談笑で、課長の顔の広さを感じた。


ホテルの制服はラメ入りで気品溢れるワンピースだった。会社のシンプルな制服よりも高そうに見えた。

「はーい、健美さん。さっき教えたモデル立ちを忘れずにねー」

僕の撮影が始まった。モデルとしてカメラの前に立つと、少し緊張してしまう。
編集者や由佳ちゃんの指示で笑顔を作ったり、ロビーやフロントで仕事をする姿など様々なポーズを取った。

「はい、素晴らしいです!鈴木さん、本当にモデルさんみたいですね!」

カメラマンの褒め言葉に、照れながらも嬉しくなった。
次はラウンジに移動しての撮影だった。飲み物をトレイに載せて歩くポーズだが、片足の踵を浮いた状態を保つのが大変だった。

(足が、痛い…)

しかもカーペットの上なので、支えている側のハイヒールがぐらついてしまい、飲み物を落としそうになる。

「健美さん、その角度、すごく綺麗です!」
「もう少し、頑張って下さい。リラックスした笑顔でお願いします」

由佳ちゃんの的確な指示や応援のおかげで、撮影はスムーズに進んだ。時折、彼女が心配そうに僕を気遣ってくれるのが、心温かかった。

「お疲れ様ー。これ、差し入れよ!」

撮影の合間には、あやかが飲み物を持ってきてくれたり、冗談を言って場を和ませてくれたりと、二人のサポートのおかげで、緊張もほぐれ、楽しく撮影に臨むことができた。

全ての撮影が終わり、へとへとになった僕に、課長は笑顔で言った。

「お疲れ様、鈴木くん、小林さん。素晴らしい写真が撮れましたよ!広報誌の完成が楽しみね」

「こちらこそ、ありがとうございました!」

僕と由佳ちゃんは、声を揃えて答えた。

予定された撮影が全て終わり、帰宅準備していたが課長と編集者が僕をチラ見しながら何やら話していた。

「課長、どうしたのかしら?私を見てる?」
「そうですねぇ。何かあったのかしら」

僕と由佳ちゃんが様子を伺うこと数分後、やっと課長がこちらに来た。

「鈴木くん、ちょっといいかしら?」

そう言うと、僕は人気の無いない場所に促された。

「はい…何でしょうか?」

またまた課長がニヤリと笑みを浮かべてきたので、僕は何かあると確信し、不安気に返事をした。

「編集長があなたを気に入ってくれて、このホテルには結婚式場があるのを知ったら提案があったの」

課長の言葉に、僕は嫌な予感がした。

「提案とは…?」
「お願いできないかしら?花嫁のモデル。鈴木さんは一般女性よりも背も高いし、きっとウェディングドレスも綺麗に着こなせると思うの」

課長の言葉に、僕は目を丸くした。

「ええっ!?ウェディングドレスですか!?そんなの、私には無理です!」

僕は、必死に抵抗した。男がウェディングドレスを着るなんて、考えられない。

「あらあら、そんなに嫌がらなくても。広報の一環なのよ。それに、着てみたら意外と似合うかもしれないわよ?」

課長は、全く取り合ってくれない。

「似合うとかそういう問題じゃなくて!私…男なんです…。ウェディングドレスなんて、絶対に嫌です!」

「まあまあ、落ち着いて。これも仕事なのよ。それに、お給料も弾むから、ね?」

課長は、まるで子供を宥めるように、優しい声で説得しようとする。

「お給料の問題じゃありません!第一、メイクだってどうするんですか!?」
「あら、心配ご無用。プロのヘアメイクさんもホテルにいるから。それに、せっかく綺麗な顔立ちをしているんだから、活かさない手はないでしょう?」

課長は、全く諦める様子がない。

「それにね、鈴木さんがウェディングドレスを着るってなったら、きっと話題になるわよ。広報効果も抜群じゃない?」

課長の言葉は、まるで悪魔の囁きのように聞こえた。

「話題になったとしても、私の立場はどうなるんですか!?」

僕は、必死に訴えた。

「大丈夫。みんな、面白い企画だって思ってくれるわ。それに、新しい扉を開くチャンスかもしれないじゃない?」

課長は、どこまでも楽観的だ。 

「新しい扉って…私は…!」

言葉を必死に探そうとした時、赤いラメので綺麗にした僕の唇は課長の人差し指で抑えられ、さらに親指も使って口紅が丁寧に拭われて、説得された。

「これも経験よ。たまにはプロのメイクもして。それに、こんな素敵なウェディングドレスを着られる機会なんて、そうそうないわよ?」

課長からドレスを着たモデルの画像を次々と見せられて、僕はぐっと言葉を詰まらせた。確かに、そうかもしれない…。

(でも…)

素の唇になってしまったまま葛藤する僕は課長の口紅で塗り直してもらいながら説得も続けられる。

「それに、小林さんも、今日までみんなに迷惑をかけていると思っているかもしれないわ。ここは一つ、あなたが協力してあげて、彼女の活躍を広げるのも、仲間としての大切な役目じゃないかしら?」

その言葉に、僕はハッとした。由佳ちゃんのことを思うと、無下に断ることもできない。
「……分かりました」

僕は、覚悟を決めて、小さく頷いた。

「ありがとう、鈴木さん!期待してるわ!」

僕の抵抗も虚しく、課長は満面の笑みを浮かべ、次の撮影は明日となった。
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