出向先は恋の温泉地

ラムライ

文字の大きさ
32 / 37

第32話:屈辱の影、希望のドレス(八月)

しおりを挟む
「鈴木さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう…」

小林由佳ちゃんは僕を心配してくれた。
あの日から、武田先輩からの直接的な嫌がらせから一転、言葉による遠距離攻撃に切り替わっていた。

「来た来た!いつも女とウロウロしているヤツが!」
「あいつは普段何してんだぁ?!」等

また、営業課だろう数人の部下達を引き連れていて、彼らを威圧で納得させてるように見えた。

「あの野郎…」

高橋あやかは怒りのあまり唇を噛み締めていた。朝早々、唇を綺麗に纏ったばかりの口紅が台無しになると思った時、佐々木課長はピシャリと叱り始めた。

「高橋さん!何ですかその口は!その汚い言葉も慎みなさい!貴女の悪い癖ですよ!」

彼女の豪快さや男勝りなところ、怒ると喋り方や仕草も荒々しくなるのは、課長も知ってるようだった。

「す、すみません。しかし、武田さんが…」

あやかは我に返り、顔色が噛み締めた部分の口紅と一緒に失った。

「…営業課長にも注意するように言いましたが、廊下で待ち伏せして、しかもあんな離れた所から…」

これが一週間ほど続いた。特に由佳ちゃんと一緒の時が、狙っているのか頻繁で日を追うごとに笑顔が失っていくのを感じた。それでも気遣いをする彼女の生真面目さに嬉しかったが、僕のせいで彼女を巻き込んでしまっている罪悪感や無力感が混じり、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。

「流石に…しばらく毎日OLとして勤務したほうが…」

武田先輩との接触を避けるため、男性の姿ではコピーや掃除、データ入力など部屋からでない雑務をしていたが、やれることに限りがあった。

「けど…今まで偶然武田に知られてなかったけど、もし知られたら…」

更なる嫌がらせを受けるだろう…。とオフィス内の皆が感じとれた時、静まる返る中一人の女性が元気よく訪れた。

「失礼しまーす!いつもお世話になっております村上理子と申しますぅ!突然で恐縮ですが課長の佐々木様と鈴木様はいらっしゃいますか?」

その姿はノースリーブの白いカッターシャツにサイドスリットが深いの黒いロングスカート。ピンヒールのサンダル、サングラスに高そうな金のネックレスやイヤリングをしていた。
突然ショーが始まり、主役が観客席の出入口から登場したかのように皆が一斉に振り向いた。近くにいた由佳ちゃんが迎える。

「はい…。貴女は確か…広報誌の編集長?」

由佳ちゃんは顔は覚えていたが、あの時は撮影に夢中で名前まで把握はしてなかった。そういえば、僕もだった。

「はい!あの時は大変お世話になりました。近くを通りかかったので立ち寄らせていただきましたが、お二人は?」

由佳ちゃんは応接用のソファに案内し、僕と課長も席から立ち上がり、向かった。

「あら、村上様。お暑い中ようこそ。ところで、今日は…?」

課長は見慣れた様子で飲み物を勧めた。

「いえ、休暇中だし、車で来たので。実は、あの広報誌で鈴木さんの写真がとても好評で、それで弊社から感謝の気持ちを込めて、これを鈴木さんに!これで御社の創立記念日のパーティーを楽しんで下さい!」

それは、深海をイメージした青く、スレンダーなタイトドレスとハイヒールだった。ノースリーブでVネックで胸元が開いていて、サイドスリットが深いスカートが上品に決まっていた。

「ありがとうございます。…っ!村上様、実は…」

課長は何かを思いつき、編集長に事情を話した。その時の課長は神妙な面持ちで頭を低くしていた。

「…と言う訳で、鈴木君の立場が揺らいでいる状態なのです。そこで相談なのですが今度のパーティーで功労賞の発表があって、鈴木君を上層部に推薦させようと思うのです。村上様からも社内で署名を集めていただけないかと…」

「なるほど…、分かりました!弊社の社員にお願いしてみます。ただ署名は勿論ですが、今度私からも御社の上層部へ伺いましょう!そして、皆でお願いするんです!」

「ありがとうございます!私からも直接、お願いに伺います!」

「あの…僕は背広でいいです。それに推薦だなんて…」

ドレス見た途端、雨が止みかけたような気持ちになったが、武田先輩を意識すると、分厚い雲からまた雨が降り注いでいた。

「鈴木君、何を怯えているの?」

「いえ、その…」

「貴方は何も間違ったことはしてないでしょう!それに、この広報誌は多くの人から評価されている。それがまだわからないの!?」

課長からの怒号が、僕の心にある厚い雲をひと突きしてくれた。

「鈴木君、貴方の貢献は、誰にも否定させない。あのドレスを着て、堂々と貴方自身を証明するのよ。誰かの心ない言葉に、貴方自身の輝きを曇らせてはいけないわ。このドレスは、貴方がもたらした価値の証よ。臆することなく、堂々と胸を張って、その舞台に立ちなさい。貴方が輝くことが、武田への何よりの反論になるわ」

「そうよ!私もついてるわ!

「何なら、さっきの編集長みたいな登場してみんなを驚かせましょう!」

みんなが雲を取り払ってくれる。味方の多さ、あまりの嬉しさに言葉にできなかったが、僕は頷いた。

「じゃあ決まりね!早速行動に移りましょう!」

編集長が帰った後、課長は早速社員を集めた。これまで僕がお世話になった人達にも協力を求めるようだ。

「明日、小林さん達はホテル側へ、高橋さん達は遠いけど出張先の協会へ協力を求めに伺って」

その後、あやかや由佳によるとみんな快く署名に応じてくれたそうだ。後日課長の他、署名簿を持った編集長、ホテルの支配人、協会会長が揃い、常務や人事部長らに頭を下げてお願いしてくれた。

「この広報誌の大反響のおかげで、化粧品やブライダル業界から彼に関する問い合わせや好評を頂いており発行部数も過去最大です」

「また、当ホテルの宿泊や結婚式の予約も増えていて、お客様からこれがきっかけで予約したとの声をアンケートやサンキューレターから頂いております。鈴木様の協力なしではあり得なかったことです」

「佐々木様から、鈴木君が足湯カフェのイベントで働いている浴衣姿の写真を背景しました。評判がとても良く、浴衣等は協会から寄付をいたします」

ただ候補者は武田先輩らもいて、各部署へのアピールが凄かった。そこで課長は自由に歩けない僕の為に嘆願書まで提出してくれた。

果たして…結果は…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

リアルフェイスマスク

廣瀬純七
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...