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本編
13、シオンとメイドとペンダント
しおりを挟むルークに、今日は帰りが遅くなるから先に寝てていいと言われた。
でもいつもおやすみと言い合って一緒に寝るから、ルークの言いつけを守らずに待つことにした。
ルークの部屋のベッドで、課題として出された本を読む。ルークの部屋のベッドは、一人で寝るには十分過ぎるくらい広くて、逆に身の置き場に困ってしまう。
1時間以上読み更けているとふと、洗礼の日を思い出した。
司祭様に「かなり魔力量がありますね」と言われた時、天にも登るような気持ちになった。
早くルークに伝えたくて、そうしたらルークは扉のすぐ外で待っていてくれて、二重にうれしくてルークに飛び付いた。
でも司祭様があの綺麗な人の話をし始めたら、心の中がざわめき出した。
ルークはあまり気付いてないようだったけど、あの司祭様はお孫さんをルークの婚約者にしたがっていたようだった。
ロズリーヌ様は綺麗で優しそうで、いつかルークもあんな人と結婚するのかな。
ダーナー先生と一緒に勉強して、色んなことがわかっていくと平民と貴族の違いを思い知る。しかも僕は奴隷で、その差はもっと大きい。
ルークは貴族の中でも身分が高くて、結婚して子どもを作ってお家を繁栄させていかなければいけない。
そんな考えが浮かんだら、足元がぐらついて気分が悪くなった。
モヤモヤしたものが胸の中を占領して、早くその場から去りたかった。
その願いが届いたのか、ルークはさっさと話を切り上げて教会を後にしてくれた。
屋敷ではロズリーヌ様の話題が出る事なく、ひたすら僕の魔力の高さを褒めてくれて、胸のモヤモヤは全てなくなった訳ではないけど、僕からロズリーヌ様の話題を出す事はせずに嫌な気持ちに蓋をする。
その蓋が開かないように、勉強で気を紛らわす。
今は魔法を使えるようになる為に神聖語を勉強中だ。
文字を覚えるのは楽しいし、魔法も使えるようになるという期待値で、もっと楽しく勉強が出来ている。
もう少し頑張ろうとしたが眠気が襲って来て、欠伸が自然に出てしまう。
本の文字がボヤけてきて、目を擦ってもう一度読もうとしても、目が乾いているみたいに違和感がある。
もう限界かな…
寝ようと思った時、部屋のドアがノックされた。
ルークが帰って来たのかと一瞬期待したけど、すぐに女の人の声が聞こえてきた。
お茶を持って来たので入っていいかと聞かれて、勿論と答えたらミーナさんが入って来た。
ミーナさんに会うのは久しぶりだ。
少し前まで、ずーっと一緒にいてくれたけど、最近は忙しいのか僕と一緒にいてくれるメイドさんは日毎に違う。
だから久しぶりに会えて嬉しくなった。
「ナイトティーですね」
「ふふ、ベッドに入られているので正確にはナイトティーではありませんが、リキュールを少し入れてあります」
渡された紅茶は見慣れない色をしていて匂いも独特だった。
一口飲んでみたが、舌がピリッとして口に合わなそうだった。
お酒が入っているからきっと僕にはまだ早いのだろう。
ミーナさんには申し訳ないけど、お茶をサイドテーブルに置いて話しかけた。
「ここしばらくミーナさんにあまり会えなくて、寂しかったです」
「えぇ、私もですよ」
ここで働く人たちはとても優秀だ。
テキパキと動いては、行動を先読みした気遣い、淡々とこなす姿は理想的な使用人の姿だ。
でも僕にはそれが少し寂しくて、ニッコリ笑ってはたわいも無い話をしてくれるミーナさんが好きだ。
最近色々勉強して、今度魔法の実技も教えてもらうことを話したかったけど、お茶を飲んだのにさっきより眠気が強くなってきて、うとうとしてきた。
「ルーク様はまだお戻りにならないでしょう…さぁさぁ横になってください。あと寝る時にペンダントをかけたままでは危ないですから外してください」
「でも、ルークが、いつも付けてって…」
「近くに置いとけばいいでしょう?ルーク様もそのような意味で言ってたと思いますよ?」
そう…なのかな?
眠りの中に引き込もうとしてくる睡魔が、考えるのを邪魔してくる。
ミーナさんに言われるがままに、首に掛けてあるペンダントを差し出された掌に乗せた。
ペンダントには凄く綺麗な石が付いている。
光を色々な角度で当てることによって、水色に光ったり黄色く光ったり、七つの色を持つ石と言われてるらしい。
僕の記憶は、その石がランプの灯りに照らされて、赤く輝いているのが見えたところで終わっている。
「何でアンタがここにいんのよ…」
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