幼馴染の陰謀で魔王城に拉致された聖女は魔界の乗っ取りを企てましたが魔王は意外といいひとだったので仲良くやっているようです

かにくくり

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第45話 手を取り合おう

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 アザトースさん率いる魔王軍は瞬く間にゾーランド公爵領に侵入。
 そのまま空から住宅地へと向かった。

「あ、あれは何だ!?」

「魔族だ! 魔族の軍団まで攻めてきやがった!」

 空を覆わんばかりの魔族の大軍を目にした民衆はこの世の終りがやってきたかのように悲痛な声を上げる。

 このままでは領内の民が大混乱に陥る。
 私達が人間を襲いに来たのではない事を説明しなくては。

 私はアザトースさんに頼んで、住宅地から少し離れた所に降りて貰った。

 民衆達は建物の陰に身を隠しながら私達の様子を遠巻きに伺う。

 私はアザトースさんから離れてひとりで民衆達に歩み寄りながら叫ぶ。

「皆さん落ち着いて下さい! 彼らはあなた達を襲いに来たのではありません! ゾーランド公爵の屋敷跡から現れたという異形の者を討伐しに来ました!」

 民衆達は私の姿を見てざわつく。

「あ、あれは……聖女シェリナ様じゃないのか?」

「そうだ間違いない。行方不明だと聞いていたが、戻ってきてくれたのか」

「しかしどうして魔族と一緒にいるんだ? まさか……」

「見ろよあの漆黒の翼に大きな角……噂に聞く魔王じゃないのか?」

 民衆達は怪訝そうに私とアザトースさんを見つめる。
 行方不明になっていた聖女が突然魔族を引き連れて戻ってきたんだ。
 当然良からぬ事を疑うよね。

 でもここで魔族達は敵ではない事を分かって貰わないと、最悪ゾーランドの兵士達が魔族の皆に攻撃を始めてしまう。

「皆さん、聞いて下さい! 彼らは敵ではありま──」

「まさか、聖女様は破邪の力で魔王を手懐けられたのか!?」
「きっとそうだ。さすがは俺達の聖女シェリナ様だ!」
「あの異形の者達も聖女様が退治してくれるんですよね!」

「……は?」

 いやいや、そんな訳ないでしょう。
 私はアザトースさんに保護されている身だ。
 それを手懐けただなんて、アザトースさんに失礼にも程がある。
 アザトースさんを怒らせたら私にだって止められるかどうか分からないよ?

 私は冷や汗をたらしながら後ろを振り向く。

「まあそう言う事にしておけばいい」

 アザトースさんは全然気にもしていないどころか、説得する手間が省けた位にしか考えていなかった。

 いや、仮にも魔王なんだからそこは気にしてよ。

 何はともあれ魔族が敵ではないと理解した民衆達は、今までの狼狽えぶりが嘘のように安心しきった表情で私の周りに駆け寄ってくる。

「聖女様、異形の者達はこの先に集まっています。どうかこの国をお守り下さい!」

「はい、それは勿論です。それでは皆さん集まって下さい」

 私は魔族の皆さんを集めると、満を持して激励の歌を口ずさむ。

「ルー、ルー……」

 その歌声を耳にした者は一定期間肉体が大幅に強化される。

 強化されるのは魔族達だけではない。
 近くで私の歌を聞いていたゾーランドの兵士や、日頃は戦いとは無縁な民衆達も瞬く間に一流の戦士になる。

 これで戦闘準備は万全だ。

「それでは皆さん、人間と魔族、双方力を合わせてこの危機を乗り切りましょう」

「おおー!」

 人間と魔族の混成軍は異形の者が集まっているというゾーランド公爵の屋敷跡へと足を進めた。

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