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第25話 いつでも全力で
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「敵襲ーーッ!」
見張り台の兵士の叫び声で要塞内が慌ただしくなる。
ついに私がここにいることが王国軍に知られてしまったようだ。
シャロッテさんとの話を一旦中断し、見張り台へ移動する。
周囲を見渡すと既に要塞は王国軍に取り囲まれていた。
包囲軍の中から、一際立派な白髭を蓄えた老将軍が前に出る。
「ラヴィオール辺境伯、悪魔の子がそこにいるのは分かっている。今すぐ我々に引き渡せば罪には問わぬ。だが匿うつもりなら裏切り者として討たねばならん」
騎士アスタリスが私に老将軍についての解説を始める。
「セーナ様、彼は帝国との国境を守備していたペルート将軍です。アイリーゼに王国を乗っ取られた今、国境に守備兵を配置する必要がなくなったので、こちらに回されたのでしょう」
「悪魔の子ってセーナさんのことなんですか?王国の敵だったんですか?」
いつの間にか見張り台に上ってきていたシャロッテが私の顔を覗き込み、疑いの目で問いかける。
彼女は王国に仕える聖女だ。返答次第では彼女も敵に回りかねない。
「違います。私は今の時代の王国の聖女です。王国軍は帝国の聖女アイリーゼに洗脳されて、私のことを悪魔だと思わされているんです」
「今の時代?さっきからあなた達が言っている事はどうもよく分かりません。やましいことがないのなら、全部話してくれませんか」
こんなところで口論していても仕方が無い。私は仕方なく自分が把握している限り状況の説明をする。
シャロッテが氷漬けにされて何百年も眠り続けていたこと、それを私たちが目覚めさせたこと、言い伝えではシャロットは王国に反旗を翻した逆賊扱いをされていること、そして私がこの世界にやってきてから今までのこと。
「……私もシャロッテさんと同じような立場なんです」
「……」
シャロッテは押し黙り、目を閉じて思考をめぐらせている。
「いきなりこんなことを言われても信じてもらえないかもしれないけど、全部本当のことよ」
「……セーナさんといいましたね。あなたも聖女だというのなら、それを証明してください。それができれば信じましょう」
「証明?どうやっ……えっ!?」
「せいっ!」
言い終わる前に、シャロッテは私の顔面に正拳を打ち込む。
「……ッ!」
私はそれをかろうじて両腕で受け止めるが、その衝撃で後ろの壁まで飛ばされ、その壁はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「痛ッ……今の一撃で腕が痺れてる。力だけなら私よりもシャロッテの方が上?」
追撃が来たら次は耐えられないかもしれない。
しかし、彼女からの二撃目は来なかった。
「わたしの一撃を受け止められるということは、あなたもマッスィーヴ神のお力を宿しているということ。嘘ではなかったみたいですね」
どうやら信じてもらえたようだ。
しかし、拳で語り合って和解するとか、まるで昭和の不良漫画だ。
「それじゃあまずはここを包囲している兵士を何とかしましょう。危ないのでわたしから離れていた方がいいですよ」
「え?ちょっ……」
シャロッテは要塞を包囲している兵士達に向かって突っ込んでいこうとしたところを、私が咄嗟に抱き止める。
「セーナさん、どうして止めるんですか?」
「シャロッテさん、今何をしようと……」
「何って……敵将をやっつけようとしただけですけど」
今、シャロッテは力の加減を一切していなかった。
もしあのまま包囲軍の中に突っ込んで行ったら、直線上にいた兵士達は間違いなく死んでいた。
「彼らは洗脳されているだけです。何も殺す必要は無いでしょう」
「別に彼らを皆殺しにするつもりはありません。ペルート将軍でしたっけ?あの指揮官さえやっつけてしまえば兵たちは退きます」
「いくらなんでも本気で突っ込んでいったら大勢の兵士が巻き込まれてしまいます。もっと手加減をしないと」
「手加減……?」
シャロッテは本気で理解できないという表情を見せる。
これは、もしかして……。
「あの、シャロッテさん。聖女になった後、力の制御をする練習とかしませんでした?」
「練習ですか。そうですね、最初は力がありすぎて普通に歩くだけでも大変だったけど、それはすぐに慣れました。その後すぐ魔族との戦いに駆り出されたので、それ以外は特に何も」
……そうか、そう言うことだったのだ。
シャロッテは力の制御方法を知らない。そもそも、制御するという発想自体が無いのだ。
もし包囲軍と戦わせたら、相手側の被害は甚大なものになるだろう。
いや、あの調子だと味方も巻き込みかねない。
ひょっとして、数百年前の魔族との戦争でも実際に大勢の味方を巻き込んでいた?
だとしたら……ここはシャロッテには任せられない。
私が何とかするしかない。
「包囲軍は私が何とかしますので、シャロッテさんはそこで見ていてください」
見張り台の兵士の叫び声で要塞内が慌ただしくなる。
ついに私がここにいることが王国軍に知られてしまったようだ。
シャロッテさんとの話を一旦中断し、見張り台へ移動する。
周囲を見渡すと既に要塞は王国軍に取り囲まれていた。
包囲軍の中から、一際立派な白髭を蓄えた老将軍が前に出る。
「ラヴィオール辺境伯、悪魔の子がそこにいるのは分かっている。今すぐ我々に引き渡せば罪には問わぬ。だが匿うつもりなら裏切り者として討たねばならん」
騎士アスタリスが私に老将軍についての解説を始める。
「セーナ様、彼は帝国との国境を守備していたペルート将軍です。アイリーゼに王国を乗っ取られた今、国境に守備兵を配置する必要がなくなったので、こちらに回されたのでしょう」
「悪魔の子ってセーナさんのことなんですか?王国の敵だったんですか?」
いつの間にか見張り台に上ってきていたシャロッテが私の顔を覗き込み、疑いの目で問いかける。
彼女は王国に仕える聖女だ。返答次第では彼女も敵に回りかねない。
「違います。私は今の時代の王国の聖女です。王国軍は帝国の聖女アイリーゼに洗脳されて、私のことを悪魔だと思わされているんです」
「今の時代?さっきからあなた達が言っている事はどうもよく分かりません。やましいことがないのなら、全部話してくれませんか」
こんなところで口論していても仕方が無い。私は仕方なく自分が把握している限り状況の説明をする。
シャロッテが氷漬けにされて何百年も眠り続けていたこと、それを私たちが目覚めさせたこと、言い伝えではシャロットは王国に反旗を翻した逆賊扱いをされていること、そして私がこの世界にやってきてから今までのこと。
「……私もシャロッテさんと同じような立場なんです」
「……」
シャロッテは押し黙り、目を閉じて思考をめぐらせている。
「いきなりこんなことを言われても信じてもらえないかもしれないけど、全部本当のことよ」
「……セーナさんといいましたね。あなたも聖女だというのなら、それを証明してください。それができれば信じましょう」
「証明?どうやっ……えっ!?」
「せいっ!」
言い終わる前に、シャロッテは私の顔面に正拳を打ち込む。
「……ッ!」
私はそれをかろうじて両腕で受け止めるが、その衝撃で後ろの壁まで飛ばされ、その壁はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「痛ッ……今の一撃で腕が痺れてる。力だけなら私よりもシャロッテの方が上?」
追撃が来たら次は耐えられないかもしれない。
しかし、彼女からの二撃目は来なかった。
「わたしの一撃を受け止められるということは、あなたもマッスィーヴ神のお力を宿しているということ。嘘ではなかったみたいですね」
どうやら信じてもらえたようだ。
しかし、拳で語り合って和解するとか、まるで昭和の不良漫画だ。
「それじゃあまずはここを包囲している兵士を何とかしましょう。危ないのでわたしから離れていた方がいいですよ」
「え?ちょっ……」
シャロッテは要塞を包囲している兵士達に向かって突っ込んでいこうとしたところを、私が咄嗟に抱き止める。
「セーナさん、どうして止めるんですか?」
「シャロッテさん、今何をしようと……」
「何って……敵将をやっつけようとしただけですけど」
今、シャロッテは力の加減を一切していなかった。
もしあのまま包囲軍の中に突っ込んで行ったら、直線上にいた兵士達は間違いなく死んでいた。
「彼らは洗脳されているだけです。何も殺す必要は無いでしょう」
「別に彼らを皆殺しにするつもりはありません。ペルート将軍でしたっけ?あの指揮官さえやっつけてしまえば兵たちは退きます」
「いくらなんでも本気で突っ込んでいったら大勢の兵士が巻き込まれてしまいます。もっと手加減をしないと」
「手加減……?」
シャロッテは本気で理解できないという表情を見せる。
これは、もしかして……。
「あの、シャロッテさん。聖女になった後、力の制御をする練習とかしませんでした?」
「練習ですか。そうですね、最初は力がありすぎて普通に歩くだけでも大変だったけど、それはすぐに慣れました。その後すぐ魔族との戦いに駆り出されたので、それ以外は特に何も」
……そうか、そう言うことだったのだ。
シャロッテは力の制御方法を知らない。そもそも、制御するという発想自体が無いのだ。
もし包囲軍と戦わせたら、相手側の被害は甚大なものになるだろう。
いや、あの調子だと味方も巻き込みかねない。
ひょっとして、数百年前の魔族との戦争でも実際に大勢の味方を巻き込んでいた?
だとしたら……ここはシャロッテには任せられない。
私が何とかするしかない。
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