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第3話 戦闘以外なら役に立つこともある

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 ゴゴゴゴ……

 結界の中で休息をとっていると、下層から地鳴りのような音が鳴り響いた。

「ねえ、何の音かしら?」

 もし大地震が起きてダンジョンが崩壊しようものなら全滅は必至だ。
 魔法使いのラメアの心配そうな顔を見て、戦士アノムスが笑って答える。

「ああ、そういえばこのダンジョンの奥には蠕虫ワームが生息してるそうだ。今朝、ギルドの掲示板に討伐依頼書が貼られているのを見たぜ」

 蠕虫ワームとは、体が細長く主に地面を掘って進む魔物で、種類によって大きさや強さもピンキリだ。
 この音は蠕虫ワームが土中を移動する音だという。
 それはそれで危険な気がするが、古今東西蠕虫ワームが原因でダンジョンが崩壊したという話は聞いたことがない。
 それならば恐らく大丈夫だろう。

 しかし魔法使いラメアは深くため息をつき、心底不快そうな表情を見せる。

「あいつら見た目もキモいし耐久力もあるし、できれば遭遇エンカウントしたくないわ」

 気持ちは分からないでもない。

「おいチェイン、ポーションはあとどのくらい残ってる?」

 戦闘で役に立たない俺は、戦闘以外の雑用全般を任されている。
 荷物持ちは当然として、野営の準備や宿の手配、消費アイテムの管理も俺の仕事だ。

「あと半分くらい残ってる」

「そうか、ぎりぎりだな。目標のお宝はこの先にあるはずだ。さっさと回収して帰ろう」

 俺としては今日中にでも10000ポイントまで到達したかったところだが、帰り道の事を考えると回復アイテムの数が半分になった時点で引き返すというリーダーの判断は正しい。
 戻る途中の戦闘でポイントが貯まる事もあるしね。
 これまで5年間も我慢し続けてきたんだ。後2、3日先延ばしになったところで大した問題ではない。

「チェインさん、どんな魔法が習得できるか楽しみですね」

 治癒士ヒーラーのプラリスが優しく微笑みかける。

 彼女にはいつも世話になった。
 何せ身体能力が初期状態レベル1の俺はそこいらの魔物の攻撃を一発受けただけで瀕死になる。
 その度に彼女の治癒魔法の世話になってきた。
 今まで迷惑をかけてきた分を返す為にも、最上位はちゃんとした魔法であって欲しいと心から願う。


◇◇◇◇


 パーティの疲労も回復し、休憩していた場所から少し先へ進むと広い部屋に出た。
 部屋の真ん中には豪華な装飾を施された宝箱がポツンと置いてある。
 ジェラルドは依頼人から渡された宝の地図を確認する。

「間違いない、あの宝箱だ」

 しかし俺は違和感を覚えた。
 宝箱を守っている魔物が見当たらないのだ。

 魔物もおらず、場所も分かっているのに未だに中身が回収されていないという事は、答えは一つだ。
 この宝箱には罠が仕掛けられている。

「よし、チェイン。宝箱を開けろ」

「ああ」

 宝箱を開けるのはいつも俺の役目だ。
 俺はシーフの様な特別なスキルは持っていないが、何度もやらされて失敗を繰り返す内に罠にも詳しくなってしまった。
 罠にも沢山の種類があり、簡単なものでは毒針、複雑なものでは開けた途端に毒ガスが流れ出るものや、大爆発を起こすものまである。
 宝箱そのものがモンスターの擬態という場合もある。

 ジェラルド以外のメンバーは万が一罠が発動した時に巻き込まれないよう、宝箱から少し離れたところで待機をする。

「もしあれが魔物の擬態だったらお前死んじまうもんな。俺が護衛してやるよ」

 今日は珍しくジェラルドが付いてきてくれるそうだ。これは心強い。
 俺は背負っていた荷物を床に置くと、おもむろに宝箱に近づき、念入りに周りに罠が無いかを確認する。
 周りに不審な点が無いことを確認すると、鍵穴に針金を差し込んで、針金から手に伝わる感触を頼りに慎重に宝箱の内部を探る。
 
 カチャリ

 宝箱は簡単に開いた。
 意外にも罠は無かったようだ。
 中に入っていたのは古ぼけた書物だった。

「ご苦労だったなチェイン。さっさと中身を渡しな」

 俺はジェラルドに言われるままに宝箱の中身を渡す。

「うん、これが今回の依頼主が探していたブツに間違いない」

「何なのその汚い紙切れ?本当に依頼の品なの?」

 遠目からもお宝の類ではない事が分かったラメアが当然の疑問を口にする。

「さあな、俺達には関係がないものだ。さっさと帰って依頼主に届けようぜ。今回の報酬額は凄いぞ」
「大した魔物もいなかったし、ボロいクエストだったな」
「じゃあ今夜は宴会だね」

 俺としては10000ポイントに届いてから祝いたい気分だが、喜んでいる彼らに水を差すのも大人げない。
 俺は撤収する為に立ち上がる。
 しかし、ジェラルドは俺が全く思いもよらなかった言葉を続けた。

「おっと、そこを動くなよチェイン。お前とはここでお別れだ」

「は?」

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