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第35話 廃墟ミリタ

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 廃墟ミリタは町全体が植物に覆われ、かつて栄えていたという大都市の面影は全く残っていなかった。

「フーリン将軍の屋敷跡はどこにあるんでしょう?」

「将軍の屋敷っていうぐらいだから、さぞかし立派な建物だったんだろうな」

「それでは手分けをして探しましょう」

 俺達は植物の蔦を掻き分けながら町の中へ進む。

 家屋はほとんど原形を留めておらず、辺りには生い茂る草木と瓦礫の山が広がっているばかりだ。
 これでは元々この場所に家が建っていたのか、それとも道だったのかの区別もつかない。

「うーん、この中から見つけるのは厳しいぞ」

 珍しくプリンが弱音を吐く。
 しかし瓦礫の山を手当たり次第取り除いて調べていく訳にもいかない。
 せめて、ある程度候補地を絞り込む事ができれば……。

「将軍のお屋敷ともなれば、敷地も広かったと思いますわ。立派なお庭もあったのではなくて?」

「そうか、瓦礫の山の付近に瓦礫がない地帯が広がっている場所を絞り込めば……」

 皆が途方に暮れているところを、ルッテの一言で突破口が開かれる。

「シャミィ、お願いできる?」

「はいはーい」

 マリーニャの呼びかけで、マリーニャの髪の中に隠れていた妖精フィーのシャミィが飛び出してきた。
 シャミィは上空へ飛び、町全体を見下ろして該当する場所を指差す。

「あそことあそことあそこだね」

「ありがとうシャミィ」

「お安い御用だよっ」

 候補地が絞り込まれたら後は順番に発掘作業だ。
 そしてそれはすぐに見つかった。

 瓦礫を退けると、地下への階段が現れた。

「ここね。大した魔物はいないと思うけど、皆油断しないで」

 100年間も放置されていた地下室だ。中には魔物が生息している可能性がある。
 マリーニャが松明を掲げ、先陣を切って地下室へ侵入する。
 プリン、ルッテがその後に続く。

 最後に俺が地下に侵入しようとしたその時だった。

 ドオオオン……

 地鳴りと共に大地が激しく揺れ動く。

「何だ、地震か!?」

「チェイン危ない、こっちに来るな!」

 プリンは咄嗟に俺を外に向かって突き飛ばした。
 振り返ると地下室への入り口は完全に崩落していた。
 プリン達の姿は見えない。

「まさか、生き埋めにされたんじゃ……早く助けなきゃ!」

 しかしどうやって……
 非力な俺では瓦礫を一つ持ち上げるのも大変だ。

 ドオオオオン……

 まだ地響きは収まる気配を見せない。
 地面の上下に合わせて街を覆う植物の蔦が踊る様に飛び跳ねる。

 いや違う、逆だ。

 植物の蔦が地面を揺らしているんだ。

 そういえば冒険者ギルド発刊の魔物図鑑で見た事がある。
 植物に擬態し、近付く生物を何でも捕食して際限なく成長するといわれる魔物───街を喰らう樹木シュトラーセバウムだ。

 魔王討伐後、城塞都市ミリタは放置されたんじゃない。
 戦後復興の為にこの町に集まってきた人々は、悉く街を喰らう樹木シュトラーセバウムの養分となっていたのだ。

 何が推奨レベル10程度のクエストだ。これは完全にギルドの調査不足だ。
 高レベルのパーティでも、待ち伏せ型の魔物の奇襲を受けて全滅する事は珍しくない。
 俺達が普段どれだけシズハナの探知スキルに助けられていたかを痛感する。

 街を喰らう樹木シュトラーセバウムは蔦を振り上げ、俺に向けて激しく振り下ろす。

 しかしこんな奴を相手に時間を掛けている余裕はない。
 俺は迷わず魔法を詠唱する。

「≪リプレイス≫」

 その瞬間、街を喰らう樹木シュトラーセバウムの蔦は力なく地面に横たわった。

「さて、早く皆を助けないと」

 大地を揺るがす程の街を喰らう樹木シュトラーセバウムの力と交換できたのは好都合だ。

 俺は街を喰らう樹木シュトラーセバウムへの止めを後回しにして、崩落した瓦礫を軽々と持ち上げ取り除いていく。

「皆、無事でいてくれよ……」

 ≪リプレイス≫の効果時間は長くない。
 効果が切れる前に彼女達を助け出さないといけない。
 焦りのあまり頬に汗が伝わるのを感じつつ、次の瓦礫に手を伸ばした瞬間だった。


 ドオォォン!


 激しい爆発音が響き、眼前の瓦礫の山が吹き飛んだ。

「まだ何かいるのか!?くそっ、こんな時に……」

 俺は身構え、前方に意識を集中させる。

「あー、びっくりした」

 それは聞き覚えのある声だった。

「まさか天井が崩落するとはなあ、危ないところだったよ」

「まあ私の魔法障壁でしたらあの程度の瓦礫を支える事は楽勝でしてよ。それにしてもマリーニャの≪爆砕魔法ブラスト≫はいつ見ても豪快ですわね」

 談笑しながら外に出てきた三人を見て、俺は茫然と立ち尽くす。

「おうチェインも無事だったか。ああ、こいつは街を喰らう樹木シュトラーセバウムだな。気が付かなかったぜ」

「マリーニャ、やっておしまいなさい」

「はいはい。チェイン、そこ危ないからもっとこっちに来てください」

 俺は言われるままに場所を移動する。

「この魔物よく燃えるんですよ。いきますよ、≪フォイエル≫!」

 マリーニャの剣から炎が噴き出し、一瞬で廃墟全体を覆っていた街を喰らう樹木シュトラーセバウムを焼き払ってしまった。
 さらに≪リプレイス≫の効果で魔法防御力がレベル1相当に落ちている街を喰らう樹木シュトラーセバウムはひとたまりもなかった様だ。

 テレッテレレー♪

 ピロリン♪

 取得した経験ポイントは10。
 普通の中ボスクラスだった。
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