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第37話 黄泉の洞窟
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俺達は廃墟ミリタを後にして、馬車で一日をかけて帰路に就く。
シズハナはホーロウ公爵の屋敷に潜伏中の為、シズハナについている妖精リーンの通信能力は無効状態になっているので状況は分からない。
何かあれば向こうから連絡が来るだろう。
クリムドに戻った俺達は、まずはダンガルさんの工房へプリンの新しい武器を受け取りに行く。
「おやっさん、例の物はできてるかい?」
「おう、待ってたぜ。どうよこの光沢、惚れ惚れするだろう」
そう言ってダンガルさんが取り出したのは、穂先が三つに分かれた柄の長い刀、三尖両刃刀だ。
「こいつで試し切りしてみな。どっこらしょっと」
ダンガルさんはプリンの目の前に鋼鉄の塊を置く。
プリンが三尖両刃刀を振るうと、鋼鉄の塊はいとも簡単に二つに分かれた。
「すげえ、豆腐でも切っている様な感覚だ。この切れ味、鈎鎌鎗以上じゃないか」
「当たり前だ、そもそも深淵の蠕虫の外皮は頑丈さがウリの、いわば防具向けの素材だからな。武器の素材としては死霊使いの鴉の鈎爪の方に軍配が上がるさ」
プリンは心底楽しそうに鋼鉄の塊を刺したり斬り裂いたりしている。
これでパーティの攻撃力が大幅にアップしたのは心強いが、嬉々として三尖両刃刀を振るい続けるプリンの姿はちょっと怖い。
これでは武器が変わっても死神女という二つ名の返上は難しそうだ。
工房を後にした俺達は、ギルドクリムド支部へ足を運んだ。
例によって掲示板に不審なクエストがないかを確認した後、受付嬢のカテリーさんに未掲載分について確認をする。
「まだ掲載していない分がひとつありますね」
カテリーさんは事務所の奥から一枚のクエストを持ってくる。
「これなんですけど」
マリーニャはカテリーさんが持ってきた依頼書を受け取り、内容を読み上げる。
「ええと、依頼主は……ニャラルト公爵!」
きた。
俺達は顔を見合わせる。
「内容は……黄泉の洞窟内にある宝箱の中身の回収。報酬は金貨300枚。依頼品は直接ニャラルト公爵の屋敷へ持参する事」
「どうします、このクエスト受けますか?ただ、推奨レベルが50なんですよね。これも【フルーレティ】の皆さんからするとちょっと物足りないでしょう」
「そうですね、また次の機会という事で」
「でも、【フルーレティ】さんの様に平均レベル70以降のパーティに合うクエストなんて、ここみたいな地方のギルド支部ではなかなかありませんよ。それこそ王都の様な規模の町じゃないと」
例によって俺のレベルは平均値の計算から除外されている。
「そうですね、今回もクエストの受注は見送らせてもらいます」
俺達はカテリーさんに礼を言うと、ギルドクリムド支部を後にする。
そしてクリムド商会でダンジョン探索の準備を行い、黄泉の洞窟へ向かった。
黄泉の洞窟はクリムドから南へ10キロ程進んだ先にある。
その内部構造は横よりも縦に深く、文字通りあの世へと続いているともいわれている。
事実その説を裏付けるかの様に、洞窟の内部にはゾンビやスケルトン等のアンデッドモンスターが多く生息しているそうだ。
しかし【フルーレティ】には浄化魔法を得意とするルッテがいるのでアンデッドはむしろ大歓迎だ。
「それでは私が先行します」
マリーニャを先頭にルッテ、俺、プリンの順番で洞窟内を進む。
前方の魔物をマリーニャとルッテが排除し、プリンが後方から襲い掛かってくる魔物を迎撃する陣形だ。
早い話が俺防衛シフトである。
シズハナがいないと敵がどこから襲い掛かってくるか分からないので、俺は常に仲間達に護られている状態だ。
まるで騎士に護衛されているお姫様にでもなった気分だな。
地の底から湧き出てくるアンデッド達を燃やし、浄化し、細切れにしながら探索を続ける。
所詮は攻略推奨レベル50程度の洞窟だ。
俺を除く【フルーレティ】のメンバーは特に苦戦をする事もなかった。
今のところ俺の出番は全くない。
俺の魔力は宝箱を守るボスモンスターの為に温存しておこう。
そして俺達は最下層までやってきた。
「見て下さい、この先に部屋があります」
マリーニャが指を差す方向には洞窟には似つかわしくない、人工的な空間が広がっていた。
その中央には自身の存在を主張しているかの様に、立派な装飾が施された宝箱がぽつんと置かれている。
「怪しいですね」
「絶対罠がある。皆は下がっていてくれ」
俺は深淵の洞窟にあった罠を思い出す。
それは部屋全体が仕掛けになっており、宝箱を開けた者を奈落の底へ落とす冒険者喰いと呼ばれる罠だ。
あの時と同じ部屋の構造から、罠も同じだと推測される。
しかし俺はあの罠の解除方法を知らない。
「うーん……」
俺は腕を組み、首をかしげてどうやって宝箱を回収するかを考える。
そんな俺を横目に、マリーニャが前に進み出て言った。
「以前チェインに聞いた、宝箱を開けた人間がその場を離れると発動するという罠ですよね。それなら簡単です。≪ウィンド≫!」
マリーニャは風魔法で突風を起こして宝箱を部屋の外へ吹き飛ばし、ゆっくりと拾い上げる。
「それではこのまま宝箱を地上まで持ち帰りましょう。宝箱は安全な場所でじっくりと罠の吟味をした後で開けます」
宝箱を開けなければ罠が発動する事もない。
そもそも部屋の中に入らなければ万が一罠が発動してもパーティに被害はない。
マリーニャはいとも簡単に解決してしまった。
俺はその様子を茫然と見守る。
「よし、撤収だ。ん?どうしたチェイン、置いてくぞ?」
「俺、今回何もしてないんだけど……どこかにボスとか隠れてないかな?」
マリーニャ達は周囲を見回すが、自分達以外の気配は何も感じられない。
「ボスどころか、ネズミ一匹いませんね」
「……じゃあ帰ろっか」
今回の俺は全くいいところなしだ。
「明日から本気出す」
シズハナはホーロウ公爵の屋敷に潜伏中の為、シズハナについている妖精リーンの通信能力は無効状態になっているので状況は分からない。
何かあれば向こうから連絡が来るだろう。
クリムドに戻った俺達は、まずはダンガルさんの工房へプリンの新しい武器を受け取りに行く。
「おやっさん、例の物はできてるかい?」
「おう、待ってたぜ。どうよこの光沢、惚れ惚れするだろう」
そう言ってダンガルさんが取り出したのは、穂先が三つに分かれた柄の長い刀、三尖両刃刀だ。
「こいつで試し切りしてみな。どっこらしょっと」
ダンガルさんはプリンの目の前に鋼鉄の塊を置く。
プリンが三尖両刃刀を振るうと、鋼鉄の塊はいとも簡単に二つに分かれた。
「すげえ、豆腐でも切っている様な感覚だ。この切れ味、鈎鎌鎗以上じゃないか」
「当たり前だ、そもそも深淵の蠕虫の外皮は頑丈さがウリの、いわば防具向けの素材だからな。武器の素材としては死霊使いの鴉の鈎爪の方に軍配が上がるさ」
プリンは心底楽しそうに鋼鉄の塊を刺したり斬り裂いたりしている。
これでパーティの攻撃力が大幅にアップしたのは心強いが、嬉々として三尖両刃刀を振るい続けるプリンの姿はちょっと怖い。
これでは武器が変わっても死神女という二つ名の返上は難しそうだ。
工房を後にした俺達は、ギルドクリムド支部へ足を運んだ。
例によって掲示板に不審なクエストがないかを確認した後、受付嬢のカテリーさんに未掲載分について確認をする。
「まだ掲載していない分がひとつありますね」
カテリーさんは事務所の奥から一枚のクエストを持ってくる。
「これなんですけど」
マリーニャはカテリーさんが持ってきた依頼書を受け取り、内容を読み上げる。
「ええと、依頼主は……ニャラルト公爵!」
きた。
俺達は顔を見合わせる。
「内容は……黄泉の洞窟内にある宝箱の中身の回収。報酬は金貨300枚。依頼品は直接ニャラルト公爵の屋敷へ持参する事」
「どうします、このクエスト受けますか?ただ、推奨レベルが50なんですよね。これも【フルーレティ】の皆さんからするとちょっと物足りないでしょう」
「そうですね、また次の機会という事で」
「でも、【フルーレティ】さんの様に平均レベル70以降のパーティに合うクエストなんて、ここみたいな地方のギルド支部ではなかなかありませんよ。それこそ王都の様な規模の町じゃないと」
例によって俺のレベルは平均値の計算から除外されている。
「そうですね、今回もクエストの受注は見送らせてもらいます」
俺達はカテリーさんに礼を言うと、ギルドクリムド支部を後にする。
そしてクリムド商会でダンジョン探索の準備を行い、黄泉の洞窟へ向かった。
黄泉の洞窟はクリムドから南へ10キロ程進んだ先にある。
その内部構造は横よりも縦に深く、文字通りあの世へと続いているともいわれている。
事実その説を裏付けるかの様に、洞窟の内部にはゾンビやスケルトン等のアンデッドモンスターが多く生息しているそうだ。
しかし【フルーレティ】には浄化魔法を得意とするルッテがいるのでアンデッドはむしろ大歓迎だ。
「それでは私が先行します」
マリーニャを先頭にルッテ、俺、プリンの順番で洞窟内を進む。
前方の魔物をマリーニャとルッテが排除し、プリンが後方から襲い掛かってくる魔物を迎撃する陣形だ。
早い話が俺防衛シフトである。
シズハナがいないと敵がどこから襲い掛かってくるか分からないので、俺は常に仲間達に護られている状態だ。
まるで騎士に護衛されているお姫様にでもなった気分だな。
地の底から湧き出てくるアンデッド達を燃やし、浄化し、細切れにしながら探索を続ける。
所詮は攻略推奨レベル50程度の洞窟だ。
俺を除く【フルーレティ】のメンバーは特に苦戦をする事もなかった。
今のところ俺の出番は全くない。
俺の魔力は宝箱を守るボスモンスターの為に温存しておこう。
そして俺達は最下層までやってきた。
「見て下さい、この先に部屋があります」
マリーニャが指を差す方向には洞窟には似つかわしくない、人工的な空間が広がっていた。
その中央には自身の存在を主張しているかの様に、立派な装飾が施された宝箱がぽつんと置かれている。
「怪しいですね」
「絶対罠がある。皆は下がっていてくれ」
俺は深淵の洞窟にあった罠を思い出す。
それは部屋全体が仕掛けになっており、宝箱を開けた者を奈落の底へ落とす冒険者喰いと呼ばれる罠だ。
あの時と同じ部屋の構造から、罠も同じだと推測される。
しかし俺はあの罠の解除方法を知らない。
「うーん……」
俺は腕を組み、首をかしげてどうやって宝箱を回収するかを考える。
そんな俺を横目に、マリーニャが前に進み出て言った。
「以前チェインに聞いた、宝箱を開けた人間がその場を離れると発動するという罠ですよね。それなら簡単です。≪ウィンド≫!」
マリーニャは風魔法で突風を起こして宝箱を部屋の外へ吹き飛ばし、ゆっくりと拾い上げる。
「それではこのまま宝箱を地上まで持ち帰りましょう。宝箱は安全な場所でじっくりと罠の吟味をした後で開けます」
宝箱を開けなければ罠が発動する事もない。
そもそも部屋の中に入らなければ万が一罠が発動してもパーティに被害はない。
マリーニャはいとも簡単に解決してしまった。
俺はその様子を茫然と見守る。
「よし、撤収だ。ん?どうしたチェイン、置いてくぞ?」
「俺、今回何もしてないんだけど……どこかにボスとか隠れてないかな?」
マリーニャ達は周囲を見回すが、自分達以外の気配は何も感じられない。
「ボスどころか、ネズミ一匹いませんね」
「……じゃあ帰ろっか」
今回の俺は全くいいところなしだ。
「明日から本気出す」
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