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第43話 ニャラルト侯爵
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冒険者パーティ【ヘルクレス】は黄泉の洞窟で古文書を回収した帰り道で魔物に襲われ、ジェラルドだけが満身創痍の状態で地上に戻る事ができた。
何とかクリムドの町の付近まで辿り着くも、そこで偶然遭遇したかつてのパーティメンバーであるプラリスにこの古文書を託して力尽きた。
ジェラルドの遺志を継いで、プラリスがこの古文書をニャラルト侯爵へ届けに来た。
「───というシナリオでどうでしょうか」
「うん、良いんじゃないかな」
細かい突っ込みどころはあるが、マリーニャが考案したシナリオは概ね好評だ。
プラリスにこの設定を復唱させた後、注意事項の確認を行う。
「ホーヴァンシュンという者の事は聞かれても知らないと言っておくように」
「実際、私はお会いした事がありませんからね」
そもそもニャラルト侯爵はただの窓口役というのがエルテウスの見解だ。
誰が届けようと不審には思わないかもしれないが、念には念だ。
さらに【殺人猫】が陰ながらプラリスの護衛を引き受ける事になった。
彼女達はそのままニャラルト侯爵の屋敷に潜り込み、古文書の動きを探る事になっている。
エルテウスは連絡用にとシズハナについていた妖精のリーンをプラリスに移動させる。
「私リーン、暫くの間宜しくねプラちゃん!」
「プ、プラちゃん……?」
リーンはプラリスに挨拶をすると、プラリスの服の襟から胸元に潜り込んで隠れる。
「何か服の中でもぞもぞして変な感じです……」
プラリスは顔を紅潮させて上目遣いに訴えるのがどことなく艶めかしい。
思わずそんなプラリスに見惚れていると、マリーニャ達から冷たい視線を送られている事に気付いた。
これ、後で散々弄られるやつだ。
◇◇◇◇
翌日、プラリスはニャラルト侯爵の屋敷へやってきた。
【殺人猫】のメンバーは木陰や草むらなどに待機し、いつでも飛びだせる状態だ。
俺達【フルーレティ】も、怪しまれない程度離れた場所から様子を伺う。
会話の内容についてはリーンからシャミィを通してほぼリアルタイムでこちらに伝えられる手はずだ。
扉が開き、プラリスは屋敷の中に通される。
それと同時に【殺人猫】のメンバーも身を隠しながら屋敷の中に侵入する。
まるでドアの隙間からいつの間にか屋内に侵入している近所の野良猫を連想させる。
屋敷の人間は誰ひとり侵入に気がついた様子はない。見事な手際だ。
外部からは屋敷内の様子が分からないので、ここからはリーンの実況配信が始まる。
「こほん、本日の実況解説は私リーンがお送りします」
「今応接室に通されました」
「おっさんが座っています! どうやらニャラルト侯爵本人の様です」
「『やあ、君は確か以前【ヘルクレス】にいたプラリス君だったね』」
「『はい、お久しぶりですニャラルト侯爵。本日は、依頼の品をお持ちしました』」
「プラちゃんがシナリオ通りに説明をしています」
「あーっと、ここでセリフを噛みました。しかし大勢に影響はない模様」
「ニャラルト侯爵はちょっと考えています。でも疑っている様子はありません」
「『なるほど、そういうことでしたか。あれからジェラルド達と連絡が取れなくてね。あの洞窟の推奨レベルは50。ジェラルド達ではギリギリ出来るかどうかというところだったからね。クエストに失敗したんだろうとは思っていたよ』」
「『はい……。それで、こちらが依頼の品です。どうぞお納め下さい』」
「『確かに受け取ったよ。では報酬の金貨300枚は君に渡そう。おっと、断らないでくれ。これは私の気持ちだ』」
「ニャラルト侯爵、意外と義理堅いおっさんのようです」
「『はい、それではジェラルド達に代わってお受けいたします』」
「プラちゃん、金貨が入った袋を懐に仕舞いました。今夜は奢ってもらいましょう」
「ここでちょっと会話が途切れています。二人は高級そうな紅茶を飲んでいます」
「『ところで……ジェラルド達の中に、もう一人いなかったかね?』」
「これ、ホーヴァンシュンの事ですよね。プラちゃん返答には気をつけて!」
「『もう一人ですか? 私が最期を看取ったのはジェラルドだけですので、他のメンバーがどうなったのかは分かりません』」
「『そうか、あいつめいったいどこへいったのか……』」
「プラちゃん華麗にスルー!」
「『ホーロウ公爵も残酷な男だ。あのような者を遣わせるとは……おっと、何でもない忘れてくれ。しかしジェラルド達には悪い事をしたな』」
「『いえ、ニャラルト侯爵には何の責任もありません』」
「『態々こんな辺境まで届けてもらってすまないね。道中気をつけて帰ってくれ』」
「『はい、それでは失礼します』」
「プラちゃんが退室しました」
「どうやらうまくいった様です」
「それでは実況を終わります」
首尾は上々だ。
少しして、屋敷からプラリスが出てきた。
後は【殺人猫】に任せよう。
リーンはプラリスからこっそりと離れてマルコシアの下に移動する。
どこに見張りがいるか分からないので、俺達はプラリスとは合流せずにそのまま別々に王都ギルティアへ向かった。
何とかクリムドの町の付近まで辿り着くも、そこで偶然遭遇したかつてのパーティメンバーであるプラリスにこの古文書を託して力尽きた。
ジェラルドの遺志を継いで、プラリスがこの古文書をニャラルト侯爵へ届けに来た。
「───というシナリオでどうでしょうか」
「うん、良いんじゃないかな」
細かい突っ込みどころはあるが、マリーニャが考案したシナリオは概ね好評だ。
プラリスにこの設定を復唱させた後、注意事項の確認を行う。
「ホーヴァンシュンという者の事は聞かれても知らないと言っておくように」
「実際、私はお会いした事がありませんからね」
そもそもニャラルト侯爵はただの窓口役というのがエルテウスの見解だ。
誰が届けようと不審には思わないかもしれないが、念には念だ。
さらに【殺人猫】が陰ながらプラリスの護衛を引き受ける事になった。
彼女達はそのままニャラルト侯爵の屋敷に潜り込み、古文書の動きを探る事になっている。
エルテウスは連絡用にとシズハナについていた妖精のリーンをプラリスに移動させる。
「私リーン、暫くの間宜しくねプラちゃん!」
「プ、プラちゃん……?」
リーンはプラリスに挨拶をすると、プラリスの服の襟から胸元に潜り込んで隠れる。
「何か服の中でもぞもぞして変な感じです……」
プラリスは顔を紅潮させて上目遣いに訴えるのがどことなく艶めかしい。
思わずそんなプラリスに見惚れていると、マリーニャ達から冷たい視線を送られている事に気付いた。
これ、後で散々弄られるやつだ。
◇◇◇◇
翌日、プラリスはニャラルト侯爵の屋敷へやってきた。
【殺人猫】のメンバーは木陰や草むらなどに待機し、いつでも飛びだせる状態だ。
俺達【フルーレティ】も、怪しまれない程度離れた場所から様子を伺う。
会話の内容についてはリーンからシャミィを通してほぼリアルタイムでこちらに伝えられる手はずだ。
扉が開き、プラリスは屋敷の中に通される。
それと同時に【殺人猫】のメンバーも身を隠しながら屋敷の中に侵入する。
まるでドアの隙間からいつの間にか屋内に侵入している近所の野良猫を連想させる。
屋敷の人間は誰ひとり侵入に気がついた様子はない。見事な手際だ。
外部からは屋敷内の様子が分からないので、ここからはリーンの実況配信が始まる。
「こほん、本日の実況解説は私リーンがお送りします」
「今応接室に通されました」
「おっさんが座っています! どうやらニャラルト侯爵本人の様です」
「『やあ、君は確か以前【ヘルクレス】にいたプラリス君だったね』」
「『はい、お久しぶりですニャラルト侯爵。本日は、依頼の品をお持ちしました』」
「プラちゃんがシナリオ通りに説明をしています」
「あーっと、ここでセリフを噛みました。しかし大勢に影響はない模様」
「ニャラルト侯爵はちょっと考えています。でも疑っている様子はありません」
「『なるほど、そういうことでしたか。あれからジェラルド達と連絡が取れなくてね。あの洞窟の推奨レベルは50。ジェラルド達ではギリギリ出来るかどうかというところだったからね。クエストに失敗したんだろうとは思っていたよ』」
「『はい……。それで、こちらが依頼の品です。どうぞお納め下さい』」
「『確かに受け取ったよ。では報酬の金貨300枚は君に渡そう。おっと、断らないでくれ。これは私の気持ちだ』」
「ニャラルト侯爵、意外と義理堅いおっさんのようです」
「『はい、それではジェラルド達に代わってお受けいたします』」
「プラちゃん、金貨が入った袋を懐に仕舞いました。今夜は奢ってもらいましょう」
「ここでちょっと会話が途切れています。二人は高級そうな紅茶を飲んでいます」
「『ところで……ジェラルド達の中に、もう一人いなかったかね?』」
「これ、ホーヴァンシュンの事ですよね。プラちゃん返答には気をつけて!」
「『もう一人ですか? 私が最期を看取ったのはジェラルドだけですので、他のメンバーがどうなったのかは分かりません』」
「『そうか、あいつめいったいどこへいったのか……』」
「プラちゃん華麗にスルー!」
「『ホーロウ公爵も残酷な男だ。あのような者を遣わせるとは……おっと、何でもない忘れてくれ。しかしジェラルド達には悪い事をしたな』」
「『いえ、ニャラルト侯爵には何の責任もありません』」
「『態々こんな辺境まで届けてもらってすまないね。道中気をつけて帰ってくれ』」
「『はい、それでは失礼します』」
「プラちゃんが退室しました」
「どうやらうまくいった様です」
「それでは実況を終わります」
首尾は上々だ。
少しして、屋敷からプラリスが出てきた。
後は【殺人猫】に任せよう。
リーンはプラリスからこっそりと離れてマルコシアの下に移動する。
どこに見張りがいるか分からないので、俺達はプラリスとは合流せずにそのまま別々に王都ギルティアへ向かった。
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