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第1話 転生したら馬でした
しおりを挟む私の名前は相馬 里奈。
幼い頃両親に読んでもらった童話の絵本の影響で白馬の王子様に憧れているどこにでもいる普通の女の子だ。
しかし白馬の王子様なんて所詮は遠い国のお話だ。
日本において白馬の王子様に出会えるなんて事はまずない。
でも、まずないという事は可能性は決してゼロではないのだ。
それに本当の王子様とはいかないまでも、馬に関係する仕事に就けば白馬の王子様のような素敵な男性との出会いならあるかもしれない。
そう考えた私は大学で馬術部に入って乗馬の技術だけでなく馬の世話や調教方法などについても学び、大学卒業後は地元の乗馬クラブでインストラクターとして働く事となった。
しかし理想と現実は大違い。
現在日本の乗馬人口の男女比率は圧倒的に女性の方が多いといわれている。
そして乗馬は割とお金がかかるスポーツだ。
乗馬クラブにやってくるのは殆どお嬢様学校の生徒だったり、お金に余裕がある年配の男性ばかり。
偶に上流企業のご子息もやってくるが、そこで前述のお嬢様学校の生徒たちがライバルとして立ちはだかる事になる。
ごく普通の家庭で育ち、ごく普通の見た目である私には彼女達を出し抜く事などできはしない。
こうして白馬の王子様に見染められるという私の夢は儚く潰えたのであった
しかし長年馬と接してきた私は馬に愛着を持っている。
好きな動物は何かと聞かれれば馬だと即答できる自信がある。
これからもこの仕事に誇りを持って取り組もうと決意を新たにした矢先だった。
私は交通事故で死んだ。
死後の世界では女神様が私を出迎えてくれた。
女神様は私に同情の眼差しを向けながら言った。
「相馬里奈さん。あなたはあまり幸福な人生を歩めなかったようですね。バランスを取る為に来世では幸せになれるように運勢を調整してあげます。何か希望があれば言って下さい」
「ん? 今何でも希望を叶えてくれるって?」
「そこまでは言ってません」
「ですよねー。それじゃあ私の希望を言います。私は白馬の王子様に憧れています! 来世では白馬の王子様が私を迎えに来てくれると嬉しいです」
女神様は「ふむ……」と拳で顎に触れながら少し考えた後に言った。
「まあそれくらいなら世界への影響も少なそうだし何とかなるでしょう」
「できるんですか!?」
「当然です。女神である私の力を持ってすれば容易い事」
「よっしゃあ!」
私はその場でガッツポーズをして雄叫びを上げた。
女神様は「コホン」と咳払いをしてハイテンションではしゃぐ私を制し、話を続ける。
「あなたが次に生まれ変わるのは地球とは別の世界、分かりやすく言えば異世界ですね。そこにはあなた方の故郷で親しまれてきた童話に出てくるような雰囲気の王国があります。その国の王子があなたと出会えるように運命を調整しましょう」
「それは本当ですか!? ちなみに転生したら今の記憶とか無くなったりします?」
「もちろん記憶を残したまま転生させられますよ。更にその王国の言葉も理解できるように出血大サービスしてあげます」
さすが女神様。
至れり尽くせりだ。
「しかし私にできるのはそこまで。後はあなたの頑張り次第ですね」
「十分です! 女神様有難うございます!」
「それでは早速あなたをその世界の住民として転生させましょう。心の準備はいいですか?」
「はい、いつでもバッチコイです!」
「よろしい。それでは良い来世を!」
女神様が指をパチンと鳴らした瞬間に私の意識は途切れた。
◇◇◇◇
次に気が付いた時、私は草原の真っ只中で立っていた。
転生といえば赤子からやり直すものだと勝手に想像していたが、どうやらそういった期間はすっ飛ばしていきなりある程度の年齢からスタートできるようだ。
それにしても今の私はすこぶる体調が良い。
それに前世と比べて視点も高い気がする。
余程体格が良い身体の持ち主に生まれ変わったのだろう。
今すぐこの草原を思いっきり走り回りたい気分だ。
これも女神様がサービスしてくれたんだろうか?
あ、でもあまり体格が良すぎると王子様がドン引きしちゃうかも。
そもそも私は今どんな容姿をしているんだろう。
近くに鏡とかないかな?
こんな草原の真っ只中じゃそんな物あるわけないか。
私は周囲を見回すと、あちらこちらで馬たちが草を食べているのが見えた。
という事はここは牧場かな?
それにしても馬は可愛い生き物だ。
乗馬クラブで働いていた頃、空いている時間があればいつも馬を撫でていたものだ。
特に馬の鼻の頭から顎にかけてのふにふにとした触り心地は最高だ。
たまに嫌がる馬に噛みつかれる事もあったけど、その程度の怪我はあの感触を味わう為なら些細な事だ。
興味がある人は是非とも一度は体験してみて欲しいと前世の私は毎日のように周囲に触れまわっていたものだ。
よし、ナデナデしよう!
思い立ったが吉日。
私は馬を驚かせないように「オーラ、オーラ」と声を掛けながらゆっくりと近付いた……はずだった。
「ヒヒーン!」
……ヒヒーン?
今嘶いたのはどの馬?
いや違う。
今の声は自分自身から聞こえてきた。
私は嫌な予感がして自分の姿を確かめる為に視線を下に落とし足元を確認する。
そこには二本の白い肢が見えた。
(これが私……?)
前世では何度も見てきたので見間違うはずもない。
これは馬の前肢だ。
嫌な予感は現実だった。
あの女神、とんでもない勘違いをしてくれた。
確かに白馬の王子様に憧れるとは言ったけどさ、自分が王子様の白馬に転生するなんて聞いてないよ!
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