確かに白馬の王子様に憧れるとは言ったけどさ、王子様の白馬に転生するなんて聞いてない

かにくくり

文字の大きさ
1 / 20

第1話 転生したら馬でした

しおりを挟む


 私の名前は相馬 里奈そうま りな
 幼い頃両親に読んでもらった童話の絵本の影響で白馬の王子様に憧れているどこにでもいる普通の女の子だ。
 しかし白馬の王子様なんて所詮は遠い国のお話だ。
 日本において白馬の王子様に出会えるなんて事はまずない。

 でも、ないという事は可能性は決してゼロではないのだ。

 それに本当の王子様とはいかないまでも、馬に関係する仕事に就けば白馬の王子様のような素敵な男性との出会いならあるかもしれない。

 そう考えた私は大学で馬術部に入って乗馬の技術だけでなく馬の世話や調教方法などについても学び、大学卒業後は地元の乗馬クラブでインストラクターとして働く事となった。

 しかし理想と現実は大違い。

 現在日本の乗馬人口の男女比率は圧倒的に女性の方が多いといわれている。
 そして乗馬は割とお金がかかるスポーツだ。

 乗馬クラブにやってくるのは殆どお嬢様学校の生徒だったり、お金に余裕がある年配の男性おっさんばかり。
 偶に上流企業のご子息もやってくるが、そこで前述のお嬢様学校の生徒たちがライバルとして立ちはだかる事になる。

 ごく普通の家庭で育ち、ごく普通の見た目である私には彼女達を出し抜く事などできはしない。

 こうして白馬の王子様に見染められるという私の夢は儚く潰えたのであった

 しかし長年馬と接してきた私は馬に愛着を持っている。
 好きな動物は何かと聞かれれば馬だと即答できる自信がある。

 これからもこの仕事に誇りを持って取り組もうと決意を新たにした矢先だった。






 私は交通事故で死んだ。








 死後の世界では女神様が私を出迎えてくれた。

 女神様は私に同情の眼差しを向けながら言った。

「相馬里奈さん。あなたはあまり幸福な人生を歩めなかったようですね。バランスを取る為に来世では幸せになれるように運勢を調整してあげます。何か希望があれば言って下さい」

「ん? 今何でも希望を叶えてくれるって?」

「そこまでは言ってません」

「ですよねー。それじゃあ私の希望を言います。私は白馬の王子様に憧れています! 来世では白馬の王子様が私を迎えに来てくれると嬉しいです」

 女神様は「ふむ……」と拳で顎に触れながら少し考えた後に言った。

「まあそれくらいなら世界への影響も少なそうだし何とかなるでしょう」

「できるんですか!?」

「当然です。女神である私の力を持ってすれば容易い事」

「よっしゃあ!」

 私はその場でガッツポーズをして雄叫びを上げた。

 女神様は「コホン」と咳払いをしてハイテンションではしゃぐ私を制し、話を続ける。

「あなたが次に生まれ変わるのは地球とは別の世界、分かりやすく言えば異世界ですね。そこにはあなた方の故郷で親しまれてきた童話に出てくるような雰囲気の王国があります。その国の王子があなたと出会えるように運命を調整しましょう」

「それは本当ですか!? ちなみに転生したら今の記憶とか無くなったりします?」

「もちろん記憶を残したまま転生させられますよ。更にその王国の言葉も理解できるように出血大サービスしてあげます」

 さすが女神様。
 至れり尽くせりだ。

「しかし私にできるのはそこまで。後はあなたの頑張り次第ですね」

「十分です! 女神様有難うございます!」

「それでは早速あなたをその世界の住民として転生させましょう。心の準備はいいですか?」

「はい、いつでもバッチコイです!」

「よろしい。それでは良い来世を!」

 女神様が指をパチンと鳴らした瞬間に私の意識は途切れた。



◇◇◇◇



 次に気が付いた時、私は草原の真っ只中で立っていた。

 転生といえば赤子からやり直すものだと勝手に想像していたが、どうやらそういった期間はすっ飛ばしていきなりある程度の年齢からスタートできるようだ。

 それにしても今の私はすこぶる体調が良い。
 それに前世と比べて視点も高い気がする。
 余程体格が良い身体の持ち主に生まれ変わったのだろう。
 今すぐこの草原を思いっきり走り回りたい気分だ。
 これも女神様がサービスしてくれたんだろうか?

 あ、でもあまり体格が良すぎると王子様がドン引きしちゃうかも。

 そもそも私は今どんな容姿をしているんだろう。
 近くに鏡とかないかな?
 こんな草原の真っ只中じゃそんな物あるわけないか。

 私は周囲を見回すと、あちらこちらで馬たちが草を食べているのが見えた。

 という事はここは牧場かな?

 それにしても馬は可愛い生き物だ。

 乗馬クラブで働いていた頃、空いている時間があればいつも馬を撫でていたものだ。
 特に馬の鼻の頭から顎にかけてのふにふにとした触り心地は最高だ。
 たまに嫌がる馬に噛みつかれる事もあったけど、その程度の怪我はあの感触を味わう為なら些細な事だ。
 興味がある人は是非とも一度は体験してみて欲しいと前世の私は毎日のように周囲に触れまわっていたものだ。


 よし、ナデナデしよう!


 思い立ったが吉日。
 私は馬を驚かせないように「オーラ、オーラ」と声を掛けながらゆっくりと近付いた……はずだった。






「ヒヒーン!」







 ……ヒヒーン?


 今いなないたのはどの馬?


 いや違う。


 今の声は自分自身から聞こえてきた。

 私は嫌な予感がして自分の姿を確かめる為に視線を下に落とし足元を確認する。

 そこには二本の白いあしが見えた。

(これが私……?)

 前世では何度も見てきたので見間違うはずもない。
 これは馬の前肢だ。

 嫌な予感は現実だった。
 あの女神、とんでもない勘違いをしてくれた。

 確かに白馬の王子様に憧れるとは言ったけどさ、自分が王子様の白馬に転生するなんて聞いてないよ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

処理中です...