冷血

あとみく

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石鹸3

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 反吐が出そうな子ども騙しを音読してしまうと、俺は紙を裏返し、パチンと弾いて学へと飛ばした。裏面は、いったい誰が読むんだという突っ込みさえ受け付けないような専門用語の羅列で、目を走らせることすら拒否反応が出た。
「何が書いてある?」
「石鹸の化学組成の説明みたいだ。加水分解の仕組み、アルカリ性物質の種類、脂肪酸塩の・・・」
 俺は「へえ」と答えておいたが、ひゅうと、胸の辺りがムカついた。そして、自分がムカついていること自体にムカつきそうになったが、その前にそれはうまいこと好奇心に変換され、自分の劣等感をも楽しむことができた。――つまり、このチラチラするムカつきがどこから来たのかといえば、その正体はミミちゃんでもカバオくんでもなく、偽善と欺瞞と怠慢だらけの説明文でもなく、自分がこの馬鹿みたいな表面はすらすらと読めて、しかし漢字だらけの裏面は読めないという努力不足だった。
 誰も教えてくれなかったから、難しい文は読めない――。
 そんな言い訳が通用しない自分だということは、自分が一番よく分かっている。また、能力がないわけではなく、地道に積み重ねれば可能なことだというのも知っている。それでもそこに向き合わないのはそれこそ偽善と欺瞞と怠慢だが、しかしそのような謙虚な心根がないのはただ自分の斜に構えた精神のせいではなく、たぶん、「教わりたくない」という俺自身の<思考>の副作用なのだ。言葉にできない超自然的なものへの漠とした憧れ、どんな恣意的さも含まない圧倒的なものを求め、言葉を介さずそこに飛び込むときの、快楽を超えた全能感みたいなもの・・・そんなものが俺の中からミミちゃんとカバオくんを、そしてそれを書いたやつの稚拙さと現実性を締め出し、自らの道を閉ざしている。今は学の手のひらに載っている、その四角の手触り、重み、金属ならば指も切れそうな鋭角の縁、滑らかな飾り紋様・・・その物体の組成を理解できないことに対し、はたして俺自身は納得しているのか、否か。「価値はない」などと切り捨てて何の興味も示さないこの犬公がそれをやすやすと理解し、俺がそうではない今のこの事実を、さて俺はどうすれば気持ちよさに変換できるのか。
「石鹸の説明を読んだって仕方ない。俺たちが石鹸を作るわけでもないし、この、苛性ソーダとやらで爆弾を製造しようってわけでも・・・」
 そうして、律儀にひととおり読み終えた学は、自ら意図してはいないだろうその暴力性に立ち止まり、それに気づかぬまま首をひねった。その様子を見て、俺の中の何かがその何とか分解だか何とか結合だかの化学反応を起こしたようで、こちらの道で合っている、と確信し、もうそこは閉ざされてなどいなかった。
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