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3度目

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俺はまたここに戻ってきた。

先程までと違い、王女はちゃんと俺をキツい目で見ている。
前回、魔王を討伐し得る力をつけるという意味では間違えてはいなかった。

ただし、知らなかったとはいえ根本的な所から俺は間違えていた。
今度は決して間違えない。

これまでと同じような話を王女から聞いた後、1ヶ月でレベルを50まで上げるように言われる。
そして別の女性から詳しい話を聞いた後、各部屋を割り振られる。
ここまでは前と同じで構わない。
大事なのはこれからだ。

「騎士団長、明日からダンジョンに潜るんだろ?どうやってレベルを上げるんだ?」

「魔物と戦ってもらうだけだ。死なないように装備も準備している」

「俺達3人の他に誰が同行するんだ?騎士団長だけか?」

「賢者様と聖女様には私とは別の騎士がつく。勇者様の担当は私だ」

「もしかして別行動するのか?笹原君は分からないが、星野さんが魔物相手に戦えるとは思えないんだがどうするつもりなんだ?」

「それはこちらで考えてある」

「もしかしてこの首輪で無理矢理戦わせるわけじゃないだろうな?ちゃんと人道的な方法を考えてるんだろ?教えてくれてもいいか?」

「…………。」
騎士団長は答えない。俺が最初の時にやらされたように、星野さんにも首輪の力で戦わせていたのはわかっている。

「やっぱりな。無理矢理戦わせるのはやめろ。それから俺達3人を分けるな。魔物にトドメを刺した者にしか経験値が入らない以上、無理矢理にでも星野さんにも戦ってもらう必要があるのはわかる。それでも首輪の力に頼るな。俺が星野さんのレベルを上げる方法も考えてやる。首輪で体を操る以外の方法で考えているなら構わないが、そんな方法を考えているなら俺に任せろ」

「聖女様のレベル上げを任せろと言いましたが、そもそも勇者様は魔物と戦えるのですか?」

「元の世界では多少だが武術を嗜んでいた。相手が人から異形のものに変わったとしても臆することはない。そんなことよりもさっき言ったことはわかってくれたのか?」

「私の一存では決めれません」

「誰が決めてるんだ?」

「この件を含め全ての決定権は王女様にあります。城の者は皆王女様には逆らえません。隷属の首輪程ではありませんが、私達も王女様に隷属されているのです。それに私は娘を人質にとられている。勇者様がなんと言おうと、王女様が決められたことに従ってもらいます」
騎士団長が首の印を見せながら言った。
驚くことにこの印は本物だ。城の者は実際に王女に隷属されている。

「なら王女に言っておいてくれ。俺の言うことを聞いているうちは協力してやる。首輪の力で無理矢理いうことを聞かせることも出来るみたいだが、それでちゃんとレベルは上がるのか?魔王と対峙している時も俺は棒立ちを決め込んでやるからな。無理矢理動かした体で魔王に勝てるならそうしてくれ。こんな物で俺を縛れると思うなよとな。ちゃんとそのまま伝えておいてくれよ」

「勇者様、そんなこと言ったら殺されてしまいますよ」

「殺したいなら殺せばいい。こんな物に縛られたまま生きるくらいなら俺は死を選ぶ。まずは明日だ。王女の返答を楽しみにしておくよ」
俺は言いたいことを言い切って部屋の中に入る。

俺は今の話を騎士団長だけに聞かせたかったわけではない。
部屋を割り振られてすぐに話を振ったので、ずっと笹原くんと星野さんもこのやりとりを聞いていた。

こういうのは最初が肝心だ。

そして翌日、ダンジョンの前には俺と騎士団長、それから笹原君と星野さんの姿もある。

「俺の頼みを聞いてくれたみたいで良かったよ」
俺は騎士団長に言う。

「王女様から勇者様に伝言があります。主人である私に噛み付くのは許し難いですが、犬は犬なりに小さい頭で考えた作戦があるのでしょう。1ヶ月後、3人のレベルが50まで上がっているなら褒めてあげます。ただし、もし1人でも50に達していないならキツいお仕置きをします。死んだ方がマシだと思うほどキツいものですがこれも躾なので許してもらうしかありません。とのことです」

「どうやって褒めてくれるのか今から楽しみだな」

俺が大口を叩いた後、全員でダンジョンに潜る。

「宮島さん、あんなこと言って大丈夫なんですか?宮島さんがどうかはわかりませんが、私は魔物と戦うなんて想像出来ません。足を引っ張ってしまいます」
星野さんが騎士団長には聞こえない声で話し掛けてくる

「星野さんは俺が戦うのを見ていてくれれば大丈夫です。戦えると思ったら言ってください。王女はキツイお仕置きをするつもりのようですが、これだけ俺にヘイトを向ければ、仮に目標のレベル50にならなくても、星野さんや笹原君に王女の牙が向くことはないでしょう。なので安心してください。それにさっきの騎士団長の言葉で確信出来ました。王女が俺達を殺すことはありません。魔王を倒すのに俺達の力が必要な以上、どれだけ痛めつけたとしても殺すことはしないのでしょう。だから死んだ方がマシと思うほどのと言ったんです。殺すつもりがないことの証拠です」

「それでも死んだ方がマシな程のことをされるんですよ?」

「痛みには慣れているので大丈夫です。それに俺は星野さんは戦えるようになると信じています。今はこの環境に慣れていないだけです。俺はこの世界に連れてこられたのが1人じゃなくて良かったと思っています。3人で力を合わせて魔王を倒し、3人揃って日本に帰りましょう」

「ありがとうございます」
星野さんにお礼を言われて心が少し痛む。
嘘を言ったわけではないけど、打算ありきで言ったことに罪悪感をおぼえる。

ダンジョンに入って少し歩いた所でスケルトンを見つける。
「騎士団長、あれは?」

「あれはスケルトンです」

「あれを倒せばいいんだな?」

「その通りです」
俺は茶番を繰り広げた後、スケルトンに近づき一撃で葬る。

「問題ないな。次にいこう」

また少し歩き2体目のスケルトンを見つける

俺は近づいた後、攻撃をせずにスケルトンの攻撃を剣で受ける。その後、さらに無防備で攻撃を受ける。
何度か攻撃された後、スケルトンを倒す。

「勇者様、今のはあまりにも気を抜きすぎです」
騎士団長に言われるが俺は反論する。

「気を抜いたんじゃない。この装備の性能を確認していたんだ。笹葉君、星野さん、用意してくれた装備は良い物だと信じても良さそうだよ。俺の装備と差はあるだろうけど、あの魔物の攻撃では傷一つ付いていない」
まずは危険がないことを理解してもらう。これが大事だ。

それからさらに数体のスケルトンを倒した後、笹原君が戦ってみると言った。

「無理だと思ったらやめてもいいからな」
俺は笹原君に声を掛ける

心配は無用だったようで、笹原君はスケルトンを土魔法で一撃で倒した。

「大丈夫か?無理してないか?」

「大丈夫です」

「なら次のも笹原君に任せるよ」

ここからは笹原君メインで倒してもらう。

しばらくして星野さんがやってみると言った。

俺だけでなく、笹原君が問題なく戦ってくれたのが大きかったと思う。

星野さんがスケルトンと対峙する。
本当は笹原君みたいに遠距離から攻撃できるといいのだけれど、星野さんの武器は杖で使える魔法は回復だけだ。
レベルをもっと上げれば聖属性の攻撃魔法を覚えるけど、今は覚えていない。
なのでそれまでは近距離から打撃を加えることになる。

「無理しなくていいからね」

「……はい」
星野さんはスケルトンの方に近づいて行くが、スケルトンに睨まれて足が止まる。

「大丈夫。ちょっと待ってて」
俺はスケルトンの後ろに回り込み動けないように拘束する。

「これでこいつが星野さんを襲うことは出来ない。まずは深呼吸しよう」

「すーはー。すーはー」
星野さんが大きく息を吸って吐く。

「星野さんがいけると思ったタイミングまで待っていいから」

「ありがとう。うん、大丈夫。えい!」
星野さんが覚悟してスケルトンに杖を叩きつける。

杖といっても国にある最高品だ。スケルトンは一撃で倒れた。

「大丈夫か?」

「……大丈夫です。やれそうです」

「わかった。でもとりあえず次も俺が動けないように拘束することにするよ。それで大丈夫そうなら、その後からは普通に戦ってみよう」

「はい、わかりました」

その後、星野さんはぎこちないながらもスケルトンを相手にすることが出来るようになった。

これで俺の今日の目標は達した。

「勇者様、そろそろ下の階に降りられませんか?」
騎士団長に聞かれる

「この階層から降りない。今日はレベルを上げることを目標にはしていない。戦いに慣れることを目標にしている。戦う相手を変えるべきじゃない」

そして遅くなりすぎないうちに終わりにする。

部屋の前で王女が待っていた。

「大口を叩いた結果、レベルはどこまで上がったのかしら?」
王女が見下すように聞いてくる

「俺はレベル1のままだ」

「あれだけのことを言っておいて1も上がってないとは冗談だとしても笑えませんね」

「約束は1ヶ月後なんだろ?何も問題はない。今日は俺のレベルを上げようなんて思ってない。笹原君と星野さんが戦えるようになっただけで十分成果は得られた。王女様は星野さんが魔物と戦えないと思ってたんだろ?首輪なんかに頼らなくてもちゃんと星野さんは自分の意思で戦えたぞ。あまり見くびるなよ。いだだだだ」

「ふん。駄犬かどうかは1月後に判断してあげるわ。ただ主人に口答えしていいわけではないわ。今のはただの躾よ」

「悔しかったらそう素直にいえばいいだだだだだ」

「躾だと言っているでしょう?わかったなら返事はワンよ」

「バカなのか?言うわけないだろ」

「……ワンと言いなさい」

「……わん。――首輪の力で言わせて満足か?そんなの人形に言わせてるのと同じだ。それでいいなら何度でも言わせればいい。俺は何も気にしない」

王女は肩を震わせて走っていってしまった。
やり過ぎてしまったようだ
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