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国盗り編

絶対王政

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心の中のモヤモヤがなくなっただけで、やっぱりミアとの関係に大きな変化はないまま王城に到着する。

問題が発生したら念話で連絡するようにしてあったので、しばらく離れていたからといってその間に僕の知らない問題が発生して、城の中が大騒ぎになっているということはなかった。

まずはミアとのことを気にかけてくれていた桜先生に話をしに行くことにする。

「ミアちゃん、お帰りなさい。影宮君も。その様子だと悪い結果にはならなかったみたいね」
桜先生には移動中にミアに自分の気持ちを伝えると言ってあり、気まずい空気になっていないことに胸を撫で下ろしている。

「桜先生が背中を押してくれたおかげもあって、ミアにちゃんと気持ちを伝えてお付き合いすることになりました」

「……お付き合いすることになったのね」
なんだか微笑ましいものを見るかのような目を向けられる。
早くくっつけとでも思われていたのだろうか……。

「はい。話は変わりますけど、そろそろ期限も近くなってますが、その後クラスメイトの方はどうですか?」

「うーん、仕事を始めた子に関しては自分に何が出来るのか少しずつわかってきたみたいで、お金をもらっても文句は言われない程度になってきているわ」
明らかに向いていない仕事を選んでいなければ、続けていれば出来るようにはなってくるだろう。
異世界の知識かあるから、この世界の人とは違う視点でアイデアを出すことも出来るだろうし、一歩踏み出した人の方はそこまで心配はしていない。

「それはよかったです。それで残りの方は変わらずですか?」

「危機感は覚えているみたいだけど動く様子がないから、私の独断で少しやらせてもらいました」

「桜先生なら変なことはしないと僕は思っていますし、任せている以上好きにやってもらって構いませんけど、何をしたんですか?」

「まず影宮君が本気で追い出す気だということを伝え、私も面倒を見るつもりはないと言いました」

「実際に追い出すことになるのでそれは理解してもらわないといけないですね」

「それから、今までは1人1部屋与えられていたわけだけど、男女で分けて1つの部屋に集めることにしました。お互いの姿を見てマズいと思ってもらえないかなと……」

「引きこもっているのが自分だけじゃないっていう変な仲間意識が芽生えなければいいかと、少し心配な気はします。ただ、待遇面を悪くするというのは効果的かもしれませんね」

「はい、影宮君の言うとおりになってしまいました。それで、今影宮君が言ったように待遇を少しずつ悪くしていこうと方針を変えました。とりあえず、調理済みの食事を与えるのをやめて、決められた量の食材だけ渡すことにしました。部屋から出て調理場を借りて作らないとお腹は膨れません。大分危機感は大きくなったと思ってます」

「期限の日に急に支援が0になるよりは、少しずつ0に近づけていったほうが僕もいいと思います。一つ提案なんですが、斡旋する仕事についても話しておいた方がいいと思うんです。本人達もわかっているとは思いますが、期限が過ぎてから仕事が欲しいと言われても斡旋する気がないということと、紹介できる仕事にも限りがあることは理解してもらわないと困ります。ちょうど同じ部屋に集まっているみたいだし、早くしないと誰もやりたがらないような仕事しかなくなると急かせば、何人かは重い腰を上げてくれるかもしれるんじゃないかな」

「仲間から仕事を取り合うライバルになってもらうわけね」

「はい。引き続きお願いします。あと、頼んでいたもう一つの方の進捗はどんな感じですか?」
専門ではないけど、歴史の教師だった桜先生にはその知識を使った仕事をお願いしていた。

「素案は出来ましたよ。今時間があれば資料を持ってくるけど、後の方がいい?」

「ブライアさんと委員長にはもう見せたんですか?」

「2人とも倒れないかなっていうくらい忙しそうだから、触り程度にしか話してないわ」

「何度も説明させるのは悪いので、2人も呼んで話し合いましょう。仕事を増やすことになっちゃうけど、その時一緒に2人の仕事を他の人に分担できないか考えたほうがいいですね。昼食後にしましょうか、2人には話をしておきます」
ブライアさんは仕事を抱え込みすぎているだけだと思うけど、委員長の方は他の誰かで代わりが務まるかというと難しいだろうし、側で雑用をするくらいしか負担を減らす方法はないかもしれないな。
帰還に関して1番重要なことを頼んでいることもあって、働きすぎているから休んでとは言いにくい。


昼食を食べた後、会議用の部屋では広すぎるので、応接間を使って4人で会議を始める。

「呼んだ時に言ったとおり、今の絶対王政を廃止するための会議を始めます。細かい内容に関しては桜先生に考えてもらいましたが、改めて廃止することに僕が決めた理由だけ話します。絶対王政が悪いとは言いませんが、王が愚かなだった場合に苦しむのはそこに住む国民です。良き王の子供が良い王になるとは限りませんし、継承権を巡って王国内部で争いがあったという記録もあります。なので、自分が住む国のトップはそこに住む人自身で決めようという話です。ブライアさんには想像がつかないかもしれませんが、僕達が元々住んでいた国ではこれが普通でした。詳しくは桜先生の方からお願いします」
僕は桜先生に絶対王政をやめて、民主主義にしたいと言っただけだ。変えることでどういった問題が発生するのか実際のところよくわかっていない。
ただ、誰か1人の考えで国を好きに出来るという現状をどうにかしないといけないと思った。

絶対王政の方が良ければ、僕がいなくなった後に民主主義に則って絶対王政に戻してもらえればいい。

「それでは、配った資料を見てもらいながら説明していきます」

桜先生が説明を始める。

僕なりに簡単にまとめると、まず貴族制度は残したままにするようだ。これは急激な変化を抑えるために国民皆平等としなかっただけで、貴族だから領主になって税を民から得るというとはない。
つまり、偉い人なんだと周りから思われるだけの称号のような意味合いしかない。
そうはいっても何かしら付加価値はあった方がいいとは思うので、そこはこれから詰めていくところだ。

税の管理はまず領土を区画ごとに分け、村、街、都ごとに代表者を1~3人多数決で選出する。
選出された人の中で話し合いをしてもらい、1番適している人に領主の役割も担ってもらう。

領主は今まで同様、その地に住む人から税を集めて国に納め、魔物発生など問題があれば自身の采配で税を使い対応する。

1番大事な王に関しては領主の中から決め、宰相などは王に采配が一任される。

基本的には国民が選んだ人物が上に立つということ以外それぞれの役割は大きく変わらないが、大きく違うところが一つだけある。
それが税というか、国そのものの所有権が誰にあるのかということ。
国はそこに住む皆のものであり、税も王個人の財産ではないということだ。
領主や王に選ばれた人には仕事量に対して十分な対価は支払われるべきであるが、国の財産に無断で手を出した場合には重い罰を与えられる。

任期は5年として、領主の選任と王の選任は3年ズラし、5年経った時にそれぞれ同じ方法で次の領主、王を決める。
ただし、任期は絶対的なものではなく、問題がある場合には任期が来る前に退任させられることもある。
その場合は、退任した所でだけ再度選出をして残りの任期を代わりに務めてもらう。

それから、不敬罪は撤廃する。王に対して不満があるなら堂々と言ってもらって構わない。
ただし、根拠もない嘘を吹聴することは罪に問うことにする。

帝国側も王国側もどちらも同じとするが、当分の間は王がそれぞれ1人いる形にする。どちらが上ということはない。

細かいところはもう少し詰めないといけないけど、大体はこんな感じだと思う。

委員長とブライアさんは聞きながら色々とメモしており、桜先生の説明が終わったところで色々と質問したり、問題点を言ったりしている。
僕だけが付いていけず蚊帳の外という感じだ。

この調子ならこの世界に合った形で民主主義が実現するだろうと、聞くことに集中しながら僕は思う。
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