天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる

こたろう文庫

文字の大きさ
30 / 75

一方、王国では④

しおりを挟む
国王視点

「くそ!金がない」
自室だけでなく、宝物庫や余が贈った物まで消え失せて、余が自由に使える金が銭貨1枚もない。

とりあえず宰相の金で、妻と娘に贈り物をしたが、どこまで許してくれるか……。
あやつらは余のことを財布と思っている節があるからな。
贅を尽くせぬとなった時に何をするかわかったものではない。

余は金を工面すべく、宝物庫の中身を含め、余の財力が消滅したことを公にした後、貴族連中に金を出させる。

しかし、理由もなく金を搾取すると反感を買うので、翌年分の税を前倒しして納めさせる事にした。

通達を出したので、これで順次金は集まる。

国が傾けば己の立場も危ぶまれることは分かるだろうから、渋りはしても出さないということはないはずだ。
恩を売る為に多めに出す者もいるだろう。

問題は翌年の税収が無くなるということだ。
同じ手はもう使えない。

今回は突発的に緊急を要する事態になったが、財政難が続けば、余の力が失われたとして、反旗を翻す者が出てくるかもしれぬ。

牽制するには武力が必要だが、軍事に充てる金は無い。

問題は金だけでは無い。
ルマンダ侯爵が爵位を返上すると言ってきた件だ。

それなら領地も返せと言いたいが、それを言えば内乱になるだろう。

内乱になった場合、ルマンダ侯爵率いる屈強な兵達と戦わなければならない。
万全の状態でも楽には勝てぬだろうに、今は軍事に充てる金がない。

勇者達を使うにも間に合うか分からない。
訓練はさせているらしいが、正直構っている暇はない。

仮にルマンダ侯爵の兵に勝ったとしても、軍事に金を割いたが最後、待っているのは財政難だ。

内乱になった時点で終わる。

領地はやるから放っておいてくれと言いたいが、そんな弱みを見せれば攻めるチャンスだと思わせるだけだ。

攻めてこないでくれ!と願ったが、密偵からルマンダ侯爵が着々と兵を集めているとの報告が入った。

今、ルマンダ侯爵が他と争う理由は無いだろうから、反旗を翻す為としか思えない。

仕方ない。
攻められて、殺されるよりは財政難の方がマシだ。

これが他の貴族なら良いが、ルマンダ侯爵の所の兵士は練度が高い。

徴兵させ、武具を揃え、食糧等の補給物資もしっかりと揃えなければならない。
金を使いたくはないが、物資をケチった結果、敗れて国を乗っ取られるよりはいいはずだ。

それでもルマンダ侯爵の兵に勝てる見込みは高くない。
無理矢理にでも勇者達を戦えるようにしなければ……。

――――――――――――――――――――――
委員長視点

「竹原の姿が見えないんだが、何か知らないか?」
ダンジョンを出た後、龍崎君に聞かれる。

昨日、私が騒いでいたから、私が関わっているのだと思って聞いているのだろう。

「……本当ね。いないことに気づかなかったわ」
本当は龍崎君には事情を話してしまいたいけど、あの指輪で洗脳されていることを考えると、龍崎君に話したことは国王や宰相に筒抜けになる可能性がある。

なので私は知らないと答えた。

「そうか。それならなんで昨日わざと騒いでいたんだ?」

「鬱憤が溜まっていたからよ。みんなも騒いで少しは落ち着いたでしょう?」

「そうか。竹原が心配だから、見かけたら教えてくれ」

「わかったわ。竹原君がいないことは他の人には秘密にしておいてもらえる?もしかしたら城から逃げ出したのかもしれないから。もしそうなら、バレた時に追っ手が掛かるかもしれないわ」

「……そうだな。こんなことになってしまったが、絶対に生きて帰ろうな!」
龍崎君はそう言ってから自室へと戻っていった。

私も自室に戻り、休んでいると食事が運ばれてきた。
昼はダンジョンの中だったからか携行食のような物が配られたので、全然足りずお腹が減っていた。

「これだけ?」
私は食事を運んできたメイドに聞いてしまう。

「……はい」
あまりにも昨日の食事と差があったので聞いてしまったが、メイドの表情から察するにこれでも使用人の食事よりは多いようだ。

「いいわ。嫌なことを言ってごめんなさい」
これよりも少ない食事をしているだろう人に、足りないから持って来てとは言えない。
昨日が豪華だっただけで、これが普通なのかもしれない。

うん、あまり美味しくない。

翌日、城の中が騒がしかった理由が判明した。
宝物庫の中身などが消えてなくなったらしい。

そのせいで、贅を尽くしたもてなしが出来なくなったと説明を受ける。

隠し通せるものでもないと判断して、私達に教えることにしたそうだ。
昨日の食事が少なく、美味しくなかったのはその影響かもしれない。

城の中はそれからもバタついており、半分放置された訓練をする日々を過ごしていたある日、戦に行かされることになってしまった。

相手は魔族ではなく、ルマンダ侯爵というこの王国の貴族らしい。
理由は教えてもらえなかったが、ルマンダ侯爵が反旗を翻そうと兵を集めているらしい。

私達もルマンダ侯爵の兵と戦う為に戦に駆り出されるようだ。

私以外は洗脳されている為、拒んだ所で行かされるのだろう。

昨日までは怠け放題だった訓練も、半強制的なものへと変わった。
レベルを上げる為に魔物と戦わなければ、ムチが飛んでくるので、戦いから逃げることは許されない。

いつ進軍が始まるのか分からないけど、それまでに私達を戦えるようにするつもりのようだ。

どうなってしまうのだろう……。

――――――――――――――――――――――
国王視点

ルマンダ侯爵との戦に向けて準備を進めている中、密偵から報告が入る。

「ルマンダ侯爵が治める地が占領されました」
密偵が何を言っているのかすぐに理解出来なかった。

余は密偵からルマンダ侯爵の兵の準備が整ってしまったと言われると覚悟していた。
それが、占領されただと!?誰に?……帝国か?

「帝国が横槍を入れて来たか?」
だとしたら厄介だ。

「違います。帝国貴族であるファウスト家のフェレス殿が攻め落としました。帝国は関係ありません」
フェレス・ファウスト……どこかで聞いた名だな。
どこだったか……?

「フェレスというのは誰だ?聞いた覚えはあるのだがな」

「ファウスト家の暴君です。魔導を極める為ならなんでもする変人だと有名です。ファウスト家からは勘当されていると聞いています」
思い出した。魔に魂を売った暴君か……

「そうだったな。それで目的は?」

「フェレス殿は城を構えました。新たに建国するようです」
変人の考えることはわからんな。

しかし、ルマンダ侯爵を代わりに潰してくれたのはラッキーだったな。
フェレスの軍も戦いで消耗しているだろうから、すぐにこちらを攻めてくることもあるまい。

本来であれば王国の地を奪われたのだから奪い返す必要があるが、今は無理だ。
放っておいてやるとしよう。

「何があったか話せ」
余は密偵に詳細を述べさせる。

「フェレス殿は新たに王になるマ王の指示によって、ルマンダ侯爵を配下にしました。ルマンダ侯爵と国王が争うのが気に入らないと言っていたようですが、隙をついて領土を奪うのが目的だったと思われます。攻めて来たのはフェレス殿とマ王、それから狐が1匹だけです。フェレス殿はまず、見張りの兵達を闇に飲み込んだそうです。その後、降伏勧告をした後に、今度は進軍して来たルマンダ侯爵の兵も一人残らず闇に飲み込んだようです。さらに、ルマンダ侯爵の屋敷まで向かいながら、街を2つ同様の方法で壊滅させた結果、ルマンダ侯爵が降伏しました。既に城が建てられ、今後はマ王をトップに、あの地は引き続きルマンダ侯爵が治めるようです」
理解が追いつかない情報が多すぎる。

「魔王が現れたのか?」

「王になるのはマ王だと聞いています。もうそろそろ、正式に建国の知らせが届くはずです」
本来、勇者召喚は魔王を倒す為に行う儀式だ。
魔王がいないのに勇者を召喚したから、魔王が現れたとでもいうのか……。

「本当に2人と1匹しかいなかったのか?軍を率いていたわけではないのか?」

「本当です。そもそもフェレス殿はファウスト家から勘当された身です。軍などもっていません」

「ルマンダ侯爵の兵をその魔王が皆殺しにしたのだな?」
魔王はそれほどの存在か……。

「違います。マ王はフェレス殿に指示をしただけです。実際に動いたのはフェレス殿です。狐が魔物だったという可能性はありますが、マ王は馬車から降りても来なかったそうです。それから、ルマンダ侯爵の兵は皆殺しにされていません。闇に飲まれた後も生きていました。よってルマンダ侯爵の兵力は衰えていません。兵に限らず、此度の戦で命を失った者は誰一人いません。恐怖だけを植え付けました」
ファウスト家の暴君は、変人だが実力は確かだと聞いてはいた。しかしこれほどまでとは……。

それほどの男が主とする魔王は、どれほどなのか想像すら出来ん。

「魔王がここに攻めてくる動きはあるか?」

「今のところありません。現在は城の内装を作っています」
王国が狙いというわけではないのか?
それとも今は地盤を固めているのか……。

「貴様は引き続き潜入を続けろ!決して悟られるなよ」

「はっ!」

困った。
魔王が現れたことや、領土を奪われたことも困ったが、ルマンダ侯爵との争いが回避出来たのだから、一旦それは余にとって喜ばしいことだと考えておこう。

それよりも、結果として必要のなかった軍事に金を使ってしまったことが問題だ。
仕方なかったが、翌々年の税収まで決して持たない。

なんとかせねば……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...