天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる

こたろう文庫

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王城へ オボロとフェレス③

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フェレス視点 建国式翌日

「それではマオ様、オボロ殿と拐われて隷属された者の解放に行ってきます」

「気をつけてね。無理はしないようにね」

「オボロ殿が付いていますので心配はご無用です。それから、王国への建国の知らせも私が行ってきます。近くまで行く予定ですので」

「そんなに色々とやってもらっていいの?僕は助かるけど、フェレスさんの研究の時間がなくならないかな?」

「移動しながらでも出来ることはありますので大丈夫です。それに本来なら建国式に他国の者を招待して、その者がそれぞれの王へと建国したことを知らせます。しかし今回は他国の者は呼んでいないので、こちらから使者を出す必要があります」

「そうみたいだね。だからルマンダさんが人選をしていたはずだよ」

「帝国と魔国に関してはそれで問題ないでしょう。各国が建国を認めるかは別ですが、使者が殺されることはないと思います。しかし王国は違います。見せしめとして使者の首を送ってくる可能性があります。ですから私が行ってきます。私であればオボロ殿も付いてますので、逃げることは出来るでしょう」
本当の目的は王国を乗っ取って影から動かすことだが、実際に他の者が行けば殺される可能性もある。
ルマンダもそれをわかった上で人選しているはずだ。

「……確かにそうなるかもね」
マ王様は理不尽な理由で追放されて死にそうになっている。
だから私が言っていることが真実だとわかってくださる。

「オボロ、危ないと少しでも思ったらフェレスさんを連れてすぐ逃げるんだよ」
マオ様がオボロ殿の頭を撫でながら言った。

「任せるのじゃ」
オボロ殿が答える。危険などないと分かっているオボロ殿は、どのような気持ちでそう言っているのか興味深い。
主人が好きすぎるが故に、主人を騙している。

私も雇い主であるマオ様を騙しているわけだが、それとはまた訳が違う。
マオ様は私の性格を把握した上で雇ってくれているので、私が裏切らないように常に目の前に餌をぶら下げる。
私はそれが餌だとわかっていて食いついている。

今はオボロ殿が垂らした餌の方が美味いからオボロ殿に協力しているだけだ。

マオ様に挨拶を終えた私は、オボロ殿を連れて隷属された者を助ける旅へと出かける。

旅の目的はそれだが、先に向かうのは王城だ。

表向きにはついでだが、主な目的はこちらだ。
王国に行くことをマオ様に怪しまれないように、拐われた者の救出を申し出ただけだ。

馬に乗り、王城へと向かう。

王城へ着いた私は、オボロ殿と分かれて国王へ建国を知らせに行く。

オボロ殿には勇者達の様子を隠れて見に行ってもらっている。
カゲから聞いた話だけを鵜呑みにする訳にはいかない。
実際には力を秘めているなら、計画を変更しなければならない。

ルマンダから国王に渡す封書と私が話す用の原稿をもらっているが、どちらも貴族らしい文章が綴られていたので捨てた。

他国よりも明らかに強大な力を保有しているのに、建国を認めてもらう必要はない。
むしろ各国の王は、自国を潰さないでくれと泣きついてくるべきだ。

実際に各国が攻めてきたとしても、使用人の女一人で全て返り討ちに出来るだろう。
あの女がマオ様の専属使用人になった事で、何か起きてもマオ様が死ぬ可能性はグッと低くなった。

私からすればあの国がどうなろうとも構わない。
必要なのはマオ様だけだ。
戦になってあの地に住む者が死ぬことになったとしても、マオ様が無事なら何も問題はない。

そもそも、マオ様が他国を侵略するつもりがないだけで、命令さえしてくれればすぐにでも侵略することは可能だ。

私としては、他国が保管しているであろう禁書を手に入れる為にも侵略したいのだが、流石に勝手に動くとマオ様からの信用を失うだろう。

私は兵士に王座の間へと連れてこられる。

国王は私の顔を知らないとは思うが、他の者は知っているかもしれないので、私は魔法で顔を変えている。
知られたところで問題はないが、私の悪評が広まっているのは自覚しているので、隠した方が話が早く進むだろう。

国王に建国した事を伝え、挑発して怒らせ、力を見せつけておく。
力を見せる前から警戒している者もちらほらいたから、ある程度できる者もいるようだ。

実際魔法抜きでは殺されるだろう。身体能力だけではこの人数相手にはどうにも出来ない。
ただ、身体能力も魔法で上げることが出来るので、ここにいる者に遅れをとることはない。

国王を脅し終わり、建国を認めさせた後、オボロ殿と合流する。

「勇者達はどうでしたか?鍛えればどうにかなりそうですか?」
私はオボロ殿に勇者達の力を聞く。

「ダメじゃ。悪くはないのじゃが、脅威とはなり得ぬ」
オボロ殿から残念な答えが返ってきた。

「カゲは勇者と賢者、それから聖女の能力の伸びは良いと言っていた。鍛えてもダメなのか?」

「可能性はあるのじゃ。じゃが、その頃には主に救出されてるのじゃ」
最大値は高いが、そこまで鍛える頃にはマオ様に感づかれてしまうということか……。
マオ様から能力の上がる球を理由なくもらう訳にもいかないから、どうしようもないな。

「では計画通りに進めます」

「頼むのじゃ」

私は国王の部屋に忍び込み、国王を脅して隷属させる。
国王は怯えつつも、どこか余裕が見える。

流石にこんなのでも、国王なら呪法の解呪方法くらい知っているという事か。
残念ながら、私も知っているがな。

こういう輩には心から屈服してもらった方が後々使いやすい。
私は解呪の可能性を残して話を進めて、最後にその可能性を潰した。

解呪の方法は一般的に知られているやり方の他に2つある。他にもあるかもしれないが、私の知っているのは2つだけだ。

一つは国王が使おうとしていた霊峰の秘薬。
これは特殊な配合をすることで作ることが出来、どんな呪いでも解くことが出来るといわれている。

配合の方法は秘匿されているので、私にも作ることは出来ない。
しかし、伝手さえあれば手に入れる事は可能らしい。

国王であれば秘薬の一つか二つは万が一の時のために隠し持っているだろう。

もう一つは無理矢理呪法の掛けられた媒体を取り除く事である。

指輪型であれば指から外せなくなる。
だから外せないと思われているが、実際には指ごと切り落とす事で切り離す事は可能だ。

切り離しても呪いは解けず隷属されたままだが、切り離した事で呪法の力は弱まる。

隷属の呪法は、隷属された者の魔力と生命力を使い、呪いの効果を増幅させている。

よって付けられた後に解呪するのは困難で、仮に出来たとしても、呪法が解呪されまいと抗う為に生命力を吸い尽くし、隷属されていた者は死ぬことになる。

しかし、切り離してしまえば関係ない。
隷属された者から魔力も生命力も供給されなくなるので、聖属性魔法で簡単に解呪出来る。

その後に切り落とした指を聖属性魔法でくっ付けてやれば元通りだ。

人道的なやり方ではないが、隷属されたままよりはマシだろう。

首輪型では出来ないやり方なのが欠点ではあるが、この方法なら私にも可能だ。
だから勇者達を解放しようと思えば、今すぐにでも解放出来る。

今回は国王を操るのに首輪をつける訳にはいかないので、媒体を複数体内に埋めさせた。

5つも同時に切り離す事は出来ないだろう。
それをやると大量に失血することで解呪する前に死ぬだろうからな。

自らの意思で自害することも封じておいたから、周りの誰かが気づくまではこき使ってやるとしよう。

無事仕事を終えた私は、本来の仕事をする為に移動しながらオボロ殿に結果を伝える。

「計画通り国王を隷属した。勇者達が障害になり得ない以上、虚偽の噂を流させるしかない。本来とは異なり、強大な力があるように噂を流させるように命令した。徹底的に鍛えるようにも命令したから、ある程度は強くなるだろう」

「ごくろうじゃ」

「では、本来の仕事をしてマオ様のところに帰るとしましょう」

私はリストにあった貴族と商人のところに行き、話し合いの上、拐われて売られた人達を回収する。

ついでにリストにない人も助けておいたので、マオ様が褒美を多くくれるかもしれない。

「話し合いに応じてくれて助かりましたね。予定よりも早く城に帰れそうです」
頂いた馬車を操舵しながらオボロ殿に言った。

「あれは話し合いではないのじゃ。相手を隷属してからの話し合いは脅しと変わらないのじゃ」

「オボロ殿はこの結果に不満があるのですか?」

「ないのじゃ。主は満足するはずじゃ」

「なら何も問題ないですね。手駒が増えたという意味では良いことしかない」

そして城に戻りマオ様に報告したところ、リストにない人も助けたことをやはり評価されて、褒美を頂いた。

禁書が欲しいと思っていたが、まだ私はマオ様に欲しい物を伝えていない。
言わない方が私の知らない他の良いものがもらえるかもしれないからだ。

明らかに禁書ではない、この包まれた物はなんだろうか……。
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